また逢う日までライト版 First grade July

夏休みに入って、数日。今日はカップルの家でみんなで遊ぶ約束をしてたから、お昼過ぎたくらいのところでカリナと一緒にカップル宅に向かった。
散歩も兼ねて暑い外を歩き、インターホンを鳴らすこと数秒。

《はい》
「リアスー」
《あぁ、開ける》

この”開ける”は玄関ではなく家の結界と知っているので、また数秒待って、結界がなくなったのを確認してから歩き出す。
そのまま石畳に沿って玄関に向かえば。

「よぉ」
「やっほ」
「こんにちわ」

見計らったようなタイミングで、ちょうどリアス達が出てきた。

ほんの少し汗ばんだ額を拭きつつ家に上がらせてもらって、クリスティアの後についていくようにリビングへ。
少しひんやりしてる床に座って、リアスが予め用意してくれてたらしい麦茶を飲んで一息。

「ねぇ…」

さぁなにしよっかと言おうとしたところで、クリスティアが口を開いた。

珍しくて、全員が目を向ける。

「どしたのクリス」

眉間に皺を寄せた彼女は、一言。

「リアス様を泣かせるにはどうしたらいい…?」

えっ、今日はリアス泣かせることで確定の日なの。

「ごめんクリス、なんて?」
「リアス様を泣かせるにはどうしたらいいの…?」

あ、泣かせることで確定の日らしいわ。

事の経緯を聞きたくて、双子揃ってリアスを見る。

「泣かせたいらしい」
「我々が聞きたいのは事の経緯なんですが」
「その発想に至った理由は俺でも正直よくわからん」

あぁ、いつもの斜め上の発想か。
納得はしたけれど、とりあえずその発想が出たところまでの話を聞きたくて、今度はクリスティアへ目を向けた。

「クリスさんや、どうしてそうなったのかお聞きしても?」
「もちのろん…」

お任せあれと胸を張って、彼女から出た言葉は。

「リアス様に初めてを奪われた…」
「馬鹿やろう言い方を考えろ」

おっと思わぬ言葉にカリナが日本刀持ち出したぞ。

「被告人リアス、弁明はある?」
「ありまくるわ」
「リアス、いいわけならいくらでも聞きますわ、首を飛ばしてから」
「聞く気ねぇだろお前──待て一旦落ち着け!」

両断しようと振り下ろしたカリナの刃をリアスは白刃取りで留めて、解魔術で生成された刀を解く。
もれなくカリナの盛大な舌打ちが聞こえたけれど一旦置いといて。

「で? 何しちゃったの?」
「あくまで俺がしでかしたとしか取らないんだなお前らは……クリスティアに聞く時点で何もかも間違っているだろう」
「わかんないって言ったのはリアスでしょ」

ぐって押し黙ったリアスに、再度「で?」って聞くと。
ソファに座ったリアスの足下にいるクリスティアの頭を、窘めるように撫でながら。

「キスが、できそうな雰囲気だったから、しようとしただけだ」

わぉ進展じゃん。

え、ちょっと待って??

「なんでそっからリアスを泣かせようになるの??」
「おおかたキスの顔を見られたくないと言ったクリスティアに初めて見る顔は見たいと言って、未遂に終わったものの良い顔が見れたとなり、対価を望んだクリスティアがその発想になったんでしょうよ」
「その通りなんだがお前本当に盗聴器とかつけてないよな。ビビるわ」

事細かすぎて俺もびびったわ。
エスパー通り越してもはや人為的なものが介入してる気がする。

「それでね…」

自分の部屋少し調べてみよと思ったところで、クリスティアがかわいらしく首を傾げて。

「リアス様を、かわいく泣かせたいの…」

なんかさっきよりハードル上がってね。
そしてこういうときに乗るのは。

「そういうことならお任せくださいクリスティア!」

うちの妹ですよねー。
リアス睨まないで、ごめんって。

「止められない俺を許してリアス」
「止められないではなく止めないの間違いだろうが」

だって正直俺も見たい。
ばれてそうだけどそこは言わないでおいて。

「では作戦会議と参りましょう、クリスティア」
「ん…」

もはや本人も止める気がないらしく、ため息を吐いたリアスに苦笑いをしながら。
リアスたちの部屋に向かっていくカリナとクリスティアの背を見送り。

「それではまた後ほど」
「男子、きんせー…」

楽しげに笑う女子たちは、部屋へと消えていった。

「……こっちはこっちで話を聞くでおっけ?」
「今回ばかりは予想外すぎて大変困った……」

リアスさんすっげぇ遠い目してるよ。

ゴールデンウィークのときを思い出し、また苦笑いを浮かべて。
リアスの隣へ腰掛ける。

「なに? 今日? 行けそうだったの?」
「今日の朝。よくわからんが目がとろんとしてるだの可愛いだので、いつもの恐れはなかったな……毎度毎度あと数センチまでは行くんだが……」
「進まないねぇ」
「こういうときはどうすればいいんだレグナ」
「え? 彼女いない歴そろそろ数千年行く俺に聞く??」
「お前はいないじゃなくてわざと作らないだけだろう」

そうでなく、と。

「脳だとか医療系だとかはお前の方が詳しいじゃないか」
「クリスに関しては適用するかどうかわかんないんですけど……」

ちょっと特殊だし。
ただまぁリアスなりのやり方に変えれば大丈夫か。そう自分の中で納得して、考えてみる。
マインドコントロール系は言わずもがな却下として。

「強要なし、リアスも発散できるもの……」
「別に後者はいらないが?」
「だってこのまま行くとやばいでしょ」

ぐって押し黙った気配に笑う。

「五月も然り、同棲甘く見てたリアスの誤算だね」
「あいつが子供体型で心底良かった」
「クリスが聞いたら物飛んでくるぞ」
「もう聞こえてる…」

わぉクリスさん地獄耳。
やべぇ声は遠いのに威圧感やばくて後ろ向けねぇわ。

足音だけでもわかるくらい勇ましく歩いてきたらしい彼女は、

「てんちゅう…」

スパァンッと良い音をたててリアスを叩き。

視界の端に映る冷蔵庫から飲み物を持って再び部屋へ戻って行った。

「……大丈夫?」
「あんの馬鹿力……」
「わたしはか弱い女の子!!」
「どこがだ!!」

バタンとドアがしまったのを聞き届けて、後頭部をさすってるリアスに構わず、話題はさっきの話へ。

「で、とりあえず? あの王子と同じにはなりたくないでしょ」
「そりゃあな」
「でもこのまま行くと我慢の限界で同じになるよ」

そう、言うと。
苦々しい顔をして少しの逡巡。

「……俺の発散も含めで」
「素直でよろしい」

さて今度は俺の番。
軽くこう、「触れる」とか「進展」って感じでリアスが発散できて、クリスティアに負担もかからないもの。

んーっと思考を巡らせて。

「あ」

出てきたのは。

「何かあるか?」
「”行動療法”は?」
「……実際にやってみるというあれか」
「そう。潔癖性の人に、”大丈夫”って認識させるために徐々に苦手なものに触れさせるとかね。本来は医者の管理下でやるもんだけども。要は最初から口じゃなくて、指先とか、足先とかはしっこから慣らしていく感じで」

一呼吸置いて、

「まずどこでもいいから端っこから。クリスが精神的にやだってなるところでその回はストップ。次始めるときも、最初の端っこから。同じようにやだってなるところまで。同じところで止まっても強要はしない」

指を折りながら、告げていく。

「毎日やればいいのか」
「できれば毎日の方がいいんじゃない? 日を置くより、寝る前にーとかって習慣づけた方が慣れやすいでしょ」

どう? と首を傾げると。
リアスは口元に指を添えて、少し考える。

数秒のあと。

「……時期を見てやってみる」

珍しく一発オッケーいただきました。

「頑張ってね、歯止めが利かなくならないように」
「………………気をつける」

失敗したらリアスすら拒絶対象になっちゃうし。

「なんかあったら五月みたいに連絡くれればいいから」
「あぁ」

そうならないように祈りつつ。

ひとまずこっちの話は落ち着いたということで。

「んじゃリアス」
「あ?」
「まず乗り越えなきゃいけないのが先にあるね」

妹ともう一人の親友が消えていった部屋を、指さす。
その方向を見やった直後に、目の前の親友は引き気味に笑った。

それに、構わず。

「二人の作戦、まともだといいね」

面白い予感がするので、意図的にできるかわからないけれど。

「……お前な……」

盛大に、フラグを立てておいた。

『だって俺だってその顔見たい』/レグナ