写真立ての中にいる六人は、いつまでも変わらぬまま

蝉が鳴き始めたある日の朝のこと。
玄関のドアを開けて、頭を抱える事態、なんてものじゃなく、本気で頭を抱えた。

「お世話になりますよリアス。──あぁ、今は龍でしたっけ」
「やっほークリスティアちゃん!」
「ウィード…♪」

目の前に、本来いるはずのない二人がいたから。

何度も何度も人生を繰り返した結果、この世界の神・セイレンとは割と気兼ねなく話す仲だった。
今回の人生はどうだった、なんていつもの話をしたあと、恋人と幼なじみが報告を終えるまで、他愛ない話をよくしたものだ。
そんな中で、何度か聞いたことがある話。

大神の支配下である、大きなこの世界のこと。

その大きな世界の中では、セイレンが形成する”愛の世界”を始めにいくつもの世界が存在するらしい。
悲しみ、慈しみ、愛、勇気──それぞれのテーマでそれぞれの神が世界と生物を作っていると聞いた。

へぇと話半分で聞きつつ、ふと。
世界を変えれば運命も変わるのかと聞いたことがある。

その問いには、即座にNOが返ってきた。
そもそも、世界の行き来は基本的にはできないんだと。

神は自身の世界のものを愛しすぎる傾向があるから。それがどんな「愛情」の形であっても。
愛しい子供には旅をさせず、そして外部からの子も何があるかわからないから受け付けず。
だから基本的には行き来はできない、させないと言っていた覚えがある。

あるんだよ。

「だから毎回何故あんたたちがいるかを大変聞きたいんだ俺は」

その暗黙の規定を幾度となく破ってこちらに来ている二人へ問うも。

返ってきた笑みは、どこぞのポニーテールと同じ。

「頭のよろしい君ならわかるでしょう?」

にっこりと笑って。

「偶然またこの世界に来たんですよ」

返された答えに「んなわけあるか」と。
盛大に、溜息を吐いた。

「「……」」

ひとまず学校があるからと、異世界からやってきた二人、センチェルスとウィードを連れて双子の待ち合わせ場所へと向かい。
さすが双子と言うべきか、それとも今回は誰でもそうなるのか、異世界組を捉えると揃って「またか」という顔をした。

「久しいですねレグナ、カリナ」
「……えぇ、結構お逢いしてませんでしたね」
「元気だった? 俺とセンチェルスは元気だったよ!」
「うん、俺たちも元気だったよウィード。でも待ってね二人共。さも当たり前にいるけどおかしいこと知ってる?」
「リアスも同じことを言いましたが、私も同じことを言わねばなりませんか?」
「いや、うん、大丈夫」
「どうせまたいつもの”偶然”でしょう?」

カリナの問いに、センチェルスは正解ですと笑った。

異世界にいるはずのセンチェルスとウィード。
本来知り合いになるはずもない二人だったが、俺達は数百年ほど前、彼らと知り合うこととなった。
そのときは本当に偶然で。
時を扱うセンチェルスによって、偶然この世界の扉が開き。そこにたまたま俺達が居合わせて、帰る間面倒を見たことで繋がりができた。

そこまではよかったんだ。美談だなで終わるんだ。

問題はその先だ。

「……毎度毎度”偶然”でここに来れるなら俺達も”またか”という顔はしないんだが?」

そう、彼らは一度帰った後。
”偶然”を装って何度もこの世界に訪れるようになった。

学園前の交差点を渡りながら訝しげに睨むも、紫髪のそいつは意に介さない。

「たまたま、ふと、逢いに行こうと思ったらそれもまた”偶然”というものでしょう」

そんなバカな。

「でもまぁいいじゃないですか。我々が来たおかげでウィードもクリスティアも喜んでいますよ」

ほら、と指さした先を追うと、目の前で二人、仲良く手を繋いで交差点を渡るクリスティアと、性別と相反した女物の制服を着たウィード。後ろから見ると兄妹のように見えるそれに少しだけ和み。

ふと思い至る。

「おい」
「なんですか、私のウィードが可愛いということでしょうか」
「俺のクリスティアの方が可愛い。そうでなくだな」

そんなわけあるかと言いたげに睨まれたが無視をして。

交差点を渡りきったところで、聞く。

「あんたらこの後どうするんだ」

一瞬きょとんとしたあと、センチェルスは俺に問いを返してきた。

「予想ができませんか?」

と。

制服姿の二人と、その言葉でもう答えがわかってしまったので、早くも本日二度目のため息を吐いた。

「それではお二人のことはよろしくお願いしますね~」

そう言って、江馬はいつものように笑って去っていく。
一連の流れにはから笑いしか出なかった。

「から笑いしている暇はないでしょうよ。遅れますわ」
「したくもなるだろうが……」

目の前の、当たり前のようにいる二人にまた頭を抱える。

「まさか学園の一日体験手続きまで済ませてうちに来ていたとはな……」
「到着した昨日のうちに済ませておいたんですよ。あ、ここで必要な異種族翻訳イヤホンも入手済みなので心配はありませんからね」
「さいで……」

もはやツッコむのが疲れてきた。

とりあえず一日だけ、彼らが学園生活を体験したいと言うことなので。

「♪」
「よろしくな! えっと、刹那ちゃん!」
「うん…♪」

クリスティアも嬉しそうだし、カリナの言うとおり授業にも遅れるだろうし、もう細かいことはいいかと歩き出す。

「さて、まずはあなた方がこれから誰について行くかなんですけれども」

少し足早に廊下を歩いていく中で、カリナの言葉に、ウィードが首を傾げた。

「誰に、って? みんな一緒じゃないの?」
「わたしと龍は、全部いっしょ…」
「相変わらず過保護ですねぇ」
「うるさい」

にやにやした笑みにガンを飛ばすも余裕そうに笑われて大層ムカつく。

「授業はね、みんなが好きなの取るの…四人でかぶってるのもあるけど、結構ばらばらなの…」
「えー、俺みんなと一緒に授業受けるの楽しみだったのに!」

むくれたウィードに、カリナは優しく笑った。

「大丈夫ですわ。今日は幸い月曜ですし、四、五時間目なら一緒にいられます」
「華凜さん、四時間目はかぶりとしてその五時間目って俺のとこ乗り込む気?」
「ウィードくんがみんなで一緒にとおっしゃってるじゃないですか」
「いや実技に来られても……」
「蓮、あなたは五時間目なにを取ってるんですか?」

センチェルスの問いに、レグナは言いよどむ。わかる俺でも言いよどむ。

絶対に食いついてくるから。

「蓮、聞いているんですが」
「……あー」

言いづらそうに口ごもった後。
どうせわかると思ったのか、レグナは口を開いた。

「……医療実技」
「ぜひ行きましょう」

ほら来た。あまりの即答に、レグナと共に苦笑いをこぼした。

「それで最初は俺達の方に来ると?」
「ウィードは刹那と同じところの方が楽しそうですから」

そう笑って俺の対面に座ったセンチェルスに小さく息を吐く。
まぁそれには同意はできると、隣の嬉々としている互いの恋人達にほんの少し頬が緩んだ。

月曜日。俺とクリスティアの授業は一、二時間目と続けて技術実習。
作るものは基本的に自由で、俺は恋人と共に小さな本棚を作っている途中だった。

が、今回は体験の人間もいるので。

「おや、私たちの分もですか」
「せっかくなら参加した方がいいだろう」

五十センチ四方の、無加工だがそれだけで高級そうに見える木を二枚。新しく持ってきて、一枚を二人の前に置く。

「刹那も」
「少し待ってろ」

もう一枚は、ぐいっと手を伸ばしてきたクリスティアを避け、隅までチェックをして。

「ほら」
「♪」

彼女の目の前へ。
各々のタイミングで始めて良い授業なので、クリスティアはすぐさまペンを取りだし木に下書きをしていく。

「センチェルス! 何作る!?」
「ウィードの好きなもので構いませんよ」
「俺の……うーん、うーん……」

対してあちら側はさりげなくいちゃつきながら考える。
手を重ねるな手を。

「木で作れるものって何がある?」
「いろいろあるじゃないですか。まぁ作ると言ったら入れ物が多いんじゃないですか?」
「そっかぁ。刹那ちゃんは何作る?」

突然問われて、クリスティアはパッと顔を上げた。

そうして、木とウィードを交互に見た後。

「…はこ」
「箱?」
「はこ」

それだけしか言わない恋人に、目の前に座る水色の頭は首を傾げるけれど。

「…はこ、作るの…」

断固としてそれしか言わない。
その不器用さに、思わず笑いがこぼれてしまった。

「出来上がりはお楽しみだそうだ」
「…」
「えー」

助け船を出してやると、クリスティアはそうだと言わんばかりにこくこく頷く。
それにウィードは少々不服そうだが、

「それではお互いにお楽しみにしましょうウィード。楽しみが二倍になりますよ」
「!」

恋人の言葉が絶対な彼は、センチェルスの言葉にすぐさま納得し。

「うん! わかった! じゃあ後で見せ合いっこだよ、刹那ちゃん!」
「ん…」

互いにお楽しみと言うことで、作業を開始した。

「刹那、そんなに力を入れるとねじが曲がる」
「曲がんないもん…わたしはか弱い女の子…」

「センチェルスー! これ合わない!」
「だからちゃんと計算しながらと……あぁもう貸しなさい」

その後は、楽しみと言いながらも対面でそれぞれの作品を作っていき。

二時間目の半ばに突入した頃。

「見慣れない顔はここか」

聞き慣れた声がして、教室の入り口方面に目を向ける。
そこには、

「……俺としてはお前達も中々見慣れないが」

この授業でもなく、同じクラスでもない祈童と道化がいた。

「やぁ炎上、今日も過保護そうだな」
「なんなんだその挨拶は……」
「わぁ、ほんとに刹那ちゃんみたいな水色の可愛い子なのね!」
「? あなたは誰ー?」

俺のところへやってきた祈童とは相反してまったくこちらに目もくれず道化はウィードの元へ駆けていく。

「あたしは美織って言うの! 道化美織! 道化師よ!」
「道化師? ピエロってこと?」
「そう! 楽しませることなら任せなさい!」

そう言って、来るやいなや道化は手を合わせ。

「3、2、1──」

カウントダウンをして、パッと手を開いた。

そこからは、幾数ものバラの花が。

「わぁっ!」
「みおりすごい…」
「でしょう! もっとあるのよ!」
「道化、楽しそうなところ悪いけれど授業の邪魔だよ」
「あっそうね。じゃあ休み時間に! 刹那ちゃん、お隣失礼してもいいかしら!」
「うん…」

すぐに次の手品に行きそうな道化を制して、彼女がクリスティアの隣に座ったのを確認してから。
立ったままの祈童を見上げる。

「騒がしくて済まないね、センチェルスとやら」
「構いませんよ。あなたもこの授業の方ですか? それにしては登場が遅い気はしますが」
「いいや、僕も道化もこの時間は休み時間だ。氷河が知り合いが来てうきうきしていると道化が言っていてね。この時間は炎上のところだと波風に聞いて来たんだよ」
「……ユーアや雫来は」
「ユーアは波風のところの医学にご執心だ。彼は福祉の方に行きたいからね。興味があるんだろう」

雫来はわかるだろう? と。
時折やってくる来訪者が今回いない理由に納得し。相変わらずお気に入りに対しては無自覚だなと苦笑がこぼれた。

「ところで、あなたも座ったらどうですか?」
「あぁ、気にしないでくれ。すぐ行くよ」
「えっそうなの!?」
「何故お前が反応するんだろうな道化!」

クリスティアやウィード達よりも先に道化は驚いたようにがたんと席を立つ。そんな彼女に呆れたように息を吐いて。

「僕はともかく、君は次の授業は教室が反対方向で階数も上だろう。移動時間十五分じゃ汗だくだぞ」
「うっ、そ、そうね……」
「みおり、行っちゃう…?」

クリスティア、お前がそれを言うと道化は止まるからやめてやれ。
ほらものすごく迷っている顔しているじゃないか。

「美織ちゃん、手品見せてくれないの……?」

そしてウィードも入ってさらに迷った顔しているじゃないか。
さすがの俺でも可哀想に思えてくるわ。

「……そこの彼女は刹那が好きということですか?」
「いや、まぁ、あながち間違えではないが……」
「あれは、なんだろうな炎上……愛原の感覚に近いというべきか……」
「あぁ……それなら納得です」

センチェルスの中で道化が第二のカリナとして確立してしまった。

まぁ別に否定することもないかと、小さく話していると。
二人の悲しげな雰囲気に迷っている顔の道化が、口を開く。

「ご、」

……ご?

「ごめんね刹那ちゃん、ウィードちゃんっ、お昼にまた逢いに来るからーーーーっ!!!!」

口元だけは笑みのまま、悔しそうにそう叫んで道化はばたばたと教室を去って行った。
あいつさりげなくウィードの性別間違えていないか。

まぁいいかと、視線は祈童へ。

同じくこちらを向いた祈童は、笑う。

「というわけだ炎上、氷河。そして見慣れぬこの世界の探検者たち。ひとまずこれにて僕らは失礼するよ」
「またあとでー…」
「あとで名前教えてねー!」

ウィードに頷いて、祈童も道化を追うように去っていく。

それを、全員で見届けてから。
センチェルスがこちらを向いた。

「彼はセイレンのコピーとかそういう方ですか? 見慣れぬ探検者と……彼と同じ表現をされたのですが」
「いや?」
「あなたのところで言うハーフで神の声を聞けるとか」
「残念ながらあいつはヒューマンだ。神職の息子で魂的に近いんだろう」
「へぇ……ここは中々不思議な世界ですねぇ」

そうか? と首を傾げた俺に、センチェルスが頷いたところで。

「できた…」
「できたー!!」

互いの恋人達が声を上げ、すぐに二人、意識はそちらへ行った。

そして俺の方は瞬く間に視界が暗くなる。

「できた、見て…」
「わかったからお前は視界を奪うことをやめようか」

できたものを目に押し当てる勢いで見せるから毎回見えないんだクリスティア。

手探りで彼女の体を捜し当て、脇あたりに手を入れて抱き抱える。
やっと視界が晴れてまず見えたのは、嬉しそうな恋人の顔だった。

「……上手にできたか」
「うん…♪」

ふわりと笑った彼女に笑って、隣のカップルが「見て見てかわいいでしょ!」だとか「あそこからよく修正できましたね」だとか話しているのを聞きながら、恋人を膝の上に座らせる。
俺に寄りかかるようにして、クリスティアは両手に乗せたその”はこ”を見せてきた。

赤茶色の、装飾なんてなくても高級そうに見える小さな宝箱。
彼女の手から受け取って、一通り見てみる。

「……あれだけの馬鹿力でよくねじが曲がらなかったな」
「その角一回目にぶち当ててみれば……?」

思い切りねじって入れようとしてりゃそう思うわ。

恋人がお怒りで手を出してくる前に「さて」と顔は隣へ。
ウィードは嬉しそうに、それを見たセンチェルスは微笑ましく二人で笑い、作品を眺めていた。

ウィードの手にあるそれは、こちらと同じ赤茶色の木で、作られたものは──

「写真立て…」
「あっまだ見ちゃダメだ!!」
「えぇ、ごめん見ちゃった…」

さっと背中に隠すもすでに遅い。

「ウィード、もうばれていますよ。観念して出しなさい」
「でも、でも、せっかくきれいに包もうと思ったのに!!」
「どうせすぐ出すんですから。大丈夫ですよ」
「うーーっ」

その行動に、向こうのしようとしていることがわかって。
”同じ”かと、クリスティアの背を緩く叩いて促した。

蒼い瞳は俺を見上げて、首を傾げる。

「渡せなくて困っているそうだ。助けておいで」

小さな声で、そう言ってやると。
ヒーロー体質な彼女はすぐさま俺の膝から降り。

宝箱を持って、勇ましく歩いていく。
そうして、ウィードの前まで行き。

「ウィード」
「!」

そっと、両手を差し出した。
その小さな手に、宝箱を乗せて。

「プレゼント、作ったの…。無くしたくないもの、入れて…」

守ってあげるから。

優しく微笑んで、彼女は言う。

それを、何度かクリスティアと交互に見た後。

「くれるの!?」

ぱぁっと、ウィードの表情が一気に明るくなった。一度写真立てを置いて、宝箱を手に取り。
一通り見た後、嬉しそうに強く抱きしめる。

「ありがとう!!」

満開の笑顔で言って、すぐに何かに気づいた顔へ。
もらった宝箱は置き、隣の写真立てを今度はクリスティアへ差し出した。

「俺も、これ!」
「…!」
「大切な写真、入れてね。俺も守ってあげるから!」

恋人は、手に渡ったそれをいろいろな角度で見て。
満足そうに、微笑む。

「…ありがとう…」

その、中々見ない笑みに。

「……妬けますねぇ」
「……うるさい」

微笑ましくはあるも、目の前の男の言うとおり、少々嫉妬してしまったことはどうか口を噤んでいてほしい。

「それっ!」
「そいやー…」

「可愛い子が可愛いことしているとか最高ですわ……」
「わかりますよ華凜、私のウィード最高ですよね」
「あらあら、可愛らしいのは存じておりますが最高なのは刹那ですわ、お忘れなく」
「またやっているのかお前らは……」

三時間目の休み時間に一通り学園を案内し、四時間目、四人で取っている体育球技の時間。

基本的に自由にしていい課目なので、幼なじみ四人、そしてセンチェルス、ウィードで集まり。
クリスティアとウィードのバレーボールのラリーを、残った四人で眺めている。

そんな中で行われるカリナとセンチェルスのいつもの攻防は、何年経っても変わりない。

そして、

「いつものことじゃん龍。あの張り合いは」
「とかなんとか言って自分は関係ないみたいに言ってますが、あなただって妹が最高だと思っているでしょう?」
「もちろん、論争する必要もないけど?」

レグナのこういうところも。
さすがに苦笑いがこぼれる。

「もう、お恥ずかしいですわお兄さま」
「思っていないでしょう」

なんて、愛想なんだか本気なんだかよくわからん笑みで話しているのを聞いていたら。

「──!」

クリスティア達より奥でバスケをしている奴らの一人が、パスを受ける際腕を変な方向に持って行ったのがわかった。
バランスを崩しているからわざとではないんだろう。けれど弾かれる方向が、こちらに来そうだと推測できる。

立ち上がり、二人に手を伸ばした、

──ところで。

「危ないっ!」
「わっ…」
「!!」

ウィードが、思い切りクリスティアを引っ張り、そのまま後ろに倒れ込んだ。

そしてボールは彼女らの元いたところにやはりやって来て。
突然目標を無くしぶつかるとこのないそれは当然その一直線上にいた俺を狙う。

タイミングが速まっただけで予想ができているものなので、手で受け止め。
すまないと謝るバスケ集団に投げ返して、視線は倒れた二人へ。

「いてて……大丈夫?」
「へーき…」

ウィードが下敷きになるように倒れ込んだ二人は、クリスティアから順に起きあがり。
すぐにウィードも起きあがって、未だ膝の上にいるクリスティアを、のぞき込む。

あぁ忘れていたと、それを見て思い出した。

「怪我はない? ごめんね、痛かったよね」

こいつは女の格好をしているだけで男で、そして大層イケメンだと。
その気遣いに見ていた俺も若干惚れ掛けたわ。

「へーき、ありがと…」
「よかった! ごめんね引っ張って」
「ううん」

「うちのウィードは最高でしょう?」

若干悔しくもあるんだから耳元で囁くな。

俺の隣を追い越していったそいつには舌打ちを返し、センチェルスを追い、俺もクリスティアの元へ行く。

「怪我は」
「なーい…」
「さすがですねぇウィード。偉かったですよ」
「えへへへっ」

互いの恋人を立たせてやり、俺は本当に怪我がないかチェックする。
その間に、クリスティアから嬉々とした声が落ちてきた。

「ウィードね、男らしかった…」
「そうか」
「だって俺男だもん♪」
「うん、かっこよかった…」
「えへへへっ」

普段自分に対して聞き慣れたものが違う相手に向けて言われるとここまで複雑なのか。
嬉しそうなウィードの声に苦笑いをしていると。

ウィードは「でもね」と言い出す。

「センチェルスもかっこいいんだよ! 俺よりもずっと、ずーっと!」

あぁここも始まるか。
しかし思いはするものの恋人を止める間はなく。

「それなら龍だってかっこいい」

恋人側の”いつもの攻防”に、溜息を吐くしかできなかった。

「龍もかっこいいのは知ってるよ! でも俺のセンチェルスの方がかっこいい! 何でもできて、優しくて、すっごくすっごくかっこいいんだから!」
「龍だってなんでもできるもんっ、かっこいいし、優しいし」
「それ今俺が言った!」

「始まっちゃったね」
「止めてくれ親友」
「無理に決まっているでしょう。でもよかったじゃないですか。あなたが唯一愛情を知れる場ですわ」
「そうだけれども……うっ」

待てクリスティア、お前の今の状態で抱きつかれるのはまじでやばい、骨が死ぬ。
向こうのウィードのように服を引っ張るように抱きついてくれまじで。

けれど思いは伝わらず、言い合いはヒートアップしていく。

「センチェルスは俺のこと宝物みたいに大事って言ってくれたし、キスとかだってたくさんしてくれるもん!!」
「龍だって刹那のことずっと思ってくれて、ずっと一緒にいてくれるもんっ、そういうことができなくてもいいって、すごく優しい!」
「勉強だってすごいできるんだよ!」
「リアス様は運動神経いいもん!」

おい人の本名口走るな。今注目の的なんだクリスティア。いきなり知らない人間の名前出てきたみたいになるから。

「寝るときりゅうはずっと一緒にいてくれるし、こわい夢見たらずっとずっと優しく抱きしめてくれるもんっリアス様はかっこいいのっ!!」

興奮して名前が両方入っているじゃないか。龍とリアスという人間がいるみたいになるから落ち着け。

なおも「刹那ちゃんの分からず屋」だとか「どうしてこのかっこよさがわからないのっ」だとか聞きつつ、さてどうするかと悩み始めたところで、肩に重み。

これをやるのはあいつしかいない。

「今日は来訪者が多いな……」
「ま、オマエらのコトが大好きだからイロイロ知りてーっつーコトで?」

どういう理屈だ。
そちらを見やると、やはりいるのは陽真と武煉。

「何しに来たんだ……」
「この時間は休みだからね。遊びに来たんですけれど……」

そう言って、上級生は下に目を向けたので、俺もまた下へ目を移す。

「お邪魔だったかな?」

未だどっちがかっこいいと言い合っている互いの恋人たち。嬉しくはありつつもよくもまぁここまで話題が尽きないなと関心もする。

「刹那ちゃんのこんなでけぇ声初めて聞くわ」
「!! はるまっ、ぶれんっ!!」
「お」

声が聞こえたのか、クリスティアは突然こちらを向いた。

「ねぇりゅうの方がかっこいい、せつな間違ってない!!」
「あっずるい刹那ちゃん!! 俺そっちの二人知らないのに!!」
「ずるくないもん!!」
「まーまー落ち着けって。ドッチもカッコイイでいいじゃねぇか」
「「だめっ!!!」」

すまない陽真。

あえなく撃沈した陽真に笑っている双子をど突いたとき、

「ウィード、そろそろいいでしょう」

ようやっと、センチェルスが動いた。

あぁ来るかと、クリスティアを抱き上げながら体から引き剥がす。

「まだとちゅうっ」
「まだ途中でももういい、俺は満足だ」
「せつなは満足じゃない」
「夜また聞いてやるから」
「おやおや、イケナイお誘いみたいだね」

黙ってろ武煉今だけは。

気がそれたクリスティアを、彼女にとっては背後になるウィード達が見えないように抱きしめる。

そこで、

「センチェルス、まだ終わって──」
「はいはいわかりましたよ」

思い切り、センチェルスがウィードにキスをかました。口笛が二つ聞こえたので、今回はレグナと陽真がハモったらしい。
心の中で願うのは、せめて濃厚なものではないようにと祈るばかり。

もちろんこのキスまでもが注目の的となり。
言い争いの件も含めて教師に散々怒られたは言うまでもない。

「楽しかったですねえ」
「……」
「私も面白かったですわ龍」
「俺も」

日が暮れ始めた中で、裏庭へと足を進める。
センチェルスと双子の声は弾み、

「でね、そのときセンチェルスがね」
「うん…」

昼間の言い争いがなかったかのように目の前の互いの恋人たちはまた手を繋ぎながら歩く。
溜息を吐いたのは、散々巻き込まれた俺だけである。

昼飯まではよかった。
同級生も含めて飯を食い、道化の手品で主にクリスティアとウィードが盛り上がり。
ティノがハンドメイドで作品を作ってきたと言ったときにはセンチェルスがその手でどうやってと反応して少々大変だったが、五時間目からの方が大変だった。

俺とクリス、カリナは休み時間だったのでレグナの医療実技を見に行き、それに興味深いと血が騒いだのか俺が止める羽目になり。
結局六時間目の体育器械は大幅に遅刻、しかもそこでもクリスティアとウィードの張り合いが出てどちらの彼氏が体が柔らかいだので勝負することになり。俺はそこまで体が柔らかくないのに散々押され死ぬかと思った。

「あんたらが来るとろくなことがないな……」
「楽しかったでしょう? あぁ、でも今日はあなたと恋人のすばらしさの言い合いが少なかったのが残念です」
「代わりにあっちの二人がやってくれたしね」

大変迷惑も被ったがな。

まぁ嬉しくないわけではないのでと、結局許してしまう自分は大層恋人には甘いと自覚している。

自分にから笑いしている中で着いた先は、

「ここ…」
「これみんなで育ててるの?」
「うん…まだはっぱ…」

四人で育てているペチュニアの花壇。
未だ葉の状態ではあるが。

「これがお花咲くんだ?」
「うん、ペチュニアってゆうの…咲くとお願いかなうんだよ…」

カリナが「ほんとに叶うとまでは言ってない」と焦っているじゃないか。
盛るのはやめてやれ。

けれど見えていない彼女らに届くわけもなく。ウィードは楽しそうに笑う。

「素敵だね! いいなぁ、俺もお願い叶えたい!」
「華凜、叶わなかったら覚悟してくださいね」
「そこだけは本当にご勘弁願いますわセンチェルス様」

死にそうなカリナのことは意に介さず。

「ねー、センチェルスー! いいでしょー!!」
「はいはい、帰ってから一緒に考えましょうね」
「やったー!!」

そう、嬉しそうに両手を挙げたとき。

下校のチャイムが鳴り、六人で顔を合わせた。
口を開いたのは、センチェルス。

「ちょうどいいタイミングですし、これにて解散にしましょうか。我々は夜には帰りますから」
「……そうか」
「またそのうち逢えるといいですねぇ、四人共」
「今度はせめて事前連絡をお願いしますわ」
「そうしたら可愛い服も作っておくよ」
「えぇ、考えておきます。さぁ行きますよウィード」

こちらでは別れは終わり、クリスティアとウィードに視線をずらす。
二人は向かい合い、悲しそうに眉を下げていた。

さながら兄妹のような二人は、

「またね」
「ん…」
「もらったもの、大切にするね」
「うん…元気でね…」
「うん……!」

まるで今生の別れかのように名残惜しそうにしてから。

互いの恋人の元へやってくる。
悲しさに耐えるように抱きついてくる恋人の頭を撫でて。

「……気をつけて帰れよ」
「えぇ、迷ったらお邪魔しに行きます」
「やめてくれ」

いつものように、最後に冗談を交えてから。

俺達は、テレポートでその場を後にして。

一日、長いようで短い、旧友との久しぶりの時間を終えた。

『写真立ての中にいる六人は、いつまでも変わらぬまま』/リアスifstory

 

 

うちよそ企画「また逢う日まで×End of Fortune」

執筆:志貴零