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元四月編 一覧

以下の話は、電子版では大幅改稿 または削除されています。これはこれで楽しめます(わたしが)

  • すべては君のために/レグナ
  • 叶うなら、この穏やかな日々が、永遠に/カリナ
  • さぁ、その扉を開けて/カリナ
  • いやな予感は的中するが、策士のせいで逃げられない/リアス
  • 彼曰く、常識人は忙しい/クリスティア
  • 我らが王子の魅力は90%が顔である/レグナ
  • 見失った君の笑顔は、手を伸ばせば届く距離にある/リアス



  • 『すべては君のために』

    変更理由:それぞれ学びたいものはあるだろうしそもそもクリスティアは座学無理そうでした

     何度も言うようだけど、エシュト学園は授業を自由に履修できる。自分の将来のために学びたいものを学ぶ。必要なものだけを集中的に学べるなんて良い制度だよね。
     そんで自由履修だから当然クラスの人と一緒、なんてのは結構低い確率。

    なんだけども。

    「なんでお前らはほぼ毎回俺の隣にいるんだよ」

     そう俺を挟むようにして座る幼なじみたちに小声で言う。
     エシュト学園に入学して約二週間。授業も本格的に進み始めた頃。この週この日の二時間目、俺は医学に関する授業を取っていた。この二時間目だけに関わらず、結構俺の履修科目は医療系。めちゃくちゃ複雑だし、正直「なんとなく」とか「友達と一緒がよくて」っていう軽い気持ちで取るような科目じゃない。それほどまでのものだと思う。だけどこの三人は、何ともないような顔をして。


    「…わたしがレグナとたまたま同じ授業をとっていて」
    「クリスティアがその授業を受けるならと俺も取り」
    「それをリアスから聞いたのでじゃあ私もと取りました」
    「ほぼ毎回いるのはそのせいか!」

     思わず声を上げれば、先生に咳払いされた。「すみません」と返して、板書写しを再開する。俺がまじめにノートを書き始めれば、カリナとクリスティアもちゃんとノートにペンを走らせる。リアスは教科書に書いてるけど。授業取っただけあって学ぶ意欲はあるのかと、右隣のクリスティアをちらりとのぞけば、そこにはかわいらしい猫のイラストが。頭をペンで軽くたたいてやった。

    「いたい…」
    「いや何描いてんだよ」
    「お前は何で突然叩いているんだ」
    「刹那が授業の板書とらずに猫のイラスト描いてるからだろ」
    「ちゃんとノート書いてるよ…ねこのイラストでわかりやすくしてるだけだもん」

     言いながらクリスティアは俺にノートを見せてくる。確かに黒板のものもちゃんと書かれていた。だけどノートの三分の二くらいは猫やら犬やらのイラストで埋まっていて、黒板に書かれてる文字は残り三分の一くらいのスペースに小さく書かれてる。いや比率おかしいだろ。わかりやすくどころか板書がついでみたいになってますけど。これ提出しろって言われたらどうすんの。減点だろ。つーかよくあの量の文字をそこのスペースだけで終わらせられたな。

    「刹那さん、もう少しイラスト控えめにしよう?」
    「イラストあった方がわかりやすいでしょ…?」
    「だいぶ主張が激しくて文字の方がわかんねぇわ」
    「こいつのノートらくがき帳みたいだろう。よく減点される」
    「わかってんならもう少し注意してやれよ」
    「できましたわ」

     クリスティアに甘過ぎじゃね? なんて話してたら、左にいたカリナが小さく声を上げた。三人でそっちを向けば、カリナは自信満々にノートを見せてくる。一ページ丸々使った盛大なイラストが見えた。お前もかよ。授業中だっつの。咎めようとして、だけどそのイラストをしっかり見て。言葉が止まる。

    「どうでしょう」

     いやどうでしょうって言われても。すっげぇ見事な花畑描いてるんだけど。画家さんですか。小さいノート一ページにこの短い時間でよく描けたなって程の絵描いてるんだけど。あまりのすごさに見せてとノートを受け取った。

    「華凜…すごい…」
    「そういえばお前芸術系得意だったな」
    「いつだったかに英才教育を受けてましたから。ピアノも絵も自信はありますわ」

     細かいとこまですげぇ描けてんなぁと見ながら、ふと気付く。そうじゃねぇだろ。なに関心してんだ俺。

    「授業中に何描いてんだよ」

     やっと出てきた言葉に、カリナは笑顔で返す。

    「とくにすることもないので」

     お前何でこの授業取っちゃったの?? ため息をついて、三人に向けて。

    「お前ら学びたいもんとかないのかよ」

     そう問えば、

    「「「ない(です)」」」

     なんとなく予想した答えが返ってきた。まぁこんだけ長い時間生きてりゃなくなるよなとは思うけど。正直授業の邪魔するなら帰ってほしい。

    「ていうか刹那がこの授業取ったからこいつらもついてきたんだろ。刹那は何でこれ取ったの」
    「蓮がチェックしてたから…」

     俺かい。そういや希望授業見せてって言ってきたけどこのためだったのか。そりゃほとんどの授業かぶるわ。

    「逆にお前はいつも真面目に授業を受けているな」

     半ば呆れながら、再び板書を写す。そんな俺にお構いなく、リアスたちは話しかけてきた。目は向けず、言葉だけ返す。

    「龍さん、一応俺たち学生だから。本分は学業だから」
    「でも歴史は勉強せずとも実際過ごしてきましたし」
    「古文とかも使ってたからわかる…」
    「数式は共に解明しただろう?」
    「いやそうなんだけどね?」

     だからって適当に授業受けていい理由にはなんないだろ。そう返せば、お前は真面目だなとリアスに返された。お前はほんとに不真面目だよな。

    「蓮はどうして医療系のこと、学ぶの…?」
    「あー」

     クリスティアに問われて、言葉を濁した。

     いつからか、学び始めた医学。正直な話、まじめに受けろとは言ったけれど俺も医者になりたいわけじゃない。自分が天界に帰っている間に、どこまで医療が進歩したかを知りたい、ただそれだけ。

     カリナがいつも、不治の病にかかるから。俺たちの運命が終わりに近づくに連れ、彼女は原因不明の病に侵され、床に伏す。
     それをどうにかしたくて。現代医療を学んでいけば、何かカリナを助ける手がかりが見つかるんじゃないかって。そんな思いを抱えていたら、いつのまにか無意識に医療関係には目が行くようになった。まぁそれは毎回見つからず、いつだってカリナは病気に侵されるんだけど。

    「学んでおいて損はないだろ」

     ただ本心は伏せて、そう告げる。

    「まぁ今は魔術で治せますけどね」

     治せないものだってあっただろ。お前の体のように。そう言いたいのを抑えて、まぁそうなんだけどなんて返しながら最期の日の妹を思い出す。どんなに治癒術を学んだって、回復させてやれなかった妹。魔術ではダメなんだと思って、医学も学び始めた。妹のためになったかと言われれば、ちょっと悩んでしまうけれど。

    「でも魔術を使うほどでもないやつには役立つし。知識はあって損はないだろ」
    「まぁな」
    「つーか同じ授業取ったからにはお前らもちゃんとノート取れよ」

     あまりその話は掘り下げたくなくて、そう言った。そしたら全員が不服そうな顔で各々自分の主張をしてくる。

    「わたしちゃんと取ってる…」
    「うん、刹那はもう少し比率を変えような」
    「教科書に要点書けば十分だろう」
    「ノート提出っていわれたらどうするんだよ」
    「知らん。バックレる」
    「うわぁ不良だ」
    「私のこの絵はどうしましょう」
    「…もったいないから、やぶっとけば…?」
    「それが板書を写した裏のページに描いたんですよね」
    「お前はバカか」
    「破って裏の板書部分も書き直せばいいじゃん」
    「面倒ですね…」

     言いながらもカリナはノートを一枚破り、後で写すらしく一ページ開けて板書を写し始める。リアスをちらっと見ればノートは広げてないものの教科書には要点を書いていて、クリスもまだ小さいけどきちんとノートを取り始めていた。
     それを見て、なんだかんだちゃんと聞いてはいるんだよなと微笑み、俺も授業に集中し始める。この授業が妹のためになるとは、限らないけれど。
     また今回も、無駄になるかもしれない。この先もずっと、学んだことなんて意味がなかったような病に、妹はかかるかもしれない。

     それでも。



     何か可能性があるのであれば、なんだってやってやる。

     そう改めて決意して、ペンを走らせた。

    『すべては君のために』/レグナ



    叶うなら、この穏やかな日々が、永遠に。

    変更理由:書きたいところがコミックにできたので

    再びビーストとヒューマンの争いが起きたので、話し合っているリアスとクリスティアを置いて現場の商店街に来ちゃいました。あとで色々言われそうですが早期解決が一番なのでいいでしょう。
     争っているヒューマンとビーストの間に入って話を聞けば、新しく引っ越してきたヒューマンがいまいち規制線の場所がわからず、ビーストの縄張りに無断で入っていってしまったらしいのです。これは確かに”規制線を越えた”という点ではヒューマンに非がありますが、引っ越してきたばかりという点を踏まえると一方的に責めてしまうのは平等とは言えませんね。ここでも当然ながら言葉が通じないので、私とレグナが仲介に入り、何故ビーストが怒ったのか、何故ヒューマンが規制線を越えたのかを話すと、ビーストの方も意外と物わかりがよく、”そういうことなら”と許してくださいました。

    「では、この件はこれで解決と言うことでよろしいですか?」
    「ああ、ありがとう」
    『問題ない』

     問いかければ、お二人とも異議なしと言ったようで問題は無事解決。めでたしめでたしですね。笑顔で帰って行くヒューマンをビーストを見送って、ふぅ、と息を吐いたのもつかの間。

    「おい」
    「はい?」

     後ろからちょっといらついたような声が聞こえました。振り返れば、置いてきたカップルが。

    「遅かったねリアス」
    「今し方解決しましたよ?」

     レグナと一緒にそう言えば、明らかに不機嫌そうなリアスはため息を吐きます。今日の彼はとても大変そうですね。

    「クリスティアにも言ったがせめて一言くらいはくれないか……」
    「お話中に声をかけるのも無礼かなと思ったので」
    「突然いなくなる方が無礼だし焦るわ」
    「あなただっていつも突然テレポートしてクリスティアのところに行くでしょうに」
    「声はかけているが?」
    「あら、そうでしたっけ?」
    「お前な……」

     なんて返しながら、彼がいつもいなくなるときを思い出す。そうですね、たしかにいつも「じゃあな」とかなにかあった気がします。

    「まぁリアスたちの手間をかけさせなかったってことで。ね?」

     未だに不機嫌で突っかかってきそうなリアスを、レグナが割って入ってうまくフォロー。そうすれば、この方はなんだかんだレグナの言葉は聞くので。

    「……はぁ」

     先ほどは違い呆れ気味に大きくため息を吐いて、もうそれでいいと言ったように口を閉じました。私の言うことは全然聞かないくせにレグナの言葉はしっかり聞き入れるんですよね。とても解せない。

    「ビースト、かわいかった…?」

     話が終わったところで、服の裾を引っ張られる感覚。そちらに目を向ければ、クリスティアがほんの少しきらきら輝いた瞳で尋ねてきました。ああもうこの子本当にかわいい。いやされます。

     たたビーストの件については残念ながら今回は彼女の期待には応えられず。

    「ゴリラに猫耳をつけたようなちょっと視覚的に良くないビーストでしたわ」
    「それだけで想像したくないような奴だな……」

     正直笑いをこらえるの大変でした。

    「…それは、かわいくない」
    「そうでしょう」

     そしてクリスティアは頑張って想像したのか、とても難しい顔で首を横に振りました。さすがにかわいいと言われたら私もびっくりします。よかったかわいいの感覚がずれていなくて。また次かわいい子に逢えたらいいですねと頭をなでてあげた。

    「さて、見回りも残り少しのところまできたなー」
    「……ものすごく道のりが長かったと思うのは俺だけか」

     きっとあなただけだと思います。精神的な面で。

    「ここら辺で一度辺りの状況を見ておきましょうか」
    「だね」

     商店街を抜けて、なるべくヒューマンがいなさそうなところまで移動し、私は魔力を練って魔術モニターを展開しました。いくつかの電子パネルが出て、そこに色の違う点がいくつか表示される。これものすごい便利なんですよ。ビーストやヒューマン、ハーフのエネルギーを感知して、辺りがどういう状況かわかる優れ物。戦闘中では必須とも言えるものなので、魔法使いや天使などの魔力を有している方は全員が持っていると言っていいでしょう。

     ──と思っていたんですけど。

    「そのモニターはなんだ?」

     うちの最強天使様がいつも私の予想を覆す。え、ていうか知らないんですか。

    「魔術モニターですよ。状況把握のための必需品として誰もが持っているはずですが」
    「俺は持ってないが?」

     嘘でしょう?

    「お前なんで禁術とかの類はあらかた使えてこういう初歩的なもの持ってないの」
    「必要ないかと思って」
    「いやめっちゃ使いません? これ」
    「常にクリスティアの傍にいるならそういうのは必要ないだろう」
    「恋人の監視用じゃないんですよ」

     この男の能力会得の基準はクリスティアなのは知ってますけども。

    「周りに敵がいるとかわかった方がいつ襲われるかとかの不安も減るんじゃないの?」

     レグナのそんな言葉に、リアスはハッとしました。

    「レグナお前天才か」

     この人ほんとにバカですか。ため息を吐いて、隣にいた彼の恋人へ言う。

    「……あなたの恋人は本当にあなたのことしか見てませんね」
    「…照れる」

     いや褒めてるつもりはないんですけども。まぁとりあえずリアスは置いといて、モニターで辺りのことを確認しましょうか。

    「えーと……」

     魔力モニターはその人の魔力によって見れる範囲が違います。私はたぶんこの町全体くらいなら見れると思いますが、見回りは学校周辺なので今回はそこに絞って展開してみました。規制線を表す赤い線の内側には、たくさんのヒューマンやハーフを表す青と黄色が。そしてその外にはビーストを表す紫色が映っています。

    「とりあえずこの辺り周辺でなにか起きている様子はないですね」

     周辺一帯を見てみるも、紫色で表されたビーストが規制線を越えた様子はなく。規制線付近でもヒューマンとビーストが接触している様子がないので、一安心ですかね。

    「じゃあもう終わり…?」
    「このまま帰るまでに何事もなければ、そうですわね」
    「長い旅だったな」
    「あなただけですよ。とりあえず学校に向かいながら残りも見て回りましょうか」
    「学校に帰らねばならないのか」
    「報告あるから。先帰ってもいいけど?」
    「お前わかっていて言っているだろう。断る」

     本来二組の私とリアスは行かなくていいのでレグナの言うとおりこのまま帰ってもいいんですけどね。どうせこの男は心配だからと最後までついて行くので、折角ですから私も最後まで付き合いましょう。ゆっくりと、辺りを見回しながらまた四人で歩き始めます。


     穏やかな笑い声、楽しそうに歩く人々。こうして見ると争いは多々あれど、やっぱり平和になりましたよね、と誰に言うでもなく思う。戦争が絶えない時期は外に出ることだって難しかったのに、よくここまで平和になったものです。

    「…毎日、こんな感じならいいね」

     ぼんやり眺めながら歩いていたら、同じことを思っていたらしい隣のクリスティアが小さくこぼす。そうですね、と、目を向けず返した。

     こうやって歩いていると、あの頃のものすごく平和だった時を思い出します。
     四人でゆっくり歩いて、時々ちょっとした争いごとを解決することもあれば、トラブルの中心になることもあって。バカだなぁなんて思うこともあるけれど、最後はいつもみんなで笑って。あの日、もし悲しい結末なんてなかったのなら。こんな幸せな日々が続いていたのかしら。その答えは、いつもわからないけれど。


     ただ一つ、あの頃から変わらず思うこと。


     どうかこの先は、ほんの少しでも長く、楽しい幸せな日々が続きますように。


     クリスティアと二人で並んで、後ろの男性陣の話を聞いて。四人でのんびりと、歩いていく。
     そんな、小さな日常が、これからも──。


    「毎日こんな、穏やか日々ならいいですねぇ」

     夕焼けの空に目を移して、小さくこぼす。

     初めに同じことを言った水色の親友が視界の端で小さく頷いたのを確認して。


     願いが叶うように祈りながら、歩みを進めた。



    『叶うなら、この穏やかな日々が、永遠に。』/カリナ



    さぁ、その扉を開けて

    変更理由:カリナちゃん腐女子だけど一番はリアクリ推し

    「…どうして、あっちの二人にしたの?」

     女子二人で楽しくコーヒーカップに乗っていれば、突然目の前に座るクリスティアがそう聞いてきました。

    「んー……」

     その言葉になんて答えたらいいのかわからず、言いよどむ。もちろん理由はあるんです。ただ、彼女に言って良いものか否か。

    「ちょっと、確認段階です」

     とりあえずそう言って、一週間ほど前のことを思い出しました。



     入学してまもなく、私たち幼なじみがクラス分けにされたペアで付き合っているという誤解が起きました。私は準備で先に授業に行ってしまったのでその場にはいませんでしたが、その誤解をなんとなくレグナが解いてくれたとのこと。その話を聞いて「ああ、これでまた少し平和が戻るんですね」とレグナとほっとしていたのもつかの間。

     次の日学校に行っていつものように四人で廊下を歩いていれば、なにか不思議な言葉が聞こえてくるではないですか。

    「ねぇ、リュウレン歩いてるよ」
    「あ、リュウレンだ!」

     ……はて、リュウ=レンなんてうちの学校にいたでしょうかと聞こえてくる単語に耳を傾けてみます。

    「今日も隣同士で歩いてるね」

     聞いていけば、それは人の名前ではあるようですが一人の人物を指すわけではなさそうです。もう少し詳しく聞こうと、クリスティアの話に相槌を打ちながら女子たちに意識を傾けていけば衝撃発言が。

    「あそこって炎上君がほかの幼なじみの子全員と付き合ってるんでしょ?」

     そんなバカな。あれ、レグナがそれとなく誤解を解いたのでは? というかさりげなくリアスとレグナも恋人みたいになってるんですがどういうことなの。リュウレンって龍蓮のことですか。うちのリアスとレグナのことでしたか。そこまで考えて、一つの答えを導き出す。

     ……これっていわゆるBLですよね?

     太古の昔から同姓同士で愛し合い生涯を終えた方々も見たことがありますし、ご相談をされたこともあったのでもちろん存在は知っています。最近ではBLやGLというんですよね。そして現代ではそう言った愛を想像(創造)するフジョシなるものも存在するというのも存じています。転生者たるもの現代のことを勉強するのは当然ですから。さすがに自分の身内がその対象になるとは思いもしませんでしたが。まぁ妄想は自由ですしそこはいいでしょう。

     さて、転生者たるもの現代のことを勉強するのは当然のこと。人生を無難に過ごすためには、どんな話を振られても答えられることが大事。知識はあっても損はない。というわけでその日から龍蓮、つまりBLなるものはどういったものなのかをもう少し深く勉強すべく観察することにしてみました。



     その第一段がこのコーヒーカップ。本来ならば日常の中で見れれば一番いいのですが、まず第一にクラスは離れている。加えてリアスはクリスティアと常に一緒にいるし、四人で歩くときは基本的に男性陣は後ろを歩いているし、彼らが二人きりになるのなんて私が見ることのできない男子更衣室か私たちのお手洗い待ちのとき。
     これではいけないと思っていたところにリアスが遊園地に来ることを許可してくれたのでこれは天からのGOサインだと思い、リアスを買収して男女別でコーヒーカップに乗ることに成功しました。もちろんリアスを買収するためのクリスティアの写真ももう撮影済み。私も欲しいので。

     そしてきちんとクリスティアを見つつ、リアスたちを観察している現在に至ります。

    「…珍しいね」

     記憶のトリップを終えた頃、クリスティアはちょっと楽しそうにコーヒーカップのハンドルを回しながら言いました。かわいいなぁと思いつつ話に乗ろうとしたら記憶のトリップが長すぎてなんの話してたのか一瞬忘れました。なんですっけ、ああ、コーヒーカップのペア決め。

    「珍しい、とは?」
    「カリナはいつも、理由がちゃんとあるから…。確認段階って珍しいな、って」
    「そうですかね?」

     ふふっと笑いながらごまかす。この観察に至るまでにちょっとネットサーフィンをして勉強しましたが、この趣味的なものはちょっと誰でも彼でもには言えない。どんな質問が来ても答えられるのが人生を無難に過ごすためのコツ、なんて言いましたが、言えるかとあの日の自分を叱りたい。この子が同種なら話は別ですが。それを確かめる勇気はちょっとない。

    「とりあえずは勉強と言いますか、そのための確認ですわ」

     そう、言葉を濁しながらも、リアスとレグナを見る。うーん、二人とも無表情ですね。

    「ふぅん…」

     その答えにとくに興味なさげに相槌を打つクリスティア。そしてコーヒーカップを回し続けます。この子すごい丁度良い早さで回すんですよね。おかげでよく見れます幼なじみたちが。ちらちらとクリスティアもきちんと見ながら男性陣を観察していると、レグナが突然笑いました。

    「あ、笑った」
    「笑った…?」

     しまった思わず声が。レグナが楽しそうに笑うから声出ちゃったじゃないですか。こちらへ目を向けて首を傾げるクリスティアに「いえ、」と笑う。

    「リアスたちもなんだかんだ楽しそうだなと」

     実際リアスは全然笑っていないけれど、とりあえずそう言ってごまかせば、クリスティアもリアスたちを見て「ほんとだ」とちょっと嬉しそうな顔をします。なんでしょう、なんか私が彼らを見る視線とクリスティアが彼らを見る視線が違っててなんかこう、なんとも言い表せない。

    「楽しそうで、うれしい…」

     この子なんて純粋なの。ちょっと表情には見えないけれどリアスが楽しそうで自分も嬉しくなるこの子がほんとに天使に見えてきます。いや実際天使なんですけど。私も天使ですけども。聖天使ってこういう子のことを言うのかしら。

    「…どんな話、してるんだろうね」
    「またいつも通りの会話でしょう、レグナがリアスをいじってるんじゃないですか?」

     なんて返しながら、ほんとになんであんなに突然楽しそうに笑ったんでしょうかと考える。いつも通りの会話なんでしょうけど、今までレグナもちょっとつまんなそうだったから余計に気になります。つまらない顔の理由は私がこのペアにしてるからなんですけどね? それを笑顔にするってなにをしたの。ここからだと当然ながら聞こえないし、傍受魔法なんて持っていないし、でも会話は気になるし。さてどうしたものかと悩んでいたら、突然ほんとに神が舞い降りたようにこう思いました。

     聞こえないなら妄想すればいいじゃない、と。

     そうですよねなんて納得した時点で私はすでに腐女子の扉を開けて片足入れてる気がしますがそこは気にせずまずは神の言うとおり妄想してみましょう。
     いきなり無表情だったレグナが楽しそうに笑い、リアスもつられて段々と楽しそうな雰囲気を醸し出しました。ということはリアスがレグナに笑顔になるようなことを言ったということ?? リアスが「たまにはお前と二人でも良いかもしれないな」なんて言ったら?

    「いやお前クリスティアのこと心配しすぎるから二人だとこっちも気が気じゃない」

     だめですすごい現実的な言葉しか出てきませんわ。楽しくなるどころか不機嫌MAXになりそうです。

     とりあえず冷静になって設定から考えてみましょうかと、ふぅっと息を吐いた。ちゃんとクリスティアのことは見ながら、脳内で妄想の旅に出る。

     レグナはリアスが好きで? クリスティアもリアスが好き、それでリアスはレグナが好きだけどクリスティアと付き合って……どうしましょう、ただの最低な男にしかならない。あ、じゃあこうしましょう。私もクリスティアが(友情的な意味で)好きなのでそこも入れてみましょうか。ええと、クリスティアとリアスが許嫁、でも本当はリアスとレグナ、私とクリスティアが好き合っていて、というのであればリアスが最低な男にならずに済みますよね。なんか自分とクリスティアを巻き込んだ気がしますがあくまで妄想なのでいいでしょう。
     そこでさっきのリアスの「たまにはお前と二人でも良いかもしれないな」というのを考えてみましょうか。リアスが好きなレグナは「……何言ってんだよ」と、照れた顔に。照れた顔? 楽しそうな顔じゃないですね。あ、でも照れた顔のあとにやっぱり嬉しくて楽しそうな顔になる……これですわ。え、かわいくないですかレグナ。我が兄はかっこよさだけでなくかわいさも兼ね備えていましたか。やばいですね妄想。考え始めたらどんどん溢れてくる。普段恋人らしいことできないけど二人きりなったら甘い雰囲気になって、レグナも外では甘えられない分すごい甘えちゃったりして。かわいい。いいかもしれない龍蓮。片足どころかもう扉開け広げて飛び込みましたわ。後悔はない。

     むしろ何千年も生きててとくに代わり映えもない日常にいいスパイスですよね。もちろん正しくはクリスティアとリアスがくっつくのですが、妄想の中では日常を変えてみてもいいんじゃないでしょうか。というかリアスとレグナを本気でくっつければ運命変わって私たちのこの長い悲しみの人生も終わるのでは?

    「…カリナ?」
    「はいっ!?」

     なんて考えていれば、クリスティアに袖を引っ張られ名前を呼ばれました。びっくりして素っ頓狂な声が出ちゃいましたわ。

    「終わったよ?」

     彼女は小首を傾げてそう教えてくれます。かわいいなぁと思いながら景色を見れば言われたとおり止まっていました。あらまぁ旅に出ている間に終わってたんですね。

    「失礼しましたわ。行きましょうか」

     動揺やら興奮やらを悟られないよう、いつも通り笑ってそう言えば彼女は頷いて先を行く。出口では、すでに降りていた龍蓮が待っていました。

    「おかえりー」
    「ただいま戻りましたわ」
    「楽しかった…」
    「そうか」

     合流して、珍しく四人横一列になって歩き出します。左からリアス、クリスティア、私、レグナ。しまった男女逆にすればよかった。

    「お二人はいかがでしたか?」

     ちょっと悔やみながらも努めて明るく聞けば、

    「「虚しかった」」

     同時に返ってくる言葉。息ぴったりじゃないですかもう。ネガティブな言葉さえも同時に言ってしまえば仲良しでお似合いとか思ってしまう。フィルターってすごい。

    「…楽しくなかった?」

     しかしクリスティアはその言葉に残念そうで。首を傾げて聞けば、それに弱い二人は少しの間考えて、

    「最後の方は割と楽しかったかも?」
    「……まぁ、少しはな」

     というありがたいお言葉いただきました。ぐっじょぶクリスティア。それを聞いた私もクリスティアもとても嬉しそうな顔になります。たぶん意味は違いますが。

    「さて、次はどこに行きましょうか?」

     心の中でクリスティアに何度もお礼を申し上げつつ、地図を広げて次の目的地を問います。ここから近いのはお化け屋敷ですか。暗闇の中で触れ合ったり間違えて手掴んじゃったりしちゃうアレですか。妄想も楽しいけれどせっかくこうやって来たのだからちょっとくらい見たい。普段イベントとか絶対起こらないし今のうちにネタが欲しい。

    「とりあえずぶらぶら歩きながら行こうよ」

     そう思いながらレグナの言葉にそうですね、と返し歩を進めていきます。このまままっすぐ行けばお化け屋敷からは離れてフードコートに行きますね。気持ち左側に向かって歩いていきましょうか。さりげなく、ほんとに少しずつ、方向をお化け屋敷に向けながら歩いていく。そうすれば思い通りにお化け屋敷方面へと方向が変わっていきました。ぐっじょぶ私。
     さて、お化け屋敷ではどんな楽しいことがあるのかしら。期待に胸を膨らませながら目的地へ誘導して行ったことは、誰も知らない。


    『さぁ、その扉を開けて』/カリナ



    嫌な予感は的中するが、策士のせいで逃げられない

    変更理由:一枚絵コミックにできたので

    「お化け屋敷に入りませんか?」

     四人で話しながら遊園地内を歩いていれば、「お化け屋敷」と書かれた看板の前でカリナが止まり、そう言った。カリナはどこか楽しげな、期待をしているような、そんな表情をしていて。俺はこの顔を知っている。何かを企んでいる顔だ。

    「……却下だ」

     それをなんとなく察した俺は、すかさず却下をする。──が、

    「いいじゃんお化け屋敷。俺別にいいけど?」

     その表情に気づかない双子の兄は軽々と了承する。だからお前は毎回カリナが傍にいることが仕組まれていると気付かないんだ。

    「……暗いところは何があるかわからないだろう。俺は却下だ」
    「お前ほんとぶれないな」

     とりあえず、入学初日に「黙っておけよ」と口止めを喰らい俺もそれを口止めする代わりに美化委員に巻き込んだので、カリナが何かを企んでいるというのは伏せてもう一つの理由を言えば、レグナは呆れ顔でそう言った。呆れたいのはこちらの方なんだが。お前本当に大丈夫か? 妹のことを色んな意味でもう一度見直せよ。

    「リアスって暗いところ苦手でしたっけ?」
    「暗いところは平気だが」
    「じゃあ大丈夫ですよ!」
    「悪いが何が大丈夫なのかが全くわからん」

     その根拠のない自信はどこから来るんだ。呆れてカリナを見ても、その目はやはり自信と楽しみに溢れている。とにかくこの妹はお化け屋敷に入りたいらしい。こいつお化け屋敷とか好きだったか? どちらかというと「そっちよりジェットコースター乗りましょうよ」とか言うタイプだった記憶があるんだが。というか今日のカリナは何故か妙に輝いている気がするんだが気のせいか。気のせいだよな? そう自問自答していれば、カリナがクリスティアに耳打ちをしている。おい何言ってる。

    「…リアス様」

     クリスティアが近づいてきて、俺の服の裾を掴んで名を呼んだ。ああ、もう嫌な予感しかしない。

    「……なんだ」
    「お化け屋敷、入ってみたい…」

     ほら来た。クリスティアの言葉に、カリナを睨む。が、この女はそんなのを気にもせずにこにことしている。こいつはあと一押しという場面では俺がクリスティアの言葉に弱いということを知っているから本当に質が悪い。溜息を吐いて、クリスティアの肩を掴む。

    「……たかが作り物だぞ?」
    「そういうこと言わない」

     二重の意味で行きたくない俺はクリスティアを説得しようとそう言った。が、すぐにレグナに咎められてしまった。間違ったことは言っていない。

    「そんなに行きたくないの?」
    「そもそも何千年も(転生しながら)生きている俺達の方が亡霊のようなのに今更作り物のお化け屋敷が楽しいのか? 怖くも何ともないんだぞ?」
    「お前一回お化け屋敷のスタッフに謝ってこい」

     正直悪いとは思っている。しかし行きたくないんだわかってくれ。

    「…ね、だめ?」

     そんな俺の思いなんて露知らず。だめ押しでクリスティアが首を傾げて問うてきた。その仕草に心が揺れる。こいつこれを無意識でやっているというのが恐ろしい。

    「懐中電灯もありますし、クリスティアを挟むようにして歩けば大丈夫でしょう? それにアトラクションですから。危害を加えるというのはありませんよ」

     その揺らいでるところを見計らってカリナもそう言ってくる。だめだ分が悪い。

    「……わかったよ」

     ここまで言われて突っぱねるのもさすがに格好悪い。渋々了承すれば、三人は嬉しそうに喜んだ。お前らそんなにお化け屋敷が好きか。

    「では行きましょうか」

     何かを企んでいるような、そんな笑みをたたえて懐中電灯を持ったカリナが歩き出す。嬉々としてついて行くクリスティア、その光景に微笑みながら続くレグナ。こいつらほんとにカリナの表情には気付かないのか。

    「……はぁ」

     色んな意味で憂鬱な俺は。この短時間でもう何回目かもわからない溜息を吐いて、とりあえずクリスティアに結界をもう一枚張り重い足取りであとをついて行った。



    『嫌な予感は的中するが、策士のせいで逃げられない』/リアス



    彼曰く、常識人は忙しい

    変更理由:コミック楽しく描けました

    お化け屋敷の中に入って、レグナ、リアス様、わたし、カリナで四人肩を並べて歩く。

    「…本格的」

     辺りを見回して、つぶやいた。ちょっと薄暗いけどしっかり中は見える。血みたいのとか骨みたいのとかがいっぱい散らかってて雰囲気がすごい。

    「作り物とわかっていても怖がりな方には結構怖いかもしれませんね」
    「作り物とか言うなよ……」
    「実際作り物だろう?」
    「アトラクションの中で言うなって言ってんの」
    「お前そういうところはほんとに律儀だな」
    「お前はほんとに非常識だよな」

     その雰囲気をぶち壊しながら横で話す幼なじみの話を聞きつつ、歩を進めてく。そしたら、曲がり角が見えてきた。

    「…右?」
    「だろうな」
    「律儀に張り紙なんてあるんですねぇ」
    「迷わないようにだろ」

     お客さんが迷わないように張ってくれている右矢印の張り紙の通りに曲がった。──瞬間。

    「…ボール」

     ころころと足下に、小さなピンク色のボールがやってきた。拾い上げてみると、

    《…そのボール…返して…》

     突然聞こえてきた、小さい女の子の声。全員で目を向ければ、そこには着物を着た女の……子?

    「ねぇ女の子なの…? 女の人なの…?」
    「クリスティアさん、あんまりそういうツッコミはしないであげて」

     だって声と見た目が合ってないんだもの。すごい小さな子の声なのに、前に立ってる人はどう見たって女の人。

    「やるならどっちかにちゃんと合わせて欲しい…」
    「クリスって案外そういうとこ見ますよね」
    「本格的にやるなら妥協は許さない…」
    「クリスさーんそろそろあの子とのイベント進めてあげようか?」
    「…このボール、返せばいいの?」

     レグナに言われて、女の人に尋ねてみる。そしたら、その人はちょっと戸惑いながらこくりとうなずいた。

    「返せばいいみたいですわね」
    「投げ返せ」
    「リアスさん、たぶんこれ手渡しで返すやつ」
    「自分で手放してしまったなら自分で取りに来るべきなんじゃないですか?」
    「どうせ手渡しで返しに来たやつを驚かす魂胆だろう」
    「やめてあげて。クリス、ちゃんと返しておいで」
    「……」

     うなずいて一旦ボールを見て、考える。投げ返すのは、だめみたい。でも手渡しで返すのはリアス様が心配する。

     じゃあ、と思って、ボールを足下に置く。そのまま右足を振り上げて。
     ──ボールを蹴飛ばした。

    「どうして蹴飛ばしちゃうの!?」
    「投げ返すのは失礼だと思って…」
    「蹴飛ばす方がもっと失礼だよ!! ちゃんと返しておいでって言ったじゃん!」
    「手渡しはリアス様が心配しちゃうから…」
    「新しい発想でしたね」
    「俺的には楽しかったからよかったが」
    「俺たちはよくても向こう的にはよくねぇよ……女の人びっくりして逃げちゃったじゃん」

     レグナに言われて見てみれば、女の人が居なくなってる。あれもだめだったのか。

    「とりあえず阻む者がいなくなったので先に進みますか」
    「もうやだこの面子。俺がびっくりする」
    「向こう的にはいいんじゃないか」
    「お化けじゃなくてお前らにだよ」

     女の人がいなくなって通れるようになったから、四人で歩き出す。少しして、また張り紙があった。

    「次は左だって…」
    「またこの先に驚かすスポットがあるということですね」
    「ワンパターンだな」
    「ねぇ俺たちすげぇ質の悪い客なの気づいてる?」

     左に曲がって、また歩く。そしたら、檻みたいのが見えてきた。

    「あら、牢屋ですわね」
    「ろくろ首でも出てくるんじゃないか」
    「リアスさん予想は心にしまって」

    《…を…て…》

     ちょうど檻の目の前にきたら、かすかに聞こえる女の人の声。それと一緒に、牢屋にオレンジ色の明かりがついた。そこには、わたしたちに背中を向けて座ってる着物の女の人。

    「…江戸時代の人?」
    「疑問はそこなの?」
    「でもああいうの着ましたわよね、懐かしいですわ」
    「おばけもびっくりの反応だよ」

    《私を…ここから出して…》

     今度は、はっきり聞こえた女の人の声。

    「…出して欲しいんだって」
    「悪いことをしたから牢屋にいるんだろう。放っておけ」
    「リアスさん、もう少し驚かされる努力をしようか」
    「それには努力がいるのか? 向こうの技術の問題だろう」
    「もう俺お前とお化け屋敷来たくないわ」
    「二度と来ることはないから安心しろ」

     もう来ないの? って残念がってたら、カリナが「ねぇ」って言ったからみんなでそっちを向いた。
    「驚かされる努力ってことは、まずはちゃんと向こうの話にノってあげればいいんですね?」
    「まぁ、そうじゃね?」
    「ではクリス、話しかけてみましょう」
    「わかった…」

     うなずいて、女の人に話しかけてみる。

    「どうやって、出せばいいの?」
    《そこの鍵を…はずして…》
    「でも、悪いことしたからそこにいるなら、勝手に出ちゃだめ」
    「この状況でそれ言っちゃう?」
    「現実なら正論だけどな」

    《いいの…早く…早く私を…》

     話にノってあげたら、ちょっとずつこっちを向く女の人。

     ──じっと、見ていたら。

    《私をここから出してぇぇぇぇええええ!!》

     ガシャンって音をたてながら、檻にしがみついて大声を出す。振り返ったその顔は、のっぺらぼう。

    「・・・・・・・」
    《・・・・・・・》

     そして、走る沈黙。

    「なんかリアクションは」
    「のっぺらぼう…」
    「ろくろ首じゃなかったか」
    「ろくろ首でしたら自分で開けられるでしょう」
    「そうじゃないじゃん、驚こうよ」
    「それはお前にも言えることだからな?」

     ぜんぜん驚くことなく言うわたしたちに、向こうの女の人はちょっと戸惑ってるみたい。顔見えないからわかんないけど。

    「ここはこれで終わりでしょうか?」
    「それ聞いちゃうんだ」

     振り返ってからはとくになにもなくて。カリナがのっぺらぼうさんにそう聞けば、向こうはうなずいた。

    「なら進むか」
    「ですねぇ」
    「なんかほんとに申し訳ないわ」
    「ばいばい…」

     のっぺらぼうさんに手を振ってから歩き出す。すごい悲しそうな雰囲気だったけど、止まってるわけにも行かないので先に進もう。




     ♦


    「……!」

     それからちょっと進んだとき。何かが来る気配を感じた。
     瞬間、ぺたって音と、暗くなる視界。停電かなって思ったけど、誰も声を上げてない。違うのかな。どうしようもできなくてその場に止まってると、最初にレグナの呆れた声が聞こえた。

    「…リアス」
    「なんだ」
    「これは一体どういうこと?」
    「俺がクリスティアに張った結界にこんにゃくが張り付いている」
    「お前はほんとにすべてを台無しにするな」
    「さすがに私も予想外でしたわ」

     真っ暗な視界の中で三人の会話を聞いてると、どうやらわたしにこんにゃくが張り付いたらしい。冷たさを感じないのは、リアス様が張った結界のせいだと思う。ひとまず危ないものじゃないとわかったのでひっぺがそうと奮闘してみた。なかなか取れなくてわたわたしてたら、突然ちょっとだけ明るくなる視界。目の前には、カリナ。

    「大丈夫です?」
    「なにも感じてないから大丈夫…」

     カリナはほほえみながらわたし(に張られた結界)についた水滴を拭ってくれる。なにも感じないのに水滴を拭われてるのは不思議な感覚だ。「いいですよ」と言ってくれたカリナにお礼を言って、リアス様に向き直る。

    「リアス様…」
    「……念のためと思って」

     咎めるように名前を呼べば、ちょっと気まずそうに返ってくる。気持ちはわからなくもないけども。

    「これじゃ楽しめない…」
    「あ、楽しんでたんだ?」
    「とっても」
    「もうちょい表情に出して」

     失礼な。とても楽しそうな表情してたじゃん。そう聞けば、レグナには首を振られちゃった。こんなにも表情に出してるのに。

    「「「「──!」」」」

     なんて話してれば、またなにかが来る気配。しかもすごい勢いで。移動してくるそれは、今度は物とかじゃなくて──。

    「人間だな」
    「定番のおっかけだろ」

     四人で後ろを振り向く。その姿が見えたのは、わたしたちまであと三メートルくらいのところ。お屋敷内が暗くても見える、真っ赤な体に、金棒。

    「…鬼…わっ…」

     それが鬼だとわかった瞬間、体がふわって浮いた。視界は変わって、リアス様の背中が見える。ああ抱えられたんだと思って上体を起こしたら、ちょっと後ろでレグナとカリナも走ってた。

    「おい危害は加えないんじゃなかったのか」
    「いやあれも驚かすためだけに追いかけてるだけだから!」
    「でもすごい威圧ですよ」
    「いかにも人殺しそうな感じがするんだが」
    「金棒振り回してるよ…」
    「うわぁ殺る気満々」

     わたしだけ後ろ向いてるから見える鬼は、結構なスピードで金棒を振り回しながら走ってくる。あれすっぽ抜けたりしないよね。めっちゃ怖い。

     ──あ。

    「スピード、あげてきた」
    「まじか」

     鬼も驚かせようとしてるみたいで、もっとスピードを上げてきた。心なしか金棒を振り回すスピードも上がってる気がする。あれ絶対飛んできたら痛いよね。間違ってもすっぽ抜けないで欲しい。

    「すごい速い…走るのも金棒振るのも…」
    「奴はアスリートか何かか」
    「ねぇ一回止まって驚かされたフリした方が早いんじゃないの!?」
    「いやこのまま出口まで追いかけるのが目的だろう。止まったところでここを出るまではひっついてくるんじゃないか」
    「お前お化け屋敷詳しいね!?」

     ちょっとずつ縮まる距離を離すように、こっちもスピードを上げて、出口まで走り続ける。

    《わるいごはいねぇぇぇぇえかぁぁぁぁぁあああ!!》
    「それなまはげの言葉だよ!!」
    「走りながらツッコミするのも大変だね…」
    「おかげさまでな!!」

     レグナのツッコミに頑張れとエールを送りながら、なまはげ鬼との距離を見る。向こうもまたスピード上げてるみたいで、ほんの少しずつ距離は縮まってった。

    「…あと一メートルくらい」
    「まじか」
    「ではここで先ほどのこんにゃくを投げてみましょうか」
    「まじか!?」

     あと少しで追いつかれそうになったとき、カリナが持ってたらしいこんにゃくをなまはげ鬼に投げる。突然のことにさすがのなまはげ鬼もびっくりして、飛び上がってそのまま転んだ。

    「止まりましたわ、今のうちに出ましょう」
    「ナイスだカリナ」
    「お化け屋敷に来てお化けを驚かす客なんて聞いたことねぇよ!!」

     そのうちに、出口を抜ける。いきなり明るいところに出たから、思わず目を細めた。

    「怪我はないか」
    「大丈夫…」

     リアス様に下ろしてもらって、自分は無事なことを伝える。わたしは無事。隣ではレグナがしゃがんですごい息切らしてるけど。

    「あの程度で息が切れるのか。だらしないな」
    「お前らに、ツッコんでた、からだよっ……」
    「あら、そんなにツッコまれるようなことはしてませんよ?」
    「終始してましたけど記憶にありません??」

     確かにいつもよりレグナはいっぱいツッコんでたなぁと思い返す。おつかれと肩を叩いて、さすがに休ませてあげようと問いかけた。

    「レグナ、なんか飲む…?」
    「飲む」
    「フードコートにでも行きましょうか」
    「そうする……めっちゃのど乾いた」
    「よく喋るからだろう」
    「何回でも言うぞ、そのしゃべらせたのはお前らだ」
    「別にツッコまなくたっていいんですよ?」
    「ツッコまざるを得ないことばっかりするからだろ……」
    「そうでもないだろう」
    「お前が一番ツッコまさせてんだよ」

     呆れ顔のレグナの手を引っ張って立たせてあげて、また全員で歩きだしてフードコートに向かった。



     のどを潤しても結局ツッコミ三昧になったレグナは、もう天性のツッコミ気質なんだと思う。

    『彼曰く、常識人は忙しい』/クリスティア



    我らが王子の魅力は90%が顔である

    変更理由:うちの世界観上、他種族を従えるようなものを連想させる乗り物とかだめだったのに気づきました(許可があればOK)

    「まるで王子様のようですわね」

     隣に立つ妹がそう言った。

    「だなぁ」

     俺はスマホで写真を撮りながら相づちを打つ。そして、一呼吸おいて、二人同時に言葉を発した。


    「「顔だけは」」




     昼ご飯を食べつつ少し休憩をしたあと。クリスティアが「メリーゴーランドに乗ってみたい」と言ったので四人でアトラクションまでやってきた。さすがに通算で数千は越えるであろうこの年でメリーゴーランドに乗る勇気はなく。俺は遠くで見てるからと言えばカリナが「では私も」と言ったので現在兄妹揃ってカップルのメリーゴーランドを見学中である。

     だいぶ並んではいたけど、やっと二人の順番が来て、馬やら馬車やらを選び始める。クリスティアは少し大きめの馬が気に入ったらしく、指をさしこれに乗りたいと主張した。リアスは付き添いだしどれでもいいらしく、頷いて了承する。すごくない? 遠くで見てても何考えてるかわかるんだよ。長年の付き合いって怖い。
     そう思いながら見ていると、馬にはリアスが始めに乗った。お前が先に乗るのかよと内心でツッコみつつ事の行き先を見守っていれば、馬の少し後ろ側に乗ったリアスがクリスティアに手を差し伸ばす。

     そう、それはまるで白馬に乗った王子様のように。

     そしてクリスティアは姫のように、差し出された手にそっと自分の手を重ね、リアスに引っ張り上げられながら彼の目の前に座るように馬に乗った。

     お前らは童話の人間か、とツッコみたくなるほどきれいな動作に並んでた人や一緒にアトラクションに乗る人たちは見ほれている。周りからしたらもうリアスは王子様。一部の女子は目にハートが見える。確かにイケメンがさらっとああいうのできるってすげぇかっこいいよなぁ。男から見ても思うわ。だけどそのかっこいい行動はすべてクリスティアの為だけであって、中身がかなり残念であることを俺は知っている。現実って残酷だよね。とまぁ、そんなことがあって冒頭の会話に戻るわけでして。

    「でもリアスって典型的な王子顔でもないよな」
    「どちらかというと少女マンガで出てくるタイプの不良顔ですよね」
    「それは褒めてるの?」
    「あら、最上級の褒め言葉じゃないですか」

     ディスってるようにしか聞こえないのは俺だけかな?

    「少女マンガではさわやか男子よりツンデレで意地悪な男子に落ちる確率が高いイメージがあるのですが」
    「俺少女マンガは読まないからわかんねぇわ」
    「熱血主人公よりクールなライバルの方が人気が高いみたいなものですわ」
    「ああ、それならわかる」

     こいつほんとに現代のこと勉強してるなぁと関心しつつ、スマホでは動画やら写真やらを撮り続ける。あとでリアスに送るためのもの。ズームをしながら撮ってるけど、スマホの画質がいいのか表情もよく見える。結構楽しそうで何よりだ。その光景にこちらも微笑む。カリナにもあとで送ってやろう。

    「その理論で言ったらお前もやっぱりリアスみたいな顔が好みなの?」
    「不良顔ですか?」

     顔はずっとスマホに向けたままで、さっきの会話に戻る。もうカリナにはリアスの顔は不良顔と認定されているようだけどそこは気にせず頷いておいた。

    「そうそう。女子はツンデレで意地悪な不良顔が好きなんだろ?」
    「まぁ、ツンデレ男子はかわいいとは思いますが」

     かわいいんだ? そこの疑問は恐らく説明されても理解はできなさそうなので置いておいて、ふと思ったことがあったのでカリナに顔を向けて違う疑問を投げかけてみる。

    「結構リアスって女子に人気だけどお前も好きになったことってあるの?」
    「あの男を? 私が??」

     まるで「信じられない」といったような顔と声で言われた答えに俺も信じられない。好きになったことないのって言う方ではなくほんとにこの世の終わりのような顔の方に。

    「女子はああいうのが好きなのかなぁって?」
    「あの男の魅力は顔だけでしょう」

     言外に顔以外は全否定しているように聞こえるんだけど気のせいじゃないよな。

    「他にはないの?」
    「では逆に聞きましょう。彼の魅力は?」

     聞かれて「そりゃあ……」とリアスたちの方に視線を戻して考える。
     魅力。あいつの魅力。引くほどの過保護……は魅力じゃねぇか。すげえ強い。でも全部彼女のためなんだよな。心は一番最弱だしクリスティアに何かあると手がつけらんないしクリスティア以外に興味ないし……

    「……顔」

     考えて考えて、精一杯の答えがそれしかなかった。

    「でしょう」
    「うん……」

     ごめんリアス、お前の魅力がわからない。こんな親友を許して。せめてものフォローをと、聞いてみる。

    「じゃあ中身は置いておいて、顔だけで言ったら?」
    「顔だけで言ったら好みではありませんが良い顔だとは思いますよ」

     好みじゃないけど良い顔ってどういうこと。

    「まぁ中身はアレでも顔が良い彼は得ですよね」
    「なんで?」
    「顔がいいからいろんなことが得できるでしょう」
    「得なんてしてたっけ」

     記憶を探ってみるもそんなに得をしている様子は出てこない。

    「とりあえずモテますね」
    「あーそれはな」
    「モテるので貰いものがすごいんですよ」
    「バレンタインとかクリスマスとか誕生日?」
    「そうです」
    「確かにもらってたかもな、すげぇ量」
    「そしてそれがすべてクリスティアのものになります」
    「得してるのはクリスティアじゃねぇか」
    「リアスも得でしょう、自分がモテることでクリスティアに貢げるんですから。笑顔になりますよクリスティア」
    「リアスにあげてる人たちがかわいそうにならないのか……」
    「あの男にそんな良心があると思います?」

     あると自信を持って言えない。それでも頑張って一個くらいは顔以外にいいところを見つけようと頭を回転させれば、一つ、思い至った。

    「なぁ」
    「はい」
    「彼女に一途とかは魅力じゃない?」

     何千年も、変わることの愛情。若干歪んでいってる気はしなくもないが、この何千年間一人だけを愛し続けるってすごいんじゃないだろうか。もちろんクリスティアにも言えるけど。

    「自分のことそんな長い間変わらず愛してくれるって嬉しくね?」
    「浮気の一つでもした方が運命変わる気がしますけどね」
    「お前絶対それリアスに言うなよ」

     笑って言ってるけど冗談に聞こえない。

    「でも魅力、ではあるんでしょうね。彼女だけを愛して、そして彼女を守るために強くなる。そこは良いところではあると思いますよ」

     なんか久しぶりにリアスへの褒め言葉を聞いた気がするのは俺だけだろうか。

    「まぁだからこそあんな残念な男ができあがったわけですが」
    「華凜さん上げて落とすのやめて」

     本人が聞いたら絶対心が折れる。

    「お前龍のこと嫌いだっけ?」

     あまりの辛辣さにカリナを振り返って思わず聞けば、

    「あら、そんなことありませんよ?」

     笑顔でそう返ってくる。ごめん信じられない。

    「彼にはなんだかんだなんでも言えますから。大切な幼なじみですよ」

     さっきのは信じられないけど、これには同意できた。俺もリアスには比較的何でも言えるかも。悩みでも、普通の会話でも。もちろん、クリスティアにも結構なんでも言える仲だけど、リアスはまた別なんだよなぁ。遠慮なく、素のままで言えるかも。

    「これも一つの魅力?」
    「ですかねぇ」

     なんて話していれば、時間が来たらしくブザーが鳴ってアトラクションが止まり、クリスティアとリアスが馬から降りる。そのときもリアスが先に降りて、クリスティアの手を取りながら降ろしてやっていた。ほんとに見てると王子様だよなぁ。

    「あれで中身が心配性で残念でなければ文句ないのですが」
    「天は二物を与えないんだろ」
    「むしろ宝の持ち腐れでは?」
    「そっちかぁ」

     クリスティアたちが歩いてくるまでにそんな会話を繰り広げていると、リアスがすげぇ不機嫌そうな顔をした。え、なに突然。

    「どうしたリアス」
    「何故だかものすごく不快なこと言われた気がした」

     お前はエスパーか。すかさずカリナが言葉を発する。

    「あなたの魅力について語ってたんですよ」
    「どうせ顔だけがいいとか言っていたんだろう。中身が残念だとか」
    「お前俺たちの会話聞いてたの??」
    「鎌をかけたつもりだったんだが本当に言っていたのか貴様ら」
    「そもそもなんでその話してたって予想に至ったかがわからなすぎて怖い」
    「帰ってくるときに見たお前らの口の動きでなんとなく」

     こいつは読唇術まで覚えてるのか。若干恐怖で身震いする。二の腕をさすりながら、とりあえず移動しようかと歩き始めた。

    「ねぇクリス」
    「ん」

     のんびり歩を進めてれば、前を行くカリナが同じく前を行くクリスティアに聞く。

    「なぁに?」
    「リアスの魅力ってなんです?」

     それ聞いちゃうの? 変なこと言わないだろうなと冷や冷やしながら、悩んでるクリスティアを見る。恋人でもぱっと出てこないのか。よく悩んだ方が愛があるって言うけどほんとなのかな。あまりにも残念すぎて出てこないじゃないよな。そうして一分くらいみんなで眺めてたら、クリスティアがはっとした顔になって口を開いた。


    「…代表的なのは、顔」

     姫すら中身ではなく顔だった。

    「だそうです」
    「知っている」
    「ショックとかはないの?」
    「何故だ?」

     いや何故だって、ねぇ?

    「もっと中身とかに魅力感じてほしいとかさ、あるじゃん?」
    「人間結局のところは顔だろう」
    「あ、うん、そだね」

     まさにそれを体現している友人に俺はそれ以上の言葉を返せなかった。


    『我らが王子の魅力は90%が顔である』/レグナ



    見失った君の笑顔は、手を伸ばせば届く距離にある

    変更理由:リアス様は帰ってきてもこんなに冷静じゃないはず

    「……寝たか」

     交流遠足を終えた夜。クリスティアは満足したのか早々に寝入り、その横でやっと終わったと息を吐く。さすがに慣れないことをすると精神的に来るなと思いつつ、幸せそうに眠るクリスティアを見れば「まぁ悪くはなかったか」と思う。

    「……?」

     時刻は夜9時。眠るのにはまだ早いなと本を広げれば、スマホが鳴った。画面を見れば、送信者はレグナ。

    「……二十件以上もあいつは何を送ってきているんだ」

     画面には、「写真を送信しました」というポップ。スマホのロックを解除してラインのアイコンを見れば、二十五、六とその件数は増えていく。そういえばあいつすげぇ写真撮ってたな。

    「しかも俺とクリスティアばかりか」

     ラインを開いて送られてきた写真を見る。そこには、クリスティアと俺が写ったものばかり。時折カリナとクリスティアの写真もあるが、それでも俺かクリスティアの単体か、二人で写っているものばかりだった。

    「……」

     道を歩く途中の俺とクリスティアの後ろ姿、地図を広げて目的地を決めるカリナとクリスティア。昼飯を頬張ってるクリスティアに、メリーゴーランドの写真。

     その全てに写っているクリスティアは、楽しそうだった。──そして、俺も。

    「普段こんな顔しているのか俺は……」

     自分の写る写真になんとなく気恥ずかしくなって、口元を押さえる。楽しそうで、時折微笑んで。普段自分の顔なんて見ないから、こんな顔をしていると思わなかった。

    「……ん?」

     それからまた十件ほど送られた後。《これも》という短いメッセージのあとに一つの動画が送られてきた。背景から見て、バスの中。あいつどれだけ撮っているんだ。容量よく持ったな。親友に呆れながら、スマホにイヤホンを差して動画を再生した。


    《クリスはどこ行きたいの?》

     始めに聞こえたのは、レグナの声。周りが少しうるさいが、はっきり聞こえる。

    《…観覧車》

     レグナの問いに、映し出されているクリスティアが楽しそうに答えた。普段はあまり聞くことのない、ものすごく上機嫌な声。

    《リアス様とね、カリナとレグナで、みんなで乗るの》
    《リアスと二人じゃなくていいの?》
    《うん、みんなで乗りたい》

     地図を広げて、カメラに気付かないくらい夢中になってクリスティアは話す。

    「……久しぶりに見たな」

     ぽつりと、呟いた。もちろん普段から楽しげではあるが、ここまで上機嫌というのは俺でもあまり見ない。俺がそうやって上機嫌になるものまで奪ったからだと自嘲して、動画を見続ける。

    《あとは?》
    《メリーゴーランドも》
    《俺は遠慮するわ……》
    《じゃあリアス様と乗る》
    《そうして》
    《リアス様、絶対似合うの、メリーゴーランド》
    《そうかぁ?》
    《顔、王子様みたいだから》
    《ああ、顔だけ》
    《中身もわりかし王子様。ちょっと残念だけど》
    《王子なのはクリスティア限定だろ》
    《ん、そう》

     そこで、クリスティアが幸せそうに微笑んだ。そして続けるように、口を開く。

    《わたしになんでもしてくれるから。わたしの王子様》

     その言葉に、胸が痛くなった。動画の中の彼女に、言いたくなる。

     何もしてやれていないだろう、と。

     ただ奪うだけなのに。行きたいと言うところにも連れて行かない、欲しいものを買ってやることもあるが、それはネットで売っているものだけ。我慢ばかりさせて、ただただ自分のテリトリーに繋ぎ止めて、自由なんてない愛しい恋人。それなのに──。

    《なんでもって、例えば?》

     レグナの声に、自己嫌悪に陥りそうな意識が引き戻された。再び動画を見れば、クリスティアは幸せそうに、楽しそうに語る。

    《たとえば…。いろんなもの、見せてくれる》
    《色んなもの?》
    《外には行かないけど、景色が好きなこと知ってるから。いろんな場所のね、写真集買ってくれるの》
    《へぇ、初めて聞いた》
    《それをね、一緒に見るの。寝る前とかに》
    《リアスも見るんだ?》
    《ん、景色の本を広げるとね、一緒に眺めてくれる。そのときがうれしい。一緒に、その場所に行って、眺めてるみたいで》
    《楽しそうだね》
    《うん、とっても》
    《あとは?》
    《食べたい、とか見たいって言ったもの、できる限り頑張ってくれる。作ってくれたり、調べたりして、家の中でもいろんなことしてくれるの。なんでもしてくれた》

     クリスティアが語る話を、思い出す。
     自分の手の届く範囲に閉じこめて、だんだん外に出なくなった頃。景色が好きなクリスティアに一冊の本を買ったことがあった。世界中の絶景が見れる本。海の中、星空。あいつが好きなものが詰まってそうな本を選んで、買った。それを与えたら毎晩毎晩眠る前にその本を開いていたのを、はっきりと覚えている。そんなにおもしろいものなのかとのぞき込んだのがきっかけだった。毎晩のようにクリスティアが本を開いては一緒に眺めて、「ここはこういう場所だ」だとか「ここは行ったことあった」だとかを話すことが習慣になって。話をすればクリスティアはとても楽しそうだった。それが嬉しくて、テレビを見て綺麗だと言ったものや、「こういう景色あったよね」と言ったものが載っている本を買ってやったりはした。食べたいものもクリスティアがしたいと思ったものも、家の中でできるものだけ、与えてはやった。たぶん、縛っていることに対する自分なりの罪滅ぼしなんだと思う。

    「お前は”叶えてもらった”もらったと思っているんだな……」

     残り少ない動画を見ながら呟く。
     願いを叶えた覚えはない。むしろあいつの願いはほとんど却下している印象しか、自分にはなかった。レグナが全てを叶えるのなら、俺はほとんどのものを奪ってしまう。ただそれでは良くないと思ってもいるし、あの親友が「たまには」と言ったから、今回は連れて行っただけ。千回懇願された内の、たったの一回だ。それなのに、お前は”叶えてくれた”と笑ってくれるんだな。

    《なぁクリス?》
    《ん?》

     動画の中で、レグナがクリスティアを呼ぶ。地図を見ながら話していたクリスティアがこちらを向いた。スマホを自然に持っているように見せているのか、レグナが動画を撮っていることには気付いていない。

    《クリスは、幸せ?》

     何聞いてるんだこいつは。突然の問いに、俺も、動画の中のクリスティアは目を見開く。が、俺と違って彼女はすぐに微笑んだ。

     ──とても、幸せそうに。

    《…とっても》

     その一言で、動画の再生が終わった。画面をラインに戻せば、一つのメッセージ。


    《ちゃんと心から笑ってるよ》


     その一言に、ふっと笑みがこぼれた。

     こんなに簡単なことでよかったのか、と。

     奪うだけだと思っていた自分。クリスティアの願いは叶えてやれず、ただただ縛ることだけしかできなくて。大切なものをたくさん奪われて、少しずつ笑顔が消えていったように感じた愛する人。自分の望んだ世界はこうではなかったと、何度自己嫌悪に陥っただろう。いつからか見失ってしまった、幸せそうに心から笑う彼女を求めて試行錯誤しても、見つけることはできぬままだった。けれど今、そうやって探し求めなくてもよかったんだと知る。

     彼女は俺の愛したあの笑顔で幸せだと笑った。何気ない、俺が奪ってきた小さな日常で。

     幸せはすぐ傍にあるとはよく言ったものだ。こんな小さなことでクリスティアは笑い、俺は幸せになる。

    「……レグナには頭が上がらないな」

     クリスティアの柔らかい髪をなでながら、呟く。
     あいつに言われてあの遠足に行っていなければ、クリスティアがああやって笑ってくれていることにも気づけなかった。それどころか、また閉じこめて、後悔に苛まれていたんだろう。つくづくあの双子は俺たちのことをわかっているな、と苦笑いがこぼれた。

    「……次、か」

     カレンダーを見て、あいつらが勝手に立て始めた計画を思い出す。次はゴールデンウィークだとか言っていたな。まだ了承したつもりはないんだが。どうせ強行突破してくるんだろう。約束が嫌いだと突っぱねても、最終的に奴らが立てる予定を許してしまう。
     約束は嫌いでも、あいつらと過ごす日々は愛すべき宝物だから。それが増えていくことは嫌じゃない。それは、クリスティアも。こいつはこの四人で過ごす日々が、大好きだから。

    「……次を約束したら、お前は笑ってくれるのか」

     返答はないとわかっていて、こぼした。きっと笑ってくれるんだろう。答えは自分が一番知っている。けれど──。
     奪って奪って。それに慣れてしまったから、”与える”というのはまだ難しい。それでもお前のあの笑顔が、今度は直接見れるなら。いつか、この人生の中で。もしダメだったなら次でも、その次でも。

     あの日失った君との未来を、約束してみようか。





    『見失った君の笑顔は、手を伸ばせば届く距離にある』/リアス



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