また逢う日までライト版 First grade May

2019-12-26

──魔術。
それは魔力を持っているハーフやビーストが扱うことのできる術。けれど、魔力を持っている”だけ”では実は魔術は使えないんです。魔力とは能力を会得し、そして具現化させるための手段となるもの。

私たちは”魔力結晶”と呼ばれる、能力を結晶化したものが体内にあることで初めて魔術を使えます。その魔力結晶を作るには、欲しい能力に魔力を流し込み結晶化させたあと、体内に取り込みます。ちなみに魔力を有する者には体の中に”結晶器官”というものがあるので体に影響もないですよ。結晶も自分の魔力を自分の中に戻すだけなので違和感だったり痛みだったりもなにもありません。

その魔力結晶に自分の魔力を流し共鳴させることで、能力を具現化できるようになります。熟練の魔術師であるならば魔力結晶はいくらでも体内に入れることはできますし、”この能力を使う”というイメージさえあればいつでも自分の使いたい魔術を使うことができます。

さて、何故私がこんな話をしているかというとですね。

本日は五月一日、一年生による合同演習の日だからです。

エシュト学園は人の笑顔を守るというコンセプトを掲げた学園。そのために、日々の見回りやボランティア活動が盛んに行われています。生徒それぞれ行く道は違えど、学園に入った以上、その方針には従わなければならない。なので日々の活動は全員参加。そして万が一、活動中にビーストやヒューマンの争いがものすごいことになったときには、武力行使でもなんでもそれなりに対処ができないといけません。
そこで、最低限の戦闘力をつけるために、エシュト学園ではほぼ毎月のはじめに、丸一日使った学年別合同演習があります。

と、いうわけで。

「相変わらず広いですねぇ」
「スタジアムに立つと、なおさら…」

一年生全員が動きやすい服に着替え、学園の離れにある演習場までやって来ました。クリスティアと二人、揃ってぐるりと見回します。
洋風なエシュトの校舎に合った外装、中はまるでコンサートホールを思わせるような広さ。入学説明会で観覧席から見たときは広いですねぇくらいでしたが、スタジアムから見上げてみると圧巻の一言に尽きますわ。全校生徒が入れるくらいはあるって言ってましたけど、見渡した限りそれ以上の人数が入りそう。視線を一周させて隣の男性陣に目を移すと、彼らはその広さに心なしかわくわくしているご様子。ただうちの男性陣の場合、初めてこんな広さを体感した、というようなかわいいものでなく。
「全力で走っても余裕あるね」
「まぁ、暴れるのには十分な広さだな」
「これなら千本思いっきり投げられるわ」
「楽しみだな」

思いっきり戦闘ができるという嬉しさですよね。知ってましたわ。

「さてペア決めでしたよね」

切り替えるように手を叩いて、幼なじみへと促す。

朝のHRによると、演習は二人一組。今回は初回ですし、全員が互いの実力を把握していないだろうから同性同士、そしてヒューマンはヒューマン、能力者は能力者同士で組むこと。それを守ればペアは自由。ちなみに何故この場で決めるかというと、種族の割合上、クラス内だと余りが出たりなんなりあるからだそうです。
さてペアが決まり次第のスタートになるので、まずは相方を決めなければなりませんね。まぁ自由となればもう決まったも同然。

「この四人で異議はないです?」
「あぁ」
「おっけー」
「へいき…」

聞けば、三人も即座に頷きました。さすが幼なじみ、考えることは一緒ですわ。
では同性同士という縛りがあるので。

「私が刹那で?」
「俺が龍かな?」
「そうなるな」
「うわぁやりたくない」
「とか言いながらなんだかんだ気楽だろう?」
「まぁ手加減するよりはね」

なんて笑いつつ、ぱぱっと決まったペアを報告しにスタジアム中央へ向かう。

報告の順番待ちの列に少し並んだところで待っていたのは、我らが担任江馬先生。四人一緒に報告をして、

「え~、愛原・氷河ペアと炎上・波風ペアですね~。ではこれをお渡しします~」

彼女がタブレットに入力したあと、間延びした声で渡してきたのは、番号が書かれた紙。

「私たちが20ですね」
「俺たちは21」
「あなた方がこのスタジアムで戦う順番になります~。ひとまず九番目以降は一度上の観覧席で待機。スタジアム中央のモニターに、次降りてきて欲しい番号が出るので~」
「それが出たら降りて来いと?」
「はい~。それまでは観戦するなり、裏に書いてあるルールを読んでいてください~」

言われて裏を見ると、少し細かに演習のルールが。

「質問がなければ移動をお願いしま~す」
「行きましょうか」
「はぁい…」

促され、ひとまず我々は待機組になるので観戦席へと向かいます。
その道中で、先ほどちらっと見た、番号裏のルールへ目を走らせた。

「えー、ルール説明。”制限時間は三十分。勝利条件は、相手の戦闘不能もしくはリタイア。合同演習での武器・能力の使用は問わない。ヒューマンで武器を未所持の場合は貸し出し武器場で借りることも可──。”あとは先生が止めに入ったら素直に従うことだそうですわリアス」
「何故俺に言うんだろうな?」
「あなたが一番厄介なので」
「自分の能力の扱いは心得ているから大丈夫だ」

まぁそうですか、と軽く流して階段を上がりつつ次へ。

「で、待機中の指示も書いてありますわね」
「”待機中は他の生徒を見て勉強、もしくは各々の授業に戻ることも可”だって。ただし今回の初回だけは演習場内にいること」
「授業に戻っていいとは随分良心的だな」
「まぁ自分の夢の方に少しでも多く時間割きたいやつもいるだろうしね」
「加えて制限時間ぴったりで交代が続くとなると待ち時間も相当ですわ。今日だってぴったり終われば二時間半待ちですもの」
「時間を有効活用しろということか」
「そういうことですわ」

話しながら階段を上がりきり、観覧席へとやって来ました。早めに報告に行った甲斐もあって席はガラガラ。順番も早めなのですぐ移動できるところにしましょうかと、通路を出たすぐのところに腰を落ち着けました。

そうして四人で裏の注意事項を読むことしばらく。順番が回ってきたので下へと降りまして。

「行きましょうか」
「ん」
「刹那、手加減するなよ」
「わかってる…」
「頑張れよ華凜」
「はーい」

次の順番を待つ二人にエールを送られ、スタジアムに入ります。お互い配置についたところで、まずは魔力結晶にしてある刀を具現化しました。クリスティアも自分の能力、氷を刃にして両手に持つ。

さぁ、頑張って参りましょうか。

「はじめっ」

準備を整え、先生の合図と共に同時に走り出した。

我々が配置された区画の中央。軽快な金属音を奏でて、刃が交わる。

「っ……」
「…」

私の刀とクリスティアの氷刃による押し合い。パワーはこちらがほんの少し上。両手でしっかりと柄を握って踏み込めば、彼女は一歩下がった。
このまま押し進めようとさらにこちらが踏み込んだ、瞬間──。

「──!」

感じた魔力と、冷気。下を見れば、地面が少しずつ凍っていく。

──あ、やばい。

反射的に後ずさるように跳ぶ。直後、氷の結晶が地面から勢いよく飛び出してきました。危ないですね。気付かなかったら串刺しですか。

「これ私じゃなかったら死んでますよ?」
「手加減はだめ、って言われたから…」

あの男余計なことを。あなたに従順なこの子にそんなこと言ったら実行しちゃうじゃないですか。目の前の子ではなくこれを見守っている男に若干の殺意が湧く。

「ふぅっ……」

ただ彼への恨み言はこれが無事終わってから。息を吐き、体制を整え、魔力を練る。

さて魔術とは、魔力結晶に魔力を流して能力を具現化したもの。熟練した方ならば、いつでもどこでも能力を使うことができます。

でも、どんなに優れた方でも能力を引き出せるのは八割方まで。

生物みな頑張っても雑念が入ったりするし、戦闘時なんてなおさら集中力は術だけには持っていけない。そんなとき、魔力結晶と100%共鳴するため”言霊”というものが必要になってきます。今で言ったら”詠唱”ですね。
この能力を使うためにはこの言霊を言う、というのを自分と魔力結晶の間で決めておけば、能力を使うとき最大限に引き出すことができるのです。
たとえば──。

【舞い散る華よ、刃となりて敵を貫け!! ブロッサムレイン!!】

魔力を練るのと同時に”言霊”を発する。そうすると、私の能力、桜の華は鋭い刃と化して、雨のようにクリスティアへと降り注いだ。

「っ…」

まぁ身軽なあの子には跳んでよけられちゃいましたけど。こんな風に、言霊に呼応して技が打てるんです。ちなみに同じ魔力結晶にいくつかの言霊を決めておけばそれに応じて技も変化してくれます。自分の好きなようにカスタマイズできてとっても楽しいんですよ。

なんて紹介してる暇はもうなくなるんですけどね。

【…宵闇に浮かぶ夢幻の世界】

聞こえた詠唱に、やばいとこちらも魔力を練る。集中して、できるだけ強度を高めるように。その間に、暗くなっていく視界。

【迷い子には幻想を、あらがう者には凍てつく刃を】
【聖なる光よ、我が身を守れ──】

【無限氷夢】
【バリアー!!】

寸でのところで自分を覆うように結界を張る。同時に、真っ暗な世界で無数のはじかれる音が聞こえた。見えはしないけれど、恐らく無数の氷の刃が私を串刺しにしようと攻撃してるんでしょう。本来ならとどめを刺すときに使う彼女の奥義とも言えるような無限氷夢。暗い世界に閉じこめ、無数の氷の刃で相手を貫く技。演習で出しますかこれ。冗談抜きに私じゃなきゃ死んでますよ??

「……」

まるで永遠とも言えるような時間をなんとかバリアーで耐えしのいでいると、音が止む。
直後、クリスティアが術を解いたんでしょう、空間に光が射しました。どんどん広がっていくその光のまぶしさに目を細めながら、自分の結界を解く。

さぁ空間が開ききった瞬間に反撃へと移りましょうか。

そう、勇んで踏み出した足は。

「──っ!」

──それ以上、進めることはできなかった。

「つかまえた」

目の前にはまぁ珍しいちょっと楽しげなクリスティア。
いつもならかわいいなんて思いますが、今はその笑みに冷や汗が流れる。頑張って笑みだけは返して、状況を確認しようと目だけを動かしてみると。

私の首もとには、彼女の氷刃の切っ先。

反射的に後ろに身を引きたくなるけれど、それはぐっと抑える。見なくてもどうなってるかなんてわかりますわ。この戦術を嫌と言うほど知っているから。恐らく後ろには、下がれば突き刺さるように氷の刃が展開されているはず。リアス直伝の戦闘術。

これを、打破するとなると──。

そう考えてすぐ、心の中だけで首を振った。これ以上は”本気の領域”に入ってしまう。それをするとこの後がいろんな意味でやばいと、長いつき合いで知っているから。

「……今回は降参ですわ」

カランと刀を落として降参と手を上げる。

しかし、この刃はすぐに解かれることはないことも私は知っていた。

「しょ、勝者、氷河」

そしてそれは、審判が「終わり」だと告げても。身を守るための戦い方を散々恋人から教え込まれているこの子は、ただ一人の許しがなければ「終わり」を認識しない。降参だと告げた相手が、術を解いた瞬間に反撃をしてこないように。面倒なことを教え込んでくれましたねと、解かれることのない術にため息を吐いて、助けを待つ。

「刹那」

決してクリスティアから視線を逸らさず、降参の手を下げぬまま立っていれば、案の定彼女の後ろにその男は来た。

「”終わり”だ。もういい」
「…!」

彼のその一言。たったそれだけを、合図に。

「…わかった」

解かれる彼女の魔術。きらきらと雪が降るように消えていく氷の中で、無意識に張りつめていた緊張の糸が切れた。ほっと胸をなで下ろしていると、肩を叩かれる。そちらに目を向けると苦笑いの兄がいて。私も苦笑いを返した。

「お疲れ」
「ありがとうございます」
「もうちょい遊ぶと思っていたんだがな」
「あなたが手加減するなと言わなければもっと遊びましたわ」

むくれたら素知らぬ顔で肩を竦められたので、心の中だけで彼にグーパンをかましておく。

「では刹那、行きましょうか」
「はぁい…」

こんな男は放っておき、すぐに交代だからとクリスティアとスタジアムを出ようと歩き出しました。

「……」
「……」

そこで、周りが妙に静かなことに気付く。見渡すと、ぽかんとした様子の生徒たち。演習を行っていた生徒もこちらに見入っていたのか、先生に注意されて模擬戦を再開させていました。あら、刺激が強かったかしら。これ結構優しい方なんですけども。たぶん全員が本気出したらこんなものじゃ済まない。

「龍、がんばってね…」
「刹那さんエール送るのまじやめて」
「どれくらい強くなったか見てやろう」
「そんな大したことないんでお手柔らかに、ほんとに」
「頑張ってくださいね、死なない程度に」

そんな周りのことは気にせず、スタジアムを出る直前にエールを送って、私たちは観覧席へと向かいます。
廊下を少し急ぎ足で歩きながら、前を歩くクリスティアに声をかけた。

「また強くなってましたねぇ」
「そう…? 華凜もだよ…」
「あら、お褒めに与り光栄ですわ」

肩を竦めて笑うと、振り返ったクリスティアも少し機嫌が良さそうに微笑んだ。

「たまにはこういうのもいいね…」
「まぁ普通ならあんな遊びませんものね。新鮮でしたわ」

互いに本気だったらあんな刃を交えるなんてしない。始まった直後に一瞬で首を狙うでしょう。そこは演習ならではの遊び。次の彼らの闘いではどうなるか知りませんが。

「向こうも、ちゃんとお遊びで済むといいね…」
「そうですねぇ。レグナがそんなに乗り気じゃなさそうでしたし、リアスも自分の力の扱いは心得てると言ってましたし。大丈夫じゃないですか?」

うん、たぶん。笑ってはみるけれど自信はない。互いにノってしまって本気に、なんてことはとてもありえる。できれば、というかぜひにそうならないことを願いたい。なにかあっても戦力的に女子二人では止められない。

「あら、ちょうど始まりますね」
「ん」

上にあがって前の方の席に座り目を向ければ、互いに構えていた兄とリアス。タイミング良かったですね。準備が整ったところで、先生のかけ声で同時に走り始めました。顔は、表向きは憂鬱そうだったりしていますがどことなく楽しそう。こういった演習みたいなものはここ最近ではあまりしませんでしたものね、気持ちはわかりますわ。楽しむことはとてもよいこと。それを見れるのもこちらとしては嬉しい。ただまぁとりあえず、

再び下に降りることだけはなければいいなぁと思いながら、その戦いを見守った。

『どうか男性陣のテンションが上がりませんように。』/カリナ