願わくば、いつかはあなたの”紅”に埋もれて眠りたい

あかは血の色、だめな色”。

みんながこわがる悪魔色。

でも、わたしにとっては、初めて”わたし”を見てくれた、大好きなあなたの色。

そんな”紅”に埋もれて眠れたら、わたしはどんなに幸せなんだろう。

「りーあーすーさーまっ」
「っと」

大好きなヒトに駆け寄って、そのひざに飛び乗る。

当たり前のように受け入れてくれて、腰を支えて。

紅い瞳がわたしを見た。

「どうした」

やさしく笑ってくれるその紅い瞳が大好き。

「…」
「うん?」

じっと見つめたときのちょっと不思議そうな紅も。

「なんでもなーい…」
「なんだそれ」

答えなんてわかってたくせに、そう言ったら笑って歪む紅も。

ぜんぶ、ぜんぶ。

「……!」

愛おしくて、大好きで。そっと目元に触れた。
リアス様はいやがることもなく、また紅い目でわたしを見る。

じっと目を見返しつつ目元を親指でそっとさすったりしながら、紅いきらきらを見ていたら。

今度はおかしそうに、その紅が変わった。

「相変わらず物好きだな」
「うん」
「欲しいならくれてやるが?」

手を取られながら、抱きしめられる。

紅い目は見えなくなっちゃったけど、代わりにあったかい”紅”が巡る体に包まれて、目を閉じた。

でも首は、横に振る。

「…いい」

ぎゅって、リアス様の服を掴んだ。

「これはあなたに収まってるからきれいなの」

ただ、もしもかなうなら。

最後の言葉は言わずにいるけど、強く強く抱きしめられたから、あなたもきっと気づいてる。

抱きしめ返しながら、あったかい紅の中で意識を遠くに落としていった。

あなたに恋に落ちたのはいつの間にかだったけれど、”紅色”が好きになった瞬間だけははっきり覚えてる。

あなたが初めて名前を呼んでくれたとき。

「クリスティア」

満開の桜の下。
みんなに遊んでもらった日。

自己紹介をしていって、すぐに名前を呼んでくれたあなたにびっくりして。思わず目を見開いて、自分とは反対の紅を見た。

「…」
「? なんだ」
「名前…呼んだ…」
「今お前が自分で”クリスティア”と言っただろう」

いやそうなんだけれども。

そうじゃなくて。

「…水女みこ、って、呼ばない」

小さく言ったら今度はそのヒトがびっくりした顔になる。

自分で”水女”が嫌なくせになに言ってんだろう。呼ばせたいわけじゃないのに。今言ったことで、せっかく呼んでくれた”クリスティア”が変わっちゃったらどうしよう。自分の言葉に後悔し始めたときだった。

ふって、目の前のヒトが笑った。

「崇めてもいないものの名を呼べと?」

そんなのはごめんだ、なんて言葉に今度はまたわたしがおどろく番。思わず固まっちゃって、頭の中で何度もその言葉を繰り返した。
やっと”水女”と呼ぶ気がないってことに気づいたところで、リアスはカリナやレグナと笑いながらわたしの手を引く。

みんなが笑っているのに、一番目を引くのは真ん中にいる紅色。

遊ぶんだろって言う目は、みんなが怖いって言うのに全然怖くなくて。

悪魔だとか血だとか、不吉なものって教えられていたけれど、とてもとてもやさしくて。

吸い込まれるように、手を引かれていった。

 

その紅い色は、死にたかったわたしに全部くれるって言った。
一番に愛してくれるって。

だから生きようって言ってくれた。

一番欲しかった言葉にうなずいたら。

そのヒトは本当に、わたしに全部をくれた。

名前を呼んだらこっちを向いてくれて、抱きしめてくれて。
敬語も使わずにあいさつをしてくれて、たくさんたくさん遊んでくれて。

好きだって言ってくれた。

ずっと愛してくれたあなたがわたしも好きだよ、大好き。

あなたを、愛してるよ。

そのときうれしすぎた上に照れちゃって愛の言葉は言えなかったけれど。めいっぱいうなずいて、あなたに愛が伝わるようにたくさんたくさん一緒にいた。

 

だけど。

「クリスティア」

終わりは、突然。

明日みんなで一緒にお祝いしようねって言ったのはかなわなくて。

痛みと一緒に、大好きな紅が見えなくなった。

死んだってわかったのは、真っ白な空間に来たとき。

思い返すのはあなたと出逢った日々の中の、後悔。

愛してるが言えなかった。

たった五文字。
好きって言う二文字すら、わたしはあなたに言えなかった。

悔しくて悲しくてつらくて、生まれ変わりを何度も何度も断った。

あなたに逢いたい。

今度は愛してるを伝えるから。

どうか──。

 

そんなわがままは、セイレンが叶えてくれた。
愛の言葉が言えない代わりに、この体のまま、記憶のまま。生まれ変われるって。

また逢える。

また四人で一緒に過ごせる。

今度こそ、あなたに愛を伝えられる。

天界から消える中で、心の中はうれしさで満たされてた。

 

でもうれしいって気持ちになれたのは、ほんの数回目までだった。

 

あなたに言いたかった愛の言葉が、もう言えないってちゃんとわかるまで。

 

今度こそ、今世こそ。あなたに「愛してる」を言うんだって決めているのに。

「、──、っ」

口を開いて”それ”を言おうとすれば、のどが焼けるみたいに熱い。

痛くて、苦しくて。それだけで涙が出てくる。

「っ、ぁ、っ…」

何度試しても同じ。あなたがいないところだと言えるのに、目の前にするとのどがおかしくなる。
痛くて熱い、苦しい。

でもそんな気が狂いそうな苦しさの中でも、何度も何度も自分をせかす。

ちゃんと言って。

あなたに、”愛してる”って。

早く。

がりってのどが鳴って違う痛みが走ったとき。

「もう無理しなくていい」

のどをおさえてた手が引っ張られて、あったかいぬくもりに抱きしめられた。

紅い目は見えないけれど、声がとても悲しそうだから。きっとつらそうな顔してる。

まだのどが痛いから声は出ないけど、ごめんなさいって伝えるように抱きしめ返した。
それにまた強く強く抱きしめられて、大好きな声が落ちてくる。

「俺はお前が傍にいてくれるだけで十分伝わる」

そうやってやさしくされたら、甘えちゃうよ。
のどが痛いからなのか、リアスのやさしさからなのか。涙を流して。

結局そのやさしさに甘えてしまう弱い自分に、今だけはって言いわけしながら。
あったかい体温の中でうなずいた。

 

それから諦めずに何度か試したけれど、結局「愛してる」は言えなかった。
言おうとするたびにすごい痛みが出るから、だんだんリアスが「声が出なくなったら」って心配するようになって。
声が出なくなっちゃったらそもそも言えなくなっちゃうし、それは困るから。言葉じゃなくて行動で愛情表現をするようにした。
手を繋いだり、抱きしめあったり。リアスの言うこともちゃんと聞いて、なるべく心配させないようにして。
そうして自分なりの愛情表現で伝えるようになって、しばらく経ってから。

わたしにとっての、本当の地獄が始まった。

「好きですっ」
「あなたを愛しています」
「好きになってしまったんです」

 

リアスがいろんなヒトからモテ始めた。

最初はよかったの。
昔から何もしてないのに悪く言われてたのがようやくなくなったねって。みんなでちょっと他人事に笑ってた。

でも。

「リアスさん」
「今日はこういうのを持ってきたんです」
「ねぇ、わたくしとお出かけしましょう?」

尋常じゃないくらいのモテ具合に、だんだんと自分の余裕がなくなってくのがわかった。

みんながことあるごとに「好き」って言う。

わたしを見れば、「かわいい妹さんですね」って言った。

リアスが「恋人だ」って言えば。

頭のてっぺんから足先まで見られて、最終的に笑われた。

どうせ「こんな子が?」なんて思ってるんでしょう?
そして「こんな子なら私の方が」って思った人たちは、わたしの目の前でどんどんアピールするようになった。

慕っています。
大好きなんです。

愛しています。

わたしが言えない愛の言葉を、目の前で。

家にまで押し掛けてやってくるそのヒトたちに、だんだん自分がおかしくなってるのはなんとなくわかってた。

 

「…」

日中のそれが焼き付いて、不安で夜も眠れない。

もし女の人たちが来ちゃったらどうしよう。
わたしが寝てる間に、リアスに「愛してる」なんて言われたらどうしよう。

こわい。

もしも──。

今、閉じているこの紅い瞳が。

わたし以外を見るようになってしまったら──?

考えただけでひゅってのどが鳴った。

「りあす」
「……」
「、りあす」

こわくて、そんなのいやで。リアスの服のすそをめいっぱい引っ張る。

でもまだその紅は閉じたまま。

目あけて。

今その閉じた世界で誰といるの?

わたしとは違うヒトと、いるの?

やだ。

「りあす、やだ」
「……ん」
「やだ、りあす」

頭がぼうっとする。なんとなく息が浅い? でも今、手離したらいなくなっちゃうかもしれない。

必死に名前を呼んで、服のすそを引っ張ったら。

ゆっくりゆっくり、まぶたが開いた。

わたしはどんな顔してたんだろう。紅い瞳がびっくりしたように開いて、そっとあったかい手がほっぺに伸びてくる。

「……どうした」

やさしい声が耳に落ちてくる。紅い目が、やっとわたしを見てくれた。
それにほっとして、一気に涙が止まらなくなる。

「、っ、ぅ」
「怖い夢でも?」

抱きしめてくれようと引っ張られたのには、ちょっとだけ抵抗した。不思議そうな顔をするけれど、気にせずじっと紅い目を見つめる。

ぐすぐすしながらずっと見つめてたら、リアスはあきらめたのか。そっとわたしの涙をぬぐい始めた。

「眠れないか」
「…ん」
「何か飲むものは?」

言いながら目が、わたしからそれる。

やだ。

「いらない」
「ん?」
「こっち見て」

近づいて両手でリアスのほっぺに触れて、暗い中でも光る紅い目をわたしにまっすぐ向けた。

驚いて目が見開いたのは、ほんの一瞬。きっとわかったのかな。
うなずいて、やさしい目でわたしを見ながら。髪をなでてくれた。

「ちゃんといる」
「…うん」
「他の奴の言葉など気にするな」
「…」
「俺にはお前しかいらない」
「…ん」

大好きな声に、大好きな体温に、目に。全部が満たされて落ち着く。眠りたくないけれど、だんだんまぶたが落ちそうになってくる。

このまま寝ちゃうのかな。

まだちょっとだけ、こわい。

「りあす」
「うん?」
「…手」

そっと伸ばしたら、あったかい手がわたしの手を包んでくれた。それにまたほっと息をつく。

「朝まで離さない…?」
「起きても離さないが?」

なんて言葉に思わず笑ってしまって。

寂しいけど、落ちてくるのに従って目を閉じる。

そうやっていつの間にか寝て。

 

でも、頭に残った女の人たちの声は消えてなくて。

いやな夢を見て、また目が覚める。

どのくらい寝たかなんてわからない。
そんなの気にならないくらいいやな映像が頭に焼き付いてて、自分を抱きしめる。

見る夢はいっつも同じ。

女のヒトと一緒に、わたしの目の前からあなたが遠ざかってく夢。

 

ねぇ。

どうして遠くにいっちゃうの?

わたしがあなたに「愛してる」を言えないから?

でもリアスは言えなくてもいいって言った。

じゃあ、まだ愛が足りなかったから?

「…りあす」

なにをあげればあなたはずっとわたしの傍にいてくれる?

わたしの全部をあげれば、大好きな紅い瞳はわたしだけを見てくれる?

どうやったら、あなたの瞳はわたしだけのものになるの。

どうしたらこの紅は、わたしだけを包み込んでくれるの。

毎日のように見せつけられる中で。

 

頭は、変な方向に行ってた。

「今日も麗しくて本当に好きです」
「お慕いしています、リアスさん」

毎日のように来てたヒトが、また来た。
着物をちょっとだけはだけさせて、厚化粧して。気持ち悪い声を出して。

いやな言葉を紡いでく。

そして紡いだらわたしを見て、バカにしたように笑う。

むかつく。

「ねぇリアスさん」

名前呼ばないで。

「……」

リアスも、あきれた目でもそんな人たちに向けないで。

 

わたしを見て。

 

そう思ったのと、遠くで叫び声が聞こえたときに。

 

あぁ、これだって、思ってしまった。

昔からの反射なのか、それとも自分のその声に反応してなのかはわからなかった。
勝手に体が走り出す。

名前を呼ばれた気がするけれど、構わず走っていって。

喧嘩してる猫と犬のビーストの中に突っ込んでいった。
お互いにひっかきあってる間に体をねじこんで、ぐいぐい引き離しながらケンカを止める。言い合ってるけどそんな言葉わたしには聞こえてなくて、ただただ。

 

そのひっかきあってる間に入ることに、夢中になった。

ほんの少し体が痛い気がする。ひっかかれてるからたぶん血が出てるかもしれない。
でも大丈夫。”紅”はリアスの色。

 

リアスが守ってくれてるから、痛くない。

たぶん正常だったならなに考えてるのってなったのに、今はそうだよねってすとんと落ちて。無我夢中でそのケンカを止めた。

「クリスティアっ!!」

気づいたときには声が聞こえて、思い切り引っ張られてて。
遠くになってくビーストたちから自分の体を見たら。

切り傷とかひっかき傷で、ボロボロだった。

傷口からは真っ赤な血が流れてる。

 

あぁ──。

リアスの色だ。

 

まるで抱きしめられてるみたい、なんて。ちょっと笑いがこぼれてしまった。

「クリスティア」
「…!」

手が引っ張られて、声の方向を見る。そこでも、顔がほんのちょっとゆるんじゃった。

心配そうな色が、ほんの少しだけ心にちくっとしたけれど。

 

あなたがわたしだけを見てくれてる。

それがうれしかった。

紅い色に包まれて、大好きな紅い色がわたしを見てくれてる。

「…ごめんなさい」

口からはそんな言葉が出たけれど、心は満たされてた。

 

紅はリアスの色。
体から流れる紅は、きっとリアスに抱きしめられてる。
そうしてリアスに抱きしめられたら、ほんとのリアスがわたしだけを見てくれる。

そんなわけのわからないことに夢中になって、前よりももっと体が勝手に動くようになって、けがが増えた。

でもケガをするたびに、もっとおかしくなっていった。

 

紅はリアスの色。

体から流れる紅は、きっとリアスに抱きしめられてるはず。

なのに。

 

わたしから流れてるのはリアスの血じゃない。

 

じゃあ自分のは、なに?

紅はリアスの色。だから紅い血はリアス。でもこれはリアスの血じゃない。わたしはリアスじゃない。

リアスに抱きしめられてるわけじゃない。

 

リアスがいない。

 

わたしの中に。

 

あなたがまだ、いない。

「…」

自分がおかしくなってしばらく経った頃。
リアスの様子も変になってきて、いつからか外に出るなって言うようになった。

ケガをすることがなくなって、紅に抱きしめられることは減ったけれど。

「クリスティア」

代わりに紅がもっとわたしだけを見てくれるようになって、寂しくなんて全然なかった。

名前を呼ばれて振り返れば、どこかうつろだけれどほほえみながら歩いてくるリアスがいる。それだけで幸せ。

でもそのヒトはその日、もっと幸せをくれた。

しっかりわたしの目を見ながら、目の前でしゃがんだリアスは。

そっと、わたしの胸中に手を添えて、

「ここが欲しい」

紅を歪ませて、そう言った。

最初はよくわからなかったけれど、愛おしげにこぼしてく言葉に、どんどんわたしの口角があがっていく。

 

痛みを上書きしたい。

わたしに魔力を注いで、自分の証を刻みたい。

わたしの体をひとつずつ、自分のものにしたいって。

あなたの”愛”がわかる言葉ひとつひとつに、心が満たされていく。

 

あなたが刻んだ痛みがわたしに残る。

あなたの魔力がわたしに入る。

あなたがわたしに”証”を刻む。

少しずつ、わたしの中にあなたが増えていく。

あぁ、これなら──。

 

「さみしくないね」

 

ゆっくり押し倒されながらこぼした言葉には、首をかしげられちゃったけど。

わたしの心も体も、満たされてた。

 

初めてかもしれない。

 

そんな満たされた心で、最期の日を迎えるのは。

 

打ち抜かれた体は痛い。

「り、ぁす」

目の前には大好きなヒトがかすんで見える。

あぁまた言えなかったなって後悔もちゃんとあった。
大好きも、愛してるも、好きも、今までと変わらずにあなたに伝えたかった。

でもそれ以上に、心はあったかい。

伸ばされた手をいつも通り取ろうと歩き出した足は、もうぼろぼろで数歩歩いただけで崩れていった。
いつもなら、もう紅が見えなくなるからとても悲しいけれど。

今回はもう、そんなことない。

悲しそうな紅い瞳を見てたらばしゃって音がして。いつの間にか見えてるのは真っ赤な紅。
心がどんどん満たされてく。

でもそれを知らない大好きなヒトは、消えゆく意識の中でわたしの名前を呼んだ。

死ぬことを、守れなかったことを悲しむように。

 

ねぇ大丈夫だよ、リアス。

悲しまないで。

わたし寂しくないよ。
守られてるよ。

 

だって。

 

今わたし。

 

この真っ赤な海の中で、あなたに抱きしめられているんだから。

 

あなたの魔力や血が混ざった自分の”紅”に、そっと口元があがって。

 

「また逢おうね」

そのぬくもりを感じながら、意識を落としていった。

『願わくば、いつかはあなたの”紅”に埋もれて眠りたい』/クリスティア

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