また逢う日までライト版 First grade July

2019-12-26

みおりたちとプールで遊んだ週の、金曜日。

自習期間は、自分の勉強になるならなにしてても、どこの教室にいてもいいって言われたから。

「これー…」
「ん」
「私はこれで」
「龍これも」
「お前達は自分でやれ」

今日は、四人でエシュトの図書館に来た。

演習場みたいに豪華で、二階まであるおっきな図書館。
子供向けの本から難しい本までいっぱいあるんだって。

本はいつの時代も勉強になるよねってことで、自習期間中はここで時間をつぶすことに決定して、今は二階にある小説コーナーで本を選び中。見回すだけでも、読んだことない本がいっぱいですごい迷う。

「あとは」
「んー…」

歩きながらリアス様に聞かれて、上も見てみる。
そしたらすかさずぼそっと声が。

「上は見えないだろう」
「見えるもん」

隣のリアス様をベシッて叩いて、じっと上にある本を見る。
じゃっかん恋人様がもだえてるように見えるけど気にしない。

そんなことより、本。

「…」

じーっと目を、こらしてみる。
大丈夫、見えてるよ。ちょっとほら、一番上の方になるとね、ちょっとだけね、見えづらいなってだけで。

決して身長が低いから見えないんじゃなくて、視力の問題。
なんでこんな本棚高くしたのって思うのも、視力で見えないから。絶対そう。

「龍に抱き上げてもらえばいいじゃん」
「子供みたいじゃん…」
「実際子供だろう?」
「見た目だけ。心はちゃんと大人…」
「大人はミルクココアに追い砂糖なんて入れない」
「甘党な大人もいるもん」
「はいはい喧嘩もいいですが本を決めましょう刹那。読む時間がなくなりますわ」

ヒートアップしそうなところで、カリナに言われて。ほっぺを膨らましながら、意識を上に向ける。

じっと見つめること、数秒。
文字がはっきり見えるとこの棚に、気になるもの発見。

「ありました?」
「”ごんざぶろうの巡るりんね…”」
「大人とか言う割に選んだのは子供向けの本じゃないか」

内容大人向けっぽいじゃん。難しそうじゃん。
児童書って書いてるから反論しないけどっ。

「いいから取って…」
「可愛い奴め」
「うるさい…」

楽しそうなリアス様の腕を今度は軽めにぺしって叩いて、席を探しに歩き出したカリナのあとを追う。
後ろから「龍痛そうだけど大丈夫?」って聞こえるけど知らない。軽く叩いたもん。

「せっかくなら窓際にでも行きましょうか」
「ん…」

むっとしたままうなずいて、階段を通り過ぎて窓際に向かう。

と。

「…あ」
「あら」

二階の窓際、端の方。
そこに、もう見慣れたオレンジメッシュの髪の後ろ姿と、向かいに座ってる深い蒼の瞳の人がいた。

「あんな人目に付かない場所でどんなお勉強を」

カリナ今はそれ心にしまって。あとで聞くから。

「陽真先輩たちじゃん」

レグナいきなり後ろから声かけないであげて。カリナが聞かれたかと思って一瞬顔「ひぇっ」ってなったよ。
カリナの背中をさすってあげながら、本を持ってやってきたリアス様たちを見上げる。リアス様ははるまたちを見つけると、すぐにこっちを見た。

「反対側に行くか」
「一緒に読まないの…?」
「向こうも勉強中だろう。なんだかんだ気遣い屋な一面もあるし、いたら集中できないんじゃないか」

そっか、って納得して。歩き出そうとしたリアス様から、なんとなく向こうの二人に目を向けたとき。

「…!」

ふって、ぶれんが目を上げた。
合ったときに「あっ」て顔したから、たぶんたまたま。

「残念ながら龍、気づかれましたよ」
「手を振るだけに一票」
「いや武煉先輩たちならこっちに来るもしくは呼ぶに一票」

なんてリアス様とレグナの賭けを聞きながら、次の行動を四人で見つめると。

ぶれんは笑って、目の前にいたはるまを持ってたペンでつつく。
わぁ恋人みたいって口から出かけたのを飲み込んだら、顔を上げたはるまはぶれんのペンが指す方向、こっちを振り返った。

「おー」

気づいたはるまも、ぶれんみたいに笑って、手を振る。
あ、リアス様が勝ちかな。

って思った直後。

「ちょーどよかったわ。コッチ来いよ」

まさかの賭けは両方でした。

「残念ですわ、蓮が勝ったらそれに乗じて龍になにかおごってもらおうと思いましたのに」
「残念…龍にアイス買ってもらおうと思ったのに…」
「何故俺だけ罰ゲームの対象なんだろうな」

こつってわたしの頭だけ叩いて、リアス様からはるまたちの元に歩いてく。え、なんで叩くのわたしだけ。理不尽。
お返しにって手を振り上げたけれど。

「後ろから叩いたら帰りのアイスはなしだからな」

言われた言葉にそっと手をおろす。後ろに目でも着いてるのこの人。

代わりにほっぺを膨らませたところで、はるまたちのテーブルに着いた。

「よく逢いますね後輩さんたち」
「本当にな」

上級生二人がイスを引いてくれたから、ぶれんの隣にはレグナとカリナ、わたしがはるまの隣に座って、その隣にリアス様が座る。

「で? ちょうどよかったとは?」
「ソーソー、夏休みの件で」
「夏休み…?」

遊ぶの? 左に座ってるはるまを見上げて聞くと、いつも笑ってくれるその人は、珍しくきょとんって顔をした。

「聞いてねぇの?」
「何を」
「おや、こちらの双子さんに伝言を頼んだはずなんですが、アミューズメントパークのこと」

ぶれんが言った瞬間、目の前の双子がそろってハッてなった気がした。

「……聞いていないが?」

わぁリアス様、氷魔術ですかってくらい空気冷たい。
けれどさすがカリナ、動じずに口を開く。

「えぇ、先に言うと詳細を聞くこともしてくれなさそうなので」
「話くらいは聞く」
「…遠足なんてどうせプリント読みもしなかったくせに…」

今ギクッてなったの見えたから。
とりあえず、話聞くって言質は取ったので。はるまとぶれんの方に向く。大丈夫?って顔してる二人に構わず。

「龍、お話聞いてくれるって…」
「刹那」
「ゆった、聞くって」
「そうだな、確かに言った。ただ正確には聞かざるを得ないんだ」
「聞かざるをえなくても、」

リアス様に振り返って。

「華凜と蓮とか、はるまたちのは聞く…」

刹那のは聞かないくせに。
小さい声で言った言葉に、リアス様が段々引き笑いになってるけど気にしない。だってほんとのことだもん。
考えてたらむかむかしてきて、またはるまたちの方に向き直った。
後ろからごきげん取るみたいにお腹に回ってきた手をぺしんと叩く。構わずに引き寄せられて、仕方なくリアス様にもたれかかった。

「……話進めてもダイジョーブ?」
「どうぞ」

ふくらませたわたしのほっぺの空気を抜きながらリアス様が了承して。

「んじゃ、イチャついてるとこワリィケド、コレ」
「?」

はるまが、ぱさって数枚の紙を差し出してきた。

「双子さんたちの分もありますよ」
「あら」
「これ……あのアミューズメントパークの写真じゃん」

レグナの声に、リアス様にも見えるように紙を広げると、薄い水色の建物が映ってた。

「共、友…(きょう、とも)?」
「共友(きょうゆう)アミューズメント、な。エシュトみてぇな仲良くなりましょって理念のアミューズメントパーク。そういうのが結構できてんのくらいは知ってんだろ」
「まぁ、少しくらいはな」
「今回の体育祭での商品はそこの招待券だったようなんですが、無駄になりそうだと華凜が嘆いていてね」

ねぇカリナの方から「嘆いてませんが」って圧感じる。おさえて。

「普段どうせ過保護な龍クンは行くことねぇだろうし?」
「あんたら本当によくわかってるな」

だからリアス様はもうちょっと申し訳なさそうにして。

「ま、気持ちもわかっケドせっかくあるなら行ってみようぜっつー話。そんで、ちょっと調べてたってワケ」
「つい先ほど終わったんですよ」
「そこで俺たちが来たからちょうどよかった?」
「そーゆーコト」

なんだ、二人で秘密のお勉強じゃなかったんだって残念に思ったのはわたしだけじゃないよね。

「ま、さっき刹那ちゃんが言ってたのを聞くと、ただ渡すだけじゃ読まねぇワケだ龍クンは」
「……」
「情報収集力の勉強みたいな感覚で聞いていかないかい?」

にっこり言ってるけど、二人とも雰囲気は逃がさないって感じがする。
ぽろっと言ったのがこんなんになっちゃって大丈夫かなって、そっと上を向いた。

「……」

まっすぐ向いてるかなって思った目は、わたしを見てた。首を傾げると、ちょっとだけじっと見られて。

ためいきを吐いてから、前を見た。

「どうせ逃げられないだろうしな」
「あら、今日は素直ですわね」
「お前の努力の賜物じゃないか」
「まぁ、嬉しい限りですわ」
「ってことは行くことも決定だね龍」

レグナの言葉に、もっかいためいきを吐いて。

それで、とうながすリアス様に。わたしの頭の中は、どうしたんだろうって疑問でいっぱいだった。

そのあと。

カリナたちの方を向くようにリアス様の膝に座り直して、恋人様の様子も見ながら話を聞いてってわたしがわかったこと。

そのアミューズメントパークはおっきくて、人がいっぱいで。
今回配られたのは、一日遊び放題券で、たくさん遊べて。

そして、

「……よくもまぁここまで用意周到にしたものだな……」
「勉強になんだろ?」
「えぇ本当に……」
「これほんとに正規のルート??」
「当然ですよ」

はるまたちが作った資料が、拒否権なんて与えないくらい詳細だってこと。

行くことに対するいつもの引いた顔じゃなくて。幼なじみたちは、はるまたちが出してきた紙の情報量に本気で引いた顔をしていました。
紙に目を落とすと、詳しいことはちょっとよくわかんないけど、間取りっぽいのとかがあるのはわかる。
さっき見たページには置いてある道具とか書いてあって一個一個二人が説明してくれた。

「こーゆーのは蜜乃ちゃんが教えてくれんぜ」
「江馬が裏ルート使っているんじゃないのか……」
「ちょっと我が担任ながらいろいろと不審な点が多いですわね……」
「彼女は元から情報に関する業務担当だからね。自ずと知ることも多いんですよ」

それにしても知りすぎではって雰囲気が。
そんな幼なじみたちには構わずに、はるまが話を戻す。

「で、一通り遊具と間取りの説明が終わって、危険な物が置いてないってコトはオッケーだろ?」
「ボールプールに的あて、ビリヤードとか本コーナー……確かに危険な物はない、よね?」
「……そうだな」

レグナの問いかけに、リアス様を見るとから笑いでうなずいた。

「まぁ危険な物がなくても、問題は次ですよね。君は人混みが苦手だろう?」
「……あぁ」
「なんとあの招待チケット、ワンフロア貸切予約も受け付けてくれるようだよ」

すごい、リアス様の顔が「うれしくねー」って物語ってる。

「五階建てのコノ共友パーク、四、五の階は基本的には貸切の予約専用なんだよ。人がごった返してるとか、その日予約がねーだとかのトキは解放するらしいんだが、事前予約優先」
「……それで?」

引き気味に、リアス様が聞くと。はるまはにっこり笑った。

「今からだと八月になっケド、予約すりゃあ、貸し切りで一切人も入らず、一日自由に楽しめるってこった」
「……貸し切りで」

なんかこの流れ見たことある。

大丈夫かなって、リアス様をじっと見た。
紅い目は、紙に落ちたまま。でも、

「龍…」
「……」

探ってみても、今回はそんなに悩んでる風に見えなかった。

もしかして──。

「前回、行くならなんでもしてあげるってゆったから、味しめた…?」
「せっかく人がすんなり許可しようと思ったのにそれか」

あっしまった今言うべきじゃなかった。

「ちがう、うそ」
「俺に嘘を吐くんだな」
「心の声がぽろっとでた」
「人はそれを本心と言うんだ」

ちくしょう。たしかに本心だけど。

ちょっとみんな肩ふるえてるのわかってるからね。とがめたいけどまずはこっち。

「前言撤回、龍…」
「……」
「なんでもするから…」
「……お前そういうことを簡単に言うなよまじで」
「…?」

首を傾げてみるけれど、リアス様から答えは聞けない。
代わりに、その口から出たのはため息と。

「……一応言うが、お前のそれに味をしめたわけじゃないからな」
「…!」

約束が苦手なあなたの、せいいっぱい。

「ほんと? 行く?」
「アルバムも埋まっていない」

明確な言葉はないけれど、否定じゃないのはたしかで。

「♪」

うれしくて、リアス様にぎゅっと抱きついた。
ひゅうって口笛を吹いたのは、いつものレグナの感じじゃないからきっとはるま。

「よかったですわね刹那」
「夏は思い出いっぱいだね」
「うん…!」

背中をゆるく叩かれながら、リアス様の首にすり寄る。
ありがとう、大好きだよ。そんな思いを込めて、うりうり頭をこすりつけた。

「んじゃ決まりっつーコトで、連絡用にメサージュ交換してぇんだけど?」
「私たち全員です?」
「一応ね。緊急でというときに一括で連絡できた方が楽でしょう」

はるま側に顔を向けると、スマホを取り出してる。
わたしには関係ないので、またリアス様の首側に顔を戻した。

「刹那ちゃーん、ケータイ」
「こいつのはいい」

とくとくって心音と、すごく近くで聞こえるリアス様の声が心地いい。

「おや、連絡は龍がしてくれるのかい」
「いやー、連絡するしない以前に」
「この男は過保護で私たちにも刹那の連絡先教えてくれないんですよ」
「嘘だろどんだけだよ」

大好きな人の声とは逆に、少しだけ遠いみんなの声も、聞きながら。
わたしは一人だけ、目を閉じる。

「…♪」

それに気づいたらしいリアス様が、髪をなでてくれる。
全部が心地よくて、まぶたの裏に思い浮かべるのは、まだちょっとだけ先のこと。

「たのしみ…」

夏休み。
たくさんたくさん、楽しい思い出を作ろうと決めて。

「……そうか」

わたしにだけ聞こえたその声に、うなずいた。

『ひとつでも多く、あなたたちとの思い出を』/クリスティア