また逢う日までライト版 First grade June

2019-12-26

この世界には、「地区」、というものがある。
大きく分けられた種族が争いを起こさないようにと引かれた規制線でできた区域のことで、主にその街の中心地──ここでいうならば笑守人を中心に、八つの地区がある。
東西南北にはヒト型が住み、間の北東、南東、北西、南西にはビーストが住む。
他種族同士仲が悪いと言いつつも、その地区の役割はほぼ共通で、西がつく方角は商店街やアミューズメントパークの施設があり、双子が住む南、北には住宅街と施設が混在し。俺とクリスティアが住む東側は住宅街がメインとなっている。
よって必然的に東側にはヒトも多い。

多いんだが。

笑守人の街は広い。一つの地区だけでも相当な広さだ。
同じ学園に通っていると言えど、学園付近の交差点でやっと見知った顔が見れたなんてくらい笑守人の生徒に会わないことだってある。
仲が良ければ待ち合わせもするんだろうが、どの時間でも待ち合わせをしている生徒はなかなか見つけられない。

だから。

「……」
「よぉ、いい天気だな後輩クン?」
「おはようございます、炎上、氷河」
「おはよー…」

定着した双子との待ち合わせ場所にあんたらいるのはだいぶ不思議なことなんだよ。

「……何故当然のようにいるんだろうな」
「カワイイ後輩と一緒に登校♡つってな」
「だいぶ可愛げに言ってはいるがこの広い街でいきなりアポなしで待ち合わせ場所にいられると恐怖しか感じないんだが?」

偶然にしてはさすがにできすぎているだろ、と。
つい昨日出逢ったばかりの上級生、紫電と木乃を睨む。

が、二人はそんなのを意に介さず肩を竦めて笑った。

「安心してください炎上、待ち合わせ場所を知ったのは本当に偶然です。後をつけたりはしていませんよ」
「尾行するヒマがありゃあ、武煉とバトルしてぇしな」

互いを見合ってから、またこちらを向く。未だ睨んだままの俺に口を開いたのは、木乃だった。

「……俺が少々、いろいろなところに出歩くことが多くてね。たまたまそれが君たちの別れ際と合ったみたいで。今日は確認も含めて見に来たんですよ」
「……それで、待ち合わせ場所が当たっていたと?」
「そういうことです。昨日は聞きそびれてしまいましたからね」
「……」

まぁ、後をつけていないというのだけは確かだろう。
俺とレグナは気配には敏感すぎる方だ。俺はクリスティアの件で常に気を張っているし、レグナは特化したものの関係上、気配だけでなく微かな足音でも聞き逃さないほど。
こいつらが俺達を知ったのをゴールデンウイークと仮定して思い返すと。休み明け、いろいろな視線は向けられていたが、後をついてくるような気配は一切なかった。レグナからもそういう話は聞いていない。

つまり尾行の件は二人の言うとおり白。
そして昨日聞きそびれたのも事実だと身を持って知っている。散々暴れ回ったあとに杜縁がやってきて、説教のためにと上級生を連れて行ったから。

あとは偶然知ったという点だが、にこにことしている顔を見るも、嘘を言っているようには見えない。そもそも嘘を吐くメリットは今現在彼らにはない。
クリスティアの件で俺の警戒はよく知っているだろうから、仮に嘘だとばれた場合協定は崩壊する。

ならば。

「……」

まぁひとまずは、変なことで知ったのではないのだろうと。ほっと、安堵の息を吐いた。

吐いたな。

──いや息を吐くのはまだ早いだろう。
クリスティアに視線を合わせるように屈んで、改めて挨拶をしている紫電へ。

「おい」
「どした龍クン」
「待ち合わせ場所を偶然知ったのはわかった。それはいい。俺が聞きたいのはどうしてここにいるということなんだが」

一瞬きょとんとした後、上級生二人は一度目を合わせ。
さも当然というように木乃が口を開いた。

「昨日お互いに協定を結んだでしょう?」

だからイコールここにいるという理由にはならないだろうが。
俺のそのもどかしさに答えるように、今度は紫電が明るく言う。

「言ったろ? しばらくツルんでりゃ同類だお気に入りだって思われて平穏になるぜって」
「だから、学校行くのも一緒…?」
「そゆコト。毎日登下校のトキはお迎えすんぜ」

おいさりげなく下校まで入ってるぞ。
つーかしばらく一緒にってだいぶべったりする感じなのか。いや平穏になるならば構わないけれども。
まさか家についてきたりなんなりとかはないよな。ないよな??

「ま、そういうコトで」

しかしツッコむ暇も聞く暇もなく。

「しばらくよろしく頼むぜ? 龍クン」
「お願いしますね」

俺の思いは知ってか知らずか、上級生二人は楽しげに微笑んだ。

「それで、登下校の件はわかりましたけれど」
「……」

あの後。レグナとカリナとも合流し、上級生の件を話ながら登校して。
本日は六月一日、一年による合同演習の日ということで、紫電達とは別れ、演習場に直行した。
二回目以降となる今回からは種族や性別関わらずペアを組むことは可能だが、なるべく一度組んだ者とはその学年の間組まない、と面倒な制度があるらしく。本日はカリナと演習中である。

目の前の女の日本刀を、得意の短刀で受け止めつつ。呆れた表情で観戦席に向けた目を追って俺もそちらに目を向けた。

「どうして演習場にも彼らはいるのかしら?」

目が合ったのがわかったのか、出逢って一日も経っていないのに見慣れてしまったオレンジメッシュがこちらに楽しげにひらひらと手を振っている。
それに溜息を吐いて、カリナと二人、ほぼ同時に互いへと目を戻し。

「上級生は授業中ではありませんでしたっけ」
「そうだとは思うんだがな……」

刃を緩く、緩く押し合った。

「……この時間はお休みかしら」
「そんな都合のいいことがあるか?」
「仮にこの時間が休みだったとしてだ。何故俺達がこの時間に出番だとわかる」
「たまたま来てみたら演習開始していました、みたいな」
「偶然にも程があるだろう」

カリナが押してきたら緩く押し返し、またカリナが刃を押してくる。
本来ならば力では勝っているので短刀とは言えど振り払うことは可能だが、今はそれどころではない。

「誰かご友人に聞いたとか」
「自他ともに認める”悪い部類”だぞ。ほとんど周りが近づかないと聞いただろう。ましてや一年にいると思うか」
「そうですけれども。ならどうしてでしょうね」
「聞いても”上級生の情報収集能力の賜物だ”とか言われそうだが」

さすがに知りすぎているのでは、と互いに目が合う。

確かに昨日同様、その情報収集力の高さは否定できない。この学園では一学年上。ここでの調べ方は俺達より上なのも理解している。
たださすがに。

演習の時間までもがぴったりとなると不審にも思ってくるだろう。
朝のも段々不審になってきたぞこれ。

何度か刃を弾いては再び合わせることを繰り返しながら、湧き出て止まない疑問達に答えを探そうと頭をひねり始めたとき。

ぼそっと、カリナがこぼした。

「……実は盗聴器を仕込まれているとか?」

おい不穏なこと言うから思い切り力が入ったじゃないか。

少し後ろに引いたカリナがまた刃を押して来たのを、足に力を入れて受け止める。

「何不穏なことを言っているんだ」
「だってあまりにもタイミングがいいとなるとそういうのしか考えられないでしょう」

気持ちはわかるが。互いに力が入っていき、ぐぐぐっと刃を押し合う。

「ならば仮にそうであったとしよう。いつ仕込む」
「友人の線がないのであればご自身たちで、ですよね」
「俺達は昨日以外接触がない」
「授業中、誰もいなくなる教室を狙ってというのが常套手段でしょう」

こいつもしややっていないよな。
すらすら出てくるとむしろそっちが不安になるわ。

「常套手段ではあるが、笑守人では授業中、クラスの教室は施錠だろう」
「ハーフであるならば鍵を作ることも可能なのでは?」

カリナの方に不信感が募ってきたのは俺だけだろうか。

「……お前、俺の家の鍵とか作っていないよな」
「あら、仮に作ったとしても外に結界が張ってあるので進入不可能でしょう?」

確かにそうだが。

「まぁいざとなればこじ開けられるんですけれども」

そう言うのをわかっているから疑うんだろうが。

予想通りの言葉に溜息を吐いたところで。

「炎上・愛原ペア、残り五分!」

担当の声が掛かった。
紫電達のせいで大半が余計な話し合いだったじゃないか。しかし不信感が募るばかりで、答えは出ぬまま。これはもう考えても仕方ないだろうと。

二人、もう何度目かわからないが、また自然と目を合わせた。

「ひとまず」
「えぇ、お話はご本人方にお聞きしましょう?」

頷いて。

戦闘途中で消えていた殺気を、再び放つ。
思い切り刃を振り払って距離を取り、息を整える暇もなく魔力を練り始めた。

【アサルト】

自分の周りに、九つの魔法陣を展開。魔法陣一つ一つから、アサルトライフルが顔を出す。

【鋭き華刃よ、誘え──】

そしてカリナも同じく、背後に九つの魔法陣を展開した。

癪だが考えは似ている。
カリナと共に、不敵に笑い、

【炎殲滅焦弾(えんせんめっしょうだん)】
【華乱睡塵槍(からんすいじんそう)!】

俺の炎の銃弾が、カリナの華の槍が、同時に放たれる。

瞬間に、走り出した。

自分を追い、そして追い越していった魔術など構わず標的へと向かう。

先に分けられた区域中央へと着いた槍と銃弾が、ぶつかって大きな音を立てた。衝撃で発生した煙にそのまま突っ込み、まといながらさらに進む。

「……!」

少しして、見えづらい視界の中で人影が見えた。
動いている様子はない。

──来ると知って、待ちかまえている。

きちんと体制を整えて。

俺には力では敵わないと知っているから、頭を使う。どう攻められても、優位に立てるように。
恐らくは全方位に刃か魔術の展開をしているはず。
テリトリーに入れば発動するものか、それとも二重か──。

レグナとは魔術的にも対等に戦えるから楽しいが、こちらも戦術の読み合いで楽しく感じる。
自然と、口角は上がっていた。

どう展開されているか確認するために待つのもいい。が、それでは少々つまらない。

全力で乗ってやる。

魔力を最大限に練って、思い切り、踏み出した。

「──!」

まだ煙が晴れない中で標的に向かって飛びかかる。

カリナの目の前でわざと着地をすると、案の定魔力を感じた。

直後、下からは。

幾数もの刀。

けれど俺に向かって飛び出してくる刃は、

当たりはするも、皮膚に届く前に折れていった。

「ちょっとっうそでしょっ……!」

カリナのひきつった声にも、未だ飛び出してくる刃にも構わず。

思い切り踏み込んで、彼女の首に、短刀を突きつけた。

「っ……!」

ただいつものように、相手の背後に刃を展開したりはしない。

それはこの女自らやっていることだから。
俺がどこから来てもいいように。恐らくあと一歩でも後ろに下がればカリナは串刺しになるだろう。

だから、首元に刃を突きつけるだけで十分。

「防御に徹したのが仇になったな」

そう、勝ち誇ったように笑うと。

いつも笑みを浮かべている顔は見る見る悔しそうに変わり。

「っ参りましたわっ!!!!」

手に持っていた日本刀を下に叩きつけるように降参を申し出て。

「勝者、炎上」

今回の演習も、勝利した。

「まさか踏み込むとは思いませんわ……」
「お前とじゃ魔力量も違うからな。魔力を全開にしてバリアーを張れば防げると踏んだ」
「次回からは魔力も強化しておきます」
「楽しみにしている」

未だ悔しげに睨んでくるカリナに笑って、待機ベンチにて待っているレグナとクリスティアの元へ行く。

「お疲れー」
「あぁ」
「華凜も、おつかれさま…」
「とても悔しかったですわ……慰めてくださいな……」
「こいつらはこれから演習だろう」

恋人に抱きつこうとするカリナの首根っこをすかさず掴み、制止する。
今度は恨めしげに睨んできたがそれも意に介さず、クリスティアの終了声掛けがすぐできるよう、カリナから手を離して待機ベンチに座ろうとしたところで。

「あ、龍」
「ん?」

入れ替わるようにしてスタジアムに向かおうとしているレグナに、声を掛けられた。
そちらを見やり、不思議そうに首を傾げている親友に。

「演習の中盤、なんか妙に話し合いっていうか、緩い押し合いしてたけど。何かあった?」

そう、言われて。

カリナと二人、目を合わせた。

そこで思い出す。

そういえば、何故あんなにも情報を知っているかを上級生に聞くのではなかったか。
互いに思ったことは同じだったんだろう、自然と目の前の女と頷いた。

「忘れてましたわ」
「そうだな、テンションが上がった」

下ろしかけた腰を上げ、観覧席へ続く通路へ歩いていき。中に入る間際で、振り返る。

「上の上級生にいろいろと聞いてくる」
「おー、んじゃ任せて」
「あぁ」

レグナならば”不要”だと知っているから。
それだけ言って、「俺の骨折らないでね」だとか「かよわい女の子はそんなことできない」だとかの声を聞きながら。

カリナと二人、観覧席へと上がっていった。

『犯人は、ある意味身近となった人物』/リアス