また逢う日までライト版 First grade July

七月も半ばに差し掛かり、笑守人学園に来て初めてのテストがやって来た。

会場まで車の移動もできてなおかつパーティー服のレパートリーも多くあるということで、当日は朝からカリナの家に世話になることが決まり。
会場への集合は十一時だが着替えもするからとテストとなった本日、九時頃に家を出てカリナの家へクリスティアと共にテレポートをした。

だだっぴろい庭をクリスティアと二人で歩いていると、何かがやってくる気配を背後から察知。
振り向いて見えたのは一台の黒い愛原家の車。
今日のチームメンバーである道化や閃吏も俺達と同じ理由でカリナの家に世話になることになっていたので、彼らを連れて来たのだろうと立ち止まる。
それを見た運転手が俺達の目の前で車を止め。

後部座席から出てきたのは。

「えっと、おはよう」

予想通りの閃吏と。

「おはよう二人とも!!」
「待てお前は荷物検査だ道化」

手ぶらと言われたのに予想以上の大荷物を持った道化だった。

ひとまず、準備もあるからとメイドに案内されてカリナの部屋へと向かった。
ドアを開けて部屋にいたのは家主の義娘であるカリナと、服の調整などをしていたであろうレグナ。

おはようと交わした直後、後に続く道化の荷物に目を見開き。

現在準備の前に道化の荷物検査が始まっている。

「カメラにフィルム……お前は何しに行くんだ……」
「テストよ」
「カメラの??」

見ろレグナの顔、本当に意味がわからないという顔しているぞ。
そんなレグナは意に介さず、道化はきらきらとした顔でカメラを手に取る。

「カメラの準備忘れずにって言ったのは華凜ちゃんよ」
「そうですね、言いましたわ」

カリナが道化の隣へとやってきて、同じようにカメラを手に取り。

「でもだめですよ道化さん。パーティーで下手に大型のカメラは」

優しい笑顔を、道化へと向ける。

「ばれないようにするなら服につけられる小型のカメラにしないと」
「盗撮する気満々じゃないか」

お前更衣室のクリスティア盗撮も絶対それでやっただろう。
その意を含めて睨むも、カリナはにっこりと笑うだけ。

「さて冗談はさておきですね」
「ねぇ華凜ほんとに冗談?」
「サイズの最終調整も含め、各々着替えに入りましょうか」

スルーした時点で冗談ではないと確信し、溜息を一つ零す。

「道化さん、時間が余ったら盛大に撮影会をしましょう」
「わかったわ!」
「おい許可はしていない」
「あら、せっかくのかわいらしい刹那、写真に収めなくても良いんです?」
「……」

今なら画質最高ですよと言われてしまったら。

「……浮かれすぎて遅れるなよ」

承諾するしかないわけで。

「え、炎上君は意外と押しに弱いね……」
「かわいい恋人を使われちゃあね」
「勝手に話進めてるけどまず本人の許可とって…」
「お前は俺が聞けば承諾するだろう」

そうだけど、とむくれるクリスティアの頭を撫でて、本来の目的へ。

「で? 服は」
「あなた方二人のはこちらに」

そう言って渡されたのは、畳まれた白の、恐らくワンピースと。

「……」

俺のであろう、黒のワイシャツと、白いスーツ。

「俺の色は本当にこれでいいのか」
「えぇ、真っ黒だとあなたやくざのようになるので。白でもたいして変わりませんが」
「覚えてろよお前」
「残念ですが次逢ったときには忘れております。はい鍵」

目の前の女に思い切り舌打ちをして、同時に渡された鍵をひったくるように受け取り。

「刹那」
「はぁい」

クリスティアに声を掛け、部屋を出るためドアへと向かう。
至極当然に、ドアノブへと手を掛けたとき。

「えっと、二人は一緒に着替えるの?」

閃吏に問われたので振り返った。
視界に入ったのは、いつも通りの双子ときょとんとした道化、閃吏。
問いに、否定をすることもないので。

「そうだな、昔からそうしている」
「え、わ、わー、そっか」

頷くと、閃吏の頬がほんの少し赤らんだ気がした。

あぁ、当たり前のようにしていたが一般的にはこの反応が正常か。

「ちょっとけしからないわ!!」

ただお前の反応は予想外だ。
一瞬止まっていた道化は、ものすごく焦ったようにこちらへとやってくる。

「何だけしからないって……」
「一緒に着替えるなんてけしからないわよ!」
「俺達はそれが当たり前で育ってきたんだが」

とは言ってみるも、道化は止まらない。

「幼い頃はそれでよかったかもしれないわ! けれど高校生よ!?」
「そうだな」
「男女が同じ部屋で服を脱ぐのよ!?」
「着替えるしな」
「みだらじゃない!!」
「お前の頭の中が淫らなんじゃないのか」

おい親友とその妹、腹抱えて笑ってんじゃねぇよ助けろ。
けれど使い物にはならなさそうなので、諦めて道化を呆れたように見る。

「ただ着替えるだけだろう……」
「男女が同じ部屋なんてこのご時世けしからないわ! 責任もってあたしと華凜ちゃんが着替えさせてあげる!」
「今のお前の方がけしからない気がするからお断り願おうか」

というか目的は着替えさせることじゃないか。
溜息を吐いたところで、やっと周囲からの助けが入った。

「ふ、ふふっ、ほら道化さん、お気持ちはわかりますが時間も限られてますわ」
「うぅ、でも……!」
「そうだよ美織ちゃん、それに氷河さんたちがいいなら俺たちが口出しちゃだめだよ」
「そうだけど……」

別れを惜しむように、道化は俺の腕にしっかり抱きつくクリスティアを見る。
最後の足掻きなんだろう、彼女はクリスティアへと手を伸ばした。

「ね、ねぇ刹那ちゃん? せっかくなら女の子同士で着替えない?」
「…?」
「みんなで仲良く着替えましょ?」

「…」

クリスティアは蒼い瞳で探るように、じっと道化を見る。
恐らく道化にとっては永遠に感じられるような時間だろう。

俺達からするとたったの数秒。
道化の目を見たクリスティアは、決めたらしい。

「ね?」

優しげに微笑んでいる彼女に、

「…やっ」

水色の少女はぷいっと思い切り首を背け。

振られることとなった目の前の女は、膝から崩れ落ちた。

「終わりました?」
「あぁ」
「えっと、お邪魔します」
「服大丈夫?」

クリスティアと別部屋で準備をし、ネクタイを緩く締めつつ、入ってくる奴らに頷いた。

「服は大丈夫だ。あとは髪の毛と化粧」
「コテやポーチなら持ってきましたわ」

そういうところは流石なのにと口には出さず、礼だけ言っておく。

「お化粧しましょうね刹那」
「はぁい」
「たぶんさっきコテ使ったからもう使えるよ」
「そうか」

レグナがベッドサイドのコンセントに繋いでくれたコテを受け取り、自分で俺に背を向けるよう座り直したクリスティアの髪を掬う。
今日はせっかくだし巻くか。

「い、至れり尽くせりだね氷河さん……」
「いつもこう…自分でできるのに…」
「刹那今は喋っちゃだめですよ」
「んー…」

声だけで不満そうなのがわかる恋人に笑いをこぼしながら、きれいな水色の髪を巻いていく。

「龍、カーネーションとバラ」
「カーネーション」

その間に髪飾りの準備をしてくれているレグナにはそれだけ答え、残りの毛束も巻いていった。

「はい、こちらは完成ですわ」
「ありがとー…」
「んじゃ刹那、あとこれね」

カリナと入れ替わるようにレグナがクリスティアの前に立つ。
彼女の左耳辺りに俺が答えた紅いカーネーションの髪飾りをつけるのと、髪を巻き終えたのは同時だった。

予想できる次の行動に、すかさずアイロンを引っ込めれば。

ぱっと、やはり彼女はこちらを向いた。
背に回したアイロンはさりげなく抜かれていく。恐らくカリナだろう。

「かわい?」
「あぁ」

好きな色の髪飾りもつけて上機嫌な彼女の頭を撫でながら微笑むと、その口角は嬉しそうに上がり。
いつものように首に手を回して抱きついてくる。

「おい今日は服が皺になる」
「んー」

頷きつつも離れようとしないクリスティアの背を窘めるよう緩く叩くが、やはり離れようとはしなかった。

「えっと、上機嫌だね氷河さん」
「天使がいるわ……」
「おい道化写真撮っているのばれているからな」
「安心して、隠す気もないわ」
「さいで……」

堂々とした道化に苦笑いをこぼしたところで、

「龍、あなた髪の毛どうするんです?」

後ろから髪をいじられながら聞かれた問いに、目線は変えず首を緩く横に振る。

「別に何もしなくても良いだろう、あくまで護衛だ。しっかりしなくてもいいんじゃないか」
「しっかりするしないではなく、せっかく顔も服装も良いんですからそのだらしなく伸びた髪をどうにかしなさいと言ってるんですよ」
「お前突然辛辣だな」

クリスティアの化粧をしていたときのでれでれした雰囲気はどこにやった。

「別にだらしなくはないだろう……」
「服装に合ってないと言っているんです」
「最初からそう言え」
「ほらこっち向きなさいな」
「聞け」
「刹那おいでー、服見せて」
「はぁい」

俺の言葉なんて聞かず、レグナに呼ばれたクリスティアが去ったのと入れ替わるようにカリナが俺の前に立つ。その手にはどっからか持ってきたワックス。

「おいワックス使う気か」
「じゃないと落ちてくるでしょう?」
「洗うのが面倒だ。やめろ。髪もいじらなくて良い」
「私のプライド的にそのだらしない髪をどうにかしたいんですよ」
「だったらまずはこの無駄に成長した胸をどうにかしろ」
「ちょっと無駄にとか言わないでもらえます? 標準です」
「サイズはどうでもいいがお前が屈むと目と顔のやり場に困るんだ気付け」

近づかれるとぶつかるわ。

「……案外炎上君て男の子らしい会話するんだね?」
「そりゃ男だもん」
「そういう話しなさそうだったわ」
「結構あいつからふっかけてくるよ」
「意外ね」
「おい蓮余計なことを言うな!」
「ちょっと動かないでください龍、ピン留め刺さりますよ」
「だから髪の毛はいいと──」

レグナを咎めるために一度ずらした視線を今度はピン留めかと元に戻せば。

目先にピン。

こいつは俺を殺す気か。

「危ねぇよ!!」

勢いよくのけぞり、刺さることだけはなんとか回避。
若干腰に痛みがある気がするが今はそんなことなど気にしていられない。いつもは見下ろす女を怒りも隠さず睨みあげた。

「お前は目に刺す気か!」
「あなたが動くからでしょうに」
「あのまま止まっていた方が安全だったと思うのは俺だけか!?」

振り向いた方が危険だと誰が思うか。
しかしカリナは何食わぬ顔で前を向けと言う。この女本当に覚えてろよ。

「お嬢様方」

盛大に舌打ちをした直後、ノックの音と共に声が聞こえた。目を向けた先には開いている扉からメイドが顔を出している。

「そろそろお時間でございます」
「あら、わかりましたわ。向かいます」
「かしこまりました」

一礼して去って行ったメイドを見届けて、時計を見ると十時半。この女から逃れられるチャンスと立ち上がろうとしたが、

「では龍の髪を整え次第行きましょうか」

肩を押され、再びベッドへと腰を下ろさせられた。

「諦めてくれないか」
「刹那がどうしてもかっこいい龍を見たいそうですよ」
「みたーい…」
「おいめちゃくちゃ棒読みなんだが」

言わされている感が半端ねぇよ。

「ほら、あなたのせいで遅れるかもしれないんですよ」
「刹那ちゃんの撮影もできなかったわよ」
「道化は置いておいて、遅れるのはお前が引き下がらないせいではないんだな?」
「撮影は帰ってからするとして、きちんとした場できちんとさせようとしている私に今回は非はないはずです」

地味に正論だからものすごくムカつく。というか何さりげなく夕方撮影会しようとしてるんだこの女。
けれどどうせ何を言っても言いくるめられるんだろうとわかっているので、大人しく後ろに手を着いた。

「……とりあえずワックスはやめてくれ」
「ではヘアピンで行きましょうね。動かないでくださいよ、刺しますから」
「ピン留めは普通刺さらないんだがな?」

どんな勢いでやる気だこの女は。

「閃吏たち、夕方また帰ってくるから不要なもの置いてっていいよ」
「あら、じゃあお言葉に甘えようかしら」
「えっと、貴重品だけ持てば大丈夫かな?」
「うん、あとは置いてっちゃいな」

俺とカリナ以外の四人が準備を始めたのを見ながら、カリナにされるがままに髪をいじらせる。おい引っ張るな痛い。こいつ俺だからって絶対容赦していないだろう。

「龍ー、刹那スマホ持たせる?」
「緊急用に一応持たせておけ」
「はいよ。龍のは俺が持ってるから」
「あぁ」
「華凜はバッグの方にね」
「ありがとうございます」

レグナに返しつつ、

「……っ」

痛みに耐えながらじっとしていること数分。

「ほら、終わりましたよ」
「……ああ」

ようやっと、カリナの手が離れていった。
無意識に張りつめていた肩の力を抜く。久しぶりに髪の毛をいじるからものすごく違和感があるが、半日だけの辛抱だと言い聞かせて立ち上がった。

服を今一度正し、

「では行きましょうか」
「うん。今日のテスト、頑張ろうね」
「よろしくお願いするわ、最強四人組さん」

微笑んでそう言う二人に、こちらこそと返して。
六人で、愛原邸を後にした。

その後のテストはイラつく一悶着がありつつも、パーティー自体は無事に終え。

俺達の夏休みが始まった。

『むしろ準備の方が大変だった気がする。』/リアス