また逢う日まで先読み September

文化祭も明日に迫って、ばたばたと忙しない学園内。

「道化苦しくない?」
「大丈夫よ!」

うちのクラスでももちろん、大詰めということでクラス内がばたばたしています。

とりあえず内装・外観班が頑張ってくれて、放課後に許された昨日丸々と今日の前半という短い時間で飾り付けは終了。あとは本当に最終チェックってところ。
主に俺がいる衣装班が衣装が大丈夫かの確認中。

俺の担当は紫をメインに使った魔法使い風の衣装を着る道化で最後。腰回りをちょっと失礼して、ゴムが緩くないか確認。本人苦しくないのはいいんだけど、ちょっと緩いかこれ?

「道化激しく動く予定ある?」
「そのときの状況によるわ!」

ごもっとも。思わず笑いをこぼして、腰回りをもうちょっと点検。ここエシュトでよかった。性別種族に偏見はない子が多いので気兼ねなくチェックができる。

「少しゴムきつくしたら緩いかなー。一回軽く締めていい?」
「お手柔らかにお願いするわ」
「刹那じゃないから大丈夫だよ」

あいつは問答無用で締めてくるから。今現在、教室の隅で祈童と明日の確認中であろう親友に聞かれてないことを祈って。

最終チェックのためにと少しだけ開けておいた腰の穴から、軽くゴムを引っ張る。

「このぐらい」
「うーん……若干きついかしら」
「んじゃこんくらいは?」

元のとさっききつくしたのと中間くらい。腰部分に入れさせてもらった手で軽くスカートを引っ張ると、衣装的にはちょうど良い。きれいにしまってラインも出るし。

道化の表情も確認しながら聞けば、当の本人は口だけは笑いつつも悩んでる様子。

「深く深呼吸してきつくなければ大丈夫だと思うんだけど」
「深呼吸ね」

笑って、鼻から息を吸う音。それと同時に少しだけ体が動く。膨らんだお腹がへこんでいって。

「どう?」
「うん、大丈夫そうよ!」
「おっけ、んじゃこれで行こっか」

オッケーももらったということでその状態で一旦待ち針で止めて、道化のチェックは終了。

「他に気になるとこはない?」
「大丈夫よ! かわいい衣装にしてくれてありがと!」
「いいえ」

衣装チェック用にズボンを履いてた道化から脱いだスカートを受け取って、待ち針で止めたところを縫っていく。あとは見えないように穴を縫い込んでいって……と。

「よし完成」
『波風くんも完成ー?』
「うん、なんか手伝うことある?」
「大丈夫ー! こっちもほぼほぼ終わったよー!」

同じ衣装班の子にお疲れーと言い合って、道化の衣装をハンガーへ。とりあえずこれで俺の衣装チェックは終了かな。

「それにしても器用なのね」
「んー?」

しわにならないようにスカートを掛けている間に、道化から聞こえた声に目は衣装のまま返事をする。

「被服で波風くんとか炎上くんの手際がすごいって聞いたことはあるけれど。実際に見ると本当にすごいのね」
「それはどーも」

上着部分も丁寧にハンガーに掛けて……あ、帽子どうすっかな。棚に置いとくか。衣装置きのとこに作った簡易的な棚に道化の帽子を置いて、その近くに衣装を掛けておく。

「道化のセットここね」
「あら、ありがとう! 当日素敵に着るわ!」
「そうしてくれると作った甲斐があるよ」

道化に微笑んで、隣に掛けてあるクリスティアの衣装が目に入る。ちょっとしたサプライズも込めて二着。明日明後日で親友は笑ってくれるかね。良い思い出になればいいと願いながら。

衣装に触れると。

「波風、ヘルプを頼みたい」
「ん?」

簡易衣装部屋に、祈童が困った顔で入ってきた。
最終チェックを済ませたクリスティアたちの衣装からは手を離して、こっちにと手招きする祈童の方へ道化と向かう。

「どしたの」
「氷河がだな」

苦笑いで指をさした方向を追えば。

床にぺたりと座って、紙を見ているクリスティア。そしてその隣には祈童と同じく眉を下げて困っているような雰囲気の冴楼。

紙に書いてるのは、

「当日の流れ?」
「こんなの配られたかしら」
「さっき杜縁先生からもらったんだ。当日、僕らがその場にいれなくなったときに誰でも対応できるように置いておくのも兼ねて」

それで、と。
頬をかきながら。

「氷河と今チェックをしているんだが……」

気まずそうに言葉を濁しながら言う祈童に、それ以上言わずともよくわかった。

「覚えられないって?」
「何回確認してもちょっとな……」
「刹那ちゃん、何が覚えられないの?」
「?」

道化がしゃがんでクリスティアに視線を合わせて聞くけれど。クリスティアはそんな道化に首を傾げてしまう。

「僕にもこれだ。言ってはみるものの復唱のところで詰まり、何がわからないか聞いてみても首を傾げてしまう」
「あはは、まじごめん」

こればっかりは本当に。
できればリアスがいてくれると一番ありがたいんだけど、今回は頑張ってもらおうか。

「刹那ちゃん、一緒に読んでみましょう?」
「んー…」
「いいよ道化、大丈夫」
「どうにかできるか波風」
「うん」

紙とにらめっこを始めたクリスティアに、道化同様視線を合わせるようにしゃがんでから手を伸ばす。

眉間にしわを寄せてる彼女の目の前に指を持って行って。

「刹那」

パチンッと、指を鳴らした。

「…!」

瞬間に、俺の声に反応してクリスティアはこっちを向く。
ぽけっとした顔に、微笑んで。

「一緒に読もっか」
「ん…」
「龍にかっこいい姿見せられるかな」
「…!」

その”鍵”を含めて言えば、クリスティアの顔はぱっと明るくなる。そうしてこくこく頷いて、俺に「読んで」と言うように紙を突きつけてきた。
答えるように抱き上げて、幼い子供みたいな親友は膝の上へ。視線は一瞬集まるけれど気にしない。

「よ、読み聞かせてあげるの?」

道化や祈童の不思議そうな顔も、気にならない。若干動揺の声を出す道化に、頷く。

「そう。今からね」
「どうにかしてほしいとは言ったがさすがにそんな子供みたいなことまでさせるつもりは……」
「別に子供扱いしてこうやってるわけじゃないよ」

ねぇ刹那? 笑って頭をなでてあげれば、不思議そうに首を傾げてから紙を持ち上げられた。
それを受け取って、一行目から指をさす。

そうして、未だ動揺の目を感じる二人へ向けて。

「忘れちゃ困るんだろ。こういうのは」

見上げて、笑う。
驚きで目を大きく開けている二人は、曖昧に頷いた。

「俺だとあんまり効力長くないかもしんないけど。文化祭までは持つでしょ」

何かを聞きたげな二人を遮ったのは、クリスティア。先に目だけで読んでいたらしい彼女は俺の裾を引っ張って困ったように俺を見る。

「蓮ここ読めない…」
「お前そろそろ先生の漢字は読めるように教えてもらいな」

持っていたペンで”杜縁”の文字にふりがなを振って。

「はい最初から」
「はぁい…」

二人の、周りの視線なんて気にせずに、クリスティアに一行目から文章を読んでいってやった。

ざーっと読んでやって、しばらく。

「おっけー?」
「おっけー…」

たった一度ずつ、俺が読んでいってやれば。

「じゃあ変なヒト来たらどうするんだー」
「先生呼ぶ…」
「誰先生?」
「もりぶちせんせー」
「正解」

困っていた祈童の言っていたことが嘘のように、問いにすべて答えていくクリスティア。読み聞かせ中、ずっとそこにいた二人に、目を向けて。

「これで大丈夫だと思うよ」
「あ、あぁ」
「すごいのね、覚え方にこつがあったのかしら」
「そんな感じ」

まぁこれは本当に特殊すぎるので詳しいことはまだ割愛しておいて。

クリスティアの頭をなでながら。

「文化祭、楽しみだね」

そう、言えば。

「♪」

膝の上の少女は、自分に疑問すら感じず、にこにことした雰囲気で頷いた。

『志貴零』/レグナ

 

 

 

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