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小ネタとか電子版で原型をとどめなくなった本編置き場
小ネタは改稿やらなんやらして電子版に入ると思います。

小ネタ一覧


  • 電車に乗ったら龍刹と出逢った話(NEW)
  • お兄ちゃんと楽しいお勉強[if年の差パロ]
  • 買い物に行ったら龍刹がいた話2
  • 彼女とキスができるまで



  • 電車に乗ったら龍刹と出逢った話(NEW)

     よく晴れた水曜日。平日だけれど休みになって、文化祭で付き合うことになった三年生の先輩とデートをすることになり。私は電車に乗っていた。
     目的地までは一時間弱。ちらちらとスマホでSNSを見ながら、各駅で止まって出たり入ったりする人々をぼんやり眺める。

     平日の昼間だけあって人はとても少ない。席はガッラガラ、おかげで大好きな端っこを陣取れるのだけど。


     うん、実はちょっと暇だ。
     暇つぶしの道具なんて持ってこなかったから特に。どんくらい混んでるかわかんなかったし、あれなら電車の中で人でも観察してればいいやと思ってやめたけど本くらい持ってくればよかった。観察する人もいねぇよ。
     できればスマホも電池あんまり使いたくないんだよなぁと思いつつ、ときどきSNSやらなんやらを見て、また止まった駅で出入りしてくる人を眺める。

     そんなのを繰り返して、とある急行待ちの駅に着き。


    「あ」
    「ん?」


     視界に入った目立つ容姿に、思わず声を上げてしまった。
     急いで口を噤むけれどばっちりとその人とは目が合ってしまっている。

     これが知り合いじゃなければさっと目をそらせるのだけれど。


     彼──炎上龍くんは私が通う笑守人学園で同じクラスの人でして。しかも席も近いし何回かしゃべったことあるから知り合いのカテゴリーには入っているわけでして。  さすがに目をそらすのは失礼ですよね。向こうもじっと私を見たあと、「あぁ」って納得した顔したし。

    「こ、こんにちはー……」
    「どうも」

     苦笑いで挨拶をすると、それはそれは律儀に返してくれた。この人すごいクールな割にはすげぇ律儀なんだよね。

     と。

    「刹那」

     炎上くんが、声を掛ける。
     すると、彼の後ろにいたこれまた目立つ容姿の女の子が、ひょこりと背中から顔を出した。

     クラスは違うけれどよく知ってる女の子、氷河刹那さん。炎上くんの恋人である彼女は私と彼を交互に見たあと、じっと炎上くんを見る。

    「クラスメイト」

     そう言われると、氷河さんはこっちに目を向けた。いつも通りの無表情のまま、こてんと小さく首を傾げ、

    「…こんにちは…?」
    「こんにちはー……」

     炎上くん同様、とても律儀に挨拶をしてくれた。
     それと同時に、そろそろ発車をするというアナウンスが流れて。炎上くんは席を探すかのようにあたりを見回す。


     これはもしや神が与えてくれたお時間では。



    「あっ、す、座る!? 隣!」

     そう思って上げた声に、炎上くんはとてもびっくりした顔。そりゃ話すと言っても挨拶とか必要事項程度の人がいきなり隣いかがですかはびっくりするわな。私もするわ。でも暇なんだもん、せっかくなら話して時間つぶしたい。


    「……」
    「……」

     二、三秒の見つめ合い。炎上くんはどうすればいいのかわかんなかったんだろう、固まったままだ。
     けれど再びアナウンスが流れたことで、それは解かれる。

    「失礼しても?」
    「も、もちろん!」

     律儀に聞いてきた声にうなずくと、炎上くんは隣の少女の背を押す。
     前に出た氷河さんは一度炎上くんを見たあと、すぐにこちらに向き直って。

    「おじゃまします…」
    「ど、どーぞー」

     そう言って、ぽすんと私の隣に座った。
     同時に動き出す電車。揺れが安定したあと、炎上くんも隣に座るのかなと思っていると。


    「今日は出掛けか?」
    「えっ」


     おおっと予想外、炎上くん、氷河さんの前に立って吊革掴んでいらっしゃる。


     え?? 座ればよくね???


     いやいいんだ、立つのはぜんぜん。座りたくないタイプの人だっていると思うしぶっちゃけこのままの方が話しやすいし。ただ君いかんせん顔がいいから吊革持った腕に寄りかかるようにしてこっち見られるとイケメン度が五割増しくらいになるんだわ。自分の顔の良さもっと自覚して。


    「……どうした」
    「あ、いや、うん、そう」

     驚きでじっと見つめていたら首を傾げられる。ねぇイケメン。どうしよう。しどろもどろに言葉を紡ぐけれどちゃんと言えてたよな。

    「ちょっとデート的な」
    「へぇ」

     はーい楽しげなイケメンのほほえみいただきましたー。


     やっばいな破壊力。氷河さんいつもよくこんなイケメンと一緒にいられるな!!


     そんな氷河さん隣ですっげぇきょろきょろしてるわ。慣れか。慣れって怖い。

    「えっと、炎上くんたちもデート?」
    「そんな感じだ」

     これでデートじゃないって言われても困るけれど。
     言いながら、目の前のイケメンは本日着てる黒いジャケットのポケットからピンク色の小包装を取り出した。

     そのパッケージには、「イチゴ味」。

     キャンディーかな?



     え、食うの???


     炎上くん食うの???? 実は甘いもの好きみたいなそんなギャップ???


     目を疑ったけれど、予想は外れた。


     ビッと包装を破って、イチゴ味の真っ赤なキャンディーを取り出すと。

     それは流れるように氷河さんの口元へ。


    「…!」


     きょろきょろしていた彼女は目の前に炎上くんの手がやってくると、ぱっと嬉しそうな顔をして。何の疑いもなくそれを口に含む。
     あ、かわいい。


     そして炎上くん、今度はズボンの後ろのポケットから紅いケースのスマホを取り出し、ロックを解除して何かをタップすると、氷河さんに手渡した。
     それも何の疑いもなく受け取り、ふらふらしていた彼女の意識はスマホの中へ。
     ちらっと見えた画面は、今話題になってるパズル系のソシャゲだった。やってないけど面白いのかななんて思いながら、目の前の人に目を移す。

    「……なんか、手慣れてるね」
    「付き合い長いからな」
    「そっかぁ」

     いや付き合い長いのレベルじゃない気がするんだけど。
     すっごい当たり前に今の一連の行動やってたけどまず第一ステップの飴食わすところから普通にけた違いだわ。

    「きょ、今日はどこ行くの?」

     とりあえず話題は当たり障りないものへ。ほんとなら学校でほとんどしゃべることのない氷河さんともしゃべりたかったけど、今は完全にスマホの中に意識が行ってしまっているので諦めてきれいなお顔を見上げる。

    「なんだっけか。メルドデパート?」
    「あ、こっから数個行ったとこの?」
    「あぁ。今開催されている美術展に」
    「そうなんだ」

     となると一緒にいれるのは二十分もないのか。ちょっとデート風景とか見たかった。残念に思いつつ、会話が途切れないように言葉を紡いでく。

    「炎上くんが電車に乗るってなんか意外だねー」
    「そうか?」
    「うん、お金持ちのイメージあるし、電車とかは苦手そう」
    「まぁ苦手なのはあながち間違いじゃない」

     ちょっと苦々しげに言う炎上くん。

    「今日も本当ならあの双子と一緒の予定だったんだが」

     あの双子……あぁ、お金持ちの。

    「愛原さんと波風くん?」
    「あぁ。当日になって会合だ何だとキャンセルになった」
    「あっちゃー」

     すごい、会合って言葉が超お金持ちっぽい。

    「車も執事が乗せていってくれるはずが、双子の送迎に使うからと」
    「そっちもキャンセルなんだね」
    「そういうことだ。いつもならその時点で断るんだがな。チケットを用意してくれたし、予約制だし」

     少し仕方なさそうに息を吐く。これは”やっぱり親友たちが用意してくれたから”みたいな優しい──

    「行けない代わりに美術展は貸し切りにするからと言われたから来た」

     違ったわ。
     待って??

    「ごめん”代わりに”の対価でかすぎない?」
    「あの二人はよくやるが?」

     うわ金持ち怖い。
     ていうかそれが当たり前になってる炎上くんたちも怖い。じゃなくって。

    「予約制なんだよね?」
    「華凜が、今日は俺達以外の予約はないと」

     それ絶対追い払ったやつでは。
     権力者怖い。

    「炎上くんたちっていろいろ常識外れだよね……」
    「そうでもないだろう」

     その時点でもう外れてるわ。
     ねぇ? と同意を得ようと隣を見ると。


    「…」

     めっっちゃみけんにしわ寄せてる氷河さんがいらっしゃった。
     すげぇこの子こんなに表情変わんの。常識外れよりもそっちのがびっくりしてすっぽ抜けたよ。


    「……私氷河さんがこんなに表情変えてんの初めて見た」
    「普段からこんなもんだろう」
    「え、ごめんどこが??」

     笑ってるのもよくわかんないよ私。
     その間にも氷河さんは唸り、首を傾げる。そんなに難しいのか。
     なんだっけ、一個の玉をスライドさせてく感じなんだっけ。

    「これってやっぱり難しいの?」
    「わかんない…なんかバーってやってぐわって倒すんだってー…」

     おっと氷河さん擬音で説明するタイプかぁ。せっかくしゃべってくれたけど難しさがぜんぜん伝わんねぇや。
     そんな中、唸りながら彼女は赤色の玉をタップして持つ。

     そして上や下にぐいぐいと、それはもう適当に移動させて。


     うまくパネルが合わなかったのであろう、また首を傾げてしまった。


     いやそれは合わないでしょうよ。


    「氷河さん、上と下だけじゃパネル移動しないよ……」
    「…?」
    「こう、移動したら他の玉ずれるじゃん? ずれた玉を四つとか五つとかの固まりにするようにスライドさせて行かなきゃいけないんじゃないかなー……」
    「…?」

     どうしようここだけ異国に来たみたいに言葉通じない。

    「私説明下手だった……?」
    「いや、わかりやすいだろ」

     あ、よかった。



     ただ、と。



    「こいつには無理だろうな」

     ねぇ炎上くん、彼女のこと目の前でバカ認定するみたいなことしないであげて。
     私のそんな目に気づいたのだろう、炎上くんは違うと一言言って、氷河さんが現在持っているスマホへと指を持って行った。

    「教えるなら見せた方が早い」
    「…」

     炎上くんは彼女が先ほど持った赤色の玉を持つ。
     それを、氷河さんにまるで覚えさせるように。ゆっくりとスライドさせ始めた。

     ときには上へ、ときには左斜め下へ。

     動かす度に他の玉も移動し、さっき私が言ったように五つとかの固まりを作って。


    「適当に固まりができたら、持った玉を同じ色の固まりのところに返すんだ」


     そう言って、赤色の玉を右端にできていた固まりにくっつけ手を離した。


     瞬間大連鎖が起こりました。



     某落ち物パズルゲームならラストの掛け声までいく感じの大連鎖。何がすげーって上下反転の状態からこの連鎖に持って行く炎上くんがすごい。頭までチートなのこの人。


    「♪」

     氷河さんはそんな大連鎖が見れたことなのか、それともクリアしたことなのかはわからないけれどとてもご機嫌な様子。学校の印象だとクールな女の子って感じだったけど実際は子供っぽくてかわいいな。
     そのまま彼女は次のステージへ行き、再び赤色の玉を持って先ほど炎上くんがやったようにスライドさせ始めた。さっきと違って連鎖が続き、それを「できたー」と嬉しげに炎上くんに見せる。

     見せてきた彼女に、炎上くんはとても優しげにほほえむ。

     えぇ、めっちゃお兄さん。
     普段ならリア充めとか思うのにそういうのがぜんぜん湧かない。癒し。美男美少女効果かしら。


     なんて心が満たされていると、テンポよく動いていた氷河さんの手が再び止まる。

    「どうしたの氷河さん」
    「赤がなーい…」
    「へ? 赤?」

     盤面を見てみると、確かに赤い玉はない。ここで当然のごとくこんな返しがよぎる。

     他の色使えばいいんじゃないの、と。

     何も赤だけしか動かせないわけじゃないのだから。
     しょんぼりとしている彼女によぎった思考のままを言おうとしたときだった。


     また、手が伸びてくる。

     そのきれいな指は今度は水色の玉を取り、先ほどと同じように華麗にスライドさせて。

    「ほら」

     軽い連鎖をさせて、盤面に赤色の玉を呼び戻した。
     とたんに、氷河さんのご機嫌は戻り、再び赤色の玉を持ってくるくると動かし始めた。そうして、クリアや連鎖ができる度に炎上くんに盤面を見せる。それはそれは嬉しそうに。また赤が消えるとしょんぼりして、炎上くんがそっと手助けをして赤を呼び戻すと、とても嬉しそうな顔をする。

     ……これはただ単に赤が好きなのかな?
     嫌いな色なら探したりしないもんね。むしろ消す。

     そう納得して、上を見上げると。

    「……」

     とてもとても愛おしげに歪んでいる、”紅い目”がいた。


     ──おっと?


     炎上くんと言えば、なんとなく赤のイメージだ。
     紅の目。名字は赤を連想する炎。そして彼がよく使う魔術も炎。


     赤を探す氷河さん。なくなってしまうと悲しそうにして、見つけると、とてもとても嬉しそうな顔。
     そういえば飴を見たときも嬉しそうにしてたな。


     もしも、単に”赤が好き”なのではなくて、


     大好きな炎上くんを連想させる赤が好き、というのはさすがに考えすぎだろうか。


     でも仮にそうだったら。





     氷河さん、炎上くんのこと大好きすぎでは?????



     好きな人のイメージカラーを無意識に追っちゃうとか、見ると彼を思い出しちゃうとかそんな感じ???
     え、かわいすぎかよ。
     この数十分で私の中の氷河さんの印象がだいぶ変わったよ。クールであんまり恋人にも興味ないのかなとか思ってたけど、実際は子供っぽくてのほほんとしてて彼氏大好きとか。
     その度合いはゲームで彼の色がないだけでしょんぼりするくらいに。
     えぇえただただかわいい。



    《次は、○○──。お降りの方は、足下にお気をつけて──》
    「あ」


     思わぬギャップに顔がにやけそうになっていると、炎上くんたちの目的地であるメルドデパートがある駅のアナウンスが流れた。

    「次だね」
    「あぁ。刹那」
    「…!」

     炎上くんはゲームに夢中だった彼女の名を呼ぶ。と、その集中が嘘のように氷河さんはぱっと声に反応して顔を上げた。
     まるで反射で反応したように。
     顔を上げた彼女ときちんと目を合わせて、炎上くんは一言だけ言った。

    「次」
    「降りる…?」
    「あぁ」

     うなずいて炎上くんが手を差し出すと、氷河さんはその手にぽんとスマホを置く。
     彼は当たり前のように受け取って、起動していた画面を閉じ、ポケットに戻す。すごい慣れた動作だなほんとに。電車がゆっくりとブレーキをかけていく中、まだ吊革から手を離さずにいる炎上くんと目が合った。


    「お前はまだ降りないのか?」
    「うん、もうちょい先」
    「そうか」


     隣では、意識を持って行っていたゲームがなくなって再びきょろきょろとする氷河さん。意外とこの子落ち着きないな?


    「えーと、デート楽しんできてね」
    「お前もな」
    「うん、ありがとう」

     あたりを見回す氷河さんを横目で見ながら炎上くんにそう言ったところで、電車が完全に止まった。


    「刹那」
    「…!」


     声を掛けると、再び炎上くんを見る氷河さん。目があったのを確認してから、炎上くんは手を差しだし、ほんの少しほほえんで。


    「行くよ」


     歩き出す──って待ってめっちゃいけめんなんですけどっ。
     え、なに「行くよ」って。普段そんな優しい言い方ぜんぜんしないじゃん? 愛原さんになんてお互いめっちゃ言葉悪いじゃん?? なに「行くよ」って。恋人にめちゃくちゃ優しいタイプですか炎上くん。


     思わぬ変化球に心の中で身悶えしている私をよそに、氷河さんは炎上くんの手を取り立ち上がる。
     それを確認してから炎上くんはゆっくり歩き出した。歩幅合わせるとかどこまでいけめんなの彼は。

     炎上くんやべぇなと思ってると、電車の降り際に、ちらっとこちらを振り向いたカップル。


    「ばいばい…」
    「またな」
    「あ、うん、ばいばい!」


     氷河さんは小さく手を振って、炎上くんはまたほほえんで。私が手を振ったのを確認してから前を向き、出て行った。



     電車が発車して、ゆったりとホームを歩いていた彼らを追い越していく。
     最後に見えたのは、自然と目があって、とても幸せそうにほほえんでいる二人だった。



     ──うん。



     すっげぇ濃密な二十分くらいだったな。暇つぶしどころかなんか胸一杯。
     なによりも炎上くんのお兄さんっていうかスパダリ感やべぇ。
     思い返してみる?

     まず恋人の口に突っ込んだあの飴、常に用意してんでしょ?
     スマホなんてあれ炎上くんの私物じゃん。当然のごとく氷河さんの暇つぶし用アプリ入ってたね。
     なんだかんだずっと氷河さんに意識向けて”ここ”ってときに手助けしてたじゃん。
     ラストなんて王子かよって感じで自然に手を差し伸べて、彼女の歩幅に合わせてあげてさ。


     そりゃあんなスパダリ彼氏なら大好きにもなるわ。名前呼ばれてすぐに反応したくもなるわ。氷河さんがイメージカラーまで好きになる理由がよくわかる。
     嫌いになる要素が何一つない。



     あんな恋したい。



     今から逢う恋人の先輩はあんな感じじゃないなぁと、無意識に炎上くんのスパダリ感と比べてしまって。
     
     揺れる電車の中、何度も断りのメサージュを入れようとしてしまうのをなんとか耐えた。



    『電車に乗ったら龍刹と出逢った話』/笑守人学園一年二組 女子生徒B


     電車で移動するときによく考えてたネタ。リアス様は彼女をいつも見ていらっしゃる。
     ソシャゲで彼らが触れていた色は互いのテーマカラー。ちなみに電車移動が決まった直後にインストールしました。






    お兄ちゃんと楽しいお勉強[if年の差パロ]


    「…」

     動かしてたペンが、止まる。

    「んー…」

     何度その問題とにらめっこしても、解き方がぜんぜんわかんない。


     カレンダーに目を移すと、三日後に期末試験が迫ってる。
     本当なら、自分の力でがんばって、あとで言おうかなって思ってたけど。このままじゃ言うこともできなさそう。

     イスから降りて、すぐそばの窓から、同じ二階にある目の前の部屋をのぞく。


     そこには、窓際においたベッドの上で本を読んでる、五つ上の幼なじみで、



     恋人の、リアスお兄ちゃんがいた。



     絵みたいなその光景にちょっと見とれてから、我に返って。
     邪魔して悪いなって思いつつ、自分の窓を、少し強めに三回、ノックした。


    「……!」


     その、音に。気づいてくれたお兄ちゃんが、こっちを向く。目があった瞬間のほほえみに、心がきゅんってなったのは聞かないフリ。


    「どうした」


     いつものようにカラカラって窓を開けてくれたのを見て、わたしも窓を開けて。

    「あのね…」
    「ん?」


     少しだけ悩んだあと。
     意を決して、言う。


    「勉強、教えて、欲しい…」


     お兄ちゃんはほんの少しだけ目を開いたあと、またきれいにほほえんで手招き。



    「おいで」


     それにうなずいて。
     わたしは勉強道具だけ持って、お兄ちゃんの家に向かった。







    「いらっしゃい」

     ぱたぱた駆けていって、インターホンに手を伸ばすと。お兄ちゃんはそれを鳴らす前に出てきてくれた。家に上がらせてもらって、そのままお兄ちゃんの部屋に向かう。入ったとき誰の声もしなかったから、今は一人なのかな。
     お兄ちゃんらしい、モノトーンな家具で統一された部屋に入って、ベッドにもたれるようにして床に座る。


    「飲み物いるか」
    「へーき…」

     首を横に振ったら、そうか、って言って、お兄ちゃんは隣に座った。ほんの少しだけ緊張したけど、なんとかいつも通りを装って、それでね、って切り出した。

    「わかんないとこ、あって…」
    「どこ」
    「ここ…」

     ペンを挟んでおいたところを開いて見せる。引き寄せてくれたローテーブルに乗せて、指をさした。高校二年生の数学、応用問題。

    「この応用だけか?」
    「まだいっぱい…」
    「ならこれを後回しにして、他のところに時間割けばいいだろ」

     なんて言いながらも一回自分で解くためにお兄ちゃんは教科書を自分の前に持って行った。

    「ちょっと、今回は、がんばりたくて…。ここ、絶対出るってゆってたから点数落としたくない…」
    「珍しいな。いつもはそれでもいいやとほったらかしていたのに」

     図星で、固まる。

     突然黙ったわたしに、お兄ちゃんは視線を教科書からこっちに向けた。

    「何かあるのか」
    「じゅ、じゅけん…」
    「嘘吐け、進学しないくせに」
    「き、気が変わったかもしれないじゃん…」
    「進学の話を聞いたのはつい二週間前だが」

     よく覚えていらっしゃる。

    「い、妹みたいな恋人が、勉強できるお兄ちゃんを見習ってたまには勉強がんばろって思ってるでよくない…?」
    「散々勉強している姿を見せてきて今更か?」

     でっすよねー。わたしでも思うかもしれない。「今?」みたいな。

     お兄ちゃんはずっとわたしを見てる。

     早く言え、って目で。



     え、でもどうしようまじでさらっとは言えない。





     テストがんばったらちょっと大人なスキンシップ教えてくれますか、なんて。






     子供ながらに大好きだった幼なじみのお兄ちゃん。昔からお父さんじゃなくて「いつかお兄ちゃんと結婚する!」って言ってたくらい。お父さんごめん。

     まぁふつうなら子供の言葉ってことで、誰もが本気にしないようなものなんですけれども。


     なんとこのおにいさま、わたしが中学二年生のときに「約束したよな」とおつきあいの申し出をしなさったではありませんか。

     もちろんわたしは、お兄ちゃん大好きだったし、なんなら成長するにつれて見えるようになった男らしさにも惹かれて、この頃には男性としても大好きだったので。
     そりゃ二つ返事でオッケーを出しまして。晴れて恋人同士になったのですが。



     付き合いだしてから約三年ほど。


     全然手を出されていないわけでして。したのは軽いちゅーまで。



     そりゃあね? 子供体型ですよわたし。
     身長なんて小学生並みの140センチ、それで世間で話題のロリ巨乳なんていうお胸が大きい感じならよかったかもしれない。
     そんな願いは儚くわたしのサイズはAカップ。魅了すらできやしねぇわ。

     できやしねぇんですけれども。
     恋人なのだから、しかもそちらから告白したのだから、少しくらい、手を出してくれてもいいと思うのも乙女心なわけでして。


     そう悩んでいたところに、同じクラスの閃吏とか雪巴が教えてくれたのです。

     テストがんばったらごほうびにっていうのはどう、と。

     少女マンガをよく読む美織も入ってきて、こんな展開があるよ、とかこんなのもどう? とか話を聞いていき。それだ! ってなりまして。
     がんばってお兄ちゃんともうちょっと進もう計画が始まったわけなのです。

     本当なら、お兄ちゃんに教わらずに、いつも中の中だった成績をがんばって上げて驚かせて、ごほうびちょうだいっていうのが理想だったけど。
     あまりにも問題解けなさすぎてだめでした。だって数学難しいんだもの。



     さて回想が終わったところで。

    「…」
    「クリス」

     声に、圧がかかる。無意識に、体に力が入った。


     え、まじでどうしよう。
     回想の旅に出てたら解決策なんて一切出てこなかった。閃吏、雪巴助けて。

     なんて思っても助けにくるはずもなく。頭の中のあの人たちはがんばってねーって笑ってました。


     
     ……………正直に言う?


     もちろんそれも考えたよちゃんと。
     一番始めに言って、テストがんばるのもありかなって。でもそれはすぐにやめた。

     まず引かれたらどうしようっていうのと。


     許可が出なかった場合のわたしのテストへのモチベがだだ下がりになるので。
     なのでできれば今も言いたくない。


     なんとか見逃してもらおうと、ずっと黙ってると。またお兄ちゃんの声が落ちてくる。

    「……言えないことか?」

     わぁすっごい冷え切ってるこの声。

    「い、えない、わけじゃ、ないんですけれ、ども…その…」

     何度か視線をさまよわせて。


     目が、合う。


    「っ!」



     お兄ちゃんの目は、声よりももっと、冷え切った目をしてた。



     あ、これ言わない方がもっとやばいやつだ。







     うん、言おう。




     この状態が続く方がわたし無理だ、死んじゃう。


     そう決意したら、すぐに口が開いた。



    「あの、ね」
    「ん」
    「ごほうび、ほしくて…」
    「褒美?」

     言った瞬間に、お兄ちゃんの目が、ふっていつも通りに変わる。あ、一番怖いのは回避できたかもしれない。けれど無意識に入ってる力はまだ抜けない。


    「……別に褒美が欲しいと隠す必要なんかないだろう」
    「いや、その…」


     問題なのはその内容でして。


    「あの、もしね」
    「うん?」
    「いつも以上に、点数、取れたら…なんだけど」

     口が震える。嫌われちゃったらどうしよう。でももうちょっと、進んでみたい。


     がんばれわたし。ぎゅって目をつぶって、口を開いた。



    「そ、の…そういう、こと、少しくらい、して、ほしい、なって…」


     言ったーーーわたし言えたよ閃吏、雪巴ーーー。


    「………………は?」


     そして空気固まったーーーーーーー。




     やばい死にたい。

     前確認したいんだけど目開けられない無理。

    「……」
    「…」
    「……」
    「…」



     空気が、重い。



    「……」
    「…」
    「……」
    「…」


     今何分経ったんだろう。すっごい時間経った感じするんだけど。
     お兄ちゃんなにも言わないんだけど。

     やっぱりだめだった?

     はしたない子って呆れちゃった?

     とりあえず、



     逃げようか。「ごめん冗談今日は帰るね!」なんて。



     けれどさすがに目をつぶって逃げることはできないので。
     このまま目を開けて、お兄ちゃんの反応がよろしくないものだったら全力で逃げようそうしよう。



     意を、決して。




     ゆっくり、ゆっくり目を開けた。


    「……」


     そこには、まぁ呆れたお顔のお兄さまがいらっしゃるじゃないですか。



     おっと予想外すぎるぞ??
     準備してた体の力が抜けちゃって、そのまま口を開く。



    「なんで呆れてるの…」
    「いや、いや、いろいろと……」


     お兄ちゃん頭抱えちゃったよ。
     そのままあーってうなったあと、きまずそうに名前を呼ばれた。


    「クリスティア」
    「はい」
    「ちなみに拒否権は?」


     うぇいまじですか。


    「あるは、あるけど…」
    「けど?」


     目が、合う。
     がんばってまっすぐ見て。


    「そんなに、みりょく、ない…?」



     そう首を傾げながら言うと。


     お兄ちゃんは思いっきりため息をついてしまった。やばい泣きそう。


    「クリスティア」
    「はい」


     無意識に、ぴしっと背筋を伸ばす。
     これはおとがめか。もういいどんとこい。



     と思ってたけれど、お兄ちゃんの口から出た言葉は予想と違った。


    「一応こっちも我慢をしている」
    「…がまん…?」


     あきらめたように、うなずく。


    「お前が高校生になって、段々女らしくなってきて、思わずこちらががっつかないように」
    「この体を女らしくと言うならお兄ちゃんは眼科に行った方がいい…」
    「悪いが視力は両目2.0だ」

     そうでなく、と。

    「……可愛い恋人に幻滅されないよう、いろいろ耐えてんだよ……」


     とても悔しそうに、どこか恥ずかしそうに目をそらして、言った。

     その言葉を飲み込んで、一生懸命頭を回転させて、



     理解する。



     瞬間に、ぶわって体温が上がった。



     お兄ちゃんは別に魅力がないからってわけじゃなくて、わたしのために、そういうことをがまんしてたと。いきなり手を出して、怖がったり、もうイヤってならないように。
     どこまでイケメンなのこの人は。

     その気持ちは、とても嬉しい。



     けれどどうしても、”そういうこと”を知りたいと思ってしまうのも、たしかで。



    「ね、ぇ」
    「ん?」

     服の裾を引っ張って、まだちょっと恥ずかしそうな目を見て、聞いてみる。


    「幻滅しない、ってゆったら、ごほうびに、してくれる…?」


     ”そういうこと”。


     ほんの少しだけ、目を見開いたお兄ちゃんのほっぺが紅くなった気がした。
     気まずそうに何回か目をうろうろさせたあと、また、大きくため息を吐く。


    「……卒業してからと思ったがまぁいいか」
    「…? わっ」

     小さくこぼされた言葉に首をかしげてると、抱き上げられて。
     あぐらをかいたお兄ちゃんの上に、座る。いつもしてるみたいに、後ろから抱きしめられた。


     けれどすぐに、いつも通りじゃなくなった。


    「! えっ」


     普段は絶対来ないところに感覚が来て、すぐにその方向に目を向けた。
     場所は、太ももの内側。

     お兄ちゃんの、手が。

     手、が。

     スカートの中に入り込んで、わたしの、太ももを、撫でていらっしゃる。


    「あ、の…」
    「望んでいるのはこういうことだろ?」
    「っ!」

     ゆっくり、手がこっちに向かってくる。すすすって、触れそうな、でも触れなさそうなそんな感じで手が上がってきて、変な感覚がする。
     待って、待って。

    「い、いまじゃ、ないっ」
    「確認をしているだけだ。認識の相違があったら困る」

     合ってるのか、って耳元で言われた低い声に、肩がはねた。

     あってるけども、あってるけどもっ!


    「それともこっち?」
    「へ、…っ!」


     頭が追いつかない中でいきなりあごをとんとんってされて、お兄ちゃんの方に向かされる。

     そのまま、口を塞がれた。


    「、んっ!?」


     いつもならすぐに離れていたのに、今日は。


     唇を、なめられて、

    「ふ、ひょっと、まっ、!」


     口が開いたすきをついて、舌が、入ってきた。ぬるってしたお兄ちゃんの舌に、背中が反る。
     歯の裏側を舐められた瞬間に、内股のあたりに変な感覚が走った。


    「ふ、んむ」
    「、……」


     くちゅくちゅ口の中で音が鳴って、ときどき、歯の裏以外の部分でも、変な感覚が走る。それを、追っていこうとしたときに、

    「ぷはっ」
    「はっ……」

     舌が出ていってしまった。

    「…」

     頭がふわふわする。苦しかったのにきもちいときがあって、離れたら、なんとなく、口がさみしい。無意識に、口の中のだえきを飲み込んだ。


    「クリス」
    「へ…」


     まだ頭が回らない中で呼ばれて、顔を上げる。また、さっきのしてくれるのって思ってたら。


    「わ、あ!?」


     視界が、反転。

     背中にちょっと衝撃があって、反射的に閉じた目を開けると。




     楽しそうに、意地悪そうに笑ってる、リアスお兄ちゃんがいた。




    「あ、の…」
    「改めて聞くぞ」

     ゆっくり、ゆっくり。きれいな顔が、近づいてくる。


    「おにい…」
    「試験で良い点を取ってきたなら、褒美は与えてやる」


     目が離せずに見つめて。



    「ただしお前が望んでいることの場合」


     近づいてきたお兄ちゃんの口は、わたしの耳元。



    「これよりもっとすごいことになるのでいいなら、な?」
    「っ!」

     甘く、甘くそう言って、耳の裏を、ぺろりと舐められた。声は出なくて、体だけが跳ねる。


    「俺も散々我慢はしているんだ。こっちへの褒美も兼ねて好きにする」
    「え、え…」


     背中に回った手が、焦らすみたいに、上にあがってく。

     それに釣られるように、自分の腰も少し浮いた。


     その、ときに。


    「!」


     太股に、なにかが、当たってしまう。


     聞かなくたってわかる。




     そっと目を上げると、いつの間にか、さっきみたいにわたしを見下ろしてるお兄ちゃんと目があった。




     その視線は、なんとも色っぽくて。


     今にも欲しい、そう言いたげな目をしていて。


    「条件が飲めるなら、その褒美にしてやるよ」


     不敵に笑ったお兄ちゃんに、ぞくって背筋をなにかが駆けめぐった気がした。




     条件が、飲めたなら。
     さっきの、きもちいの、もっとすごいことをしてくれる。



     ──わたしが望んだ、以上のもの。







     手を、伸ばされる。
     さっきみたいにいやらしい感じじゃなくて、愛おしそうに、壊れ物を触るように、ほほに触れられた。


    「クリスティア」


     返事が欲しいときの、圧のこもった声に、反応する。




    「勉強、始める?」





     答えなんてわかりきっているような顔で聞いてくるお兄ちゃんに。





    「……はじめる」






     好奇心が勝ったわたしは、素直にうなずいた。




    『お兄ちゃんと楽しいお勉強(if年の差パロ)』/クリスティア




    買い物に行ったら龍刹がいた話2


     入学したエシュト学園で同じクラスになった炎上君は、とんでもないイケメンで有名だ。
     顔よし頭よし運動神経だってよし。多分一年生の女子は、どんなに低く見積もっても誰もが一回は気になる人くらいにはなったはず。

     当然そんな人に彼女がいないわけがなく。彼には愛する愛する恋人がいるということはすぐにわかった。
     そして彼女・氷河さんもとんでもなく美少女で。無口で物静かな子。上級生にはちょっと嫌な目で見られることもあるようだけど、正直あの子には敵わないと、一年生では誰もが思っているだろう。


     まぁどうしてこんな話をわたしがしているのか。


     夏休みまっただ中な本日。たまたま買い物に出たら、そのカップル(学園内では龍刹とCP名がついている)が街を歩いているのを発見したからである。



     黒いパーカー付きのタンクトップにジーンズを履いた炎上君。同じくパーカー付きの、白のタンクトップで二の腕あたりからアームウォーマーをつけて、ミニスカートを履いている氷河さん。

     あれ間違いなくお揃いな感じでは?? 仲良しかよ。


     なんてちょっと顔がにやけそうになるのを堪えながら、行く道が同じらしいので後をつけてしまう感じだけれどさりげなく後ろを歩く。
     
     炎上君の服の裾を掴んで後ろをちょこちょこと歩く氷河さんはとてもかわいい。見ていてとても癒し。でも手は繋がないのかしら炎上君。


     もどかしいような、でもかわいらしいようなそんな後ろ姿を見つつ大通りに出て歩いて行くと。


     突然、氷河さんが顔を横に向けた。


     おっとバレたか?? と思ったけれどどうやら違うようで。

     彼女は、わたしたちが歩く歩道の反対側を見つめていた。

     なんだろうとつられて見た先には、最近できたらしいカフェ。持ち帰りもできるしテラスでおしゃれにお茶もできて、しかもビーストとの交流支援を行ってるって有名なところだ。

     気になってるのかな、なんてまた前に目を戻す。
     その考えは当たりらしく、段々と目の前の女の子の歩幅はゆったりとしていった。
     おっと炎上君そのままだと氷河さんが裾を離してしまうぞ。


     そんな矢先に、思った通り、カフェに気を取られた氷河さんは炎上君の裾から手を離してしまい、立ち止まった。


     瞬間。

    「刹那」

     炎上君が、名前を呼ぶ。

     え、君今前向いてるのにどうやって気づいたん。後ろに目でもあるんですか。

     名前を呼ばれた氷河さんは瞬時に反応して、炎上君を追いかけ、服の裾を掴んだ。
     歩みを止めない炎上君。けれどまた、氷河さんはカフェに目を向け、歩みが遅くなる。

     言っちゃいなよ氷河さん、あのカフェ行きたいって。

     そう思ってはみるも、氷河さんはカフェをじっと見るだけ。
     行きたいわけではないんだろうか。しかしどんどん歩みは遅くなり、

     また、手を離してしまった。


    「おい」


     再び手を離した氷河さんに、炎上君が振り返る。
     そうしてカフェの方を見ている氷河さんを捉えて、彼女に歩み寄った。会話を聞きたいのでさりげなくスマホが鳴ったフリをして、ちょっとわき道に逸れて携帯をいじる。


    「どうした」
    「あれー」
    「ん?」

     なんだその優しい聞き方。イケメンかよ。
     ちらりと様子をうかがうと、彼女の視線に合わせるように炎上君はしゃがんでいる。

     お兄ちゃんかよ。

    「どれ」
    「カップかわいい…」
    「カップ?」

     あー、オープン記念でビーストを模したかわいいカップになってるんだっけ。サイトを開いて見てみると、猫や犬、クマなど、たくさんの種類のカップがある。なるほど、それを見てたのか氷河さん。

    「ねことくまかわいいの…ほしー…」
    「……」

     言われた炎上君は、立ち上がる。お、行くのかイケメン。
     彼はキョロキョロと周りを見て、何かを確認していた。車通りかな?

    「あっちで渡るぞ」

     そしてここから少し歩いた先を指さした。そこには、


     横断歩道。


     もうお父さんじゃね炎上君。



     見た目不良っぽいくせしてすげぇ律儀。ギャップ萌えはんぱねぇな。
     ここでわたしも同じ経路で行ってしまうと絶対に不審がられそうなので、二人が歩き出したのを見計らって、わたしはそのまま車道を突っ切った。よい子はまねしないでね。



     そうして渡り切ってわき道でまたスマホをいじること数分。
     彼らがやってきてから、電話してるフリをして「うんじゃあちょっとカフェで時間潰してるー」なんて嘘をつきつつ彼らを追って店に入る。
     少し列ができたレジに並んだ瞬間に、わたしも後ろに並んだ。なんでわざわざここまでしてるかだって? 会話聞きたいんだもの。

    「先にメニューをお選びになってお待ちくださーい」
    「どうも」

     律儀にお礼を言って、炎上君はメニュー表を受け取る。わたしも受け取って、メニューを見るフリをして前の二人に意識を向けた。わたしはキャラメルマキアートでいい。決まっている。

     目の前のカップルは、相も変わらず氷河さんが炎上君の裾を持って、手を繋がず並んでいる。手は繋がないタイプなのか。
     そして炎上君は「ほら」、と彼女に見えるようにメニューを見せた。イケメンだな。


     そこからは特に会話もなく並ぶことしばらく。
     炎上君たちが注文する番になり、レジ前に立った。

     メニュー表を返しながら、

    「コーヒーとココアのトールで」

     なんて言う。
     そうして財布を取り出す。わぉイッケメーンと思うけれどちょっと待ってね。


     氷河さん「これ飲みたい」っていつ言った???


     わたしずっと意識向けてたけどじっとメニュー見てただけだよ??
     決まったかとかこれがいいとか何もなく炎上君頼んじゃったよ?? 夫婦でもできねぇよそんな芸当。

    「現在期間限定でこちらのカップにできますが、彼女さんのをこちらのカップにしますか?」
    「両方お願いします」

     しかも両方可愛いカップにするんかい。

     炎上君それ持つの?? お姉さんも「えっ」て顔してるぞ。
     その間にもビーストを指定していく炎上君。そのままお金を払って、商品待ちの棚の方に移動して行った。

     流れるように可愛いもの指定していったぞあのイケメン。
     驚いた顔のままとりあえず注文を、と前に向き直ると、同じく驚いた顔をした店員さんと目が合う。二人して曖昧な笑みを浮かべて、ひとまずキャラメルマキアートを頼んどいた。




     さて、と。
     トールサイズのマキアートを受け取って、ちょこちょこ飲みながら店内を見回し龍刹を探す。

     が、見当たらない。


     じゃあ外か、と一歩踏み出すと。


     いたーーーー。


     くまさんのカップで飲んでる炎上君いらっしゃったーーー。
     その傍らにはねこさんカップで飲んでる氷河さん。こっちはかわいいただかわいい。


     彼らはガードレールに凭れるようにして飲み物を飲んでいる。
     この一文だけ見ると美男美女が優雅にデートを楽しんでいるように聞こえるが、

     炎上君の手にはくまさんがいらっしゃる。


     ふっつーに飲んでるけど恥ずかしくないの炎上君。たぶんこれ女の子ターゲットだからがっつりハートとか入ってるけど。道行く人もちらちら見てるぞ。イケメンだーと目を向けてその手元見てびっくりしてるぞ。
     けれど本人はまったく気にしていないのか恋人さんを見つつ(恐らく)コーヒーを飲んでいる。
     肝座ってんな。

     ひとまず会話が聞こえそうなテラス席に座って、飲み物に口を付けつつまたスマホをいじった。


    「うまいか」
    「ん」
    「よかったな」
    「ん」

     横目で見てみると、こくこくうなずく氷河さんを見て炎上君が微笑んでいる。イケメンスマイルいただきました。ありがとうございます。


     炎上君は飲み終わったのか、お持ち帰り用の袋にくまさんカップを入れる。あ、捨てないんだ。持って帰るのね。氷河さん欲しいって言ってたのを叶えてあげるのね。最高かよ。あんな彼氏持ちてぇ。

    「……」
    「…」

     元々物静かな二人はプライベートでもそうなのか、あまり会話らしい会話がない。炎上君はスマホをいじりだし、氷河さんは飲み物を飲んでいる。

     すると彼女のねこさんカップの残りが半分弱というところで、突然氷河さんは何かを追うように顔を動かした。

     じっと追っては戻し、また発見したのか、追うのを繰り返す。

     なんだろうと思って視線を追ってみると、


     彼女の視線の先には、カップル繋ぎをした男女の手。

     最初は確信がなかったけれど、顔を動かすタイミングで視線の先にいるのはいつも手を繋いだ男女だった。


     っあーほらやっぱり手繋ぎたいんじゃん氷河さんーーー。


     炎上君学園以外でくらい手繋ごうよーー。
     テーブルを叩きたくなるのはなんとか耐え、代わりに貧乏揺すりをする。

     そうして何度も追い、戻しを繰り返していると、ズゴゴ、とねこさんカップが中身終了を告げた。

    「ほら」
    「…」

     それを炎上君が回収し、袋に入れる。そしてまた、歩き出した。

     炎上君気づいてあげて、氷河さん手繋ぎたがってるよ。

     念を送ってみるけれど気づくはずもなく。もどかしいままキャラメルマキアートを吸い込む。


     と。

    「りゅー」
    「ん?」

     いつも通り服の裾を掴んだ彼女は、くいっと引っ張った。それに気づいた炎上君は振り向き、視線を合わせるようにしゃがむ。


    「どうした」
    「あれやりたい…」
    「あれ?」

     おずおずと、氷河さんは指をさす。
     その先には手を繋いだ男女。

     しかしこれだとわかりづらい。
     炎上君も首を傾げてしまった。

    「どれだ」
    「あのね、あの…」

     氷河さんはほんの少しだけ頬を染めて、一生懸命言おうとしている。
     がんばれ氷河さんっ。

    「あの、っ…」
    「ん?」

     しゃがんだ膝に肘をつき、炎上君は優しく聞く。あーーもどかしいのにイケメンだなちくしょう。
     氷河さんはキョロキョロと、たぶんまた手を繋いでいる男女を捜しているんだろう、辺りを見回す。

     そして近くを通りかかったターゲットを見つけ。

    「あの、手…」
    「手?」
    「あれ、やりたい…」

     炎上君の腕の裾を持って、顔を紅くして小さく呟く。くそかわいいなおい。
     手と言われて、今度こそ捉えられたらしい炎上君は「あぁ」と納得の声を上げた。
     そうして立ち上がり。

    「ほら」

     手を、差し出す。

     っひゅうさっすが!

     差し出された氷河さんは、どこか嬉しそうに、自分の手を重ねた。緩く、そのまま握ると。



     なんと炎上君、自然に指を絡めたじゃあありませんか。




     やっべ自分じゃないのにすげぇ打ち抜かれた感やばい。氷河さんもまさかそこまでしてくれると思わなかったのかわたわたしてるぞ。
     なんだあのイケメン。さっきからイケメンしか言ってないけど許してイケメンなんだもん。そして氷河さんめちゃくちゃかわいいなおい。普段あんまり表情変わんないけどだからこそああやって照れるとかわいさ倍増。


     さてもっとこのかわいさに浸りたいけれど、まずは歩き出してしまった彼らの後を追おうかと、立ち上がる。

     カップを捨て、本当はここからは行き先が変わるけれど好奇心の方が勝ってしまい。再び彼らの少し後ろについたところで。



    「!」


     ふっと、紅い目と視線が合った。
     炎上君はこちらを振り向き、その目に警戒を含ませている。その冷たさに、思わず立ち止まってしまった。



     おっとこれは──?


     もしやと思い至ったところで、彼はわたしがクラスメイトだとわかったのか、少し驚いた顔をした。
     ただそれは一瞬で。思案した表情を見せたあと。


     そのまま、再び前を向いて歩いて行った。



     どうやら見逃してくれたようだ。



     立ち止まっていたわたしは。


    「……これ最初から気づかれてたやつ……?」


     クラスメイトであったことに心底感謝して、本来行くべき道に戻って行った。



     これを機に、わたしは龍刹がさらにかわいいということと、尾行は相手を選ばなければならないということを学びました。


    『買い物に行ったら龍刹がいた話 2』/笑守人学園一年二組 女子生徒A


    あとがき
     リアクリ、あんまりおてては繋がないカップルです。理由はリアスがいざというときすぐに行動できるようにするため。でもすごい安全なところとか、外でもお願いするとちゃんと手繋いでくれます。ちなみにこの話の1はコミックの方にあります。



    彼女とキスができるまで


    「……」


     すべてができるようになるまで、早くて半年。
     遅くて一年で足りるだろうか。



     腕を組みながらソファに座り、下で黙々と本を読んでいるクリスティアを見る。


     恋人は、恋愛のスキンシップが苦手だ。
     だいぶ昔に、クリスティアにちょっかいをかけてくる遊び人の男がいて。女なら誰彼かまわずちょっかいを出していたそいつは、屋敷の廊下脇でメイドに、まぁそのなんだ、今夜どうだ的なことを、その、卑猥な感じで体を揺らしながら問うていたそうだ。
     それを、この恋人が見てしまい。
     瞬時に、いつか自分もされるのではないかと想像してしまったんだろう。本能的に拒絶したらしい。俺がクリスティアを見つけた頃には顔を真っ青にして挙げ句の果てには吐いた。


     そのときから恋愛のスキンシップというか、いやらしい目や仕草を拒絶してしまうようになり。



     齢一万年近くになった今でも、俺はこいつに手を出せないでいる。


    「……」


     ただそろそろ何かはしたい、というのが本音である。
     一緒に住むというのがここまできついとは正直思わなかった。朝は無防備だわ、一応本人も頑張ろうと思うのか思わせぶりなことばかりするわ。
     ぶっちゃけて言ってしまえば欲望がやばいわけで。
     そこで、いろいろと穏やかになった今で気づいたわけだ。

     ゆっくり刷り込んでいけばいいだろう、と。

     自分とするのは大丈夫だと、ゆっくりゆっくり刷り込んでいけばいい。幸い彼女は俺にだけは従順すぎるほど従順なのだから。
     いつものごとく包囲していけばいいじゃないか。

     そうして、冒頭の考えに至る。

     最後まで、と考えるならば早くて半年が妥当ではないかと。
     キスまでと考えるならば。


    「……一ヶ月、くらいか」
    「…なにがー?」


     小さな呟きが聞こえて振り返った彼女に、なんでもないと首を振る。
     そう、とまた本に戻ったクリスティアの髪を掬った。



     さて一ヶ月と見込んで。
     

     俺はまず”それ”をする機会を伺っていなければいけない。
     本音を言うとあまり気は進まないが、他にやりようはない。言葉では恐らく警戒するだろう。ならば行動で、警戒心など抱かせず、ごくごく自然にやらなければならない。さらに言えば、最後までも警戒心を抱かせずにいかなければいけない。

     レグナにならって言うなら難易度S級のクエストである。

     拒絶されたら終わり。ものによっては立て直しができるだろうが、今回のものは厳しいだろう。
     さぞかし余計なことをしてくれたなと、もうすでに死んでいる元凶を恨んだ。


     そこで。


    「……!」


     クリスティアが動く。髪に触れていた手を離してやると、本をぱたりと閉じて立ち上がり、キッチンの方へと向かった。冷蔵庫を開けて、じっくり見ること一分弱。何を食うか決めたんだろう。手を突っ込んで引っ張り出したのは、細い棒状のチョコスナック菓子。

     神からのGOサインか?

     機会を伺おうと思っていたらすぐにそれがやってきた。これはもうGOサインだろう。
     神からも背中を押されたなら仕方ない。やるしかないなと心に決めて、嬉々としてこちらに戻ってくるクリスティアを手招きする。
     彼女はなんの警戒心も抱かず、俺の膝に座った。

    「…♪」

     そのまま機嫌良さげに袋を開け、一本を口に含む。ポキポキと音を鳴らしながら、それは彼女の口へと吸い込まれていった。

    「うまいか」
    「ん」

     頷いて、また袋から一本取り出す。それを口に含んだ、

     瞬間に。

    「クリスティア」

     名前を呼んだ。
     そうすれば彼女は必ずこちらを向く。

    「ふぁあに(なぁに)」

     クリスティアは口に含みもごもごさせながら首を傾げた。少女のような彼女に、微笑んで。

    「あ」

     自身の口を、小さく開けた。

    「…?」

     当然彼女は、すでに傾げてある首をさらに傾げる。そこに警戒心はない。ただの疑問だけ。
     我ながらいやらしいなと笑いそうになるが、ぐっと抑えて、手を伸ばす。

     行き先は、彼女の加えたスナック菓子。

     俺の口に近い方を、トン、トンと叩いてやる。

     それと、口を開けている状態を見て、察したんだろう。

    「!」

     その菓子をくれと。



     俺は甘いものがものすごく苦手だ。できれば口には含みたくない。
     今までクリスティアがどんなに差し出してこようとも、「誰かにあげるから味見して」と言うとき以外には拒否している。

     普通なら、そんな恋人がいきなり菓子をくれと言ったら「なんだ」と警戒するだろう。

     しかしクリスティアは別だ。
     今まで拒否していたものをくれとせがんだとき。


     クリスティアはとても嬉しい顔をする。


     何故か。
     彼女は好きなものの共有が大好きだから。

     俺が好きだと言ったものは一旦口にするし(味覚がほぼ正反対なので後々後悔しているが)、好きな本は必ず読みたいと言う。逆も然り。気に入った本は薦めてくるし、好みの味は食べてみない? と必ず差し出してくる。


     そんなわけで。



    「♪」


     共有が大好きな彼女は、俺がくれと言っているとわかった瞬間。案の定パァッと目を輝かせて、俺の肩へと手を置いた。そのまま、近づいてくる。

     袋から一本出してあげる、という発想はないんだろう。
     それがわかっているからやっている自分も中々だがこいつの俺に対する警戒心のなさも中々だと思う。


     ゆっくりと近づいて、スナック菓子が唇に乗った。
     俺の手はまだどこにも添えず。ソファに手をついたまま、菓子の先をポキリと折る。


     あっまい。
     思わず顔をしかめたくなるが、耐えて。


    「おいし?」


     そう、嬉しそうに聞いてくる彼女に。


    「……たまには、悪くない」


     精一杯微笑んで返した。
     それを見て、さらに嬉しそうに笑って。クリスティアは菓子へと意識を戻す。





     さぁ今日から、少しずつ包囲していこうか。


     知らぬ間に堕ちてくるであろう彼女の髪をいじりながら、そっと、口角をあげた。


     唇まで、あと十五センチ。





    『彼女とキスができるまで』/リアス





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