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元五月編 一覧

以下の話は、電子版では大幅改稿 または削除されています。これはこれで楽しめます(わたしが)

  • あなたが神か
  • 何千年と一緒にいても、知らないことはまだたくさん
  • 類は友を呼んでいました
  • 三日目・暴露大会
  • 君がいない世界に、意味などないから
  • あなたのいない世界にも、意味なんてないから
  • 面倒事は、さらなる面倒を引き連れてやってくる



  • 『あなたが神か』

    削除理由:人混み嫌いなのを知っていて、カリナちゃんは簡単にお買い物には誘わないなって

    「全員ご苦労だった」

     予定してたより早く演習が終わって、みんなでまたスタジアムに集まった。今は杜縁もりぶち先生が紙を見ながらメガホンでこれからの説明をしてくれてるところ。その間に、わたしたちには一枚の紋章みたいのが配られてた。

    「今配っているのは”演習場入場許可証”だ」

     江馬先生に渡された紋章。意外と硬くて、カードみたい。表にはエシュトの校章、裏にはわたしの名前が書いてる。

    「我が笑守人学園では、演習や異種族間の暴動以外での武力、能力行使は禁じられている。しかし、実力向上のためには演習や訓練が不可欠。そこで、我が校では月一回の演習とは別に、この演習場を自由に使えることになっている。その入場に必要なものがこの”演習場入場許可証”だ」
    「放課後になるとこのスタジアムには管理さんが来ます~。その人に、自分は演習をしますという意思表示の意味でこの許可証を提出してください。そうすると~」

     全員に配り終わった江馬先生が、自分のポッケから透き通ってきれいな青いブレスレットを出した。

    「この”演習許可証ブレスレット”がもらえま~す」
    「個人で演習をする場合には必ずこのブレスレットを着用すること。着けていない場合は”私闘”とみなし、規則違反で罰則が与えられるから注意するように。それと、」

     今度は杜縁先生がポッケから赤色のブレスレットを出した。こっちも透き通ってて、よく見ると、中に魔法陣みたいのが描いてる。

    「ヒューマン対ハーフ、もしくはビーストで演習をする場合。ヒューマンが能力を使用不可と提示した場合には、こっちの赤いブレスレットがハーフやビーストに追加で渡される」
    「これは”魔力制御ブレスレット”と言って、一時的に魔力を練ることを妨害するものです~。付けると自動で魔力妨害の術式が働きます。解除は管理さんしかできないので、退出する際や能力有りの演習に切り替えるときは一度管理さんに解除してもらってくださいね~」

    「……外せそうだな」

     ぼそっとなに言ってるの。

    「龍さん外さないで」
    「罰則受けますよ」
    「有事の際ならばいいだろう」
    「いい…のか?」

     リアス様解呪得意だから外しそうだけども。

    「以上、何か質問はないか」

     一通りの説明が終わって、杜縁先生が聞いた。でも、誰も手をあげる人はいない。杜縁先生は生徒を見回したあと、先生たちを見てうなずく。

    「では今日の演習はここまで。次回は六月一日だ。次回からは種族、男女混合で行う。各自訓練に励むように。解散っ」

     先生のかけ声に、みんなでお礼を言って、解散した。中には残って早速演習する人もいるみたいで、受付の方に行く人もいる。

    「さて、私たちは演習していきますか?」

     いろんな人が散り散りになってく中で、カリナがわたしたちに聞いた。レグナが思いっきり首振ってる。

    「俺は別にどちらでも構わないが?」
    「わたしも…」
    「俺はパス。さっき死にかけたし」
    「龍と闘わなければ良いのではなくて?」
    「必然的にお前と闘うことになるんだけど? 刹那にも俺勝てないし」
    「加減、するよ…?」
    「お前は戦法がリアスそっくりだから嫌だ。首元にナイフ突き立てられんのは年に一回くらいでいい」

     レグナに真顔で拒否されちゃった。違う戦法ならいいのかな。

    「演習しないなら俺は帰るぞ」
    「あら、せっかくまだ二時ですのにもう帰られるんです?」
    「学園に残っていても意味はないだろう」

     とりあえず使う人たちの邪魔にならないように歩き出す。スタジアムから出る直前に見た時間は午後二時。今日は演習日だから他の授業もなくて、これからは暇。
     今日はレグナと並んで、後ろにリアス様とカリナが続いて、外に向かう通路を歩く。どうしようか、って悩んでたら、カリナはぱっと閃いたように声を上げた。

    「ねぇ、暇でしたら──」
    「嫌な予感しかしない」
    「ひどいですわね龍。これからお買い物でもどうですかと聞こうと思っていたのに」
    「お前、俺が出掛けるの嫌いだと知っているよな?」
    「知ってますよ当たり前じゃないですか」
    「ならなぜ買い物という選択肢が出るんだ……」
    「明日の夜からあなた方のおうちにお世話になるので必需品を買いに行こうかと」
    「俺と刹那はいらないだろう」
    「女子にはそろえなくてはならないものがたくさんあるんですよ?」
    「言っておくが俺と刹那は自分の家だからな? 自分たちのものはすべて揃っているんだが」

    「刹那、なんか欲しいものある?」

     若干言い合いになりつつある後ろのカリナとリアス様の会話を聞いてたら、レグナが声をかけてきたから意識をそっちに向ける。お泊まりで欲しいもの。なんだろう。お泊まりで必要なのってあんまりわかんないけど、この四人だったら。

    「…みんなで遊べるやつ?」
    「ゲームとかパーティグッズかな」
    「蓮、ゲームなにか持ってくる…?」
    「あーお前ん家にゲーム機あれば?」
    「ゲーム機…」

     言われて、自分の家にあるものを思い返してみた。リアス様もわたしも本読む方だから本はいっぱい。でもゲームはあんまりしない。

    「ない、かも」
    「じゃあゲーム機も持ってく?」
    「壊れちゃわない…?」
    「そんな過激に扱う気?」
    「ゲームって少しいじっただけでも壊れちゃいそう…。動かなくなったら叩くんでしょ?」
    「それは間違った方法かな刹那さん」

     昔はそうやって教わったのに。いつの間に時代は進歩したの。

    「まぁ適当になんか持ってくよ。あとは?」
    「スゴロク…?」
    「あ、おもしろそう」
    「あとはチェス…」
    「龍得意そうだね」
    「うん…」

     なんて二人で話してたら。

    「刹那もお買い物行きたいですよね!」
    「わっ」

     突然カリナが後ろから抱きついてきた。びっくり。

    「おい危ないだろう。それと毎度刹那を使うな」
    「使ってませんー。私は刹那の意見を聞いてるんです!」

     リアス様がわたしの隣に並んで、演習場を出て四人で歩く。ていうかカリナ、抱きついたままだと歩きづらい。

    「わたしは、行きたい…お買い物。ゲーム見たい」
    「だってさ?」
    「華凜は刹那が行きたいというのをわかっていて、あと一押しのタイミングでこいつに話を振るから嫌なんだ」
    「そこでお前が折れるってわかってるからだろ」
    「……」
    「図星かよ……」
    「で、龍? 行きますか?」

     カリナがわたしに抱きついたまま聞くと、リアス様はものすごく不服そうな顔で悩む。でも、少しして。

    「行けばいいんだろう……」

     仕方なさそうに、うなずいてくれた。
     それを聞いたカリナは嬉しそうに笑ったあと、わたしから離れてリアス様の隣に並ぶ。

    「では行きましょうか。学園近くに大きめのデパートがありますの」
    「そこ知らない…」
    「あなた方の家の反対方面ですから」
    「だからなんでお前は俺達の家を知っているんだ……」
    「女性に秘密は付き物ですよ龍」
    「本来守秘するべき個人情報を奪取したやつが何を言う」
    「あ、ちょっと歩くので車呼びます?」
    「聞け。そして呼ばんでいい」

     校門を出て、いつもは右に行く道をみんなで左に曲がった。寄り道。学生らしい過ごし方に、ちょっと頬がゆるむ。


    「本当に買うものなにもないんですか?」
    「自宅なんだからないだろう」
    「クリスティア用の布団とかあるじゃないですか」
    「何さりげなく離そうとしてやがる」

    「そういえばこっからデパート行くまでにおいしいクレープ屋あったよ」
    「クレープ…」

     隣を歩くリアス様とカリナの会話を聞きながら、こっちはこっちでわたしとレグナで話す。わたしたちの家方面ってなんもないけど、こっち方面はそんなすてきな場所があるのか。

    「甘いの好きでしょ? せっかくだから寄ってく?」
    「寄ってく…」

     甘いものちょうど食べたかったしぜひ。ひとまず行くことは勝手に決めて、事後承諾も兼ねて、隣の二人に声をかけた。

    「なぁ、クレープ屋寄ってくって」

     レグナの声に、二人は会話をすぐに中断してこっちを向く。カリナは嬉しそうにうなずいた。甘いものがきらいなリアス様は、ちょっと引き気味。

    「クレープ屋さんですか、いいですね」
    「俺は食わないからな」
    「一口くらい食べなさいな」
    「ものによる」
    「最近サラダっぽいのもあるから食えるだろ」
    「……それなら、まぁ」

     結局許してくれるリアス様に笑って、歩みを進めてく。

    「ここら辺の通り道、おいしいお店多いですよね」
    「学生が多いから買い食いをさせて売り上げを上げるんだろう」
    「お前はどうしてそういうこと言うかな?」
    「事実だ」
    「オブラートに包んで」
    「無理」

     なんて話をしてたら、

    「…あれ?」
    「ん? ああ、そうそう」

     少しして、カラフルな車が見えた。看板が出てて、「クレープ屋」って描いてる。奥にもちらほら車が止まってた。

    「どれがいい?」
    「いっぱいありますね」

     ひとまず一番前のクレープ屋さんの車の前で止まって、メニューが書かれた方の看板を見る。チョコチップ、チョコバナナ、生クリーム…種類がいっぱい。レグナが言ってたサラダもある。

    「俺はサラダクレープ」
    「私はリンゴホイップで」
    「俺はチョコバナナかな。クリスティアは?」
    「んー…」

     おいしそうなのがいっぱいあって、なかなか決まらない。メニュー看板とにらめっこして、悩む。

    「…これ」

     長考の末、ひとつを指さした。

    「チョコケーキホイップのアイス乗せ?」
    「ん」

     チョコケーキとチョコソース、あとバニラアイスが乗ったクレープ。リアス様が若干引いた顔してるけど気にしない。


    「はい、おまちどうさま」
    「ありがとう…」

     四人でクレープを頼んで、できあがったのを受け取る。ちょっとあったかくて、おいしそう。台に置いてあるスプーンももらって、歩き出した。

    「こぼすなよ」
    「ん…」

     リアス様に言われて落とさないように注意しつつ、かぶりつく。冷たいアイスに、ほろ苦いチョコケーキ。甘いホイップ。ちょっとあったかい生地。全部が混ざった絶妙なおいしさに、頬がゆるんだ。

    「おいしい…」
    「こちらもおいしいですよ?」

     おいしさに浸ってれば、目の前にカリナが頼んだリンゴホイップ。生のリンゴは好きじゃないから避けてかじり付けば、ほんのりしみついたリンゴの甘さとホイップが混ざって、わたしのとはまた違うおいしさ。

    「こっちもおいしい…」
    「でしょう?」
    「カリナも。あーん」
    「あら。いただきますわ」

     お返しに、カリナにも食べさせてあげる。

    「おいしいですわね」
    「ん…」

     おいしそうに笑ってくれたカリナに、ほほえみ返した。

    「リアスはやらないの?」
    「やんねぇよ」
    「食べる? リアス様…」
    「俺が甘いもの嫌いなこと知っているだろう」

     レグナが言ったからリアス様に話を振ったら却下されちゃった。おいしいのに。差し出したスプーンは自分の口にもっていった。


    「あ、あそこですわよクリスティア。見えます?」

     そうして四人で食べながら歩いてたら、カリナが指をさした。少し遠くに見えるのは、おっきいビル。

    「おっきいね…」
    「近くに行ったらもっとおっきいよ」

     今がちょうど学園とデパートの半分くらいらしい。ここでおっきく見えるから、確かに着いたらすごくおっきいかも。

    「中、なにがあるの…?」
    「デパートですから色々ありますわ」
    「フードコート、ゲーセン、服屋、おもちゃ屋……ないものがわからないくらい?」
    「楽しみ…」

     ここ最近はおっきいデパートとか行かなかったから。期待に胸を膨らませて、クレープの最後の部分を口に放り込んだ。

    「……なぁ」
    「ん?」
    「どうしました?」

     クレープを包んでた紙をゴミ箱に捨てて、ビルに向かう。そしたら、突然リアス様が声をかけてきて、三人でそっちを向く。

    「ゴールデンウィークの休みのときにあそこに行けば一日遊んでられるんじゃなかったのか?」
    「あなたが出かけないと言ったから仕方なく今日、この日に来てるんですけどわかってます?」

     リアス様の問いには、カリナが笑顔で返した。なんとなく顔は笑ってるけど目が笑ってない。

    「……すまない」

     さすがのリアス様も気圧されて、思わず謝る。それを見て、カリナは今度はちゃんと笑った。

    「まぁ正直あなたとクリスティアは来る必要なかったかもしれませんが」
    「そうだよな。来る前から思っていたしそう言ったはずだが?」
    「私がクリスティアと一緒にいたくてお誘いしましたわ。嫌ならリアスだけ帰っても構いませんが」
    「ほんとにいい性格しているなお前は」
    「ほら、まぁたまには学生の放課後を楽しもうということで。ゴールデンウィーク出かけられそうなら隣町とかに行ってもいいじゃん?」

     またいつもの言い合いになる直前、すかさずレグナが入って仲裁した。そうすれば、リアス様もカリナもちょっとだけ不服そうだけどうなずく。
     なんとなく、リアス様もカリナもまだなにか言いたそうだけど、レグナが「行こうよ」と声をかけたら、口をつぐんで歩き出した。

    「レグナさすが…」
    「それほどでもー」

     だんまりになった二人にさすがとほめたら、レグナはなんとなしに笑う。普段はカリナ口うまいなって思うけど、こういうときはレグナすごいよね。もちろん昔からのつきあいだから本気でけんかとかってしないし、お互いの地雷とかもわかってるけど。身内の言い合いとかってレグナがほとんど止めてる気がする。レグナの言葉ってなんか妙にしっくりきて、そうなんだ、って素直に思える。
     それに気遣いできるし、相手が傷つかないように言うし。なんだかんだレグナだって強いし、いろんなことできるよね。あれ? 実はレグナも完璧なんじゃない? 家事もできるでしょ、戦闘面で言ったら意外と全属性の魔術持ってるから、リアス様対策できるのってレグナだけでしょ。相手のペースに合わせてくれて、なんでもできて。ずっと、見守ってくれて、間違えそうになったらそっと正してくれる人。そう、まさに──。


    「…レグナって神様だったの?」
    「ごめん何の話?」



     ふと思い至ってそう聞けば、レグナにはわけのわからないって顔をされました。


    『あなたが神か』/クリスティア



    『何千年と一緒にいても、知らないことはまだたくさん』

    削除理由:上記同様、&「四人で生きること」に拘っているので、逢わないことはないなと気づいてしまった

    「広い…」
    「だろ」

     クレープを食べたあともアイスだなんだって買い食いをしたりしながらやってきた、この町最大級のデパート。五階までだけど一フロアが大きいから、一日じゃ回りきれないなんて話もよく聞く。初めて来るデパートにクリスティアはちょっと楽しそうだ。

    「まずはどこから行きましょうか」
    「まず何が必要なんだ」
    「えーとパジャマと、みんなで遊べるようなものと……あとは布団です?」
    「布団いる?」
    「だってリアスの家にはどうせベッドがひとつでしょう?」
    「その通りなんだが何故お前は俺の家に詳しいんだ」
    「想像がつくんですよあなたは」

     ああ、わかるかもしれない。

    「ペアで一つ布団を使うとしても一つないでしょうに」

     確かにそうだよなぁ…ってちょっと待って。

    「ペアで一つってどういうことカリナさん」
    「そのままの意味ですが」
    「リアスとクリスティアが一緒に寝たら俺お前と一緒なの?」
    「兄妹なんですし構わないでしょう」
    「年齢考えて」
    「双子の妹によこしまな気持ちを抱く気ですか?」
    「ちげぇよ」

     何千年と生きた経験上布団が小さいんです。

    「お前寝相悪いし俺いっつも追い出されてたの記憶にない?」
    「私過去は振り返らないタイプなので」

     うわぁ我が妹ながら殴りたい。

    「客用の布団なら一式あるが? 元は俺用のものだが」
    「あら、そうでしたの。あなた用ならサイズも十分そうですね」
    「勝手に話進めないで」
    「レグナ、人と一緒に寝るとあったかいからよく寝れる…」
    「お前らは寝相良いから俺の悲しみを知らない」
    「あ、あと私クリスティアとも寝たいのでそのときはお二人で寝てくださいね」
    「「待て待て待て」」

     妹が当たり前のようにびっくり発言したけど待ってください。思わずリアスも声を上げた。

    「なんですか?」
    「おかしいだろう」
    「お前とクリスティアが寝るのはわかるけど、その流れで俺たちが同じ布団になるのはどうなの!?」
    「だって布団二つしかないんでしょう? そうなるじゃないですか」
    「なにが悲しくて男二人で布団に入らねばならん」
    「たまには男性同士で友情深めてくださいな」
    「断る」
    「さすがに一緒に寝るのは嫌だわ……」
    「でも、修学旅行は一緒に寝ないの…?」
    「ですよねぇ」
    「布団を並べて寝るのと一緒の布団に入るのとじゃ全然違うだろうが」
    「隣で寝るなら一緒ですよ。では布団はあるということで。まずはパジャマでも見に行きましょうか」
    「カリナさん話終わらせないで!」

     かなり重要な話が勝手に解決された気がする。え、ていうか本気で決まったの?? 疑問に思ってる俺たちなんて気にもせず、カリナはクリスティアを連れて三階の衣服売場に行くためエレベーターへ向かう。呆然と見ていたら、肩を叩かれた。リアスだ。

    「安心しろ、カリナがクリスティアと寝るなら俺はソファを使う」
    「俺客側だから俺が使わせてもらうわ……」

     二人でそう決めて、ため息を吐きながら俺たちはカリナとクリスティアを追った。






    「せっかくなのでおそろいにしましょうか」
    「する…」

     エレベーターで三階に上がって少し歩いたところ。パジャマ売場までたどり着いて、女子はさっそくかわいらしかったりちょっときわどかったりのパジャマを吟味し始めた。

    「泊まりがそんなに楽しいのか?」
    「結構な重大イベントじゃないの?」

     俺たち男子と言えば、ひとまず店の隅、女子二人が視界に入る場所で待機中。

    「お前だって一緒に住む前はたまに泊まりしただろ?」
    「そうだな」
    「やっぱり嬉しいとかなかった?」
    「やっと傍にいられるという安心感でいっぱいだった」

     こいつはこういう奴だった。

    「そもそも長年一緒にいるんだ。今更泊まりくらいで緊張も楽しみも特にない」
    「まぁわかるけども」
    「ねぇ、これいかがです?」

     話してれば、カリナとクリスティアがそれぞれ二着のパジャマを持って声を掛けてきた。

    「これかこれで悩んでる…」

     クリスティアが持ってる片方は、ピンク色のふわふわパーカーに同じ生地の短パン。もう片方は、黄色で同じふわふわ生地。パーカーなのも同じだけど、黄色のは帽子の部分に耳がついてて、下の長ズボンにはしっぽがついてる。形的に猫かな?

     そしてカリナのはそれの色違いで、クリスがピンクの方はカリナが水色、動物のやつはカリナがピンクで、モチーフは犬。色的に合うのは二人とも動物のやつなんだけど。

    「こっちの動物じゃない方もかわいいね」
    「そうですか?」
    「色的には動物の方が似合いそうだけど。リアスは?」
    「動物の方がいつも着ている色で見慣れているが、違う色も新鮮なんじゃないか」
    「あ、やっぱり? ちなみに私たちはアニマルのパジャマを買おうと思ってます」
    「「なんで聞いた」」
    「参考程度に。男性はどちらが好みなのかとクリスと話題になりまして」
    「当たり障りない回答だった…」
    「うわぁ女子めんどくさい……」
    「目の前で言わないでください」
    「お前ら以外の女子には面と向かって言わん」
    「差別ですよ」
    「それだけ気を許しているんだ。決まってるならさっさと買ってこい。クリスティア、ほら」
    「ん」

     カリナの抗議を無視して、リアスが鞄から自分の財布を渡す。それを受け取って、クリスはカリナを連れて会計へ向かっていった。すげぇ彼氏っぽいなリアス。そういえばクレープ買うときとかも一緒に払ってたりリアスが食わなくてもクリスティアの分出してたな。

    「やっぱ恋人にはお金出させないタイプ?」
    「なんだ急に」
    「いや、今もだけど途中で買い食いするときもお前が出してたから。恋人には払わせないタイプなのかなぁって」
    「払わせないというかクリスティアに財布を持たせていない」
    「どういうこと」

     すげぇななんて尊敬して聞いてみたらまさかの衝撃事実。

    「一緒にいるなら必要ないだろうと思って」
    「お前と離れてるときに必要になったらどうすんだよ……」
    「離れるときは小銭入れを渡すときもある」
    「面倒だから財布持たせてやれ」

     なんでこいつはこうも常識をはずれてるんだろう。尊敬を通り越して呆れてたらカリナ達が帰ってきたので、次はパーティグッズを買い求めに五階に向かった。





    「なにがいいですかねぇ」

     五階に着いてエレベーターを降りると、目の前におもちゃ屋が広がってた。店内を一周しながら、四人で楽しめそうなものを探してく。

    「リアスの家になんかある? トランプとかチェスとか」
    「何もない」
    「娯楽系何もないの?」
    「使わないからな」
    「お休みの日は本読んだりしてるから…」

     そう言えば二人とも読書家だったなぁ。さすがにトランプとか何もないのは驚きだけど。延々と読書してんのか。

    「クリスがやりたいっていってたのはこれだろ?」
    「チェスとスゴロク…」
    「あら、楽しそうじゃないですか。リアスはいかがです?」
    「俺は何でもいい」

     近くにあった、さっきクリスティアがやりたいって言ってたゲームを持ってくる。全員異議なしなので、持って来ておいたかごにその二つを入れた。

    「あとは無難にトランプですかね」
    「ボードゲームとかもあるけど」

     一緒にいた頃はゲームをよくやってた双子ペアでおもしろそうなゲームを吟味してく。今色んなの増えたよなぁ。全部おもしろそう。

    「五日間となると結構あってもいいんじゃないですか?」
    「五日間延々とゲームをする気か?」
    「だってあなた外に出ないでしょう」
    「庭くらいは出る」
    「リアスそういう問題じゃない」

     とりあえず手当たり次第有名どころのゲームをかごに入れてく。トランプ、チェス、スゴロク……。こんなもんか?

    「これも…」
    「ん?

     服の裾を引っ張られて、後ろを向く。そこにいたクリスティアが持っていたのは、大きなサイコロ。よくサイコロの各目にお題が書いてあるやつ。これはこれでおもしろそう。ということで受け取ってかごの中に入れた。

    「あとはなんかある?」
    「トランプでも結構遊べますし、いいんじゃないですか?」
    「あとはレグナがゲーム持ってくるんでしょ…?」
    「そうそう。じゃあこれでいっか……ん」

     レジに向かいつつ一応他にも何かないかと探していたら、ふと一つのパッケージが目に入った。

    「なぁ、こういうのは?」

     手にとって、三人に見せる。それは罰ゲームカード。山から引いたカードに書かれてる罰ゲームをこなすやつ。罰ゲームらしいものもあれば、恋愛のものもある。俺が見せてるのは恋愛編。

    「罰ゲーム…?」
    「そ。負けた人が引くの」
    「楽しそうですね」
    「俺は引かなそうだが」

     うわぁなにその自信。

    「でもクリスティアが”勝った人にキスする”とか引けばラッキーじゃん」
    「それをお前が引いたら本気で俺にするのか?」
    「そこは違うのにするわ……」
    「というかキスが罰ゲームってクリスティアとリアスには日常茶飯事でしょう?」

     あ、確かに。じゃあ違うのにしようかな。

    「生まれてこの方キスなどしたことないが?」

     なんて違うものに差し替えようとしてたら聞こえてきたびっくり発言。今なんて?

    「待って? 俺の聞き間違い?」
    「リアスなんて言いました?」
    「この何千年間口づけなどしたことない」

     カリナが聞き返すも、返ってきた答えは同じ。え、まじで?

    「クリスティアさん?」
    「したこと、ないよ?」

     クリスに聞いても、さも当然に返ってくるNO。嘘だろ?

    「お前ら何千年恋人してんの!? キスしたことないって嘘だろ!?」
    「初回はする日に消滅したからな」

     傷口えぐってごめんなさい。

    「それでもその後にする機会はいくらでもあったでしょうに。ほっぺとかもないんです?」
    「ないな」
    「ない…」

     まじか。こいつらほんとに付き合ってるのと聞きたいレベル。

    「どんだけ清いお付き合いなんだよお前ら……」
    「そもそも口づけやらなんやらだけが愛情表現とは限らないだろう」
    「傍にいることも、大事…」

     いやそうなんだけどね?

    「ていうか一緒に暮らして一緒に風呂入ってて恋人らしいことないって……」
    「もはや家族か兄妹ですね」

     確かに恋人よりは兄妹みたいに見えるけども。そうじゃないじゃん。

    「恋人らしいことしたら運命変わるんじゃないの?」
    「それで変わるならこの何千年苦労していない」

     返す言葉がなかった。

    「まぁでも、初キスが罰ゲームはちょっと気の毒ですわね」
    「だなぁ。だったらこっちにしよっか」
    「罰ゲームするのは決定なのか?」
    「楽しいじゃん」
    「ね、用意できないのもある…」

     さすがに初キスは大事にした方がいいと、恋愛の方を棚に戻して隣の罰ゲームらしい罰ゲームカードを手に取る。そしたら、裏面をみたクリスティアがそう教えてくれた。裏を見れば、激辛のおかしを食べるとかカツラをかぶって一日過ごす、とか彼女が言うとおり用意できないのがいっぱいある。

    「勝った人がなにかご褒美をもらえるというのにしますか?」
    「そうしよっか。その方が楽しそう」

     買うより自分たちで決めた方が早い。追加は諦め罰ゲームカードも棚に戻して、再び四人でレジに向かった。

    「何千年一緒にいても知らないことってあるんですねぇ」

     前を歩くカップルを見ながら、隣のカリナの言葉に確かにと頷く。

     カリナはどんなに突き放しても最終的に逢うけれど、実はリアス達とはその人生で逢わない、なんてことは多々ある。もちろんあの二人は幼なじみでずっと一緒にいた大事な存在。なんだけど、俺の選択にはカリナだけが関わっているわけで、言ってしまえば俺たち双子の運命にはあっちは関係はない。逆もしかり。必ずしもその人生の中であいつらに逢うわけじゃないから、その逢ってない時期のことは知らないこともあるっちゃある。ただ、逢ったときにはこんなことがあったとかをよく話すから知らないっていう方がないかと思ってた。まさかキスをしたことがないとは。いや俺もないけど。恋人いない歴=年齢ですけども。案外互いに知らないことって多いのかもな。そこで、ふと思い至る。

    「そう言えばこれ」
    「はい?」

     さっきクリスティアが持ってきたサイコロを指さした。カリナもそっちを見る。

    「クリスティアが持ってきた。おもしろそうだからって入れたけど」
    「暴露ゲームですか」
    「そ」

     頷いて、続けた。

    「案外まだ知らないことあったりしてね」
    「さすがにあれ以上の衝撃はないでしょう」
    「そうだよなぁ」

     そう笑いながらも、あれ以上の衝撃はなくともなにかしらびっくり発言はあるんだろうなと思う。確信ある。だってあいつらだもの。とりあえずはこれ以上リアスが一般人離れした話が出ないことを祈って、会計を済ませた。


    『何千年と一緒にいても、知らないことはまだたくさん』/レグナ



    『類は友を呼んでいました』

    変更理由:リアス様まず人多いとこ死にそうじゃね?ってことも含めちょっと本編で変わりました

     こんにちはカリナです。合宿二日目、午後二時になりました。スゴロクを終えお昼を食べて約束通り出かけた先は、私が住む南地区の大きな公園。外周四キロほどの大きな公園で、中はアスレチックや砂場がある子供用スペースと、大人も楽しめる球技場スペースできれいに二等分されています。ゲーム大会の息抜きに罰ゲームなしで体を動かしたいとレグナが言うので、球技場スペースの近場にある貸し出し場からバスケットボールを借り、今私たちはバスケのコートにいます。

     先ほど男女混合で軽くバスケをして、私とクリスティアは一度休憩のため抜けてきました。二人でバスケを続けている彼らを、クリスティアと共にコート内のベンチに座って見ています。もうそこで考えることはただひとつ。

     龍蓮いいなぁ。

     リアスは本当にもうチートなので運動神経も抜群。レグナも悪い方ではありませんがリアスには中々歯が立ちません。ボールを取ろうとすればリアスは軽々避け、時にはフェイントをかけ、まるで弄んでいるよう。必死になってるレグナかわいいなぁとか思いながら遊んでいるんでしょうか。もう遊園地の時以降から彼らがほんとに両片思いであればいいのにという思いが強まってます。腐女子怖い。できればこの合宿でなにかあればと思いますが、自然にハプニングを起こすというのは難しいもの。

     強化合宿という名のお遊び会も早二日ですが、これといってテンションが上がるようなイベントもまだないです。

     昨日リアスとレグナを一緒の布団で寝かせて、寝入ったフリをして少し観察してましたがいい意味でも悪い意味でもなにもなかった。リアスがクリスティアとレグナを間違えて抱きしめてしまうというハプニングを期待しましたがそんなことも起こらず。スゴロク大会も危機が起きてしまうとレグナよりクリスティアの安全を優先してしまうので良いハプニングなんて見れず。

     あの遊園地でのお化け屋敷でも思い描いたようにはならないし。結局妄想に頼るしかありませんが、もう少し現実から供給が欲しいです。

     けれど今私たちが引いてまだ実行していない罰ゲームでも、中々供給を受けられそうなものはありません。レグナの一日メイド服がどう転がるかですかね。リアスが引いたのは”苦手なことをする”。これは確実にクリスティア絡みですから期待はできそうにないでしょう。


     さぁどうしようかとリアスとレグナのバスケを見ながら考えしばらくしていたとき。突然左側の袖が引っ張られました。

    「だいじょうぶ…?」

     ちょっとびっくりしてぱっと左を見れば、クリスティアが小首を傾げています。なんてかわいらしい。ときめきながらも笑顔で「大丈夫ですよ?」と返しました。私今の妄想やらなんやらを口に出してませんよね。大丈夫ですよね。

     なんて思っていたら、彼女から衝撃発言が。


    「…供給、足りない?」


     ……はて彼女はなにを言っているんでしょうか。
     ここで「クリスティアが供給なんて言葉を使うのは珍しいですね」と全く違う思考に至ったのは仕方ないと思います。それくらい彼女が中々使わない言葉ですもん。え、ていうかちょっと待ってくださいね。この子なんて言った? 供給? 龍蓮の供給のことですか?? いやきっと私の考えているものとは違う。だってこの子はこの四人の中では無知の方だもの。

    「えぇと、いきなりどうしました?」

     とりあえず平静を保って、笑顔で聞き返してみます。きっとお昼ご飯の供給足りなかったとか飲み物の供給足りなかったとかそんなお話ですよね。

     ──しかしそんな願いは儚く。

    「リアス様とレグナのBL供給が足りないのかなって」
    「待ってくださいほんとにちょっと待ってください」

     急いで彼女の口をふさぐ。さぁ彼女がなにも言えなくなったところで状況を整理しましょうか。

     彼女はなんて言いました? BL? リアスとレグナの? え、待って知ってたの? この子が?? いつから?
     どうしましょう考えれば考えるほど疑問しか浮かばない。結局すぐにクリスティアの口を解放してあげて、一言。


    「何で知ってるんですか…」


     BLという単語ももちろん、何故私がそっちのことを考えているかも含めて。聞けば、クリスティアは口を開く。

    「なんか、腐女子が出始めた頃、ちょうど四人学校同じで、そこでリアス様とレグナがくっついてるって噂があったから」

     まじですか。ていうかもう少しオブラートに包んでクリスティア。

    「え、でもなんで私がそっちだと?」
    「あれだけくっつけようとしてればバレる…」

     そんなバカな。リアスはまぁわかりますがこの子には絶対バレない自信があったのに。

    「どうせバスケ見ながら次はどういう風にしようかなとか自然にくっつけるの難しいなって思ってたのかなって…」
    「その通りなんですがあなた今日よくしゃべりますね」

     いつも拙いしゃべりだったり基本的に無口な彼女は今日はまぁよくしゃべる。BLってすごい。

    「待ってくださいね、クリスティアがそのことに関して知っていることはわかりました。もう一つ質問があるんですが」
    「なぁに…?」
    「えっと、あなたはそっち系OKなんです?」

     あくまでオブラートに包んで、聞いてみる。中には苦手という方ももちろんいらっしゃいますから。この子が苦手だというのならばこれからはなるべく自重をしたいので、と返答を待っていれば、ゆっくりと動く右手。私の顔の前に出された手は、親指を立てる。

     出ましたOKサイン。


    「まじですか」
    「まじです…。わたしとカリナがくっついてリアス様とレグナがくっつけば運命乗り越えられるんじゃないかなって思ってる」

     考えていること一緒だった。けれどそこでまた疑問がよぎる。

    「でもあなたリアスに縛られてるじゃないですか。携帯制限とかされてるでしょう?」
    「ん…?」

     過保護が加速していっているリアスは、変なことに巻き込まれないようクリスティアに色んな制限を設けています。携帯はネットができないようにしているし、束縛彼氏のように連絡先はリアスのしか入っていないし。

    「情報とかってどうしてるんです?」
    「紙」
    「紙」
    「わたしは本読むの好きだから…。そっちで情報得てる…」

     なるほどその手がありましたか。

    「リアスが読んでバレたりしません?」
    「がっつりそういう要素入ってるのだったら、よくわかんなかったって言えばなんとかなる」
    「嘘でしょう?」

     この子こんなに計算高い子だったかしら。ああでも、先回りしてレグナを道連れにするあたり案外そうなのかもしれない。女子って怖い。

    「ふぅ……ではちなみにどっちがいいです? 攻めと受け」

     もう隠しても仕方ないと、だいぶ精神的にも落ち着いてきたのも相まってお互いに再びレグナとリアスのバスケを見ながら話を広げる。今度はレグナがボールを持っていますね。でもリアスのように余裕はなくて逃げるのに必死そうです。

    「わたしは割とどっちでも…。最初は龍蓮だったけど、蓮龍もよかった」

     わぁこの子思ってた以上に腐女子だった。

    「この前龍蓮を知ったばっかりなのでまだ蓮龍には踏み入れてないですわ」
    「じゃあ想像してみて」
    「はい?」
    「今、ああやってレグナの方が追い込まれてるでしょ」
    「そうですね」
    「普段からレグナってリアス様に敵わないでしょ?」
    「そうですね」
    「でも恋人らしい展開になったとき、その立場が逆転するの」
    「つまりはいつも追い込んでいるリアスが恋人関係ではレグナに追い込まれると?」
    「Yes」

     言われて、想像してみる。いつもはなんでも勝っているリアス。隙のないリアス。けれど、レグナと二人きりになってなんとなくまぁ恋人らしい雰囲気になって。だめだと言っていても段々段々レグナのペースに墜ちていく──あ、やばい。

    「新境地ですね」
    「でしょう」

     強いリアスが恋人の前だとどうしようもできなくなるのも中々萌えますね。今バスケでリアスがガンガン追い込んでいても二人きりになったら甘い言葉とか言われちゃって負けてしまうということですか。いいですね蓮龍もはまりそう。若干にやけるのを抑えながら、ふと、またよぎった疑問をクリスティアに投げかけてみる。

    「ねぇクリス?」
    「なぁに」
    「もしこのまま本当に彼らの中が進むとします」
    「ん」
    「本来の恋人であるあなたとは別れてレグナと付き合いたいと言ったらどうするんです?」
    「それはいいんじゃない?」

     いいんですか。この子リアスのことちゃんと想っているのか時々心配になりますね。

    「レグナと付き合いたいって言ってるのに無理に止めたらかわいそう」
    「まぁそうですね」
    「それに本当に付き合うことになったら妄想だけじゃなくてちゃんと供給があるからそれはそれで」
    「あなた思った以上にしっかり腐女子ですよね」
    「知ってる」
    「ではもう一つ、レグナとクリスティア、どちらも選べないと言われたら?」
    「話し合い…」
    「するんですか?」

     普段リアスもだけど言葉より行動派のこの子からびっくりな発言が聞こえて思わずクリスティアの方を振り返って聞いてしまう。そうしたら、クリスティアは至ってなんでもないように続けた。

    「そりゃ選べないって言われたらお話はする…気持ちを伝えてって言われると不利だけど…」
    「あなたの呪いリアスに想い伝えられないことですもんね」
    「ん…まぁでもあそこの二人がくっつくなら身を引いてもいいかなとは思う…」
    「確かに彼らも幸せになって私たちも幸せですもんね」
    「さすがカリナ、わかってる…あ」

     恐らく実際そうなったら大泣きするんでしょうけども。そこは黙っておいて、なるべくいつも通りの表情を保って話していれば、ボールが転がってきました。それを追うように、少し汗をかいたリアスとレグナがこちらに帰ってきます。あとで「お前のにおいがする」「やめろよ」とか言うんでしょうか。

    「何話してんの?」
    「リアス様はやっぱり運動神経いいねって話…」

     この子さらっと嘘言いましたよ。今日で私の中のクリスティアのイメージが変わりすぎています。でもまぁさっきの話は言えはしないので話には乗っかりますが。

    「レグナはリアスには敵いませんね、と」
    「だってこいつチートだもん」
    「魔力は使っていないが?」
    「使ったら俺この世からいなくなる」
    「大袈裟だ」

     こんないつもの掛け合いも本当に仲がいいなぁと微笑ましく思う。もうくっつけばいいのに。

    「そろそろカリナたちも混ざる?」
    「それとも違うものをするか?」

     クリスティアが転がったボールを拾いあげれば、二人が汗を拭いながら尋ねてきました。その言葉に、クリスティアと自然に目を合わす。その目で、恐らく互いに言いたいことはわかったはず。

     二人同時に頷いて、リアスとレグナに向き直る。そして一緒に口を開いて、こう返しました。


    「「もう少し、休んでる(ます)」」

     あなた方の話がしたいので。


    『類は友を呼んでいました』/カリナ



    『三日目・暴露大会』

    変更理由:彼ら自身はお互いのことよく知りすぎているので、違う内容でコミックになりました

     昨日、あのあとみんなで帰って。リアルスゴロクとかいろいろあったからって早めに寝て。朝。目が覚める。

    「…おはよ」
    「はよ」

     一番始めに視界に入るのは、いつも通りリアス様。その次に時計を見て、ああもう十時過ぎたんだって思った。起きあがって、さぁベッドから降りようかなって体を床に敷いてある布団側に向けたら。

    「おはよクリスティア…」

     膝丈スカートのかわいいメイドさんがいました。とても死にそうな顔をして。

    「…着たの。えらいね」
    「違う。朝起きたらすでに俺はメイドになってた」
    「どういうことなの…」
    「俺が聞きたい」
    「ていうかよく起きなかったね、着せられてる間…」
    「それな」
    「まぁあれなら起きないだろうな」

     絶望感たっぷりのレグナと話してたら、リアス様が言った。二人同時にリアス様を見る。

    「どういうこと…?」
    「その服、カリナが持ってきたあのメイド服で魔力結晶を作って、お前に術をかけて服を纏わせている。簡単に言えば、お前の元々着てた服の上に被せて着せているようなものだ」

     わぁなにそれ便利。着せ替え簡単じゃん。

    「そんなこともできるんだね…」
    「魔法とは便利なものだろう」
    「いや無駄使いにも程があるだろ……。ていうか見てたなら止めてよリアス」
    「止めるも何もその着方を提案して実行したのは俺だ」
    「おい待て」
    「ちなみにそのまま着せるとズボンが見えるからとお前の妹から要求があったからズボンは脱がせておいた」
    「ちょっとお前そこ正座しようか」
    「かわいい妹の願いは何でも叶えてやるんだろう?」
    「叶えてやるけど心の準備が必要だからっ!」
    「わたし先行ってるね…」

     どうせ長くなると思って、そう言って先に部屋を出る。そこには、朝食のお皿とかを用意してくれてるカリナがいた。

    「あら、おはようございます」
    「おはよ…」

     挨拶を交わして、カリナの手伝いをする。ありがとうございますっていうカリナにうなずいて、「ねぇ」と声をかけた。

    「はぁい」
    「メイド服」

     言った途端に、小さくなったカリナの声。

    「聞きました?」
    「ズボンとか脱がしたって…」
    「まさかやってくれると思いませんでした。ぐっじょぶリアス」
    「そこまでもってったカリナもぐっじょぶ…」
    「光栄ですわ」

    「ねぇ俺のズボン返して。下スースーする」
    「悪いがお前のズボンの行方は知らん」
    「どうして??」

     準備をしながら話してたら、リアス様たちが部屋から出てきた。二人で微笑みあって各自の仕事に戻る。今日もなんか見れるかな。







    「さて、今日は暴露大会ですね。体力も頭も使わないです」
    「でもゲームはするんだ」
    「その方が楽しいでしょう?」
    「正直だいぶ楽しくない。精神的に」
    「頑張ってくださいあと二日ありますから」
    「ゴールデンウイークがこんなに長いものとは思わなかった」
    「リアスに同感」

     お昼を食べ終わって午後一時。買ったお題サイコロを中心にして、目の前にカリナ、右にリアス様、左にレグナって円を作って座った。

    「その前にさ?」

     始めよっかってなったとき、レグナが手をあげる。

    「どうした」
    「俺っていつまでメイド服なの」

     そんなレグナは未だにメイド服のまま。かわいい。

    「一日メイド服なんでしょ…? お題」
    「そうですね」
    「一日これ??」
    「まぁ風呂入る前くらいまでじゃないか」
    「マジか…」
    「かわいいよ…?」
    「ごめん嬉しくない」

     言ってはみたけどさすがにうれしいって言われてもちょっと焦る。

    「でも案外似合いますよね」
    「そうかぁ?」
    「リアスもそう思いません?」

     さりげなく、カリナがリアス様に聞く。そしたらリアス様はレグナをじっくり見始めた。

    「ねぇそんな見なくても良くない?」
    「いや似合うかと聞かれたからしっかり見ようと思って」
    「いいじゃん適当で! なんでそういうとこだけまじめなの!」
    「お前の顔ははっきり言うと好みではないが服自体は似合ってるんじゃないか」
    「しかもさらっとひどいこと言われた!! いや好みとか言われても困るけど!!」
    「レグナの顔好きじゃないの…?」

     リアス様は、んーってちょっと悩んで。

    「カリナを思いだしてこう、複雑というかなんだろうな、とにかく愛せない」
    「喧嘩売ってます?」
    「じゃあ、カリナとレグナが双子じゃなかったら…?」
    「双子じゃなかったらか?」
    「一旦私は置いといて、レグナ単体でしたらということですよ」
    「双子じゃなかったらか……」

     もっかい、リアス様はしっかりとレグナを見る。じっくり考えてから、口を開いた。

    「……すまん」
    「やめて傷つく」
    「俺にはクリスティアしか愛せない」
    「どうぞそのまま一生クリスティアを愛し続けてくれ」

     レグナ単体でもだめだったみたい。くっつけられたら楽しいねって言ってたけど、現実は中々うまく行かないね。

    「話逸れたけど? そろそろ戻そう??」
    「とりあえずリアスは私たち双子が好きではないとわかったので始めましょうか」
    「お前らではなくてお前らの顔が恋愛的に好みじゃないだけだ」
    「安心してください私もあなたの顔は好みじゃないです」
    「それは安心だ」
    「なんかルールって決めるの…?」

     また逸れかけた話を戻して聞く。

    「お仕置きボックスも使いたいですし決めたいですねぇ」
    「話の内容にツッコまれたら罰カードとかは?」
    「あ、それいいですね」
    「おもしろそう…」

     リアス様が全力でツッコまれそうな気がするけど。

    「ごほうびは…?」
    「その話を聞いて楽しかったとか共感できた、と言う奴がいたらその人数分もらえるでいいんじゃないか」
    「いいですね。ではそのルールで行きましょうか。順番は」
    「じゃんけん…?」
    「だな。じゃあ行くぞー。じゃーんけーんほいっ」

     レグナのかけ声で、みんな手を出す。カリナがグー、わたしたち三人がチョキ。

    「すぐに決まったな」
    「では私から時計回りですね。私、リアス、クリスティア、レグナで行きましょう」
    「おっけー…」
    「では行きますよ」

     真ん中に置いてあったサイコロをカリナがとって、ゲームが始まった。

    <ゲームスタート>

    「それっ」

     カリナがサイコロを振った。出た目は。

    「”嬉しかった話”、ですか」
    「すげぇ平和な質問」
    「お前これは何もいじらなかったんだな」
    「何でもかんでもいじりませんよ」
    「いじることの方が多いだろう」

     リアス様の呆れた目線にカリナはふふって笑ってごまかす。

    「でも改めてこう聞かれると中々パッとは思い浮かびませんね」
    「確かに…。最近うれしかったこと、ある?」
    「えーーーーと……。あ、クリスティアと一緒に寝れたときですかね?」

     それわたしと一緒に寝れたことじゃなくてリアス様とレグナを一緒に寝かせたことじゃなくて??

    「お前すげぇクリスティアと寝たがってたもんね」
    「そうなんですよー嬉しかったです」
    「ダウト…」
    「クリスティア」
    「ダウト…」
    「このゲームは嘘を見抜くゲームだったのか?」
    「大丈夫です本心も入ってますから」
    「ってことは何割か嘘なんだ?」
    「よこしまな、気持ちは、ないですよ?」
    「それこそダウ…んぐっ」
    「次に行きましょうか」

     カリナに思いっきり口ふさがれて、それ以上は何も言えなかった。




     次のリアス様の番で出た目は、ひみつの話。

    「秘密の話……あるか?」
    「俺とカリナは結構あるんじゃね? キスしたことないってのも知らなかったし」
    「それもそうか。……クリスティアが知っていてお前ら双子が知らない話でもいいのか?」
    「もちろんいいですよ。あなた方の間で知らないことある方が珍しいでしょう」

     そうか、ってうなずいて、ちょっと悩んでから、一言。

    「昔女装して入学した」

    「「待って」」
    「どうした」
    「どういうこと」
    「え、ほんとなんですかクリスティア」

     そんな黒歴史もあったなぁと聞いてたらカリナが話を振ってきたので、うなずく。

    「三、四回前だったっけ…」
    「確かな」
    「割と最近。俺たちは?」
    「レグナたちがいない回で…。わたしを拾ってくれた両親が女子校に入りなさいって言った…。断ったけど聞いてくれなくて」
    「そしたらもう俺も行くしかないだろうと」
    「何でその発想に至っちゃったかがわからない」

     だいじょうぶ、わたしは今でもわかってない。

    「心配だしどうにもできないならとそうなった」
    「もう視覚的暴力だよね…」
    「必死な恋人にそう言うことを言わないでくれ」
    「もっと違う方向に必死になってほしかった…」
    「え、でもそれ入学できたんですか?」

     リアス様と二人同時に首を縦に振る。

    「「できた」」
    「マジか」
    「学校大丈夫ですか」
    「リアス様細身だし…髪伸ばして」
    「ムダ毛処理して化粧した」
    「すげぇ本気」

     顔はきれいだけどやっぱり男の人って感じだし筋肉もあるから見た目ひっどかったけど。

    「バレませんでした?」
    「最終的にどうなったんだっけ…」
    「バレたな」
    「そりゃそうだ」
    「そして恋人が心配すぎて女装したんですと言ったらその年から男女混合の学校に変えてくれた」
    「「嘘だろ? /嘘でしょう?」」
    「リアス様の影響力ってすごいんだなって思った…」
    「そこじゃないだろ…」
    「想像してみて、もうそうやって現実逃避しかできない…」
    「ああ……」

     双子がものすごく哀れんだ顔をしたのに耐えきれなくて、サイコロをリアス様から奪った。



     サイコロを振って出た目は夢の話。見た夢を思い出す。この前のは…。

    「…リアス様の夢かな」
    「夢の中でまでリアスと一緒なんてかわいそうですね」
    「お前ちょっとこっち来いカリナ」
    「嫌ですよ。続きは? クリスティア」

     えーと、

    「体育座りして悩んでて」
    「あら」
    「どうしたのって聞いたの」
    「そしたら?」
    「”俺はいつになったら魔法使いを卒業できるんだろう”と」
    「夢の中の俺になんてことを言わせてるんだお前は」

     わたしじゃないもん、わたしの夢の中のリアス様が言ったんだもん。

    「まさかの下ネタか」
    「どうしました? 夢の中だからって本音がぽろっとこぼれちゃいました?」
    「まず思ってねぇよ」
    「それはそれで男としてどうなんだろうね?」
    「もう言葉を返すに返せなくて…」
    「でしょうね」
    「とりあえず、現実のリアス様に謝っておいた」
    「お前だから起きた途端に”卒業させてあげられなくてごめんね”って言ったのか」
    「そう」

     だって夢の中のリアス様は聞く耳持たなかったんだもん。

    「”気にするな”としか返せなかったよな」
    「夢のことは聞かなかったんです?」
    「一瞬”それ”かと思って聞こうと思ったんだが、違ってたら朝から盛っているみたいで嫌だったからやめた」
    「男って辛い」
    「ほんとにな」
    「えぇ、なんかごめん…」
    「次、行きますか」
    「ん…。リアス様、ボックス引いて良いよ」
    「素直に喜べない」

     男の子っていろんな葛藤があるんだなって知って申し訳ないからリアス様にはご褒美カードをあげた。



     一周目のラストは、レグナ。サイコロを振って出たのは、怖かった話。

    「リアスと一緒の布団に入ったとき」
    「あなたすべてにおいて問題の根元ですね」
    「おかしい」
    「リアス様、なんかした…?」
    「腰一回触られたかな?」

     なにそれ詳しく。

    「あ、でも怖かったのはそこじゃなくて」
    「いえきっとそこも怖かったはずです詳しく話してください」
    「リアス様もしかしたら意図的かもしれないんだよ?」
    「クリスティアと間違えただけだ」
    「わざと…?」
    「んなわけあるか」

     内心舌打ちしたのはきっとわたしだけじゃないはず。

    「で? 何が怖かったんだ?」
    「ああ、なんか腹に乗られた感じがして」
    「リアスなにしてるんですか!」
    「してねぇよ最後まで話を聞けっ!」
    「あーなんだろうと思って目を開けたんだよ」
    「よく開けたね…」
    「確かめなきゃと思って」
    「なんだその謎の使命感」
    「いやほんとにリアスだったら起こしてクリスティアは向こうだよって教えなきゃかなって」

     レグナいい子…。腐っててごめんなさい。言わないけど。

    「で、開けたんだけど髪が黒で」
    「カリナ…?」
    「兄を襲う趣味はありませんわ」
    「てかそもそも男で」

     それ完全に見えちゃいけないやつ。

    「しっかり覚えてるわけじゃないんだけど、武将っぽい感じだったんだよね」
    「武将…?」

     言われて、ふと思い至る人がいる。リアス様を見れば、目が合った。たぶん、考えてるのは一緒で。

    「ちょんまげ…?」
    「だったね」

     ここで、二人とも確信に変わった。

    「すまんうちの信長が迷惑をかけた」
    「え、信長様いるのこの家」
    「信長様に仕えてたあとに転生すると時々来る…」
    「思いっきりこの世に未練あるじゃないですか。成仏させてあげなさいよ」
    「祓っても祓っても天界でひっついてくるらしく転生するとまたいるんだ」
    「信長様どんだけ」

     執念ハンパないからあの人。

    「よく”俺の代わりに天下を取れ”って言ってくるよね…」
    「それ言われたこの前」
    「良かったな、強い奴だと認識されたらしい」
    「ごめん嬉しくない」
    「連れて行かれなくてよかったね…」
    「悪霊になってんじゃねぇか」
    「そのがんばりと無事に生きてたのを称えてごほうびあげる…」
    「やった、っていうかそんなに危険だったの!?」
    「昔よりはまだよくなった方だよな」

     思い出して、うなずく。

    「昔はもう毎日あの世の門開いてたから…」
    「次天界に言ったときに速攻転生させてあげた方がよいのでは?」
    「早く次の人生歩ませてあげて」

     なんて話しながら、レグナがご褒美ボックスからカードを一枚引いた。四人で一周終わった時点で、ご褒美はレグナとリアス様。罰ゲームカードがレグナ以外の三人に各一枚ずつ。ところで。

    「これっていつまでやるの…?」
    「二、三周ですかね。あんまりやると罰ゲームが消化できなさそうなので」
    「じゃあ次一周して罰ゲーム消化しようよ。俺お菓子作りのカード引いたから作る」
    「いいですねメイド服着てお菓子作り」
    「ぴったりだね…」
    「嬉しくない」
    「次ほら、カリナだろう」
    「あ、はいな」

     リアス様が転がったサイコロをカリナに渡す。もう一周ってことで、カリナがサイコロを振った。

     出た目は、気になること。

    「気になることですか。ありますよ。クリスティアとレグナについて」
    「わたしたち…?」
    「前に遊園地でクリスたちがメリーゴーランドに乗ってるとき、レグナが私に”リアスのこと好きになったりとかってあるの”って聞いてきたんですよ」
    「あったなぁ」
    「その逆で、レグナでもクリスティアでもいいですけど、お互いのこと好意に思ったりってあったのかなと」

     わたしがレグナを好きに…? 言われて、レグナを見て、考える。レグナもわたしを見て、考えてるみたい。

    「なぁクリスティアがあるって言われたら俺はどうしたらいいんだ」
    「自分の過保護を見つめ直してください」
    「この合宿俺の精神を叩きのめすために組まれたとしか思えない」
    「そんなことないですよ」

     二人の会話を聞きながら考えて、先にレグナが口を開いた。

    「俺はないかも。クリスティアのこと好きになったの」
    「こんなに魅力があるのにか」
    「うわぁこの彼氏めんどくさい」
    「クリスティアはどうです?」

     その問いに、首を横に振る。

    「…わたしも、ない」
    「あら、そうなんです? 意外」
    「お前だって俺には恋愛感情持ったことないだろう」
    「持つわけないじゃないですか論外ですよ」
    「俺もお前だけは論外だ。それと似たようなものだろ」
    「いや全然違うけど。なぁ?」

     聞かれて、うなずく。レグナのこと。もちろん好き。でも恋愛って言うよりは。

    「「兄妹、みたいな?」」
    「あぁ、なんとなくわかりますね。クリスは妹って感じします」
    「だろ? ほっとけないというか、面倒見てたい」
    「お前なんだかんだ面倒見がいいよな」
    「周りがばかばっかりやるから」
    「俺は至ってまじめだが?」
    「お前が一番常識はずれだよ」

     そこだけは絶対否定しない。

    「でも残念ですわ、一度好きになったことがあるとかあったら面白かったのに」
    「仮に好きになってもリアスからは取らないわ」
    「…親友の恋人は取らない、ってこと?」

     んーって考えて、レグナは苦笑いをこぼした。

    「親友だからっていうよりはまず勝てないし。あと無理矢理取ったらどんな手を使ってでも仕返ししてきそうで面倒」

     あ、わかる。

    「なぁこの四人の中で俺の扱いが一番ひどくないか」
    「愛されてる証拠じゃないですか」
    「どこをどう聞いても愛されてる感じがしねぇよ」
    「ではすっきりしたところで次どうぞ」
    「俺はすっきりしていないんだが」
    「とくになにごともなかったのでカードはなしですね」
    「お前が一番俺の扱いひどいことに気づいてるか?」

     リアス様の言葉はまた今日もカリナには届かなそう。



     諦めたリアス様が振ったサイコロは、一周目のわたしと同じ夢の話。

    「夢だってー…」
    「リアスって夢見るの?」
    「割と」
    「見ても悲しい夢とかの印象が強いです」
    「よくわからないものも見るぞ。最近一番の夢はあれだ。お前ら双子の話」

     出たその夢。

    「私たちですか」
    「クリスティアとコンサートホールの客席にいて。カリナがピアノを弾いていたんだ」
    「へぇ」
    「やはりうまいなとクリスティアと二人で聴いていたら、フルートの音が聞こえて。それと同時にレグナが出てきた」
    「まぁ、双子で演奏ですか」
    「良い夢じゃん」

     わたしもそこまではいい夢って思ってた。

    「俺もそう思って見てたんだがレグナがフルートを吹いてるのかと思ってふと見たら、口元にきゅうりがあるんだ」
    「「きゅうり」」
    「”えっ”って思うだろう? それをフルートのようにちゃんと横にして口元に当ててるんだぞ? 音なんて鳴らねぇのにちゃんと格好はフルート吹いてます感醸し出してるあのシュールさ」
    「お前の中の俺はどうなってるの」
    「時々カリナとレグナが目を合わせて演奏してたんだが、いつものように笑って楽しそうに演奏してるんだよ。いやそのきゅうり目に入らねぇのかよってくらい楽しそうに演奏していて」
    「しかもわたしも他の人も全然なにも言わなかったらしい…」
    「ものすごくよくわからない夢見ますね」
    「だろう。自信満々にフルート吹いてる感じで出てきたのに口元にあるのはきゅうり。しかもだんだん短くなっていくんだ」
    「食ってんじゃねぇか俺」
    「演奏終わったときには跡形もなくなくなっていた」
    「食べ終わりましたか…」
    「起きたときに俺は病んでいるのかなと思った」
    「それを聞いたわたしもこの人病んでるのかなって思った…」

     しかも朝一発目で聞いてるからなおさらだよね。

    「こういう夢か悲しい夢しか見ない」
    「完全に病んでますね……たまには優しくしてあげますよ」
    「お前が優しいと何か企んでそうで怖いからいい」
    「失礼な。もういいです次行きましょう」
    「はぁい」


     カリナに手渡されたサイコロ振った。


     ひみつの話だって。

    「ひみつ…」
    「なさそうだよねクリスティアは」
    「意外とあるかもしれませんよ?」
    「カリナ」
    「なんでもないですわ」

     カリナを黙らせて、考える。ひみつのこと。腐女子であることはカリナには言ったし、そもそもこの二人には言えないし…。なにかあるかな。──あ。

    「リアス様の性癖?」
    「待て待て待て」

     せっかく思いついたのにストップがかかってしまった。

    「どうしたの…?」
    「どうしたのじゃねぇよお前がどうした。なんだいきなり俺の性癖って」
    「わたしが知ってるひみつならなんでもいいかなって…。性癖ってわけでもないんだろうけど」
    「確かになんでもいいがさすがに言って良いことと悪いことがあるだろう」
    「リアスはそんな言えないような性癖持ってるの? 女装以外にもまだあったの?」
    「ちげぇよ常識的に恋人の性癖なんてばらさねぇだろ。つーか女装は趣味じゃねぇよ」
    「あなたが常識を語ってはいけない気がしますけどね」

     ほんとそれ。

    「つうかそもそもそんな性癖なんてねぇだろ」
    「あるよ?」
    「あるのかよ」
    「本人すら知らないってリアス結構危なくない?」
    「おい俺もうこのメンツ辛いんだが」
    「大丈夫俺も辛いときある。頑張って」
    「俺の味方がいない」

     リアス様、体育座りでうずくまっちゃった。

    「どうする? 違うのにする…?」
    「頼むからそうしてくれ」
    「えー気になりますよ」
    「じゃあ一個だけとか…」
    「何か言ったらお前のばらしたくないこともばらすからな」

     えっ待ってなにバレてるの。腐女子はバレてないと思ってるんだけどもしかしてそれ? それともなにかほかにあった? どうしよう若干手に汗かいてきた。リアス様がなに知ってるかわからない。

    「…違うのにする」
    「いい子だ」

     別に何バレたっていいけれど。この四人だし。でもせめて自覚してるものはバレるなら心の準備をしてなおかつ自分で言いたい。素直に従って、違うことを言うことにした。

    「暴露大会の意味ないじゃないですか」
    「社会的に危なくなる暴露大会なんてあるか」
    「ねぇ社会的に危なくなるようなもの持ってるのかがすげぇ気になる」
    「で? 他の秘密の話は?」
    「うわぁ話そらした」
    「ひみつの話…」

     なんだろ。

    「リアス様は二人きりの時やたらと体触ってくる」
    「おい語弊がある」

     えっあってるじゃん。

    「なんかだめ…?」
    「アウトだろう。というか言い方変えてくれ。お前の言い方だとセクハラしてるように聞こえる」
    「やっぱり卒業できないから欲求が溜まってるんじゃないですか」
    「そこでそれ持ってくんな」
    「そろそろ襲われないように気をつけろよクリスティア」
    「気をつける…」
    「もう俺天に帰りたい」
    「あと三年弱がんばれ。じゃあラスト俺な」

     完全に顔伏せちゃったリアス様はほっといて、レグナが最後のサイコロを振った。

     出た目は気になること。

    「さっきのリアスの性癖が気になる」
    「忘れてくれ」
    「インパクトでかすぎて」
    「ぜってぇ言わねぇ」
    「えーじゃあなんだろ。あ、リアスとクリスティアって恋人らしいこと何してんの?」
    「恋人らしいこと…?」
    「キスとか以外になんか恋人らしいことしてんのかなって」
    「なんか今日一番まともな質問ですね」
    「本当にな」
    「なんだろうね…」

     聞かれて、リアス様と一緒に考えてみる。もう当たり前になってるから恋人らしいかはわからないけど。

    「手は繋いでいる」
    「お風呂一緒…」
    「たまに抱きしめるな」
    「寝るときは一緒だし…」
    「ずっと一緒にいる……くらいだな」
    「だけ?」
    「もっと他にこう、よくある少女漫画的な展開はないんですか?」

     記憶を探ってみるけど、そういうことをした記憶は見つからない。ていうかそもそも──。その先は、同じこと思ったリアス様が代わりに言った。

    「少女マンガはハッピーエンドになるから読めなくて展開を知らない」
    「どういうことです」
    「叶えられない幸せな展開を読んでいると心が痛くなるから読むのをやめたな」
    「すげぇ理由」
    「まぁあれですよ、甘酸っぱいこの触れるか触れないかの距離とか、色々あるでしょう」
    「触れるか触れないかの距離になったらもう触れている」
    「そういう男でしたね」
    「なんか新しく恋人らしいことしてみれば?」
    「えぇ…」
     恋人らしいこと、新しく…。考えて、結局浮かぶのは、一つ。

    「恋人っぽいことでしてないことってキスくらいじゃない…?」
    「今度してみりゃいいじゃん。運命変わるかもよ」
    「それで変わったら俺たちのこの数千年はなんだったんだ」
    「楽しい思い出ってことで」
    「納得いかん」

     軽く片づけるにはいろいろ重すぎる。

    「あと恋人らしいことと言えばデートですかね。今まで行かなかったところに行くとか」
    「夏ならプールとか」
    「冬ならイルミネーションとかですかね」
    「秋はなんだろう、一緒に食い倒れ?」
    「一気に色気がなくなったぞ」
    「まぁそんな感じで。なんかしてみれば?」
    「楽しそう…」
    「なぁリアス?」

     でも、みんなでいけたらもっと楽しそう。オッケーは出なさそうだけど。と思ってたら。

    「……善処はする」

     リアス様から、意外な言葉。びっくりしてリアス様を見ると、体育座りは崩して気まずそうな顔してる。それを見て、ちょっと頬がゆるんだ。

    「良かったねクリスティア」
    「ん…」
    「夏だったらまたみんなでお泊まりとかも楽しそうですよね」
    「今回みたいな合宿は絶対しないからな」
    「同感」
    「えー楽しいじゃないですか」
    「「全然」」
    「わたしは楽しいけど…」
    「ですよねぇ?」

     普段できないこといっぱいできるし。楽しそうなカリナに頷いた。でも男子はそうでもなさそう。

    「精神的に楽しくない」
    「もっと高校生らしい遊びしよ」
    「今だって高校生らしくてハーフっぽい遊びでしょう」
    「ハーフ要素はいらない。内容が一気に殺伐とする」
    「能力使っちゃうもんね」
    「まぁ後々のイベントのことはまたそのとき考えるとして。サイコロゲームも終わったので第一回罰ゲーム消化にいきましょうか」
    「賛成…」
    「男性陣の扱いがひどい」
    「いつの時代も女は強いな」
    「負けないで頑張って下さい」
    「頑張れない」

     話しながら、引いた罰カードとごほうびカードを並べていく。わたしは結局罰ゲーム二枚だった。カリナが罰一枚、リアス様が罰二枚とごほうび一枚、レグナがごほうび一枚。今回は罰だけでちょっと残念。

    「次はごほうび引きたい…」
    「頑張ってください。もしかしたら視覚的ご褒美だってあるかもしれませんよ」
    「まじですか…」
    「なに視覚的ご褒美って」
    「その名の通りです。本人的には罰かもしれませんが、周りからしたら目の保養とかになりそうなものもいれておきましたよ」

     なにそれすてき。

    「それはそれで楽しそうだな」
    「そうでしょう。引き間違いさえしなければですが」
    「もし引き間違えたら?」
    「視覚的ご褒美は暴力に変わるでしょうね」
    「絶対イヤ…」

     すてきと思ったけど間違えたらすてきじゃないのか。次からはもう少し考えて罰カードを引こうと心に誓った。目の保養のためにも。

    「ではできそうなものからいきましょうか」

     カリナの言葉に全員でうなづく。昨日までに引いてたカードも合わせて、気軽にできそうなものから手を着け始めた。


    『三日目・暴露大会』/クリスティア



    『君がいない世界に、意味などないから』

    変更理由:リアスの設定をきちんとしたら予想外に穏便に終わったので

     ゴールデンウィークを終えて、しばらく。それは突然やって来た。

    「オマエが”炎上龍”クンってヤツ?」

     昼休み。いつものごとくカリナと一組に行こうと教室を出ようとした時だった。
     オレンジメッシュで襟足をのばした、短髪だか長髪だかよくわからん男が、仁王立ちで行く手を阻む。

    「知り合いです?」
    「いや、知らん」

     半歩後ろにいたカリナに問われてほんの少しだけ上を行く目線をまじまじと見ても、その男に見覚えはない。

    「エシュト学園二年、紫電しでん 陽真はるまだ! オマエに話がある!」

     律儀にも名乗ってくれたその紫電という男の学年を聞いて、腑に落ちる。二年ならば知らないのも当然か。会ったこともない。
     そして話をしたいらしいが、あいにく俺にはこの男に割いている時間などない。

    「とりあえず一組に行きたいからそこをどいてくれないか」
    「あなたぶれませんね」
    「俺がいない間にあいつになにがあるかわからないだろう」
    「蓮だっているんですから大丈夫ですよ」
    「信頼していないわけではないが」
    「おい聞け炎上龍!」

     しびれを切らして間に入ってきた紫電に、ハキハキ話して元気な奴だなと目を向ければ、その男の顔は妙に闘争心らしいものが見える。……何故だろう、ものすごく面倒事になりそうな気がする。というかそろそろ退いてほしいんだが。

    「話は聞いてやる。だからとりあえず一組に行かせてくれ」
    「逃げるのか?」
    「あんた話聞いてるか?」

     会話が噛み合ってない時点ですでに帰りたい。テレポートを使ってもいいだろうか。

    「紫電先輩、龍は気が短いのでご用件があるならばお伝えしてあげてくださいな」

     助け船を出してくれたカリナの言葉に、紫電は「そうか」と言って俺をまっすぐと見て、ビシッという効果音がつきそうなくらい勢いよく俺に指を指す。嫌な予感しかしない。


    「お前に演習を申し込む!!」


     俺の予感はよく当たるな。







    「で? 合同演習で”一年じゃ炎上龍が最強”って言う噂を聞いて、紫電先輩が飛んできた、ってこと?」
    「そうなるな」

     風通しの良い裏庭。いつもの四人で集まり、あったことを話して、レグナに頷いた。

     単刀直入に演習を申し込まれ、理由を聞けばまぁそういうことらしい。確かに合同演習ではいつも以上に暴れた。そしてゴールデンウィークを終えて学校へ行けば、畏怖の目と、何故か尊敬の目を向けられることが多くなった。すべてその演習の効果だろうと、今理解する。
     そして一年の間で話題になったのを、上の学年が聞きつけて広まっていったんだろう。果てしなく面倒だ。

    「受けるの…?」

     パンをもそもそと食いながら聞いてきた隣のクリスティアに、首を振る。ただ、それは否定ではなく。

    「答えは出していない」
    「保留ってことか」
    「あのまま断っても追いかけ回してきそうですし、かといってすんなり受けるのもしゃくに障りますよね」
    「そういうことだ」

     噂が回ってきたから来たと言うことはわかったが、紫電の戦いたい理由には繋がらない。何故俺に演習を申し込む流れになったのかがわからん。恨みなんてないだろうし。

    「保留でも追い回しそうじゃない…?」
    「それはそうなんだが……。断るよりは面倒にはならないと踏んだ」
    「あの手のタイプは速攻で断ったら”なんでだ”ってなるタイプですよね」
    「それは保留で正解かもね」
    「でもなんで、リアス様に演習申し込みなんだろうね…。死にたいのかな」
    「さすがの俺も誰彼構わず本気出したりはしないがな?」

     お前と違って、と言うのはひとまず言わないでおこう。持っていたおにぎりを口に放り込んで、飲み込む。

    「まぁとにかく、それなりに理由を考えて今日の放課後にでも断っておく。我慢強いタイプでもなさそうだったからな」
    「炎上、答えは出たか!!」
    「そう、こんな風に──」

     と言ったところで、後ろを勢いよく振り返る。そこには先ほど見た男が窓から顔を出していた。

    「なんでいるんだ……」
    「答えを聞きに来たからだな!」
    「保留にしたのはつい十分前なんだが?」

     三歩歩いたら忘れるのかこの男は。

    「オレ早くオマエと戦いてぇんだけど。だから早く答えくれねぇ?」

     呆れている俺に構わず、紫電は嬉々として言う。あぁ、深い理由なんてない。こいつは単純な戦闘バカと見た。

    「龍、たぶん、早く答え出した方がいい…」

     その答えはこいつをみる限り一つに絞られているんだがな。できる限りそれは避けたいといいあぐねていたら、レグナが助け船を出してくれた。

    「そもそも、なんで紫電先輩は龍と戦いたいんですか?」

     その問いかけに、紫電は一度きょとんとしたあと、自信満々に答えた。

    「強いヤツと闘ってみたいから!」

     思った通りに簡単な答えだった。

    「強い方と、ですか」
    「そうそう。一応オマエがくるまではオレが一番強いって言われててー。やっとオレを越える奴が来たと聞いて、勝負しに来ちゃった」

     窓際に肘をつき、”どうだ”と言う顔で言っているがまったくもってこっちは良い迷惑なんだが。ただの巻き込まれ事故じゃないか。正直放っておきたいが、クリスティアの言うとおり、早めに答えを出した方がいい。保留にしても予想以上に追い回されそうだ。溜息を一つ吐いて、口を開く。

    「わかった、演習を受ける」
    「マジか!!」

     俺の言葉に、紫電はものすごく嬉しそうな顔で詰め寄ってきた。近い。ていうか窓から落ちるぞ。

    「じゃあ今日の放課後で! オレもハーフだから全力で来いよ! 設定とかは全部しておくから!!」

     一気にまくし立ててそう言って、紫電は去って行った。つーか今日かよ。しかも今日五限目までだからもうすぐじゃねぇか。走り去ったのを見届けて、再び溜息を吐いた。

    「……嵐のような方ですわね」
    「同感だ……一気に疲れた」
    「変なのに好かれたなー」
    「類は、友を呼ぶ…?」

     決して同類にされたくない。

    「まぁ、そういうわけだから、今日の放課後付き合えよ」
    「え、俺たちも?」
    「当然だろう。俺が戦ってる間誰が刹那のそばにいるんだ」
    「お目付役か……」
    「まぁ演習を見るのはおもしろそうなので行きますけど」
    「お前は冷やかしでくるのか」
    「もちろんですわ」

     カリナに呆れた目線をくれてやるが、いつも通り笑顔で交わされる。まぁいいかとなったとき、ちょうどチャイムが鳴った。広げていたものを片して、教室へと歩き出す。

    「刻一刻と近づいてるね、勝負が」
    「正直バックレたい」
    「でもああいう方ってほっときすぎると変なことし出しそうですもんね」
    「それも、面倒…」

     それだけはごめん被りたい。廊下を歩いて行き、一組の前で止まった。

    「適当に圧倒してすぐ終わらせてくる」
    「わーお龍かっこいい」
    「茶化すな」

     二人が教室に入る前、万が一を考えて双子に念を押しておく。

    「蓮、華凜、頼んだからな」
    「わかってるって」
    「お任せを」
    「お前も気をつけろよ」
    「わかってる…」

     三人が頷いたのを確認し、二人が教室へ入っていったのを見届けてからカリナと二組へ戻っていった。


     正直、時間を止めたい。






     なんて思っても時間は止まることはなく。

    「炎上! 行くぞ!」

     HRが終わって、さぁ鞄を持って行こうかと立ち上がりかけたところで、その男はやってきた。あんたちゃんと授業出ているのかと聞きたい。

    「急かさなくても逃げはしない。だから先に行ってろ」
    「ステージの方はオレたちだけで戦えるようにしたから安心しろよ!」
    「俺の周りはどうしてこうも話を聞いてくれない奴ばかりなんだ」

     半歩後ろにいるカリナにも向けて言えば、こいつは笑顔を返してくる。今日何度目かの溜息をついた。

    「とりあえず、一組のやつらも拾っていく。そしたら行くから」
    「わかった!」

     そう伝えれば、紫電は俺の腕を引っ張り一組へと歩き出す。とても離してほしい。そして後ろのカリナがにやにやしているのがわかってものすごく不快だ。俺もう負けで良いから帰ったらだめか。


    「…なんか、仲良しになった…?」
    「断じて違う」
    「そ…」

     振り払おうとしても意外と力が強く結局そのままで。隣の一組の前で待っていたクリスティアとレグナの元へ行けば、クリスティアに言われた。即座に否定してやる。

    「これでオマエの連れ全員?」
    「ああ」
    「んじゃ行こうぜ」

     紫電に続くように歩き出す。まだ腕は引っ張られたまま。離してほしいんだが。
     離せと言うように引っ張っていると、紫電が口を開いた。

    「そういえばオマエすげぇ恋人いるってのも聞いたけど」
    「その噂は間違いだ」

     まだ流れてたのかその噂。

    「龍は刹那一筋ですもんねー」
    「ねー…」

     その声に、紫電は一度こちらを向いた。

    「そのちっちゃいのが刹那ちゃん?」
    「小さいとか言わないで…」
    「いってぇな俺を叩くんじゃねぇよ」

     こいつムカついたからって俺を叩いてきやがった。気持ちはわかるがやめてくれ。
     紫電はクリスティアを確認すると、特に興味があるわけでもないらしく、「ふぅん」とまた前を向いて話し出す。

    「観客も多いから楽しみだなー」
    「いや全く楽しみではない」

     つーかあの短時間で観客を呼び集めたのかよ。

    「そうだ、歩きながら今日の勝負のルールを説明してやるよ」

     頼んでもないが、ルールがあるのならばどのみち聞かなきゃいけないか。「どうぞ」と言えば、紫電は楽しそうに言った。

    「勝利条件は”相手の戦闘不能、もしくはリタイア”。制限時間はナシ。戦闘が終了するまで、ステージからは出ることはできない。同様に、観覧席からも手出しはできない。まぁよほどやばいことがなければだけど」

     指折り数えながら、またちらりとこちらを向いて。

    「それと大事なルールが一つ」
    「だいじな、ルール…?」
    「手を抜くのは禁止」

     そう告げた。大事だと言うからよほどのことかと思ったら、若干拍子抜けする内容だった。

    「……それだけか?」
    「それだけ。手を抜いたってわかったらペナルティな」

     ただ本人にとっては重要らしく。ペナルティまで宣言して、紫電は妖艶に微笑んだ。



    「魔術でも武器でもなんでもあり。オッケー?」
    「わかった」

     あの後引きずられるまま演習場へと連れられ、クリスティア達と別れ俺と紫電はステージへ来た。無駄に多い観客に呆れながら、軽く手やら首やらをほぐして、備える。あいつらはどこらへんにいるかと見渡したら、真正面の観客席にいた。

    「んじゃ、このカウントで」

     紫電が指さした方向を見れば、モニターに”Battle standby”と表示されている。一度ブザー音がなった後に、電子音とともに数字のカウントダウンが始まった。

     ”5”

    「さっきも言ったとおり」

     ”4”

    「わかっている。手加減禁止、だろう」

     ”3”

    「そういうコト」

     ”2”

     溜息を、吐く。あからさまに手加減をするつもりもないが、かといって思い切り本気を出すつもりもない。本気で行ったら死ぬし。

     ”1”

     クリスティアたちにも言ったとおり、ある程度圧倒して終わらせてやる。



     ”START”


     ひときわ大きなブザーが鳴る。
     それを合図にして、紫電は大剣を召還し、こちらに向かって走り出した。こいつ大剣使いか。

    「はっ!!」

     振り下ろされる大剣を、身を引いてかわす。そのまま紫電は踏み込んで、縦横無尽に大剣を振るった。小さい刀でも振るっているんじゃないかと思うくらい軽々しく扱って連撃してくる太刀筋は、確かにそこらへんの奴らよりは上なんだろうな、とかわしている間に思った。

    「おい攻撃して来いよ」
    「かわせる攻撃を受け止めて体力を消耗するほどバカじゃない」

     そう言えば、紫電の目が変わる。先ほどの犬みたいな、人当たりのよさそうな目ではなく、怒りの混じった、冷たい目。

    「本気出さないとペナルティだって言っただろ」
    「いや剣を交えることだけが本気じゃないだろ……」

     もう本日何十回目になるかわからない溜息を吐いた。

    「手加減されてるようでムカつくんですけどー」
    「出方を窺っているんだ」
    「へぇー……。んじゃ今度はコッチな」
     口角を上げてそう言うと、紫電は大きく振り払う。その勢いで大剣から手を離すと、紫電の手が光った。
     光が収束して生まれたのは、一本の槍。そのまま今度は突くように突進してくる。扱いが慣れているのを見ると、武器を一つに絞るタイプではないらしい。

    【"ディストレス"】

     さすがに避けてばかりではアレかと、魔力を生成し、一番使いやすい銃を利き手の左に出した。

    「──!」

     それを槍の先に向けて二発ほど撃ってやれば、矛先は俺ではなく空へと向かう。紫電の視線が一瞬俺から逸らされた隙に、さりげなく右手に短剣を出しておいた。

    「オマエ飛び道具かよ、めんどくせー」
    「残念。何でも使える」
    「は?」

     槍を持ち直し、再び俺に向かって走り出す直前を見計らって、大きく踏み込んだ。見えないように持っていた短剣で、首のギリギリ手前を狙って、薙払う。

    「あ、っぶね!?」

     自分では傷つけないとわかった踏み込み。けれど相手からしたら首を狙われて、本能的に避けようと体が動く。大きく仰け反った紫電は、首にだけ意識が行って、足下は隙だらけ。
     とっさにしゃがんでその足を払ってやれば、相手は思いきり背中から転んだ。妥協はせず、その上に乗り上げる。

    「ってぇ……」
    「これで十分か?」
    「は……」

     カチャリ、と。終いに左手の銃を紫電の額に当てて。
     何をして来てもいいように、倒れたこいつの周りに魔力を張り巡らせる。俺の得意の戦術。そしてほぼ確実なもの。「死ぬかもしれない」という恐怖を与えてやれば、戦場でも許しを乞う。これが本当の戦だったらこのまま撃っているが、さすがに殺す気はないので、降参を待つ。



     ──しかし、いつまで経っても「参った」とは言わなかった。



    「……?」

     下から俺を見上げる紫電の目には、諦めも恐怖も見えない。不満、怒り……色んなものがない交ぜになって、俺を睨んでいた。あの人なつっこい顔なんてどこへ行ったのか。こっちが本性なのかただ怒っているだけなのかははわからないが、こっちの方がまともに見えるぞと、的外れの考えに至る。

    「オマエ、それ本気じゃないだろ」

     口を開いたかと思えば、不満げな一言。「そうだ」と言いそうになるのを抑えて、

    「全力だが?」

     そう、答える。けれど紫電は納得行かないようで。

    「余裕ありすぎるだろ。息一つ乱れてねぇもん。オレの実力のちょっと上で圧倒したように見せてるだけじゃね」
    「へぇ」

     案外洞察力に優れてるのか。全くその通りだと、言いはしないが心の中で頷いた。
     さてなんて返そうかと、思考に落ちかけた、瞬間──。

    「!」

     突然、銃を掴まれた。何事かと紫電を再び見れば、底知れぬ殺気に、ぞくりと背筋が粟立つ。

    「……オレさ、別に学校で一番強いって言われたいわけじゃないんだよ」

     言いながら、紫電を掴んだ銃の矛先を、俺の首元へと持って行く。

    「ただ強いヤツと闘いたい、なんて言うだけの戦闘バカでもない」

     それに続くように一緒に起き上がって、俺と、視線を合わせた。

     演習場につく前の、妖艶な笑みを浮かべて、


    「オレよりも強い奴に、全力出させて闘って」


     俺の指に絡めるように、引き金に、指をかけて。それを、マネキンのように固まって、見ている間に。





    「じわじわ追いつめて、ボロボロにして這いつくばらせて。そういう奴の許しを乞う姿が好きなんだ」





     ──銃声が、鳴った。








    「っぶね……」

     咄嗟にテレポートで背後に飛んで、銃撃をかわした。もう数秒遅かったら首を打ち抜かれていたなと、苦笑いが浮かぶ。
     まだ銃を押しつけられた感覚が残った首をさすりながら、座ったままの紫電を見据えた。奴は未だ妖艶に笑っている。

    「まだ続けるだろ?」

     その言葉に、顔がひきつるのを感じた。

     どうやら俺は相当面倒な奴に目を付けられたらしい。イカレたサディストに捕まるようなMじゃないんだが。あの教室に来たときの人懐こいのは自分の欲求を満たすための演技だったのかと思うとこいつ相当だな、と立ち上がる紫電を見て思う。

    「あー、そうだ」

     服に付いた埃を落としながら、紫電は思い出したように言った。

    「オレ、言ったよな。”手抜いたらペナルティ”って。どうしよっか」

     内心舌打ちをする。正直あのまま降参すると思っていたからすっかり忘れていた。

    「……本気で行くと下手したらお前死ぬんだが」
    「死ぬのは困るけど、でもそのくらいで来てほしいんだって」

     こいつMも入ってるのか?

    「その本気を叩きのめして這い蹲らせたいんだよ」

     違った真正のSだった。

    「あんたかなりイカレてるな……」
    「知ってる」

     楽しげに舌なめずりする姿に、ぞくりとする。嫌悪で。間違っても喜ぶとかそういうのじゃない。断じて。

    「そんでオマエはそういうの嫌いだろ? オレ、虐げられるのとか嫌いなヤツを這い蹲らせるのが好きなんだよね」
    「もしこれで俺がそういうのが好きだと言ったらどうするんだ」
    「そこはもうオレは降参するわ。趣味じゃないし。喜ばれるのは美に反する」

     お前の美学はどうでもいいわ。ひきつりながら、これはさっさと終わらせた方がいいと判断する。戦闘不能にすればいいんだろう。さすがに「自分は這い蹲りたいドMだ」と言う度胸はないので、気絶で強制終了を狙う。後で不満はすごそうだが俺の安全のためにそうした方がいい。まじで。
     足下で魔力を練り、紫電の背後めがけて、飛ぶ。

    「っ!」
    「残念」
    「くそっ」

     背後に立ち、その首めがけて手刀をかまそうと振りかざした瞬間。
     紫電が、振り返った。笑った顔に意識が向きそうになるけれど、その手に短刀が握られているのを視界の端で捉える。踏み込んだ足はストッパーにして、振り向きざまに振り払ってきた短刀を身を引いて避けた。そのまま紫電はしゃがむ。こいつさっき俺がしたことと同じことをしようとしているんじゃないか。そう思ったときにはすでに遅くて、奴は隙だらけの足を払い、倒れた俺の上に紫電が乗り上げた。

     首に、切っ先が突きつけられる。

    「オマエ悔しい顔とかしないの?」

     一応悔しいとは思っているが表情に出なかったらしく、紫電は不満げにそう言った。

    「あいにく表情筋があまり稼働しないらしくてな」
    「ふーん……。じゃあさ、オマエ怖くねぇの」
    「何が」
    「首。ナイフ突きつけてんだけど」

     わからせるように、ぐっと少しだけ刃を進められる。針が刺さるような、小さな痛みが走った。

     けれど、恐怖なんてない。


     ”死ぬ”なんて、慣れているから。


     何度も、何度も。この身を貫かれてきた。いつからか、そのことに対する痛みも恐怖も、なくなった。


    「別に。死ぬことなんて怖くない」


     ただひとつ、怖いこと。あいつが目の前で、いなくなること。
     救えるならばこの身を捧げたって構わないし、むしろ俺一人の命で救えるならば本望だから。
     あいつが生きるなら、今ここでこいつに首を落とされたっていい。

    「……つまんねぇの」

     その想いは伏せて言えば、紫電は依然不満げだった。それもそうか。人間が一番怖いであろうことを突きつけても、こいつが得たい表情を拝めないのだから。どうでもいいが。つうか思い通りになってたまるか。左手に持った銃を解いて、新たに魔力を練った。

    「つまらなくて結構だ。ついでにどけ。邪魔だっ!」
    「!!」

     突きつけられた短刀を気にせず思い切り体を起こして、左手で短刀を生成し、薙払う。奴が体勢を崩したところで蹴飛ばし、強制的に上からどかしてやった。

    「……」

     立ち上がったとき、なんとなく首筋が痛い気がした。切れたか。痛む部分を触れば、ドロッとした感覚がする。ああ、結構血が出てるな、なんてぼんやり思って、ついでに治癒術を使って治しておいた。

    「いって……」
    「どうせあんたが望む顔は拝めないんだ。諦めて降参した方が早いんじゃないか」

     起き上がるのを見ながら、魔力を練り始める。もうこれで終わらせた方が早いだろう。下手に解かれちゃまずいから最大出力で。

    【我が身にあらがうものには罰を与えん──】

     俺の詠唱に応じて、紫電の周りに魔法陣が展開され、いくつもの鎖が出てくる。

    【その身亡くしても償えぬのならば、命ある限り、苦痛の地獄を味わえ。”贖罪の鎖アトーメントチェイン”】
    「うおっ」

     その鎖は、詠唱が終わったと同時に紫電を捉えようと動き出した。追いかけ回し、奴が飛び退いて地面に刺されば自ら這い出て、また紫電を追う。

    「おい逃げるな」
    「いや逃げるだろ」

     その気持ちはなんとなくわかる。が、逃げても追いかけるから無駄で。往生際悪くステージを駆け回る紫電を、鎖は追いかけ回す。

    「捉えて眠らしてやるだけだ。すぐ終わる」
    「ヤだよ。オマエの本気見て這い蹲らせたいんだって」

     それが嫌だからこっちは眠らせたいんだよ。いや這い蹲る気もないが。つーか案外逃げ足速いなこいつ。最大魔力で逃げるってどういうことだ。追い込んでいった方が速いか? 鎖がこっちに向かってきてるから、追い込むように俺も向かって行くか。

    「あ、じゃあさ」
    「あ?」

     さぁ行こうかと、足を踏み出した瞬間。紫電は閃いたとばかりに楽しげに笑う。

    「ペナルティ。決めた」

     その話まだ続いてたのか。眠らせてしまえばまぁ黙るだろう。ついでに強めに叩いときゃ記憶も飛ぶはず。我ながら物騒なことを考えながら、構わず足を進めた。

     が、次の言葉で、思わず足を止めた。

    「オマエの大事なものもらうってことで、どう?」



    「は──?」

     どんな顔をしてたんだろうか。ただ、紫電の待ち望んだものであることは確からしく。奴は笑みを深めて続ける。

    「死なんてオマエはどうでもよさそうだからさー。大事なモノ賭けたら本気出してくれるかなって思って?」 「何を──」 「たとえば、そうだなー」

     わざとらしく悩んだふりをして、走り続けながら観客席を見回した後。場所なんて知っていただろうに、「見つけた」、指をさす。

     クリスティアに向けて。

    「オマエの恋人、とか──うぉっ」


     わかった瞬間に踏み込んで、縛るために用意した鎖の魔術を解いた。思い切り押し倒し、短刀の刃先を首へと押し付けて、少しでも動いたら刺さるように全方位に刃を展開させた。
     もう一歩も動けない。王手をかけたのに。

    「やっとマジメな顔になったな」
     それなのに、こいつは笑った。楽しげに。やっと欲しいものを得られたと言った目で、俺を見る。

    「そんなにあの恋人が大事なんだ? 刹那ちゃん、だっけ」
    「黙れ」
    「従順そうだよなぁ。気強そうだけど、心許した人には素直だろ」
    「黙れっ!」

     楽しげな紫電に相反して、どんどん怒りが沸き上がった。
     知ったようにあいつのことを口にすることにも。名前を、呼ぶことにも。


     ”一瞬でも長く生きて欲しい”。そう願いを込めてつけたあの名を、くだらない賭事のために呼ぶな。


     怒りに任せて、首元にあてた刃が少し進めた。血が、にじんでいく。
     首筋を伝って行ったのを見た瞬間だった。

    「──!」

     背中に、衝撃が走った。驚きに、展開していた刃も揺らぐ。

    「首、痛ぇんだけど」

     なんだ思って周りを見回せば、動けないはずのそいつの手元から煙が出ていた。魔力を打ったのだと気づいたときには、腹に痛みが走って、吹き飛ばされる。

    「って……」

     せり上がってくる吐き気に、咳込む。手には赤い血がこびりついていた。ただそんなの気にしても居られなくて、起き上がり紫電を睨む。視線の先の紫電はただただ楽しそうに笑っていた。

    「オマエを本気にさせるのはあの”刹那ちゃん”が鍵なんだ」
    「気安く名前を呼ぶな!」
    「ハハッ、良い顔してんじゃん!」

     こっちが怒ればあっちは笑う。それにも、クリスティアのことを口にすることにもむかむかしてくる。

    「でもさー、ペナルティだから。オマエがはじめから本気出さないから、こういう話になってんだろ?」
    「黙れっ!」
    「あっぶねぇな」

     持っていた短刀を紫電の額めがけて投げた。が、軽々かわされる。何に対してもむかついて、舌打ちをして立ち上がり、走り出した。両手に短刀を生成して、斬りかかる。

    「っと、オマエ殺す気だな」

     楽しそうに笑う紫電は大剣を生成し、その大きな刃で俺の攻撃を受け止めた。首を狙おうとしても、刃を盾にされて思うようにたどり着かない。

    「ペナルティの内容、どうしよっかぁ」

     重い金属音が鳴り響く中で、紫電は悩む。いっそのことこの大剣ごと叩き折ってやろうかと突いて見るが、音を立てて弾かれた。

    「一週間くらい恋人交換とか面白そうだよな。一ヶ月でもいいけど」
    「おいその口切り刻んでやろうか」
    「それは困るわ」
    「っぐ……!」

     大剣を振り上げた隙に、懐に入り首めがけて斬りあげる。が、それは誘いだったようで、脇腹を蹴られた。勢いのまま横に吹っ飛ぶはずだった体は、頭を掴まれて制され、床に叩きつけられた。痛みなんてわからず、ただただ衝撃だけが体に響く。見上げれば、楽しそうな顔が俺を見下していた。

    「とりあえず、オマエがものすごく苦しむ顔をして許してって言わせたいんだよね」
    「随分狂った性癖をお持ちだな」
    「受け継いじゃったんだよねー」

     面倒なもん受け継ぎやがって。
     紫電は俺を床に押し付けたまま再び悩む。目はクリスティアの方向に向けていた。正直殺意が沸くが、目を逸らしているならチャンスでもある。後で思い切りいたぶるとして、先にこの狂った口を黙らせたい。

     この距離なら外さない。睡眠魔術を、練り始めた。


     ただそれは、一瞬で終わった。
     紫電の、言葉で。


    「オマエの目の前で、あの”刹那ちゃん”、傷つけてあげよっか」


    「──は?」

     一瞬、意味がわからなかった。こいつが何を言っているのか、理解するのに時間がかかった。
     そのくらい、聞き入れたくなかったんだと思う。

     それなのに紫電は、俺に聞かせるように、また言った。

    「だから、刹那ちゃん。オマエの目の前で傷つけてあげよっかって」

     にっこりと、そんな効果音がつきそうなくらい笑う紫電。

     それに、頭の中で、ぷつりと何かが切れた音がした。




    「──!」


     気が付けば、俺はそいつの首を掴んでいて。


     けれど視界には、先ほど映っていたオレンジメッシュの男はいない。


     灰色の世界が、広がっていた。



    「ふざけるな」
    「っ、はっ」
    「あいつを傷つけるなんて、許してたまるか……!」

     ギリギリと、手の力が強くなる。

     まだ、こいつには温かみがある。生きている。


     生きていたら、クリスティアが危ない。


    「っ、──! ──っ!」

     口らしき部分が動いているが、聞こえなかった。


     聞く必要もなかった。


    「このまま終わらせてやる──」


     目の前で、何度も体を貫かれてきたクリスティア。それを助けくて伸ばした手は、いつだって、届かない。


     それを、こいつは再現しようとしているから。


     仮にこいつが自分の発言を撤回しようとしていようが、命乞いをしていようが、関係ない。


     やることなんて、決まってる。



    「──するだけ」

     あいつを、守るために。
     俺の世界から、あいつをもう奪われないために。





    「目の前の、敵は」


     全て、排除するだけ──。

    『君がいない世界に、意味などないから』/リアス



    『あなたのいない世界にも、意味なんてないから』

    削除理由:予想外に穏便に終わったので(第二段)

    「ねぇほんとに、マジでお願いします!!」
    「先生が来るまで待ちなさい」
    「私たちじゃないと無理なんですお願いします」
    「だからねぇ…」
    「お願い…」
    「しばらくしたら先生来るから」
    「その”しばらく”じゃ間に合わないんだって!」

     スタジアムの前で、結界師の人と言い争う。

     観客席でバトルを見てたら、突然空気が変わった。ぞくってする、怖い感じ。そしたらリアス様がいきなり紫電先輩の首しめはじめて、その力加減がおかしいってわかって。急いでスタジアムまで降りてきた。
     結界解くのはリアス様の専門だから、スタジアムに張られた結界はわたしたちじゃ解けない。だから近くにいた結界師の人に開けてもらえるように言ってるんだけど、さっきから「先生が来てから」の一点張り。間に合わなくなっちゃう。

    「紫電先輩が危ないんだって!」
    「だから、先生が来たらちゃんと止めてあげるから」
    「ですからその先生が来るまでに紫電先輩が死にそうなんです」

     その攻防の間に結界の中を見たら、リアス様から離れたらしい紫電先輩。でも安心はできなくて。リアス様は、いっぱい詠唱唱えながら”相手を消すため”の魔術を展開していく。追いつめられてる先輩から、目の前に目を戻した。

    「ねぇ、先生来るの、あとどのくらい…?」
    「連絡はしてあるから十分あれば」

     十分。紫電先輩がその間逃げきれるか。もっかい結界の中に目を向けた。がんばって逃げてるけど、時々魔術が当たってる。あ、これ無理そう。
     そう思ったのは双子も一緒のようで。結界師の人に目を戻して、しびれを切らしたカリナがにっこりと”口だけ”笑って言い出した。

    「結界師さん、選択肢を与えますわ」
    「は?」

     その声を聞いた瞬間に、わたしとレグナは口をつぐむ。いきなり上から目線な物言いに、先生はいらっとした顔。
     でも、いらってしてるのはこっちも同じ。

    「ここで私たちを通して炎上の暴走を止め結果的に紫電先輩を救わせるか、私たちを通さずに先生を待ち紫電先輩を死なせるか。どうなさいます?」
    「君は大人をバカにしているのか? その手には──」
    「”大人”ならば、どちらが正しい判断かおわかりですよね? それとも間接的に”人殺し”になります?」
    「っ」

     先生を見上げる目は笑ってない。相変わらず本気のカリナは怖い。さすがの結界師の人もそれに圧されて、納得は行かなそうだけど頷いた。

    「わかった、わかったから。開けるのは一瞬だからな」
    「ご理解いただけてうれしいですわ」
    「ちっ……では結界の前に立て」

     お礼を言って、三人そろって結界の前に立つ。
     目の前で、紫電先輩が吹き飛ばされてるのが見えた。うわぁあれ骨何本か逝った気がする。
     それでもリアス様はまた口を開いた。まだ行きますか。もう十分だよ。
     早く早くと足踏みしていたら、やっと声がかかった。

    「行くぞ」

     結界が一瞬だけ、わたしたちが入れる分開く。

     閉じようとするその空間に、三人一斉に飛び込んだ。



    「うわぁ……」

     足を踏み入れて、そう言葉をこぼしたのはレグナ。結界の外で感じた威圧感は、中の方がすごい。押しつぶされそう。
     でも、止まってる暇はない。

    「カリナ、紫電先輩の回収と保護」
    「わかりました」
    「クリスはリアスの気引いといて」
    「ん」
    「なるべく早く頑張るね」

     頷いて、カリナと二人、レグナが紡ぎ出した詠唱を聞きながらその場を後にする。カリナは吹き飛ばされた紫電先輩のところ。そしてわたしは、そのまま追撃をかまそうと紫電先輩めがけて走るリアス様のところに。
     気を引くのがわたしの役目。ただ走っても気なんて引けない。びっくりするような状況を作らなきゃ。だから魔力を練って、

     ──加速したままのリアス様の目の前めがけて、飛んだ。


    「──!?」
    「おしまい、リアス様」

     リアス様がちょっとわたしを見上げるくらいの位置になるように飛べば、それはもう目を見開いてびっくりして、一瞬リアス様は身を引いた。それも利用して、重力に任せて抱きつくように落ちる。わたしを傷つけまいとするリアス様は、ちゃんとわたしを受け止めて、後ろに倒れた。ナイスリアス様。自分の上体を起こして、怒った目を見下ろす。

    「……なんで、ここにいる」

     心なしか声もものすごく怒ってる気がするけど、今は気にしない。止めるのが優先。

    「あの人、死んじゃう」
    「あの人?」

     とがめれば、上体を起こしながら不思議そうに言われた。まじですか。え、もうそんな状態? 試しにリアス様の術のせいで壊れたステージの破片を転がしてみたら、強い力で抱きしめられた。この反応はもうアレだ。めんどくさくなっちゃったなって、心の中だけでため息を吐いた。

     リアス様は、頭に血が上るといろんなものを遮断する。人を認識せず、音も必要なもの以外聞こえなくなって、痛覚もなくす。
     見えるのは、灰色の物体と、わたし。その物体が動くなら、滅するだけ。聞こえるのは、わたしの声と、守れという脳の命令。感じるのは、温度。物体が生きたか、死んだか。それを確かめるだけ。

     この状態になっちゃうと面倒なことにあの双子でさえも認識しなくなっちゃう。だからリアス様の相手をするのは、わたし。わたしなら、滅多なことがない限り手は出されないから。そしてその間に止めるための術を練るのが、今詠唱中のレグナ。複合術で時間がかかるから、その時間稼ぎをするために、攻撃を止めさせて話をする。相手側を止めるのはカリナの役目。
     いつの日からかリアス様が暴走すると手に負えなくなっちゃったときの、いつもの陣形。
     強く抱きしめられた体を離して、なるべく刺激しないように言う。

    「今戦ってるの、このままだと死んじゃうよ」
    「そうか」
    「もうやめよ?」

     周りを警戒するように辺りを見回すリアス様は、首を振った。

    「このままだとあれがお前を傷つけるから却下だ」
    「そんなことしないよ」
    「何故」
    「だってっ──!?」

     言葉を返そうと思ったら、頭を引き寄せられた。勢いあまっておでこがリアス様の肩にがつんと当たる。痛むおでこをさすろうと思っても、肩に押し付けられたまま。待って守りたいのはわかるけど違う意味で死にそう。息苦しいですリアス様。せめてもうちょっと緩めてはくれませんか。

    「おい大人しくしてろ」
    「待って苦しいです離して」

     バンバンとギブアップを示すように背中を叩いた。それでも手の力は緩めてくれなくて。これまじで窒息するのでは。暗い視界でさぁどうしようかと、思った瞬間だった。

    「、え──」
     軽い衝撃。なんか、変な音。決していい音とは言えない、でも少し聞き慣れていたその音に、違う意味で息が止まった。
     直後、背中に、なま暖かい感触。これ、知ってる。でも、痛みはない。

     イヤな予感がした。

    「ちぇっ、手かよ」

     残念そうな声が、後ろの方で聞こえた。それで、イヤな予感が当たったのを知る。
     さっきの衝撃で緩んだ、押さえつけられるように抱きしめてる手をどけて振り返れば、カリナが展開したらしい拘束魔法を振り切って、なにかを投げたような体制で笑う紫電先輩がいた。その、投げた方向を追えば。


     ──小さな槍が、リアス様の、右手を貫いてた。


    「り、あすさま…」
    「結界、張っておくか」

     痛みなんて感じないリアス様は、それでもなにか違和感があったらしくて。手探りでその違和感の場所を見つけて、平然と槍を引っこ抜いた。飛び散る血なんてお構いなしに、わたしたちの周りに結界を張る。

     止めるものがなくなった傷口からは、血があふれ出てた。

    「リアス様、血…」
    「血?」
    「血、いっぱい出てる」
    「そうか」
    「そうかじゃなくて…」

     傷口に手を当てて、得意じゃない治癒術を、貫かれた右手に向かって掛ける。でも全然傷がふさがらなくて。赤い血が、どんどんあふれ出た。
     どうしよう。あんまり血が出ちゃうとまずい。紅い色は好きだけど、今の状況の紅は好きじゃない。

     このままじゃ、リアス様一人だから。

    「傷、ふさごう…?」
    「必要ない」
    「だめ…」

     カリナは向こう。レグナはまだ準備中。リアス様は傷に目もくれない。治癒術だと時間がかかる。

    「氷…」

     とりあえずの止血なら、氷でもいいのかな。治癒はあとにして、魔力を練った。

    「ちょっとだけ、傷ふさがせて…」
    「……好きにしろ」

     うなずいて、右手に向けて、氷を生成する。冷気を漂わせながら、リアス様の傷を覆った。
     ずっと流れてた血も、止まる。それにほっと胸をなで下ろした。

    【ライトニング】

     安心した直後に術打つのやめてください。

    【っ守護壁バリアー!】

     後ろで、落雷の音とカリナの焦った声が聞こえた。振り返ったら、なんとかバリアーでリアス様の雷を防いでるカリナ。それがわかったのか、またリアス様が魔術を練る。待ってほんとに待って。

    「リアス様、だめ」

     リアス様に向き直って、ワイシャツを引っ張った。少し煩わしそうに、払われる。

    「邪魔するな」
    「死んじゃう」
    「お前が生きているならそれでいい」

     わたしもあなたが生きていると嬉しいんですがそうではなくてですね。

    「カリナも、向こうにいるから」
    「カリナだけ外してやる」
    「そうじゃなくてっ」

    【アサルト】
     あぁだめだほんとに聞かない。ライフル出しちゃったよ。普段使わないくせに。

     どうしよう。一応カリナは防げるけど、長くはもたないはず。暴発させる? だめだリアス様の腕吹っ飛ぶな。レグナとかリアス様みたいにいろんな術持ってるわけじゃないし、こういうとき頭回る方じゃないんだって。やり場のない怒りと悔しさに若干泣きそうになりながら、リアス様にすがりついた。ライフルを撃つ衝撃が、体に伝わる。

    「ねぇどうやったらやめてくれるの」
    「お前を傷つける奴がいなくなったら」
    「もういないよ」
    「まだこんなにいるだろう」

     だから最初からいないんだって。そう言っても、人を認識できなくなってるリアス様には、会場にいる全員がわたしを傷つける「敵」って見えてるみたいで。ライフルを撃ちながら、魔力を練るのをやめない。わたしはぎゅってリアス様に抱きつくことしかできなくて。まだかまだかと、少し離れたところの双子の兄の方に目を向ける。わたしの視線に気づいたレグナは、申し訳なさそうに口を開いた。

     ”もうちょっと”。

     もうちょっとかぁ。だいぶ泣きそう。あとでいっぱい文句言ってやる。リアス様に。それだけ決意して、時間をのばせるように言葉を紡ぐ。

    「みんな敵じゃないよ」
    「わかんないだろ。現に」

     耳元で、なにかが弾かれる音がした。

    「こうやって傷つけようとしてくるだろう」

     振り返ったら、リアス様が張った結界の外に小さな槍が転がっていた。また紫電先輩が攻撃してきたんだと知る。

    「もういい加減にしてください!!」
    「うるせぇな、今いいところなんだって」

     声がする方に目を向けたら、カリナが拘束魔術を増やしてるけど、なんとか振り切ろうとする紫電先輩。
     うそでしょ。

    「執念が…」
    「また飛んでくるな」

     リアス様が言ったとおり、紫電先輩はまた魔法陣を展開する。今度は、一個じゃなくて十個くらい。
     円を描いて展開されたそれは、紫電先輩が指を鳴らしたのを合図に発射された。

     マシンガンみたいに打ち出される槍に、反射的にリアス様にしがみつく。

    「っ…」
    「大丈夫だ」

     キンキンと弾かれる音が無数に響く。鳴り止むことのないその音に、リアス様に強く抱きついたら、安心させるように言われた。その声にはすごい安心するんだけど今の状況にはどうしても「うん、ありがとう」なんて言えない。今この状況最悪すぎる。リアス様みたいに頭よくないけどこの先の展開が簡単に想像できた。

     視界に、見慣れたオッドアイが映る。双子の片割れは、申し訳なさそうに手を合わせて言った。

    「クリス悪い、向こう行くわ」

     ほらぁ。

    「大丈夫知ってた…」

     絶望感たっぷりで返す。せっかくこれで終わると思ったのに。その思いがにじみ出てたのか、レグナは苦笑いを浮かべて、もう一度「ごめんな」と告げてから姿を消した。

     振り返って、行くであろう場所に目を向ける。

    「次何にすっかなぁ」
    「もうほんとに終わってくれませんか」
    「もうちょいっぽいじゃん」

     音が鳴り止まない中で、かすかに上機嫌な声と呆れた声が聞こえた。無数の槍のせいでその姿は輪郭くらいしか見えない。

    「! 何オマエ」

     そこで、突然不機嫌そうな声が聞こえた。見えてた二つの影みたいのに、もう一つ、影が増える。

    「おい──」
    「ごめんね先輩、おやすみ」

     たいして申し訳なさそうじゃない声で謝って。

    封魔睡陣ふうますいじん

     レグナの詠唱が、聞こえた。直後、影の一つが糸が切れた人形みたいに崩れ落ちた。それと同時に、無数の槍の攻撃が止む。術が成功したことがわかって、安心少し、絶望大半。
     今回の術は一時的に魔術を封印する「封魔」と相手を眠らせる「睡陣」の複合術。念には念を入れた対リアス様用。ほんとなら、当初の予定はわたしが時間稼ぎしてレグナが準備して、終わったらリアス様を眠らせて。さぁハッピーエンドですのはずだった。はずだったんだけども。予想外に紫電先輩の戦いへの執着が強すぎて、最悪な予定変更になった。一番止めたい人止まってないじゃないですか。目の前の恋人様魔力練り始めちゃってるよ。もっかいってなってもレグナが術練るのには時間かかるし、そもそももう限界だし。


     ってなるともうやることは一つしかないわけで。
     さすがに作戦一つだけなんてことはない。ないんだけども。

    「……止んだな」

     そうだね、って返しながら、とりあえず半分だけ心を決める。だって正直これはほんとにやりたくないんだもの。痛いし、カリナたちすごい心配するし。なにより。


     こんな方法でしか自分の想いを伝えられないこと、悔しくなるから。


     だから、最後に、ほんのちょっとの希望を込めて、リアス様の目を見るように向かい合って。口を開いた。

    「リアス様、もう敵来ないよ」
    「なんだ突然」
    「レグナが、えと……倒してくれたから」
    「まだこんなに敵がいるんだが?」

     伝えてみても、見えてないリアス様は、魔力を練るのを止めない。がんばれわたし。

    「それは敵じゃないの」
    「お前と、あの双子以外は割と全員敵だろう」

     今その双子すら見えてないじゃんか。さっきその敵じゃない双子を間違えて攻撃しそうでしたけど。むしろ防がれただけで思いっきり攻撃してましたけど。

    「このまま行くとリアス様、厳罰食らっちゃうよ」
    「別にいい。お前が無事でいられるなら」

     そうなるとわたしの精神が無事じゃないんだって。

    「わたしも、厳罰くらっちゃうってなったら?」
    「こんな場所滅ぼしてやる」

     わぁやりかねない。


     だめだお手上げだ。え? こんなに話聞かない人だっけ? おかしいな、わたしの言葉は聞く耳持つ方のはずなのに。
     いやよくよく考えたら”聞くだけ”であってそれを”聞き入れてる”わけじゃないな?
     ちくしょう。思わず地面を叩きたいのを必死に堪える。

     さすがにもう、時間がないから。どんなに時間かかる魔術でも、こんだけ時間があったならリアス様ならもう練り終わる。そろそろやばい。


     軽く息を吐いて、今度こそ、心を決めた。


     もう必要ないからと、先にリアス様の手の氷を解く。止めるものがなくなったそこは、また血があふれ出した。
     ほっといたら危険になっちゃうけど、大丈夫。これからの方が危険だし、

     ──今度は、一人じゃないから。


     リアス様を、抱きしめる。

    「ね、もうやめて…?」

     話しかけるのは、変わらないまま。でももう、本気でやめてと言わない。

     すり寄りながら、少しずつ。

     魔力を、練り始めた。

    「さっきから言ってるだろう、お前を傷つけるものがいなくなったらやめる」

     祈るような、そんな声。わたしを傷つけるものがなくなったら、あなたはとても安心なんだろうけど。

    「そんなの世界が滅ばないと無理だよ」

     頭を包み込むようにして、さっきより強く、抱きしめる。
     リアス様から感じてた魔力は、いつの間にか消えていた。

    「それで、お前が救われるならいい」

     代わりに、強く、強く。抱きしめられる。
     世界が滅んだらわたしだっていないよ。ちょっとだけ、笑いがこみ上げた。

    「お前がいない世界になんて、意味はない」
    「──うん」

     あなたがいない世界にだって、意味はない。
     愛しいあなたがいて、楽しく笑いあえる双子がいて。それで、この世界は色づいてるから。悲しい悲しい人生も、楽しく生きていける。でも、そう言われることは、やっぱりうれしい。愛されてるって、わかる。わたしはどうしたって言えないけれど。


     だから、言葉ではなく、行動で。


    「…ねぇ」


     あなたにきっと伝わるって、信じてる。


    「ん?」
    「…傷つくこともない、失うこともない……そんな世界に、いけたらいいのにね」

     あなたが悲しくて傷つくこともない。あなたを失うこともない。
     そんな恐怖すら、感じることのない世界。

    「……そうだな」

     小さくこぼして、さっきよりももっと強く、抱きしめられた。
     結界内に張り巡らされた魔力を確認して、目を、閉じる。

     ──大丈夫。一人じゃない。
     そう心に言い聞かせて。

    「……それが本当に叶うならこのまま、な」


     肩にもたれてきた愛しい声を聞きながら、頷いて。



     ──紡ぐ。



    【弾けて】



     このまま、愛しいあなたと幸せに笑いあえる世界に逝けたらいいのに。

     そうかすかな願いを込めて。


    氷刃リオートリェーズヴィエ



     結界の中で、能力を弾けさせた。



    『あなたのいない世界にも、意味なんてないから』/クリスティア



    『面倒事は、さらなる面倒を引き連れてやってくる』

    削除理由:予想外に穏便に終わったので(第三段)


     ──傷つくこともない、失うこともない。そんな世界にいけたら、いいのにね。


     そんな世界があったなら。俺達はどれだけ幸せなんだろう。
     お前が生きてくれればそれでいい。俺が同じ世界にいなくても、お前を守れたなら、ただ幸せに笑っていてくれるのなら、傍にいなくてもいい。それは、やり直すと決めた日から、変わらない。

     けれど、叶うのなら。

     やはり愛しい恋人の傍にいたいとは思う。笑っている顔を一番近くで見るのは、できれば俺でいたい。
     それがたとえ天国でも、地獄でも。クリスティアといれるなら、どこだっていい。

     そしてそこにお前自身が連れていってくれるのなら、なお本望だ。想いは一緒。傍にいたい。



     だからいつもみたいに窘めたりせず、展開された刃を、この身に受け止めた。



     痛みなんて感じない。けれど貫かれた体からは血液が自然とあふれ出す。それに伴い、段々とぼやけていく思考。
     クリスティアが俺に体重をかけてくるのを感じながら、俺もだるくなっていく体に任せて目を閉じた。


     ──このまま。











    「……逝けるはずもないよな」

     自然に目が開いて、一番初めに映ったのは見慣れた天井。左に目を向ければ、規則正しく寝息をたてている恋人。見慣れた寝具。手当をされてそのまま家に運び込まれたんだろうと予想できる。

     ただ。

    「おはよう親友」
    「寝起きで千本を首元に突き立てられるとは予想できなかったな」

     視線だけを右に向ければ、それはまぁ妹そっくりの可愛らしい笑顔で俺の首元に千本を突き立てるレグナがいた。いや何故だ。

    「何故って顔してるね」
    「そりゃな」
    「お前何したか知ってる?」
    「……暴走したな」
    「うん、それで?」
    「それで?」

     あいにくあの状態では何も見えないし何も聞こえてない。だから状況把握なんてできなくて。わけもわからず聞き返せば、目は笑っていない親友はさらに口元の笑みだけ深め、ゆっくりと、それはもうしっかり言い放った。



    「お前が攻撃した先に、俺の大事な大事な妹いたの、知ってる?」



     俺今日が命日かもしれない。


    「……いや、その」
    「ん?」
    「見えて、なくてだな」
    「暴走しちゃったもんね」
    「クリスティアが、カリナがいるとは教えてくれて」
    「知ってて攻撃したんだ?」
    「そうでなく──っいてててててて刺さってるレグナ、刺さってる」

     こいつさりげなく千本進めて来やがった。

    「え? 痛み感じないんじゃないの?」
    「今は正常なんだが?」
    「へぇ、よかったね」

     他人事すぎる。

    「それで? 言うことは?」
    「まずは千本を収めろ痛い」
    「それが人にものを頼む態度か」

     突然真顔になるのやめろ。

    「しまってくれ頼むまじで」

     さらに千本を進めてきそうなレグナの手を掴んで、なんとか引き下がらせた。力では敵わないとわかっているのか、レグナはものすごく不服そうに千本をしまう。地味に痛む首元に治癒をかけ、一息ついて、口を開いた。

    「悪かった」

     後始末やら色々とやってくれたのはいつも通りこいつなんだろう。だからとりあえずその一言だけ、告げる。そうすれば、レグナは呆れたような顔で溜息を吐いて、ベッドサイドに肘をついた。

    「お前はもう少し自制っての覚えてよ。俺たちの中でお前が一番厄介なんだから」
    「……悪い」
    「紫電先輩になんか言われたんだろってのはわかるけどさ」
    「……悪い」

     いつもなら何か言い返すところだが、今日は謝罪の言葉しか出てこなかった。さすがに全面的に悪い時に往生際悪く言い訳をしたりなんてしない。

    「あれから大変だったんだからな」
    「悪い」

     心底迷惑そうなレグナにそれしか返せないでいると、不意に部屋のドアが開いた。

    「あら、目醒めたんですの?」

     入ってきたのはカリナ。俺を捉えて、少し驚いたように言った。

    「ついさっきな」
    「さすが最強天使様は復活も早いんですね」

     茶化すように言って、俺の足下のベッドサイドへ腰掛ける。今はこいつにも、いつも通りに言い返す気力はない。

    「あのあと、大変だったんですよ」

     何も言い返せない俺に少し笑って、レグナと同じことを言う。そんなにか。そんなにやらかしたのか俺は。目だけでそう聞けば、双子は一度目を合わせて苦笑いをし、口を開いた。

    「ほんとはリアスを止めようと思った術は紫電先輩の執念がやばすぎて先輩に使うハメになるし」
    「結局最終手段でクリスティアがリアスごと自分を貫いちゃいますし」
    「心臓と頭以外全部貫いて結界の中で血塗れだし」
    「リアスの結界が無駄に強固だから駆けつけた先生たちでも解けませんし」
    「俺が頑張って結界壊したら二人とも死ぬ寸前だし」
    「なんとか回復したあとは先生から質問責めですし」
    「わかった悪かった本当に」
    「もっと細かく話そうか?」
    「結構だ」

     十分大変だったというのはわかったからもういい。

    「……悪かった」

     正直一番初めの術については俺は一切悪くないが、他の件は俺が原因だというのはわかっているので、再び告げる。というかそれしか言えない。
     どうにも申し訳なくて、けれど謝ること意外できなくて。気まずい俺は爪いじりへ逃げた。それを見た双子の、穏やかな声が聞こえる。

    「まぁ別に、二人でどうなろうが別に良いですけどね」
    「気持ちは分からなくでもないし? ただ公衆の面前はちょっと控えような」

     穏やかすぎるその声に思わずわかった、と頷きかけたのを必死に止めた。

    「理解があるのは嬉しいが咎めるべきはそこなのか……」

     爪から双子に視線を戻せば、二人は何を今更というような顔をしていた。

    「だってねぇ?」
    「同じ状況なら私たちも同じことをしますよ」
     あぁやりかねない。特にレグナが。

    「ただ、それを目の前で見るのはいかがです?」

     問われて、想像してみた。双子が一緒に結界を張って……。そこまで想像して、考えることを放棄した。

    「心臓に悪いな」
    「でしょう」
    「今後は気をつける」
    「そうしてくれ」

     果たしていいのかどうかは疑問だがどうせ同じ状況になったらまたやるだろうから、人目だけ気をつけようと心に刻んでおく。

    「あ、それとですねリアス」

     そこで、カリナがふと思い出したように言った。

    「なんだ」
    「あなた方三人の処分が先ほど決まりました」
    「そうか」

     だからさっきは部屋にいなかったのか。停学か退学か。まぁどっちかだろう。相当暴れたし処分があるとはわかって──ん? 三人? 今こいつ三人と言ったか? 俺と紫電はまぁ当然だろう。特に俺は。暴れた上に相手に結構な傷を負わせたはずだから。紫電は俺の被害者とは言えど、そもそもの原因なのだから多少なりとも罰を受けるのもわかる。あとは誰だ。

    「おい二人の間違いじゃないのか」
    「三人です」
    「俺と紫電と?」
    「クリスティアですね」

     どうしてそうなった。半ばカリナを睨んでさらに聞く。

    「何故」
    「あなたを止めるためとはいえ同胞の殺人未遂になりますからね。本来なら罰としては一番重いんじゃないですか?」
    「は……?」

     当然とばかりに言うカリナの言葉をしっかり飲み込んで。
     怒りや動揺も全て飲み込むように、一気に後悔の念が押し寄せた。クリスティアを守るためと思ったものが結局巻き込んだのか俺は。しかも一番重い罰を課させて。

    「最低だな俺は」
    「あー後悔に入る前にストップ、話最後まで聞いて」

     気持ちが急降下しようとしたところで、レグナの声がかかる。目を向ければ、その顔は特に深刻そうではない。

    「なんだ」
    「聞いてました? ”本来なら”と言ったんです」

     カリナの声も、心なしか明るかった。
     呆けていたら、優しく微笑んでカリナは告げる。

    「合同演習であなたの能力が他の生徒と桁違いというのも先生方は理解していますし、原因解析のために模擬戦の映像を見た先生方も止められないと判断したのでしょうね。クリスの行動があなたを消すためだったなら話は変わってきますが、彼女は救うためにあれを起こした。ましてや自らの体にも重傷を負って。それなら、と罰は最小限にしてくださいましたよ」
    「同胞に傷つけたってことで軽いのは受けるけどね」

     ゆっくりと紡がれるその言葉を聞いて、飲み込んで。
     重い罰を受けるわけではないことに、ほっと胸をなで下ろした。

    「これでクリスティアが退学なら俺も辞めるところだった」
    「お前ならやりかねないわ」

     実際やる。

    「ちなみに罰則ですが」
    「ああ」
    「全員今月いっぱいの謹慎、だそうです」
    「そうか」

     今月いっぱい。カレンダーを見て、日付を確認する。大体一週間というところか。カリナに再び目を向けた。

    「全員一律なのか」
    「はい。あなたは同胞への必要以上の傷害行為。紫電先輩はそれを誘発したとみなし、本来ならあなたより重罪と言ってもいいでしょう。ただ、あなたの暴走によるスタジアムの損害なども踏まえて、今回は同罪という処遇に」
    「クリスティアは理由が理由だから、三日くらいって話だったんだけど」
    「”炎上くんの看病役がいなくなってしまうので”と同じ日数謹慎扱いにしておきましたわ」

     果たしてそれはいいのか悪いのか。いや俺的には大助かりなんだが。

    「……クリスティアの評価が落ちそうだな、色々と」

     そうこぼしたら、安心させるようにカリナは笑った。

    「まぁ大丈夫でしょう。むしろあなたを抑えた救世主として称えられるんじゃないですか」
    「それならいいんだが」

     未だに寝息をたてるクリスティアの髪を撫でる。とりあえず今回のことで他の問題が来なければいい。友人がいなくなるとか、畏れられて誰にも近寄られなくなるとか。俺だけなら構わないが。せっかく来た学校で辛い思いはさせたくない。とりあえずカリナの言うとおり、悪い方向に行かず称えられることを祈る。

    「あっそうだリアス」
    「なんだ」

     クリスを撫でる手はそのままに、思い出したように言うレグナにまだあるのかと目を向けた。

    「謹慎終わったら木乃木乃先輩がお前の教室訪ねてくるって」


     さも当然のようにそう言う親友に、一度止まって。



    「……誰だその木乃って奴は……」



     六月早々面倒なことが起こりそうだと、ただ溜息を吐いた。


    『面倒事は、さらなる面倒を引き連れてやってくる』/リアス



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