また逢う日まで先読み September

12/19 執筆開始

日本に来て、だいぶ見慣れた天井を見上げる。ふかふかなベッドの上。心地よくて体の力が抜けるはずなのに、眉間に入る力だけは抜けない。

暖かい中で、小さくこぼす。

「……大丈夫かしら」
「その前にどうして俺の部屋にいるのかしらカリナさんや」

声と同時に、天井は愛しい兄の顔によって隠されました。それに、かわいらしく笑って。

「仲良し兄妹じゃないですか」
「俺らは仲良し兄妹だけども」

いることを咎めることはせずに、兄は離れていく。追うように起きあがった私に、レグナは豪華なソファに座って呆れた笑いを向けてきました。

「愛原と波風は数年前まで絶縁に近いほど仲悪かったはずなんだけど」
「ほら、やっぱり同じグループは仲良くしないとと思い至ったんですよきっと」

あ、その顔疑ってますね?? 妹を疑うなんて何事ですか。

私はちょっとその仲良くなるお手伝いをしただけだと言うのに。

えぇもちろん大変でしたよほぼ絶縁状態からの回復。
話はしないわ相手の良い案でもわざと無視するわ。まぁいろいろ数知れず。子供ですかとため息を吐きたくなるのをなんとかこらえ、あの手この手でお互いに利益を見いだし、仲良くなる方が得ですよとけしかけた結果。

今では義親同士でも私とレグナのようにお互いの家を行き来する仲に。

自然じゃないですか。
ほら、仲悪かったライバルだって物語後半では仲良くなることだってあるでしょう? 仲良きことは美しきかな。

まぁこの脳内の言葉全部口に出せないんですけれども。

「それよりもリアスですよお兄さま」
「露骨に話しそらすときは裏あるときだね」
「ないときだってそらしますよ」
「たち悪いわ」

おっとこれでは話が戻ってしまう。

「で、リアスのことです」

まっすぐ目を見て言えば、レグナの方が観念してソファに深く沈みました。

「大丈夫って?」
「文化祭」
「あぁ。平気でしょ。元から出るつもりだったんだし」
「そうですけれども」

あっさりとした様子のレグナに、私の方が若干ムキになってしまう。

「人混みもつらくて、ましてや今回クリスティアとはクラス離れてるんですよ? 身構えていれば多少なりとも平気だとは言え、文化祭期間も含めて耐えられるとは思えないんですが」
「今日はずいぶんリアスをかばうねカリナ」
「お兄さま、私は真剣ですわ」

ちゃかすように言うレグナをにらんでも、レグナの笑みは変わらない。

「しょうがないじゃん、出なきゃ出ないでペナルティーがあるんだから。どんな理由でもボランティア活動必至」
「そうです、けれども……」

今回ばかりは早々に返す言葉がなく、ぎゅっと唇を引き結んでしまう。そんな私に、追い打ちをかけるようにレグナはこれまたあっさりと言った。

「リアスが自分で決めたことでしょ。口出し無用」

そうして、自分の世界に行くかのようにテーブルに乗せていた本を読み始めてしまう。遠足に行かないと言っていたときにはけしかけたくせに。けれど口には出さず、再びベッドに埋もれた。

レグナはクリスティアもリアスも、両方が結果的に嬉しくなるような感じになるならば動きますもんね。もちろん私だってそうなれば最高ですわ。

「……」

けれど。
心配になってしまうのも、確かで。

人混みが嫌いなリアス。目の前で傷つけられ、失ってきたから。今はなんとか、頭を切り替えれば多少なりともまでには回復しましたが、それでも予想外で起きてしまっては未だにフラッシュバックや吐き気が起こる。ひどいときは学校に登校するだけでもそれが起きてた頃もありました。もっと療養してから学校に出てきてもいいんじゃないですかと言ったことだってあるほど。

それでも、彼は「普通の生活」を諦めようとしない。

もちろん、どうしたってだめで不登校になったり、ときには戦略的撤退を要することも、おでかけとかまだできないこともあるけれど。

最終的にはまたこうして、普通の生活をしようと歩き出す。

今回だってそう。異種族も通えるエシュト学園。能力者もいるし、絶対に怖かったはずなのに。

あなたはいつだって、前を向いて諦めずに歩く。

どうしてそんなに強くいられるの。

昔にも似たようなことを聞いた。

聞かなくても答えはわかってる。彼女のため。でもわかってはいても、どうしたって心配になるし、うらやましくもなってしまう。
そっと目を閉じれば、背中が浮かんだ。

隣を歩いていたもう一人の兄のような男は、いつの間にか数歩先。手を伸ばしてみても、空をつかむだけ。

きっとこの先も、距離はもう縮まることはないのでしょう。私はいつも、最後の最後で立ち止まってしまうから。その証拠に、あなたの反射が心配で、人混みになれさせるということをせずにいつだって貸し切りにしたり、家で過ごせるようにしたり、背中を押すことはできていない。言葉の一押しは、あなたが行動を起こした後でだけ。

怖くて怖くて立ち止まる私と、何度立ち止まっても歩き出すヒト。私が歩き出すときは、主にあなたが手を引いていく。

ねぇ、どうして。

怖いはずなのに。吐きそうで、泣きそうで、今にも立ち止まって逃げてしまいたいでしょうに。

「……どうしてあなたは、そんなに諦めずにいられるのかしら」

なんて、さっき答えが出たはずなのに。

つぶやかずには、いられなかった。

『志貴零』/カリナ