2日目・スゴロク大会

 名目・強化合宿二日目。

 午後は出かけるからと八時にカリナに叩き起こされ、朝飯を食べてリビングに集まる。俺の目の前にレグナ、右にカリナ、左にクリスティアと座り、真ん中には昨日の夜やると言っていたスゴロクの箱を置いた。それに、なんとなく、本当に少しだけ違和感を抱く。何かを感じた。明確にはわからないが。まぁどうせカリナが楽しませようと何かを仕込んでいるのだろうと思いそこはスルー。

 ──したかった。

「おいなんだこれは」
「スゴロクですが」
「こんな禍々しいオーラのスゴロクがあってたまるか」

 カリナがスゴロクの箱を開けば、ものすごく黒い、禍々しいオーラを放つマップが出てきた。カリナに聞けば、至極当然のように、むしろお前は何を言っているんだというような目でスゴロクだと言う。俺が何を言っているんだと聞きたい。

「すっげぇどす黒いオーラ放ってるけど」
「ちょっと仕掛けをしまして」
「ちょっとどころじゃないだろう」
「…禍々しい」

 よくマンガとかに出てくる天使なら闇のオーラにあてられて何もできないとか言うレベルの黒さだぞ。大丈夫かこれ。

「ん?」
「どうしたリアス」

 その黒いオーラばかり見ていて、いや黒すぎて見えなかったの方が正しいか。よくよくマスを見てみれば、不自然なくらいに何も書いていない。

「マスに何も書いていないが」
「よくぞ聞いてくれました!」
「待てお前には何も聞いていない」
「実はですね」
「頼むからたまには俺との会話のキャッチボールをしてくれないか」

 昔からだから気にはしないが。俺の言葉など聞かずにカリナはマップを広げる。禍々しい、すげぇ禍々しい。

「うちの執事が魔術師なんですけれど、せっかくなのでとこのスゴロクに手を加えてもらったのです」
「なに加えたの…?」
「リアルスゴロクができるように異空間を」
「地獄への道じゃなくてか?」
「失礼ですね、普通の異空間ですよ」

 マップを見る限り全然普通じゃないんだが。

「で、異空間へいって、そのマスを踏むと私たちの魔力に反応して項目が出る仕組みです」
「へぇ、なんかおもしろそう」

 嘘だろレグナ。

「確かスタート部分に一定の魔力を流し込めば魔法陣が出るので、それで異空間に行けるそうですわ」
「全員で流せば、全員一緒に行く…?」
「だろうね」
「一応リアルゲームですし、飲み物とか食べ物持って行きます?」
「食べ物はいいんじゃない? さっき朝飯食べたし」
「じゃあ、飲み物…」

 明らかに地獄への道にしか見えず固まっている俺などお構いなしに、好奇心旺盛なこいつらは着々と話を進めていき、気付いたら行くことが決定していた。どうせ止めても言いくるめられるのだろうとわかってる俺は、一つ溜息を吐いて立ち上がる。

「各自の飲み物でいいか」
「大丈夫ー」

 もうなるようになれと、キッチンへと向かい冷蔵庫から初日に買っておいた各々の500mlのペットボトルを取り出してエコバッグに放り込む。ついでにクリスティア用に飴でも持っていくかと、いくつかの飴を飴BOXから取り出し、ポケットに忍ばせておいた。

「では、行きましょうか」
「おっけー」

 リビングに戻り、四人でスタート地点に触れて、一斉に魔力を流し込む。少し流し込んだところで足下に魔法陣が展開し、その部屋から俺たちは消えた。

 ースゴロクスペースー

 数秒後。目を開ければ、真っ白な空間。足下にはパネルが広がっていた。

「すげー、マンガみたい」
「みなさん無事に来ましたね。ではどうやって進みましょうか」

 全員がいることを確認すると、カリナが意味不明なことを聞いて来る。昔一緒にスゴロクやったことなかったか?

「サイコロ、振るんじゃないの…?」
「あ、そうなんですけど。実はですね、このマスの内容、うちの執事が決めたのでなにが出るかわからないんですよ」
「マジか」
「なるべく楽しく、でも怪我はしないようにという条件で項目を作ってもらったんです。私も内容知ってるとおもしろくないので」

 それはまぁわかる。が、内容を決めたのはカリナと似たタイプのこいつの執事。ろくなものではないことは確かだ。

「で、それとどう進むかは何が関係あるんだ」
「リアルゲームですから。危害はないとは言えど、なにが起こるかはわかりません。なので四人で一緒に進むか、チームに分かれるか、個人か。どういう風にしようかなと」
「なら、四人は…?」

 カリナが悩んでいれば、俺より先にクリスティアがそう言った。カリナですらどういうマスかわからない以上、そうするのが妥当だろう。

「やはりその方がいいですかね」
「これで危険じゃなくてまたやりたかったら次は一人一人にすればいいんじゃない?」
「今回は様子見も含めて四人で行けばいい」
「そうですね。では、サイコロを振りましょうか」

 四人で進むことに全員異議はなく。カリナは近くに転がっていたサイコロを拾い上げ、クリスティアに渡した。

<ゲームスタート>

「…五」

 クリスティアがカリナに渡されたサイコロを振れば、目は五。揃って五マス分歩く。マスも通路も比較的広く、四人並んでも十分なスペースがあった。五マス目に辿り着けば、真っ白なパネルに文字が浮かび上がる。
 そこには。

「…腹筋、五十回」
「まじか」
「朝からか」
「中々ハードなことを書きますわね」

 何度見ても、パネルには腹筋五十回と書いてある。いやできるが。この寝起きで一時間も経っていない状態でやるのはさすがにだるい。が、無視して進むわけにも行かないので、四人で寝転がり、腹筋を始めた。

 ……なんだこれ。

「ねぇこれ何の集団?」
「端から見たらすごい異様な光景ですわね」
「本当にな」

 黙々と、俺達以外いない空間で腹筋をしていく。楽しさも何も感じられない。今は四人だから異様な光景だなで笑って済むが、仮に一人固定だったらまじできつい。色んな意味で。
 心の中で回数を数えて、律儀に五十回済ませてから立ち上がる。

「終わったぞ」
「俺あと十回ー」
「私もです」
「ほらクリスティア、頑張れ」
「うー…」

 少し遅れているクリスティアに声を掛けてやる。連続ではさすがにきつそうだ。腹が震えている。正直とてもちょっかいをかけたいが蹴られそうだからやめておこう。

「おわっ、た…」

 程なくして、全員が腹筋を終えた。すでにクリスティアが疲れ果てて突っ伏している。気にせず今度は俺がサイコロを振った。

 目は二。

「おい行くぞ」
「まって…」
「クリスティアさん怖い怖い」

 死んだように倒れているクリスティアに声を掛ければ、髪の毛を乱した状態で這いずって来た。お前はテレビから出てくるあの女か。笑いそうになりながら、クリスティアを肩に抱えてやり、歩き出す。

「クリス大丈夫です?」
「数分後には歩けるだろう」
「朝から腹筋はきつい…」
「同感だわ」
「あ、着きましたよ」

 二マス分歩を進めて、止まる。クリスティアを降ろしてやれば、全員の魔力を感知して、パネルから文字が浮き出た。

「えーと、”新しい武器を得る”だって」
「ここで使える武器ですかね」
「おい危害は加えないんじゃないのか」
「ゲーム内でしょうからそんなに立派な武器ではないでしょう、平気ですよ」

 ほんとかよと疑っていれば、パネルから突然三つの黒い箱が出てきた。大、中、小……おとぎ話か。

「この中のどれか一つを選べってこと?」
「たぶん…」
「昔話だと小さい箱が一番良いものでしたっけ」
「確かな」
「じゃあ小さいの、開ける…?」
「そうしてみましょうか」

 クリスティアの提案に、カリナが一番右の、一番小さい箱を持ってくる。二十センチくらいのその箱を俺たちの目の前で開けた。それと同時に、白い煙がたちのぼる。いくつか話が混ざってないか。

「これは…」

 煙がなくなったところで、カリナが中身を取り出す。
 黄色い持ち手に、上部は赤い打撃面。

「うちでの小槌ならぬピコピコハンマーですね」
「武器にも金にもならないじゃないか」
「危害は加わりそうにはないけれども」
「えい…」
「いたい」

 クリスティアがカリナからピコハンを受け取り、レグナの頭を軽くたたく。軽快なピコンっという音だけが響いた。

「なにも出ない…」
「ピコハンですから」
「俺で試さないで」
「どうする、持って行くのか」
「まぁここでこういうものが出るということは使う場所があるんでしょう。一応持っておきましょうか」

 カリナはピコハンをクリスティアに託し、落ちているサイコロを振る。目は三。

「では次行きますよー」

 危害の面で先行き不安だが、どのみちゴールまで行かなければ終わらないだろうと、カリナを追った。

「”壁ドン”だって」

 次のパネルにたどり着いて、浮き出てきたのは今流行りのもの。

「あれだろう、隣の奴がうるさいからと壁を叩くやつ」
「そっちが正式だけど多分パネルの方はきゅんとする方の壁ドンじゃないかな」
「壁ドンでしたらせっかくですしクリスとリアスがいいのでは?」
「きゅんとするのか?」
「するのはクリスティアかな」

 まぁ簡単そうだからとクリスティアを目の前に立たせる。が、そこで重要なことに気づいた。

「ドンする壁がないんだが」

 そう、この空間には壁がない。

「ドンする壁って何」
「壁ドンだろう、ドンとするんだろう」
「待ってリアスあんまりドンドン言われると太鼓のキャラクター思い出す」
「今は壁ドンだけ考えてくれ」

 レグナが言うからもうそれしか思い浮かばないじゃないか。

「壁なら作ればどうでしょう? バリアーでよければ張りますが」
「耐久度MAXにしておけよ」
「リアス、壁ドンは壁を壊すものではないですよ」

 言いながら、カリナはクリスティアの後ろに簡易バリアーを張った。

「こう、なんでしょう、トンってするんですよ。逃げられないようにというか、好きな子を自分に閉じこめるように?」
「そこまでやってるならお前がやればいいんじゃないのか」
「恋人らしい甘い展開に持って行ってやってるんですから察してください」

 そっとクリスティアの顔の横に手を添えて、手本を見せてくれるカリナにそう言えば、ものすごく蔑んだ目で見られた。すまないと謝って、クリスティアに向き直る。

 閉じこめるように、逃げられないように。

 考えてみて、なんだいつもしていることと変わらないじゃないかと思い至った。つまりはそれを視覚化すればいいんだろう? 案外凝ったことをするんだななんて思ってとりあえず、両手をクリスティアの顔の横につける。

 そのまま、見上げてくるクリスティアを自分の結界で閉じこめた。

「リアス! リアス違います!」
「物理的に閉じこめないで!! トンってした後にぐわって結界張って閉じこめないで!!」

 瞬間、飛んでくる焦ったような声。閉じこめるようにと言われてやったことはどうやら違ったようだ。

「閉じこめろと言っただろう」
「腕で! 閉じこめるように! と言ったんです。結界で閉じこめろなんて言ってませんわ」
「びっくりした…」
「俺もすげぇびっくりした」

 俺以外がものすごく驚愕した顔をしているが、ひとまず壁ドンはクリアということで。続いてレグナがサイコロを振った。

「お、五じゃんラッキー」
「次は平和なものが良いです」
「今のも平和だっただろう」
「心臓には平和じゃなかったですよ」

 そこまで驚かせたのか。すまないとまた謝って、歩き出す。

「えーと次は……」

 五マス先に辿り着いて、パネルを見た。じわっと浮かび上がるその文字は。

 ”底なし沼”

「底なし」
「沼…?」

 全員が理解できずに首を傾げた瞬間。

「「「「──!!」」」」

 パネルが突然消え、泥沼へと変わった。

「ちっ」
「わっ…」
「カリナっ」
「飛びましょうっ」

 クリスティアを抱え上げ、反射的に魔力で翼を出して飛ぶ。下を見ると、ごぼごぼとした沼が広がっていた。明らかに湯気みたいなのが見えるんだが。

「あらまぁこれはまた……」
「危害加えないんじゃなかったの!?」
「どうにかなると思っていたか踏むとは思っていなかったんじゃないか」

 全員が無事に空中へと逃げだし、ほっと一息つく。やはりカリナの執事、ろくなことをしない。

「そこの道に降りますか?」
「ここにはもう残っている部分もない。その方が妥当だろう」
「マジでびびった……」

 次のマスの手前にある道に移動し、翼をしまって地面へ降りる。

 ”天使になるから”と天使契約をしたときに翼の魔力結晶を作ったがまさか現代で役に立つ日が来るとは。
 比較的生きづらいハーフは、緊急時以外は争いを避けるため、その姿を利用してほとんどがヒューマンとして生きる。それは俺たちも同様で。ましてやテレポートもある俺達は、移動にすら使うこともほぼない。まさか使う場面があったとは。案外使いやすかったから覚えておくか。

「これ、似たような場所まだあるのかな…」
「沼みたいのはないだろ。ていうかあってほしくない」
「沼はなくても用心することに越したことはないでしょうね」
「お前の執事は本当にお前と似ているな」
「さすがにここまではやりませんよ」

 どこまでやるのかを聞いてみたい。

「さて、とりあえず進んでみましょうか?」
「見た感じリタイヤエリアとかもなさそうだし、進むしかないね」
「じゃあ、またわたしがサイコロ振る…」

 クリスティアを降ろしてやれば、ぽんと出てきたサイコロを持って再びそれを振った。

 ♦

「だいぶやったなー」

 マップが終盤を迎えようとしている頃。今まで通ってきた道を振り返ってレグナが言った。それに倣って俺も振り返る。白い空白よりも文字が浮かび上がったマスが多くある。確かに結構こなしてきたかもしれない。

「的当て、縄跳び、一マス下がったり、はたまた進んだり……始めより中盤が比較的楽でしたわね」
「的当てはリアス様がすごかった…」
「縄跳びは四人でがんばったなぁ」

 ゴールが近くなってきたところで、これまでの道のりを振り返った。
 的と弓矢が突然現れたときはレグナが”お前ならできる”と何故か謎の期待と共に弓矢を託され、縄跳びはレグナと俺で縄を持って四人跳びをしたり、一マス下がって”物を壊せ”というパネルの時は瓦に似せた発泡スチロールをレグナと壊して、進んだ先で”攻撃をかわせ”という時は多くのおもちゃのボールをレグナと二人で女子を抱えて逃げ回り──ってちょっと待て。

「俺とレグナしか参加してなくないか」

 思い返してみればパネルのミッションに参加してるのは俺とレグナだけ。女子はほとんど参加はしていない。

「あら、縄跳びは参加しましたわ」
「跳んだだけじゃねぇか」
「立派に参加したでしょう」
「他は」
「俺とリアスだけだな」
「細かいことは気にしないでください」
「お前はもう少し気にしろ」
「次は、がんばる」

 カリナより数百倍素直なクリスティアは俺の裾を引っ張ってそう言った。頑張れと頭を撫でてやるがこいつも次の時には忘れてるんだろうと思う。期待はしていない。

「着いたぞー」

 四、五とマス目を数えて進んでいたレグナが歩みを止める。俺たちも足を止め、パネルを見た。じんわりと文字が浮かび上がってくる。

 ”ぬいぐるみと闘え”

「なんでぬいぐるみ?」
「危害は加えないけど面白くしようという配慮なんじゃないですか」
「いや思い切り危害加えるだろう。攻撃してくるし闘うんだぞ」
「ぬいぐるみなら当たっても痛くないし大丈夫と思ったんでしょう」
「本当にお前そっくりな考え方だな」
「リアス様」
「!」

 話していれば、クリスティアが俺の裾を引く。クリスティアの視線の先を追えば、俺達の目の前には禍々しい魔法陣が展開されていた。カリナの執事は黒魔術師か何かなのか?

「あそこから来るってこと?」
「だろうな」

 禍々しいオーラを放ちながら魔法陣が黒く光る。その光の強さに目をつぶった。

「──!」

 光が収まって、目を開ける。そこにいたのは。

「まぁ、アンデルセン!」

 そう、アンデル──なんだって?

「誰だアンデルセン」
「あの子です。うちの子です」

 そう言ってカリナが指をさしたのは、目の前にいる巨大なテディベアのぬいぐるみ。いやうちの子って2mくらいあるんだが。これが家にいるのか?

「あんなのが家に何体もいたら恐怖だろう」
「家にいるのはもっと小さいですよ。魔力で巨大化させてるだけでしょう」
「あ、まだ出てきてる」
「あら、インセリウスにウェルリアル。うちの中で一番お兄さんたちですわ。ちなみにアンデルセンが一番若いです」
「待て余計な情報が多すぎる」

 目の前に集中したいのにカリナの頭の中の設定がすげぇ気になる。そうしている間に、ぬいぐるみの上部に”3”と出た。それは”2、1”と変わっていき、バトルまでのカウントと知る。

「うわっ」
「っ」

 それが”START”と変わった瞬間。ぬいぐるみがものすごい勢いで襲ってきた。レグナとカリナが右へ、俺とクリスティアが左へと飛び退く。

「おい結構本気だぞ」
「おかしいですね、そんな野蛮な子達ではないんですが」
「カリナさん今は自分の中の設定置いといて!」

 二手に分かれてなおも襲ってくるぬいぐるみ達。俺達の方にはでかいウサギがいる。なんだったかこいつは。そうだインセリウス。あっちの双子にはアンデルセンといぬのぬいぐるみのウェルリアルが行っている。

「これって倒せばいいの…?」
「闘えと言うことだからそうだろう」
「あ、うちの大事な子達なので傷つけないでくださいねー」
「今そういうこと言ってる場合じゃないよカリナさん!!」

 とりあえず攻撃を避けていき、また四人で集まって背中を合わせた。カリナと目を合わせて頷き、体勢を立て直すために簡易的なバリアーを張る。そこまで攻撃力は高くないからすぐには破られないだろう。

「大事な物が傷つくなんて見たくないじゃないですか」
「わかるけどその大事な物が俺たち傷つけようとしてるから」
「そうですけど……。刃物とかで傷つくのは嫌なのでできれば一撃で吹き飛ばしたいです」
「傷つけないでって言ってる割には容赦ないね??」

 バリアーの中で座り、攻撃が続いている中で話し合う。

「吹き飛ばすならレグナが風で飛ばせばいいんじゃないか」
「あの大きさだと結構な重さだろうし、俺らも吹き飛ぶくらいの竜巻じゃないと無理。ついでに今の結界じゃ壊れるかも」
「リアスの重力操作グラビティでおさえつけたらいかがです」
「原型がわからないくらい型くずれしてもいいならやるが?」
「あ、お断りします」
「ね、これ…」

 打開策を考えていたら、今まで黙っていたクリスティアの声が聞こえて、全員がそちら向いた。

 その手には、うちでの小槌ならぬピコピコハンマー。

「魔力結晶作って、魔力でおっきくしたら、アンデルセンたち打って場外に出せそう…」

 恋人の提案が中々えげつない。そしてそれに同意するのはもちろんこいつ。

「ナイスですわクリスティア!」
「いいの!? なんか一番ひどい方法だけどいいの!?」
「威力によっては綿飛び出るか頭が吹き飛ぶぞ」
「リアスはどんな威力であの子達を打とうと思ってるんですか」
「思い切り」
「まぁあの大きさだし結構な力でいかないと吹っ飛ばないよね」

 威力を想像して一瞬カリナの顔が悩ましげなものになるが、すぐに切り替えたらしく頷いた。

「威力がどうあれ今はそれが一番いい方法ですわ。延々とここにいるわけにもいかないでしょうに」
「まぁカリナが良いなら。ていうか誰が打つの」
「提案者のクリスティアか?」
「それか私が彼らの主として責任を持って打ちましょう」
「どっちでもいい…」
「ではじゃんけんで」
「ねぇ後ろでぬいぐるみとは思えないすっげぇ打撃音が聞こえるんだけど」
「大丈夫だろう」

 カリナとクリスティアがじゃんけんをしている間も、ぬいぐるみたちはガンガンとバリアーを叩く。ひびも何も入っていないのでまだ平気だろ。

「では私が打ちますわ。リアス、合図したらバリアー解いてくださいね」
「わかった」

 じゃんけんの結果はカリナが負け。それが決まったところで全員が立ち上がり、俺とレグナとクリスティアはカリナの後ろにつく。

「では行きましょうか」

 カリナがピコハンの魔力結晶を作って魔力を練ったのを確認して、俺はバリアーを解く。その瞬間に、カリナはピコハンを巨大化して思い切り振りかぶった。ガッとぬいぐるみが打たれる音とピコンというピコハンの音と共に、ぬいぐるみたちは飛んでいく。

「すっげぇ音したけど」
「ぬいぐるみもでかくなったら凶器になるんだな」
「すごい飛ぶ…」
「打ちすぎましたかねぇ」

 四人でぬいぐるみの行き先を見つめる。放物線を描きながら飛んでいくぬいぐるみはきっとそのまま落ちていくのだろうと思っていれば。

 どさっと音を立てて落ちたのは、俺たちが元いたスタート地点。

「なぁリアス」
「どうした」
「すごい嫌な予感するのって俺だけ?」
「奇遇だな俺もだ」

 普通の人間ならばあそこまで勢いよく起きれば起き上がることはない。だが相手はぬいぐるみ。しかも魔力で動いている。それが足場のある場所に落ちたということは。

 見つめている先の三体のぬいぐるみは、ゆっくりと起き上がる。そして人間ならば目が据わっているだろう雰囲気を醸し出しながら、ゆっくりとこちらを向いた。

 ──来る。

 そう思った瞬間に、ぬいぐるみ三体が走り出した。

「ねぇめっちゃ速いんだけど!!」
「ぬいぐるみもあそこまで速いと恐怖ですね」
「おいもう二列目来たぞ」
「悠長にしてんな走るぞ!!」

 アスリート並の走りに関心していれば、レグナが俺たちを押す。仕方なく走り出した。
 が、すぐに止まった。

「行き止まりだが」
「は!?」

 目の前には次のマス。しかしその間に、透明なバリアーが張られていることに気付いた。

「どういうこと!?」
「サイコロ振るんじゃないですか? まだスゴロク終わってませんし」

 追ってくるぬいぐるみから逃げようとレグナがバリアーを叩いていると、カリナがサイコロを差し出した。お前あの一瞬で持ってきてたのか。

「サイコロ振らないと先に進めないの…?」
「そういうことです。残りは五マス」
「二、三ターンあれば終わるな」
「急ぎましょう。えいっ」

 カリナがサイコロを振る。出た目は三。

 その瞬間に、目の前のバリアーが消えた。一斉に走り出す。

「ねぇこれってリアス解けんじゃないの?」
「下手にゲームで解呪するとペナルティ食らうから嫌だ」
「やったことあるのかよ」
「昔な。変な呪いかけられて、その頃はここまで得意でもなかったら相当困って二度とやるかと決意した」
「お前も学習するんだな……」

 失礼なことを言うレグナを睨みつつ走って三マス先にたどり着く。下に浮かび上がる文字は。

 ”一つ告白”

「告白って何!?」
「秘密にしていることでも告白するんじゃないですか?」
「四人だから、一人一つ…?」
「ではレグナからどうぞ」
「は!? えーと」

 全員で何か言うことを探す。そうこうしている間にも、ぬいぐるみは五列目に突入した。なんでもいいと促せば、レグナから順に口を開いた。

「えっと、この前カリナのシャンプー間違って使った!」
「リアス様が飲んでた飲み物おいしくて残り全部飲んだ」
「お前か犯人は。この前クリスティアが読んでいる本があったから先に読んでおいた」
「ないと思ったらリアス様だったの…」
「合宿中にリアスとレグナの下着を一つ入れ替えておきました」
「「ちょっと待て!!」」

 衝撃発言を終えた直後にサイコロを振ろうとしたカリナの腕を掴む。

「どうしましたか急いでください」
「その前にどういうことだ」
「下着入れ替えたって何!!」
「言ったとおりです。とても似た下着があるのでいたずらとして入れ替えようと」
「確信犯か!!」
「暴露大会までとっておこうと思ったのに。残念ですわ。さぁ残り二マスです。行きましょう」

 そう言って、カリナは再びサイコロを振る。出た目は丁度二。ゴールに向かって走り出した。

「まぁぴったりですわ」
「”まぁ”じゃねぇよあとで直しとけ」
「あ、ちなみに二人とも一番手前に置いておきました」
「「今履いてるやつじゃねぇか!!」」

 ゴールに着いた途端に、魔法陣が展開する。振り返れば、もうぬいぐるみはほぼ目の前に来ていた。どうやらギリギリ間に合ったらしい。ぬいぐるみが俺たちのマスに来る直前に、そいつらは視界から消えた。

「……帰ってきたか」

 目を開ければ、見慣れた景色。見渡せば全員いる。無事に帰ってきたようだ。それを確認して、レグナと二人して溜息を吐いた。

「楽しかったですね」
「楽しかった…」
「俺疲れた……」
「俺もだ」

 スゴロクの内容にもだが主に最後の発言に。よくもまぁ入れ替えるという発想に至ったものだ。なんて若干関心していれば、ぐったりとした俺たちにこの女は楽しそうに言う。

「今度は対戦でやりますか?」
「「ぜってーやらねぇ」」

 濃密なゲーム内容のせいで久しく感じるリビングに、俺とレグナの疲れ切った声が響いた。

『2日目・スゴロク大会』