幸せな日々が、続いてほしかった

「で、まだ言えてないんです?」

その言葉に、小さくうなずいた。

まだまだ寒い、一月。カリナと冬に育つ薬草を採っている中で、言われた。
わたしがなにを言えていないか。

リアスへの、愛の言葉。

愛おしい、共にいて欲しい、って言葉には、うなずいて答えた。

それからばたばたして、時が経ち、村を出てから二年が過ぎまして。

「…タイミングが、合わなくて…」
「毎日一緒にいるのにタイミングもなにもないでしょうよ……」

結局言えずにいて、カリナにはあきれられてる状態です。

「どうするの。もしかしたら次のものがやってくるのよ?」
「次…?」
「恋仲になった次は契りでしょう」

言われて、顔が熱くなったのがわかった。
思わず結構な勢いで薬草を引っこ抜いてしまう。

「動揺するのは結構ですが、あなたまだ大事なこと言ってませんからね」
「…はい…」

愛おしいと、まだ言えていない。

「他の愛情表現とかはしているの?」
「他の…?」
「接吻とか」

また勢いよく薬草を引っこ抜いてしまった。

「……していないのね」
「してないです…」

ばれるし恥ずかしいしで思わず顔を覆った。

リアスと恋仲になってからも二年くらい。一緒に住むようになって、最初こそ恥ずかしくて眠れないことも多々あった。今でも時々緊張して眠れないこともあるけれど。

さて恋仲らしいことと言われたらほっとんどしていないわけでして。

手に触れるのは、昔からだから慣れっこ。抱きしめてくれるのはたまにどきどきするけど、これも昔からだからだいぶ慣れてきた。

ただそれ以上のことは、まだしていない。

「契りの前にはするものじゃないんじゃないの…?」

本来接吻も、その、その後のことも。夫婦の契りを交わしてからするのが普通って教わった。

なんだけども。

「あなたの場合言葉で愛情表現していないんだから何かしらで愛情表現をしなさいと言っているんですよ」

ですよね。心が痛いよカリナ。

「言葉にできたなら話が早いのだけど?」
「あれってなにげないときにも言うものなの…?」
「それはまぁ人それぞれかもしれないけれど」

少なくともわたしは無理だ。恥ずかしさで死ぬ。

「カリナは、なにげないときにも言う…?」

あ、今度はカリナが薬草思いっきり引っこ抜いた。ごめんね薬草さっきから。耳を紅くしてるカリナに頬がゆるむのを感じながら、のぞき込む。

「…言うんだ?」
「その、人並み、には!」

わぁカリナすごい女の子の顔してる。かわいい。にやにやしてたら、カリナが咳払いをして。

「私の話はいいの。今はあなたの愛情表現の話をしてるのよ」
「話そらした…」
「リアスの前であなたが言うようにけしかけてあげましょうか」
「ごめんなさい待って」

わたしを殺す気ですか。
薬草をプチプチ抜きながら、膝に顎を乗せた。

「…目の前にすると、恥ずかしいもん…」
「リアスも言葉が欲しいのではなくて?」
「なんか、言えないならいい、って言う…」
「よほどあなたからの愛に自信があると見受けるわ」

ほんとにね。

「…でも、ちゃんと言わなきゃとは思う…」

言えなくて他の人のところに言ったら嫌だし。ただこういうのって初めてだし、タイミングが掴めなくてなかなか踏み出せない。

「あ」
「ん…?」

悩みながら薬草を引っこ抜いてたら、カリナが声を上げた。
そっちを見たら、楽しそうに笑ってる。

これはなにかをたくらんでる顔。

「なにカリナ…」
「タイミングがあればいいんでしょう?」
「無理矢理作らなくていい…」
「大丈夫よ無理矢理はしないから」

いたずらっ子みたいに笑って、続ける。

「いっそ夫婦の契りの時に言えばいいじゃない」
「契りの時に…?」

首を傾げたら、楽しそうに笑った。

「そう。一番いいタイミングでしょう? これから夫婦として生涯を共にするのだから。それの始まりとして、あなたからも愛してると告げれば良いじゃない」
「そもそも契りするの…?」
「ここまで恋仲でいてしないと言ったら私はあの男を村から追い出すわ」

うわぁやりかねない。
冗談はさておきって言ってるけど冗談に聞こえないカリナ。

「一生で一番大事な日になるのよ。あなたからもなにかできたなら、さらに良いと思わない?」

聞かれて、薬草に目を戻した。

わたしが、一生で一番大事な日に、リアスにずっと言いたかったことを言えたなら。

リアスは、どんな顔するんだろう。
一瞬驚いて、うれしそうに笑うのかな。
照れて、そっぽ向くのかな。

「普段は言えなくてもいいと思います。恥ずかしくて言えないくらいあなたはあの男が大好きで、愛おしいのでしょう?」

うなずく。
あの人が、あの人といる毎日が、とても愛おしい。

「なら特別な日くらい、頑張りなさいな。あの男だって、契りを言うのに頑張るんですから」
「……うん」

紅くなってるであろう顔を隠すように、うずくまった。

恥ずかしくて、あなたに言えない、愛の言葉。

毎日はちょっと無理だけど。

特別な日なら。
がんばってみたい。

大好きだって、あなたのこと、わたしも愛おしいって思ってるって、言いたい。
わたしのことを愛してくれてありがとう、わたしも愛してるよって。これからもよろしくねって。そう、言えたなら。

リアスは、笑ってくれるのかな。

「まぁまずはあの男に契りを言わせるところからですね」
「変にけしかけたりしないであげてね…」
「さぁどうでしょう」

なんていたずらっぽく笑うカリナに、つられて笑った。

当たり前のようになってきた幸せな日々。これからもっと、幸せな日々がやってくるんだろうか。

期待と、リアスの反応に胸を膨らませた。

『幸せな日々が、続いてほしかった』/クリスティア

 

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