おしゃべり娘は年々天敵となりつつある

2019-06-12

 六月一日。俺とクリスティア、ついでに紫電の謹慎期間が明けて、強制登校の日。
 本来一年は合同演習の日だったが、俺達は朝からこっぴどく生徒指導室で杜縁やら生徒指導の教師やらに叱られ参加せず、放課後。
 反省文を書き終え職員室にいる教師に提出し、さぁ双子を回収して帰ろうかと、クリスティアと共に挨拶をして扉を開ける。

 そこには待ちかまえていたように、紫電と、そしてダークブラウンの長髪を横結びにした男が微笑んでいた。

「あなたが炎上龍ですか? 話があるんですが」

 おいまたこの展開か。

「それでどうして俺はこんなところにいるんだろうな」
「謹慎明けましておめでとう会にお前がついてきてくれたからだね」

 いらついた様子を隠すことなく斜め右に座るレグナにそう問えば、奴はメニューを読みながらそう答えた。

 南地区にあるカフェ。そこにいつもの四人、だけでなくもう二人も連れてやってきていた。その二人は目の前に座る、

「久しぶり、龍クン?」

 俺をぶち切れさせた紫電と。

「来ていただけて光栄です、炎上」

 その友人らしい、そしてレグナたちが言っていた木乃きの武煉ぶれんという男。紫電と同じ二年で、ヒューマン。

 放課後に教室のドアを開ければ木乃と紫電がいて。名を問われたのでそうだと答えたら、突然謝られた。その内容は謹慎の原因となった紫電のことで。何故こいつが謝るのかはわからないがとりあえず「終わったことだ」と完全に許したわけではないがそう伝えた。こいつに当たっても仕方のないことだし。しかし奴は何か詫びをしたいと本当に何故お前がと言いたくなるような勢いで言われ、断っても食い下がらず。紫電もそれなりに反省をしていたらしく自分も詫びをしたいと二人掛かりで言われ、どうしようもできずにいたところに双子が迎えにきた。そして事のあらましを聞いたカリナが「では謹慎が明けたということでみなさんでお祝いしましょうか」といらない方の助け船を出し、今に至っている。

「というか気安く名を呼ぶな紫電」
「いいじゃん、炎上だと長いし」

 そういう問題じゃない。

陽真はるま、今日俺たちは謝りに来たんだからもう少し申し訳なさを出せ」
「さっき謝ってコッチは交流会なんじゃねぇの?」
「悪いがお前に関してはまだ許してはいないからな?」
「龍クン案外根に持つタイプ?」
「貴様今度は再起不能にしてやろうか」

 そう言えば紫電は「また戦ってくれるのか」と言う目線をくれてきた。やめろ嬉しそうな顔をするな。

「まぁまぁ謹慎解除されたのは紫電先輩もですし。今はおめでとう会として楽しみましょうよ」
「知っているか、お前が今この余計な状況作っているんだからな?」
「あら初耳ですわ」

 この右隣に座っている双子の妹をとても殴りたい。代わりに舌打ちをしてやると、目の前の木乃が笑った。

「今日は俺たちが奢りますから、好きな物を頼んでください」
「ほら、だそうですよ龍」
「お前な……」

 溜息を吐きながら左隣を見れば、クリスティアが心なしか楽しそうにメニューを見ている。そういうのを見てしまえば、もう折れるしかない。

「好きにしろ……」
「言われなくても好きにしますわ」
「注文決まった?」

 レグナの声に全員が頷くと、店員を呼んだ。程なくして、ウエイトレスがやってくる。

「ご注文お決まりでしょうか」
「私はチーズケーキのセット、紅茶で」
「俺ショコラケーキのセット、同じく紅茶」

 双子から始まった注文に、ウエイトレスがメモを取っていく。

「オレこのさくらんぼのヤツがいい」
「ではチェリーケーキと……、俺はカフェモカを」
「かしこまりました」
「龍はどうすんの? いつものコーヒー?」

 レグナに問われて、一度ちらりと左を見る。なんとなくの視線の先を追って。

「コーヒー……と、ストロベリーショートのセット、ココアで」

 伝えれば、にこりと微笑んでメモに付け加えた。

「以上でよろしいでしょうか」
「大丈夫ですわ」

 一度注文を繰り返し、また微笑んでウエイトレスは去っていく。直後、前に座る上級生からの視線が俺に刺さった。

「オマエ顔に似合わず甘いもの好きなの?」
「ギャップみたいのものですか? 意外ですね、炎上」

 なんとなく言われるということだけはわかっていたが、面倒なので無視を決め込む。注文はしたが断じて俺ではない。悪いが甘い物は嫌いだ。それを知る右隣の女はにやにやと俺をのぞき込む。

「ずいぶん格好良いことするんですね龍」
「うるさい。飲んだら俺はさっさと帰るからな」
「えー連れないこと言うなよ龍クーン」
「だから気安く名前を呼ぶな。仲良くなったつもりもこれから仲良くなるつもりも俺にはない」
「オレにはある、また戦いたいし」

 身を乗り出して楽しそうに言っているがこっちはそれをごめんだと言っているのがわからないのかこいつは。

「陽真、君のせいで迷惑かけたことを忘れるな」
「それはもちろん、悪かったって思ってるって。だからオレなりの償い的なのもしようと思ってるさ」

 にこにこして言う紫電に嫌な予感しかしない。

「紫電先輩なりの償いって?」

 おいバカレグナ聞くな。

「戦うこと」

 ほらそうなる。こいつらが増えると溜息も増えた。

「貴様その戦うことで俺をキレさせたのをわかっているのか?」
「あれはオレの挑発が悪かったんだろ? ああいうのはもうしないって。実際脅してもする気ねぇし」
「信用できないな」

 もっとも大事なクリスティアを引き合いに出されたんだ。信用できないのも当然。当の本人は興味なさそうにお冷やの氷で遊んでいるが。お前はもう少し危機感を持ってくれまじで。

「お待たせいたしました」

 いらいらなど隠さず爪をいじれば、先ほどのウエイトレスが人数分の注文を持ってやって来た。注文した奴を覚えているのか、確認せずにケーキやら飲み物やらを正しい人間の前に置いていく。俺の前には、コーヒーとストロベリーショートとココア。一気に甘い香りが押し寄せた。

「ご注文以上でよろしかったでしょうか」
「はい、ありがとうございます」

 ウエイトレスの問いかけにカリナが答えると、一礼して去っていく。それをなんとなく全員で見届けてから、俺は目の前に置かれたココアとケーキを左に座るクリスティアの前に移動させた。

「わーい」
「えっ刹那ちゃんの分だったのあれ」
「おい何さりげなく下の名前呼んでる」
「名前くらい気にすんなよ~」
「嫌いな奴に恋人の下の名前呼ばれて良い気がする男がいるか?」
「んーとりあえずソイツ潰すかな」
「そっくりそのまま返してやる」

 こいつは俺に嫌われてないと思っているのか?

「それにしてもよく氷河の頼みたい物わかりましたね」

 話を逸らしてくれようとしているのか、木乃が驚いたように言った。運ばれたコーヒーに口を付け、別にと返す。

「視線を追ってればわかるだろう」
「龍さん、普通はわかんないよそれ」
「あなた方だけの特権ですわよ」

 そんなことないだろうと双子を見た。その顔は「ありえない」という顔。そんなばかな。なんてやりとりをしていたら、また木乃が笑った。

「本当に仲がいいんですね」
「長い付き合いだからな」
「オマエら幼なじみなんだっけ?」
「何で知っている……」

 そこまで言って、ふと思い至り右を睨む。視線の先には、ケーキを食べながらにこっと微笑む女がいた。貴様か。

「あまり余計なことを言うな」
「別にいいでしょう。交流を持つことはよいことですよ」
「お前らには害がないからそう言えるんだろう」
「まぁそうですね」
「おいこの妹一度殴っていいか」
「その瞬間に千本がお前ののどに刺さるけどそれでいいなら」
「もう構わん」
「その前にあなたが串刺しになるのが先でしょうけどね」
「ほう? やれるものならやってみろ」

「オマエたちって仲良い割に結構過激だね」
「いつもこんな感じだよ…」
「へー」

 カリナの言葉にもいらつくが、クリスティアと紫電が話をするのにも若干いらついて、コーヒーを啜り勢い任せにソーサーに置いた。

「えーと、悪いんだが、そろそろ本題に行っても?」

 すぐに険悪に向かいそうになる度に、木乃が話題を逸らしてくれようと口を挟む。

「本題…?」
「今日は炎上と氷河、あとは事を収めてくれた愛原と波風に謝りたいので」
「散々ここに来る前に謝っただろう」

 名を尋ねられてそうだと答えたら突然頭を下げられてものすごく焦った。

「改めて、という形ですね。この度は本当に申し訳なかった」
「ご迷惑おかけしましたっ」

 それでも気は済んでいないらしく、木乃は再び頭を下げる。それに倣って、紫電も軽く頭を下げた。こいつ頭を下げるということができたのかというのは黙っておこう。

「そもそも何故あんたが謝る。紫電ならまだしも、木乃は関係ないじゃないか」

 聞けば、顔を上げて木乃は言った。

「俺のいない間に友人が迷惑をかけたと聞いたので。どうせ陽真は何事もなく軽く謝ってまた闘おうと言うだろうと」
「あんた苦労してそうだな……」
「なんか俺見てるみたい……」

 おいレグナ何故俺を見る。俺の右隣の女を見ろ。こいつの方が被害甚大だわ。
 木乃はカフェモカに砂糖を入れてかき混ぜ、穏やかに告げる。

「軽い喧嘩ならまだしも、話を聞いた限り中々なものだったらしいのでなおさら俺からも謝っておこうと。俺がいればもう少し抑えられたと思うので」
「腕に自身があるんだな」
「オレより少し劣るくらい?」
「勝敗は五分だろう? そこは譲らないからね陽真」

 五分といったら相当じゃないのか。

「幼い頃から武道をやっているんです。落とし方くらいは心得ていますからお役に立てたかと」

 ものすごく物騒な心得を聞いた気がする。

「とまぁ、今回は俺がいなかったことにも原因があります。申し訳なかった」
「ごめんなさい」

 そう言って、再び頭を下げた。

「……ここまで謝っていらっしゃるのにまだお許しにはならないつもりです? 龍」
「許したくはないだろうけどさ」

 そういつものように畳みかけようとする双子。確かに誠意はわかる。紫電もまぁ反省をしてなくはないんだろう。だが一つ重要なことを、俺はまだこの双子に言っていない。目の前の上級生、主に紫電を見据えて言い放つ。

「刹那を傷つけると言われてそう簡単にはいそうですかと許せると思うか?」

 直後。ぴしりと亀裂が入ったように空気が凍った。突然の変異に上級生組は不思議そうに顔を上げる。

「……龍、なんとおっしゃいました?」
「俺聞き取れなかった」

 なんてとぼけた二人に、今度は確かめるようにゆっくりと。

「紫電が、刹那を、傷つける、と」
「それを許せと仰ってます?」
「そうなるな」

 双子の雰囲気がどんどん思わしくない方向に向かっていく。俺ほどじゃないにしてもクリスティアが大事な二人だ。傷つけると言われたら黙っちゃいない。
 現に二人はいつもの笑顔なんてどこへやったのか、珍しく真顔だった。さすがの上級生組もただごとではないと知り、顔がひきつり始める。

「えーと、華凜ちゃん? 蓮クン?」
「二人共、雰囲気がさっきと違って怖いようだけれど……」
「お二方」
「「はいっ」」

 威圧的なカリナに、二人ともぴしっと背筋を伸ばした。

「刹那を傷つけるおつもりだったんです?」
「いやソレは言葉の文ってヤツで……」
「でも言ったんだ」
「そう、デスネ?」

 肯定に、双子の目から光が消えた。やばいここら辺一帯に殺気が。

「おい華凜、蓮」
「今ちょっと黙っててください」
「テレパシーで会話してるから」

 そもそも俺達にテレパシーなんてできないというのは今言っていいものか。

「炎上これはどうするべきですか」
「スゲー怖いんだけど」

 ブツブツと何かを言い始めている双子から上級生組に目を向ければ、ものすごく焦った顔をしている。正直俺もここまでとは思わなかった。
 なのでとりあえず。

「すまん、やりすぎた」
「なぁ解決策は?」
「落ち着くまで相手してやってくれ」
「おいマジかよ」
「強い相手は這い蹲らせたいんだろう?」

 相手にとって不足はないと告げると、ひきつった笑みを浮かべた。まぁある意味仕返しとしてこのくらいはいいだろう。かといって止める気もないんだが。
 そもそも俺じゃ無理だし。そんなわけで俺はコーヒーを啜る。この状態なら飲み干す前に帰れそうか。

「なぁ龍クン助けて」
「断る」
「炎上、俺は巻き込まれ事故なんですが」
「おいテメーいきなり裏切ってんじゃねぇよ武煉」
「恨みを買おうなんて思わないよ、自業自得じゃないか」
「相変わらず汚ねぇやり口してんな!」

 今度はこっちで言い争いか。忙しいな。隣ではどう始末するだなんだと物騒な言葉が聞こえ始めている。どうするか、放っといて帰るか?

 なんて思ったとき。

 バンッ、と思い切りテーブルが叩かれた。方向は、今までずっと静かだった窓際。目を向けると、恋人がケーキをもくもくと食べている。フォークを持った反対の手はテーブルに叩きつけられたまま。一瞬でこの席がシンとした。何事かと全員が見守る中、彼女は食べているケーキをごくんと飲み込んでから、口を開く。

「…ここに来たならもう終わり。みんな仲良し」

 そう小さく告げて、またケーキを口に運び始めた。

 おいそれだけか。

 説明不足にもほどがあるだろ。目の前の上級生組なんて頭にはてなマーク浮かべているじゃないか。どうしてこうも恋人は大事なところで説明不足なんだろうな? そこも愛しているんだが。どう考えたってこの状況での補足役は俺じゃないか。カップをソーサーへおいて、未だ呆けてる四人へ。

「……合意してここに来たのなら許したも同然、掘り返すな、喧嘩せず仲良くしろ、だと」

 左端の方で大きく首を縦に振る水色の髪が見える。最初から言えや。

「ええと、申し訳ない」
「ゴメンナサーイ」
「刹那が言うなら、まぁ仕方ありませんわ……」
「傷も確かについてないし、本人がいいならなぁ……」

 俺の補足も含めて飲み込むと、不服そうに口々にそんな言葉が出てきた。ひとまず終わりかと、爪いじりをしようと下を向く。

「……!」

 そこで、左側の裾を引っ張られた。目を向ければ、クリスティアがこちらを見ている。

「何だ」
「龍から、聞いてない」
「何を」
「もういい、って言葉…」

 俺も言わなきゃいけないのかよ。

「……別にいいだろう」
「みんな仲良し」
「俺は仲良くする気もないしそもそも許す気も──」
「龍甘いの平気になったよね…砂糖入れるね」
「待て待て待ておいバカやめろ」

 角砂糖を二つトングで挟む恋人の腕を勢いよく掴んだ。

「俺がいつ甘いのが好きだと言った」
「今できることはこれくらい…」

 そもそもやらんでいいわ。そうは思うも、クリスティアの手は今にも俺のコーヒーに角砂糖を入れようとぐいぐい押し進めてくる。力で負ける気はしないが無駄にコントロールのいいこいつが角砂糖を放り投げようものなら確実に入る。それは困る。そしてこいつは無駄に諦めが悪いとも知っているし、なんだかんだ自分が恋人に甘いこともよく知っている。こうなったらもう折れるなんて明白なわけで。

 目で早くしろと訴える彼女に深い深い溜息を吐いてから。

「……水に流す気はないが、もういい。許さないと言えば俺が死にそうだ」

 甘さで。仕方なく出た言葉に、クリスティアはぱっと顔を明るくして手の力を緩める。なんとか免れたらしい。手を引っ込めたのと同時に、この席の空気もやっと柔らかくなった。各々が手元の飲み物やらデザートやらに再び手を着け始める。

「許したのはいいとして。俺としては関わってくれなければ大助かりなんだが?」
「あ、それは無理」

 何故だ。顔に出たのか、紫電は先ほどとは打って変わって嬉々としたように答えた。

「オマエ強いし。ほら、償いするって言っただろ?」
「その償いは関わらないことで願いたいんだが」
「オマエ本気で戦う相手そんなにいなさそうだから、相手してやるよ」
「頼むから話を聞いてくれ」

 確かに本気で戦う相手は数少ないが。

「それに、関わるなとは難しいですよ、この学園じゃ」

 若干呆れ始めている俺に、今度は木乃が言う。

「どういうこと…?」
「この学園は結構”交流会”と題したものが多いんですよ。しかも一年生は全員参加だ。少なくとも」
「一年生の間は龍は紫電先輩から逃げられないってこと?」

 レグナの言葉に、木乃は優しく微笑む。

「そういうことです、残念ですね炎上」
「全く本当に残念だ」
「交流会ってなにするの…?」

 生クリームをほうばりながら、クリスティアが聞く。声が聞こえた時に反射的に左を見れば、ついでに目に入ったケーキ皿に、ケーキに乗っていたイチゴ置いてある。あれ俺に食わせる気だな。なんて思いながら視線を木乃に戻した。

「そうだな……。まずは年に二回、交流武術会があって、あとは秋頃から武闘会が始まります」
「舞って踊る方ではなくてか」
「武術で闘う方ですね。秋に予選、冬に本戦。一年生は全員参加」
「そこで一位になったヤツが、現時点で学園で一番強いってこと」
「つまりはお前か」
「そういうコト」

 子供っぽい笑みで嬉しそうに頷く。全く持って殺意しかわかない。

「結構闘うことが多いんですね、この学園」

 レグナが聞けば、木乃は頷く。

「そうだね、やはりこの学園のコンセプトは”人の笑顔を守る”ことですから。実戦演習を積んでおくことに損はない」
「けど、ちゃんと学校らしい行事もあるぜ。九月は文化祭、そんで今月末は体育祭」

 紫電の言葉に、俺たち四人は一瞬止まった。

「え、私たちなにも聞いてないんですけど」
「一年生は知らないはずですよ、まだ発表されていないはずだ」
「重要事項だろう」
「ウチは大体二週間前くらいに発表なんだよ」

 なんてはた迷惑な学園なんだ。

「二週間前に言って間に合うの…?」
「なにが? 刹那ちゃん」
「準備…。いっぱいあるじゃん…」
「ああ、よくあるリレーのバトン渡し練習とかそういうのですか? うちの学園はありませんよ」
「普通の学校と違うから。やることもちょっと違うんだよ」
「あら、それはそれで楽しそうではありますわね」

 体育祭なんてどこもやることは一緒だったからそこはカリナに同意見だ。

「龍、あげる…」

 そこで、ケーキだけを食べ終わったクリスティアが案の定イチゴを差し出してきた。

「食えないなら頼むな……」
「イチゴ、好物でしょ…?」
「いや確かに好きだが。甘いんだよお前の……」

 フォークに刺さって差し出されたイチゴを口に含む。……地味に甘い。イチゴの甘さではなくクリームの方で。すかさずコーヒーで口直しをした。今あの角砂糖を入れられてなくてよかったと本気で思う。

「案外ちゃんと恋人らしいんだな、龍と刹那ちゃん」

 一連の流れを見ていた紫電が少し意外そうな顔で言ってきた。

「どういう意味だ」
「二人とも淡泊そうだし」
「あら、案外情熱的ですわよね? 龍なんて過保護ですよ」
「華凜」
「ふふっ」

 咎めるように名を呼んでも、いつも通りこいつは意に介さず。足踏んでやろうか。

「で? 普通と違った体育祭ってなんなんだ」

 深く突っ込まれるのもごめんだと、話を戻す。

「そこはやはりきちんと説明されてのお楽しみ、ですが中学や小学校のようなものではないとだけ覚えておくと良いですよ」
「それは楽しそうだけど、でもうちの学園って人多いですよね。俺たち一年も多いし。一日で終わるんですか?」

 ある程度全員が食べ終わった皿を端に寄せながらレグナが聞くと、木乃はカフェモカを少し啜ってから口を開いた。

「確かに人は多いですね。けど案外多いのは高校生組ですよ。大学生組は高校生組の半分もいないなんじゃないかな」
「ずいぶん少ないんですのね」
「大学生組は早くに学校を出る人が多いんですよ。一種の飛び級と言った形です」
「飛び、級…?」
「うちの学園では、学年やクラスはお飾りのようなもの。単なる”学生としての行事を行うため”にあるだけ。重要なのは受ける授業」

 木乃は持っているティーカップを置いて続けた。

「この学校では自分の受けたい授業が受けられる。つまりは”夢にとって不要な授業は省ける”ということです」
「他の学校の奴よりも先に進める分、就職できるための知識も早くに身につき、結果就職が早まるということか?」
「ご名答、さすが炎上」

 何がさすがなのかは全くわからん。呆れた目線を送ってみたがにこりと微笑まれ、再び口を開いた。こいつカリナとも似たタイプだな。

「社会で必要なのは本来”学歴”じゃない。その職に就く上での知識、そして世の中に、人々のためにいかに貢献できるかです」
「せっかく知識や技量が申し分なくても、学校の”卒業”って概念にとらわれてちゃかわいそうだろ? だからエシュトには大々的に言ってるわけじゃないけど飛び級制度があって、ソレを使うからこそ大学生組が少ない。たまに高校生組でもいるみたいだけどな」
「そしてもちろん、途中でやめていく人間も少なからずいる。結果、行事は毎年決めた期間で終わっているそうですよ」
「へぇ…」
「ちゃんと成り立っているんですのね」
「案外向かっていた夢のことを学んでいたが思っていたものと違った、というのはよくある話だろう。一年でも、来年になったらいなくなる奴だっているんじゃないのか」
「いそうだなぁ。普通の学校に戻ります、とかね」

 俺が言えば、レグナも苦笑いでそう言った。その言葉に、上級生二人も口を開く。

「オレたち二年でもやっぱいたよな、そういうの」
「五分の一くらいは減ったんじゃなかったかな」

 思ったより多いな。

「まぁそういうことで、行事はなんら問題ないですよ。文化祭も体育祭も楽しめますから」
「ちょっと普通の学校と違うってのはいいかもね。練習ないってことは組体操とかもなさそう」
「女子のダンスなんかもなさそうですね」

 今月行われる体育祭がいつもと違うことで、双子はすでに楽しそうだ。クリスティアは特に興味がないらしく、ほんの少し残っていたココアを飲み干していた。楽しそうではあるが俺も特に興味はない。自分のカップに目を移せば、中身は空。もういいだろう。

「俺は帰る」

 下に置いてある荷物を持って立ち上がる。それに声を上げたのは紫電。

「えっもう帰んの」
「当然だ。飲んだらさっさと帰ると言ったろう」
「えーもう少しいようぜ龍クン」
「お前が言える立場なのか……?」

 本来付き合わせて悪かったなとか来てくれてありがとうとかそういう言葉ではないのか。クリスティアの荷物も持ちながら疑問に思うも、こいつにもこういうのは通用しないんだろうと諦めた。

「氷河も帰るんですか?」

 同じく立ち上がるクリスティアに、今度は木乃が声を掛ける。

「うん…龍が帰るから」
「龍クンだけじゃねぇの?」
「龍が帰るならわたしも帰る…」
「やっぱり仲良しなんですね」
「仲が悪い恋人なんているのか」

 恋人は少なからず仲がいいだろう。仮面夫婦的なものでなければ。

「華凜ちゃんたちはどうするの?」
「もう少しお邪魔していますわ。飲み終わっていませんし」
「華凜がいるなら俺も」
「おい華凜、余計なこと話すなよ」
「あら、なんのことでしょうね」

 財布から自分とクリスティアの分を出しながら言うが、カリナはおどけた表情を返す。さっきまで険悪だったんだからいっそのこと一緒に帰ってほしい。

「あ、炎上、いいですよ、俺が払いますから」
「いい。自分たちの分くらい払う」
「でもですね」
「ついでに私たちの分まで払っても良いんですよ?」
「金持ちの娘なら自分で払え」
「まぁ手厳しい」
「あの、炎上……」
「刹那が気に入ったものを食えた。それだけでチャラだ。行くぞ」
「はぁい」

 端数を出すのは面倒だと少し多めにおいて、有無を言わせず歩き出す。

「龍って結構ちゃんと恋人らしいことしてるんだな。彼女にお金出させないとか」
「財布持たせてませんからねぇ」
「えっそうなの」
「あいつら基本的にずっと一緒にいますから」
「へぇ、案外恋人大好きなんですね炎上は」
「過保護なだけですわ」

 すでに余計なことを言い始めているがもういいと歩を進める。が、さぁ店を出ようとドアに手をかけた瞬間だった。

「なにせ一緒に住むくらい恋人のこと大好きですから彼は」
「「は!?」」
「おい華凜明日覚えておけよ!」

 なんでこうも余計なことばかり言うんだあいつは。いらつきながら思い切りドアを閉めてやった。

『おしゃべり娘は年々天敵となりつつある』/リアス

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