あなたが神か

「全員ご苦労だった」

 予定してたより早く演習が終わって、みんなでまたスタジアムに集まった。今は杜縁もりぶち先生が紙を見ながらメガホンでこれからの説明をしてくれてるところ。その間に、わたしたちには一枚の紋章みたいのが配られてた。

「今配っているのは”演習場入場許可証”だ」

 江馬先生に渡された紋章。意外と硬くて、カードみたい。表にはエシュトの校章、裏にはわたしの名前が書いてる。

「我が笑守人学園では、演習や異種族間の暴動以外での武力、能力行使は禁じられている。しかし、実力向上のためには演習や訓練が不可欠。そこで、我が校では月一回の演習とは別に、この演習場を自由に使えることになっている。その入場に必要なものがこの”演習場入場許可証”だ」
「放課後になるとこのスタジアムには管理さんが来ます~。その人に、自分は演習をしますという意思表示の意味でこの許可証を提出してください。そうすると~」

 全員に配り終わった江馬先生が、自分のポッケから透き通ってきれいな青いブレスレットを出した。

「この”演習許可証ブレスレット”がもらえま~す」
「個人で演習をする場合には必ずこのブレスレットを着用すること。着けていない場合は”私闘”とみなし、規則違反で罰則が与えられるから注意するように。それと、」

 今度は杜縁先生がポッケから赤色のブレスレットを出した。こっちも透き通ってて、よく見ると、中に魔法陣みたいのが描いてる。

「ヒューマン対ハーフ、もしくはビーストで演習をする場合。ヒューマンが能力を使用不可と提示した場合には、こっちの赤いブレスレットがハーフやビーストに追加で渡される」
「これは”魔力制御ブレスレット”と言って、一時的に魔力を練ることを妨害するものです~。付けると自動で魔力妨害の術式が働きます。解除は管理さんしかできないので、退出する際や能力有りの演習に切り替えるときは一度管理さんに解除してもらってくださいね~」

「……外せそうだな」

 ぼそっとなに言ってるの。

「龍さん外さないで」
「罰則受けますよ」
「有事の際ならばいいだろう」
「いい…のか?」

 リアス様解呪得意だから外しそうだけども。

「以上、何か質問はないか」

 一通りの説明が終わって、杜縁先生が聞いた。でも、誰も手をあげる人はいない。杜縁先生は生徒を見回したあと、先生たちを見てうなずく。

「では今日の演習はここまで。次回は六月一日だ。次回からは種族、男女混合で行う。各自訓練に励むように。解散っ」

 先生のかけ声に、みんなでお礼を言って、解散した。中には残って早速演習する人もいるみたいで、受付の方に行く人もいる。

「さて、私たちは演習していきますか?」

 いろんな人が散り散りになってく中で、カリナがわたしたちに聞いた。レグナが思いっきり首振ってる。

「俺は別にどちらでも構わないが?」
「わたしも…」
「俺はパス。さっき死にかけたし」
「龍と闘わなければ良いのではなくて?」
「必然的にお前と闘うことになるんだけど? 刹那にも俺勝てないし」
「加減、するよ…?」
「お前は戦法がリアスそっくりだから嫌だ。首元にナイフ突き立てられんのは年に一回くらいでいい」

 レグナに真顔で拒否されちゃった。違う戦法ならいいのかな。

「演習しないなら俺は帰るぞ」
「あら、せっかくまだ二時ですのにもう帰られるんです?」
「学園に残っていても意味はないだろう」

 とりあえず使う人たちの邪魔にならないように歩き出す。スタジアムから出る直前に見た時間は午後二時。今日は演習日だから他の授業もなくて、これからは暇。
 今日はレグナと並んで、後ろにリアス様とカリナが続いて、外に向かう通路を歩く。どうしようか、って悩んでたら、カリナはぱっと閃いたように声を上げた。

「ねぇ、暇でしたら──」
「嫌な予感しかしない」
「ひどいですわね龍。これからお買い物でもどうですかと聞こうと思っていたのに」
「お前、俺が出掛けるの嫌いだと知っているよな?」
「知ってますよ当たり前じゃないですか」
「ならなぜ買い物という選択肢が出るんだ……」
「明日の夜からあなた方のおうちにお世話になるので必需品を買いに行こうかと」
「俺と刹那はいらないだろう」
「女子にはそろえなくてはならないものがたくさんあるんですよ?」
「言っておくが俺と刹那は自分の家だからな? 自分たちのものはすべて揃っているんだが」

「刹那、なんか欲しいものある?」

 若干言い合いになりつつある後ろのカリナとリアス様の会話を聞いてたら、レグナが声をかけてきたから意識をそっちに向ける。お泊まりで欲しいもの。なんだろう。お泊まりで必要なのってあんまりわかんないけど、この四人だったら。

「…みんなで遊べるやつ?」
「ゲームとかパーティグッズかな」
「蓮、ゲームなにか持ってくる…?」
「あーお前ん家にゲーム機あれば?」
「ゲーム機…」

 言われて、自分の家にあるものを思い返してみた。リアス様もわたしも本読む方だから本はいっぱい。でもゲームはあんまりしない。

「ない、かも」
「じゃあゲーム機も持ってく?」
「壊れちゃわない…?」
「そんな過激に扱う気?」
「ゲームって少しいじっただけでも壊れちゃいそう…。動かなくなったら叩くんでしょ?」
「それは間違った方法かな刹那さん」

 昔はそうやって教わったのに。いつの間に時代は進歩したの。

「まぁ適当になんか持ってくよ。あとは?」
「スゴロク…?」
「あ、おもしろそう」
「あとはチェス…」
「龍得意そうだね」
「うん…」

 なんて二人で話してたら。

「刹那もお買い物行きたいですよね!」
「わっ」

 突然カリナが後ろから抱きついてきた。びっくり。

「おい危ないだろう。それと毎度刹那を使うな」
「使ってませんー。私は刹那の意見を聞いてるんです!」

 リアス様がわたしの隣に並んで、演習場を出て四人で歩く。ていうかカリナ、抱きついたままだと歩きづらい。

「わたしは、行きたい…お買い物。ゲーム見たい」
「だってさ?」
「華凜は刹那が行きたいというのをわかっていて、あと一押しのタイミングでこいつに話を振るから嫌なんだ」
「そこでお前が折れるってわかってるからだろ」
「……」
「図星かよ……」
「で、龍? 行きますか?」

 カリナがわたしに抱きついたまま聞くと、リアス様はものすごく不服そうな顔で悩む。でも、少しして。

「行けばいいんだろう……」

 仕方なさそうに、うなずいてくれた。
 それを聞いたカリナは嬉しそうに笑ったあと、わたしから離れてリアス様の隣に並ぶ。

「では行きましょうか。学園近くに大きめのデパートがありますの」
「そこ知らない…」
「あなた方の家の反対方面ですから」
「だからなんでお前は俺達の家を知っているんだ……」
「女性に秘密は付き物ですよ龍」
「本来守秘するべき個人情報を奪取したやつが何を言う」
「あ、ちょっと歩くので車呼びます?」
「聞け。そして呼ばんでいい」

 校門を出て、いつもは右に行く道をみんなで左に曲がった。寄り道。学生らしい過ごし方に、ちょっと頬がゆるむ。

「本当に買うものなにもないんですか?」
「自宅なんだからないだろう」
「クリスティア用の布団とかあるじゃないですか」
「何さりげなく離そうとしてやがる」

「そういえばこっからデパート行くまでにおいしいクレープ屋あったよ」
「クレープ…」

 隣を歩くリアス様とカリナの会話を聞きながら、こっちはこっちでわたしとレグナで話す。わたしたちの家方面ってなんもないけど、こっち方面はそんなすてきな場所があるのか。

「甘いの好きでしょ? せっかくだから寄ってく?」
「寄ってく…」

 甘いものちょうど食べたかったしぜひ。ひとまず行くことは勝手に決めて、事後承諾も兼ねて、隣の二人に声をかけた。

「なぁ、クレープ屋寄ってくって」

 レグナの声に、二人は会話をすぐに中断してこっちを向く。カリナは嬉しそうにうなずいた。甘いものがきらいなリアス様は、ちょっと引き気味。

「クレープ屋さんですか、いいですね」
「俺は食わないからな」
「一口くらい食べなさいな」
「ものによる」
「最近サラダっぽいのもあるから食えるだろ」
「……それなら、まぁ」

 結局許してくれるリアス様に笑って、歩みを進めてく。

「ここら辺の通り道、おいしいお店多いですよね」
「学生が多いから買い食いをさせて売り上げを上げるんだろう」
「お前はどうしてそういうこと言うかな?」
「事実だ」
「オブラートに包んで」
「無理」

 なんて話をしてたら、

「…あれ?」
「ん? ああ、そうそう」

 少しして、カラフルな車が見えた。看板が出てて、「クレープ屋」って描いてる。奥にもちらほら車が止まってた。

「どれがいい?」
「いっぱいありますね」

 ひとまず一番前のクレープ屋さんの車の前で止まって、メニューが書かれた方の看板を見る。チョコチップ、チョコバナナ、生クリーム…種類がいっぱい。レグナが言ってたサラダもある。

「俺はサラダクレープ」
「私はリンゴホイップで」
「俺はチョコバナナかな。クリスティアは?」
「んー…」

 おいしそうなのがいっぱいあって、なかなか決まらない。メニュー看板とにらめっこして、悩む。

「…これ」

 長考の末、ひとつを指さした。

「チョコケーキホイップのアイス乗せ?」
「ん」

 チョコケーキとチョコソース、あとバニラアイスが乗ったクレープ。リアス様が若干引いた顔してるけど気にしない。

「はい、おまちどうさま」
「ありがとう…」

 四人でクレープを頼んで、できあがったのを受け取る。ちょっとあったかくて、おいしそう。台に置いてあるスプーンももらって、歩き出した。

「こぼすなよ」
「ん…」

 リアス様に言われて落とさないように注意しつつ、かぶりつく。冷たいアイスに、ほろ苦いチョコケーキ。甘いホイップ。ちょっとあったかい生地。全部が混ざった絶妙なおいしさに、頬がゆるんだ。

「おいしい…」
「こちらもおいしいですよ?」

 おいしさに浸ってれば、目の前にカリナが頼んだリンゴホイップ。生のリンゴは好きじゃないから避けてかじり付けば、ほんのりしみついたリンゴの甘さとホイップが混ざって、わたしのとはまた違うおいしさ。

「こっちもおいしい…」
「でしょう?」
「カリナも。あーん」
「あら。いただきますわ」

 お返しに、カリナにも食べさせてあげる。

「おいしいですわね」
「ん…」

 おいしそうに笑ってくれたカリナに、ほほえみ返した。

「リアスはやらないの?」
「やんねぇよ」
「食べる? リアス様…」
「俺が甘いもの嫌いなこと知っているだろう」

 レグナが言ったからリアス様に話を振ったら却下されちゃった。おいしいのに。差し出したスプーンは自分の口にもっていった。

「あ、あそこですわよクリスティア。見えます?」

 そうして四人で食べながら歩いてたら、カリナが指をさした。少し遠くに見えるのは、おっきいビル。

「おっきいね…」
「近くに行ったらもっとおっきいよ」

 今がちょうど学園とデパートの半分くらいらしい。ここでおっきく見えるから、確かに着いたらすごくおっきいかも。

「中、なにがあるの…?」
「デパートですから色々ありますわ」
「フードコート、ゲーセン、服屋、おもちゃ屋……ないものがわからないくらい?」
「楽しみ…」

 ここ最近はおっきいデパートとか行かなかったから。期待に胸を膨らませて、クレープの最後の部分を口に放り込んだ。

「……なぁ」
「ん?」
「どうしました?」

 クレープを包んでた紙をゴミ箱に捨てて、ビルに向かう。そしたら、突然リアス様が声をかけてきて、三人でそっちを向く。

「ゴールデンウィークの休みのときにあそこに行けば一日遊んでられるんじゃなかったのか?」
「あなたが出かけないと言ったから仕方なく今日、この日に来てるんですけどわかってます?」

 リアス様の問いには、カリナが笑顔で返した。なんとなく顔は笑ってるけど目が笑ってない。

「……すまない」

 さすがのリアス様も気圧されて、思わず謝る。それを見て、カリナは今度はちゃんと笑った。

「まぁ正直あなたとクリスティアは来る必要なかったかもしれませんが」
「そうだよな。来る前から思っていたしそう言ったはずだが?」
「私がクリスティアと一緒にいたくてお誘いしましたわ。嫌ならリアスだけ帰っても構いませんが」
「ほんとにいい性格しているなお前は」
「ほら、まぁたまには学生の放課後を楽しもうということで。ゴールデンウィーク出かけられそうなら隣町とかに行ってもいいじゃん?」

 またいつもの言い合いになる直前、すかさずレグナが入って仲裁した。そうすれば、リアス様もカリナもちょっとだけ不服そうだけどうなずく。
 なんとなく、リアス様もカリナもまだなにか言いたそうだけど、レグナが「行こうよ」と声をかけたら、口をつぐんで歩き出した。

「レグナさすが…」
「それほどでもー」

 だんまりになった二人にさすがとほめたら、レグナはなんとなしに笑う。普段はカリナ口うまいなって思うけど、こういうときはレグナすごいよね。もちろん昔からのつきあいだから本気でけんかとかってしないし、お互いの地雷とかもわかってるけど。身内の言い合いとかってレグナがほとんど止めてる気がする。レグナの言葉ってなんか妙にしっくりきて、そうなんだ、って素直に思える。
 それに気遣いできるし、相手が傷つかないように言うし。なんだかんだレグナだって強いし、いろんなことできるよね。あれ? 実はレグナも完璧なんじゃない? 家事もできるでしょ、戦闘面で言ったら意外と全属性の魔術持ってるから、リアス様対策できるのってレグナだけでしょ。相手のペースに合わせてくれて、なんでもできて。ずっと、見守ってくれて、間違えそうになったらそっと正してくれる人。そう、まさに──。

「…レグナって神様だったの?」
「ごめん何の話?」

 ふと思い至ってそう聞けば、レグナにはわけのわからないって顔をされました。

『あなたが神か』/クリスティア