また逢う日までライト版 First grade July

振り返ってみると楽しかった体育祭を終えて、土日を挟んで七月最初の登校日。

体育祭ではぎらぎらした目にびっくりしたけど、武煉先輩たちのおかげでこれからも静かなんだよねと、七月ということで衣替えした生徒たちで溢れる通学路を歩いていく。

一応まだ一緒には登校している先輩たちに改めてお礼を言いながら、学園に到着。

玄関近くの階段で、二階に教室がある先輩たちとは別れ、自分たちの教室へと向かおうとしたとき。

それは起こった。

「「ごめんなさい!!!」」

リアスが過保護なので一旦二組を通り過ぎてまずは一組へ、と伸ばした足が、目の前の女子たちによって止まる。
頭を下げて、広い廊下でも響くその声に、周りはなんだなんだと目を向けるけれど、正直俺たちもなんだというわけで。
四人で一旦顔を合わせるも、当然理由なんてわかるわけがなく。

「えっと、なにがでしょう……?」

カリナが戸惑いながら聞くと、女の子たちは顔を上げた。

あ。

「ねぇ龍」
「あのときのだな」

申し訳なさそうな顔をしている女子たちは、見覚えのある子たちだった。

道化とはまた違う薄いピンク色の髪の子に、後ろに控えるように立っている茶髪と黒髪の女の子。
さかのぼること三ヶ月前、「四人で付き合ってるの」って言ってきた子たちだ。

けれど人はわかったものの、どうして謝られているのかまではわからず。
えっとだのあのだのわたわたしている三人を見守る。

現段階じゃこっちは何も言えないので、黙っていること数分。
意を決したように、ピンクの髪の子が声を張り上げた。

「あの、わ、わたしたちっ、誤解してました!!」
「誤解、ですか?」

カリナが努めて優しく聞くと、左の黒髪の子から口を開いてく。

「し、四月の頃に……四人でつき合ってるって聞いたんだけど」
「あぁ、あれ…?」

クリスさん今気づいたかぁ。

「否定はしてたけど、あまりにも仲良いからちょっと信じられなくて」
「た、たぶんこの噂の発端わたしたちだと思うんですけどっ」

茶髪の子、ピンクの子と順に説明していき、また「ごめんなさい」と頭を下げる。

正直こっちは迷惑も被ったのではいそうですかと簡単にいけるわけではないけれど。

「その、体育祭を見て、ほんとに誤解だったって気づいて……」
「炎上君たちにほんとに申し訳ないことしちゃって」

再び上げた顔は、それはそれはもう、演技とは言えないくらい本当に申し訳なさそうで。

「どうするの龍」
「なぜ俺に聞く」
「一番迷惑被ったのお前じゃん」
「それはそうだが」

ため息を吐きながら一度女の子たちを見て。
なんだかんだ優しいリアスは、たぶん「別に気にしていない、おかげで平穏だし」みたいなことを言うんだろう。

「別に──」

予想通りの言葉を、

「三人が氷河さんに惚れてるなんて思わなくてっ!!!」
「すとーーーーーっぷ」

言い掛けた瞬間にまさかの予想外の言葉が女子たちから飛び出してきて思わず声を出してしまった。

「ごめん、なんて!?」
「えっ、炎上君と、愛原さんと波風君が、三人とも氷河さんに惚れてるって」
「あながち間違いじゃありませんわ」
「華凜さん今ちょっと黙ろうか」

今だけはお前が言葉を発するとややこしくなる。確かにあながち間違いじゃないんだけども。

カリナの代わりに前に出て、とんでもない誤解をしてらっしゃる女子たちに向き直る。

「え、ごめんなんでそうなっちゃったの?」

自分でもわかるくらい信じられないって顔をしながら聞くと、たぶんこのグループの中心なんだろう、ピンクの女の子が応じてくれる。

「体育祭で、氷河さんがミッション遂行走のときにすごいかっこよくて……」
「あれはかっこよかったな」
「龍も黙って」

かっこいいのは認めるけど今はそうじゃない。

「あれは絶対惚れるよねって話になったの」

後ろの子たちも頷き。

『たしかにあの氷河さんかっこよかったよねー』
「惚れるよ、惚れたもん」

あろうことか周りの男女問わない生徒たちも頷いた。誰だ惚れたって言ったやつ。

「あのあとの、モニターに映ってた炎上君もすっごい嬉しそうだったし」
「ごきげんだったー…」
「すごいデレデレしてましたものね」
「うるさい」

なんでうちの幼なじみは黙れないんだろうか。
もう一回開きかけた口は、ピンク髪の女の子の「それでね」という声でやめた。

「この三ヶ月間、ときおり授業一緒になったりした時のことも思い返して、改めて違うんじゃないかなって気づいたの! 愛原さんって結構氷河さんにがーっと行くし、波風君も洋服とか氷河さんのために作ってるって聞いたことあるし! これはもう三人が氷河さんに惚れてるんだって!!」

違うって気づいたまではよかったのに。
けれど導き出された結果がどうあれ観察まではすげぇ鋭いから否定も出来ない。
頭をひねっている間にも、女の子たちの推測は止まらない。

「炎上君は氷河さんが恋人って言ってたし、氷河さんも大胆告白してたし!」
「たぶんその三人の中で優勢なのは炎上君なんだなっていう段階なの!」
「次点で波風君かなって!」
「ちょっと私が上がらないのが聞き捨てなりませんわ」
「華凜さんまじで黙ってて」

乗るな。

『たしかにわかるかも』
「波風君女子力も高いもんね」

周りも乗らないでまじで。
痛くなり始めている頭を押さえて、とりあえず。

「あの、確かに俺は刹那の男前というか勇敢なところには惚れてるんですけれども」
「照れるー…」
「刹那さん」
「はぁい…」

ものわかりのいいクリスティアが黙ったところで。

「俺は刹那を妹みたいに思ってるんで恋愛感情はないっていうか」
「こんなに可愛いのにか」
「目大丈夫です?」
「お前ら今日どうしちゃったの??」

なんで今日に限ってそんなに場をかき乱してくんの?
ひとまずお説教はあとということで咳払いをして。

「なので俺は別に恋愛的に惚れているわけではありません」

言い切ったー。
やっと言い切った。

息を吐いて、目の前の女子を見る。
三人の女の子たちは、一度きょとんとしたあと、俺に近づいた。

そうして、ピンクの子が何故か俺の手を取り。

「大丈夫だよ波風君」
「なに──」
「確かに炎上君はイケメンだから気が引けちゃうかもしれないけれど、波風君にだってチャンスはあるよっ! クラス一緒だし!」
「ねぇ俺の話聞いてた!?」

何これ妄想こわい。
その恐怖に拍車をかけるように、チャイムが鳴ったあとその女の子たちを筆頭に他の生徒たちも「がんばれ」と言って去っていく。

え、誤解されたままなんだけど。

え?

ひとまず生徒がいなくなったところで、後ろを振り返る。
三人の幼なじみは俺と違って平然とした顔。

「これは良いの?」
「良いんじゃないですか?」
「刹那が悪く言われるでもないし、四人で付き合っているという誤解も解けた」
「平和になったねー…」

そう言って、三人はのほほんと歩き出す。

その背を見送りつつ、あぁ確かに言うとおり、誤解も解けたしいい方向に行くかもしれないと納得し掛けたところで、

正常な思考を取り戻す。

「いや仮にこの三年間で俺と華凜に好きな人ができたらまた面倒じゃね?」

けれど。

「作るんです? 好きな人」

振り向いたカリナにそう聞かれ、さらに正常な思考を取り戻し。

首を振った。

「俺別にこの人生で作る気はないから焦る必要なかったわ」
「でしょう」

じゃあこのままでいいねと、なんとなくフラグを立てたような気がしなくもないけれど、気のせいだと納得して。

本鈴が鳴る前に、一組へと向かった。

『話を聞いた道化と祈童には大爆笑されました』/レグナ