また逢う日までライト版 First grade July

2019-12-26

「わたしかよわい女の子っていつも言ってるのにっ…」

器用にジュースはこぼさぬまま、バタンッと大きな音を立てドアを閉め。愛する親友はむくれた顔でこちらへとやってきました。原因は、いわずもがなさっきの会話。彼女が飛び出してから聞こえたスパァンという良い音は、リアスをひっぱたいたと容易に想像できました。
いつもなら「そうですよねリアスったらわかっていませんよね」と言うけれど。

初期時代、石を投げて見事に木を抉った彼女に今回ばかりは同意することができず。
曖昧に頷いて。

「それで? どうしましょうか」

ひとまず本題へと話題を逸らす。
未だにむくれてはいるけれど、「泣かせたいんでしょう?」と聞けば、当初の目的を思い出した彼女はこくりと首を縦に振り。
持ってきたジュースをベッド近くのテーブルへと置き、ベッドヘッドに座っている私の足下に腰を下ろしました。

「さて、どうしましょうね」
「リアス様ってあんま泣かないよね…」
「そうですねぇ」

ベッドに後ろ手をつき、今度はしっかり頷く。
大昔はむかつくくらい涙が出やすいタイプでしたけど今はそんな面影もなく。加えてクリスティアの前ではかっこいい彼氏でいたいというプライドで彼女の前ではほとんど涙は見せなくなった。それを泣かせるというのは中々至難の業ですよね。

「ちなみにどんな感じで泣かせたいんですか?」

かわいい、とアバウトには聞いていましたが、もう少し情報が欲しい。ちょっと涙が出る感じ、とか大泣きさせたい、とか。
聞けば、クリスはちょっと悩んで。

「もうごめんなさい許してくださいって縋るほど泣かせたい…」
「ちょっとシンキングタイムを要請します」

さすがにその方向で来るとは思わなかった。しかもハードルがどんどん上がっていらっしゃる。手を挙げて申請すると、クリスはどうぞと言ってくれます。とりあえず想像してみましょうか。リアスが泣いてごめんなさい許してくださいと縋る姿。ベッドかソファに寝転がっている彼を見下ろす感じですかね?

どうしよう吐き気しかしない。

「クリスティア」
「終わった…?」
「ちょっと私には難しい問題でしたわ」

あの男がまじめに泣いて縋る姿など見たくない。演技なら大笑いしますけれども。

「え、本当にあの男のそんな姿が見たいんですか……? というかさっきまでのかわいく泣かせたいからだいぶかけ離れていらっしゃいますが」
「かわいくない…?」
「どこが??」
「カリナとかわいいの解釈が違って悲しい…」
「申し訳ありませんがこれだけはどうしても理解できませんわ……」
「えぇ…」

私だって「えぇ」って言いたいですよ。

「でも、普段全く想像できない感じのって見てみたくない…?」
「そこの気持ちはわからなくもないんですけれどね」

せめて大泣きするところからという発想が欲しかった。彼がわんわん泣く姿もちょっと見たくないですが。

「でもさカリナ…」
「はぁい?」

彼の泣く姿を想像して若干引いてるところで、クリスがスカートの裾を引っ張る。
目を向けると、きらきらとした目で。

「蓮龍とかなら、ありじゃない…?」

もうそうやってすぐ腐った話に持ってく。

「ありですけれども。今日はあなたがリアスを泣かせるための案を考えるんでしょう?」
「そうだね…」
「腐の話はやめましょうよ、聞かれたら大変ですよ」
「でもそれなら想像しやすくない…?」

そう言われたら想像しちゃうじゃないですかやめてくださいよ。

「レグナが普段の仕返しでリアス様を泣かせる…」
「おいしいけれども!」

今日は違うんです! 止まれ私の腐の思考。咳払いをして。

「真剣に考えましょうクリスティア。腐の話はまた後日、彼らに聞かれる危険性がない状態でしましょう」
「えー…」
「あなたが泣かせたいんでしょうよ」
「もうわたしじゃなくてもいい…。傍観者で見てたい…」

なにそれ最高。じゃなくて。

「で? リアスをどうやって泣かせるかですよね!」

ぱん、っと手を叩いて切り替える。さぁあの男が泣くこと。クリスがちょっと不服そうな顔していますが気にせずいきましょう。

「一旦大泣きとかからは離れて、まずは涙を流すことから考えていきましょう」
「とりあえずリアス様って涙出るよね…?」
「彼も一応生物ですからその機能はありますわご心配なく」

うん、たぶん。
恋人の前で引き締めてるだけですよね。

とりあえず涙が出るということで一般的なものからいきましょうか。

「あれはどうですか?」
「なに…? レグナ使う…?」
「クリス一旦腐の思考から離れて」

戻らせないで。

「ほら、感動物の映画とか」
「わたしたちが先に泣いちゃうじゃん…」

そうですね高確率で我々が鼻すすってますよね。

「内容をあらかじめ知っておいて、涙腺を引き締めるとか」
「泣けるとこってわかってても泣いちゃわない…?」

あーーわかるーー。

これはだめですわ。

「我々の目がつぶれては元も子もありませんわね」
「ほかに…」
「他に……」

ひとまず人として泣きそうなもの。
映画に限らず感動ものは道ずれを食らうので却下として。

あとは……。

「くすぐり、とか」
「リアス様効かなくない…?」
「いやあの男に触ることがほぼほぼないので知りませんが」
「わき腹は、効かない…」
「足の裏とかはどうです?」
「体制によっちゃリアス様が別の性癖目覚めそうじゃない? 靴をおなめ的な感じの方で…」

うっわありえそう。好きそうですあの男。これも却下。

となると、

「リアスが新しい性癖目覚めない方向で、我々の目がつぶれないものですよね」
「そうだね…」
「ハードル高すぎませんか?」
「高いね…」

無駄にスペック高くしなければこんなに悩む羽目にはならなかったのに。まぁ恨み言はあとにしましょう。残っているものと言えば、

「鳩尾とか思い切り叩けば痛くて涙が出るんじゃないですか?」
「普段わたしバイオレンスだけどその発想はなかった…でも泣かなくない?」
「こう、何度も叩きつける感じで」
「さすがにちょっと…」

だめですか。じゃあ、

「目薬とか」
「それはちょっと違う…」
「ですよねぇ」

言っておいてなんですけど確かに泣くってわけじゃないですもんね。
泣くためにできそうなこと。
涙が出る行為……。

「瞬き禁止とか?」
「確かに涙は出てくるけども…。こう、自然な流れで泣かせに行きたい…」
「自然な流れ、ねぇ……」

普段の生活の中であの男が泣きそうなこと。涙を流せる状態にさせること……。
二人して腕を組み考える。

「……!」

そこでふと、思い浮かんだことがありました。

「クリス」
「はぁい…」
「もしかしたら妙案かもしれません」

かわいらしく首を傾げるクリスに笑って、話せるように彼女の隣へ降りる。

「なぁに…?」
「とりあえずですが、部屋を出たとき、なにか案が浮かんだかとどちらかが言うと思うんです」
「そだね…」
「そのときは、”残念ながらなにも浮かばなかった”と言いましょう」
「ん…」
「それでですね…」

クリスに耳打ちをする。自然な流れで彼を泣かせることが出来るのは今考えられる時点でこれだけ。しかもこれなら私が見ても吐き気なんて全然しないかわいらしい泣きを見れるはず。そう思いを込めて小さく言えば、彼女は期待に満ちた目でこちらを見た。

「いかがです?」
「カリナ最高…それで行こう…」

了承も受けられたことで、二人で楽しげに笑って。

さぁでは今からやりましょうかと立ち上がり、部屋を後にした。

作戦は、もちろん大成功でしたわ。

『人生で必要なのは、裏を掻くこと』/カリナ