また逢う日まで先読み November

 熱を出す理由は生物様々である。

 風邪やインフルエンザとかのウイルスが入って出るタイプ、患部に熱を持ってしまって出るタイプ。あとは疲れやストレスで出るタイプ。たくさんあるんだけれど。

 親友は、体を魔術でコントロールしているので風邪を引くことは基本的にない。けれど常に不安を持っているあいつはときおり糸が切れたように熱を出すときもある。

 普段はいいんだよもちろん。天使はヒューマンにまぎれて過ごすようにとなるべく生物に近い体ということで知識も含めて不自然に思われないよう風邪とかも引くし、体調を崩すときだってちゃんとある。

 でもね親友。

《リアス様熱出ちゃった》

 今日このタイミングだけはだめだろ絶対に。

 朝早くもう一人の親友から送られてきた画面を見て、思わず「は?」と声が出てしまった。

 どういうことなんて考えもせずに、体が動く。トーク画面の上にある通話ボタンを瞬時に押して、準備もあるのでスピーカーに変更してベッドにスマホを放った。無機質な電子音はすぐにぷつりと切れる。

《なーにー…》
「おはようクリス、傍にバカな親友いる?」
《今おかゆ作ってる…》
「おかしいだろ絶対」

 お前が熱出してんだろうよリアスさんよ。
 若干いらっとした声は隠しもせずに、制服のボタンを閉めながらクリスティアへ。

「代わってくんない」
《わかったー》

 直後、ぱたぱたという音と「リアス様ー」なんてのほほんとした声が聞こえて、いらだったのが少し和む。リアスに代わってもらってる間に襟元をただして、鏡を見たら。

《……オハヨウゴザイマス》

 いろんな意味で死にそうな声がスピーカーから聞こえてきた。それに見えていないとわかっていつつも鏡の前でにっこり笑って。

「おはよう親友、お前は俺ら双子を殺す気か??」
《本気で今回ばかりはすまないと思っている。本当に》

 苦笑いで返ってくる声にため息を吐いて、支度が整ったのを確認してからベッドに歩いていく。ぽすんと勢いをつけて座れば、電話越しなのに申し訳ないという気持ちが伝わってくるスマホが跳ねた。

 何故今回こんなにも怒るか。理由は簡単。

 昨日のハロウィンパーティーである。

 パーティー自体はよかったんだよ。楽しかったし、リアスとクリスティアも幸せそうだったからあぁ衣装作って良かったなとも思ったよ。問題は次。

 ぱぱっとカップル宅に帰って、おまけで作っておいたおそろいのハロウィンパジャマをあげてさて帰ろうかってところですよ。

 声が聞こえて振り向いたら見知った顔がいるじゃないですか。
 武煉先輩が余計なこというからリアスとクリスティアが一緒に住んでる説が向こうに濃厚になっちゃったじゃないですか。
 特段「どうしても隠さなきゃいけない」ってことでもないのでばれてもいいっちゃいいんだよ。

 でもね??

 お年頃の子たちにばれるって結構面倒じゃない?

 しかも。

「お前が来ないとなると明らかに俺ら双子に聞いてくるじゃん」

 とくに道化あたりが。カリナの方はまだいいよ、閃吏とユーアでそんなにがつがつ聞いてくる子たちじゃなさそうだし。テスト準備のときの道化を見る限りでは俺の方がやばそう。あぁ想像するだけでとてもしんどい。

「俺も学校休みたい」
《四人で週明けまで休むか?》
「もうそれでもいいんじゃね……」
《でも四人で休んだら、またみんなでつきあってる説…?》
「うわそれもめんどくさい」

 どっちにどう転んでもめんどくさいわ。

 ならもうどっちを取るかは決まってる。

「とりあえずもうリアスとつきあってる疑惑はごめんなので行くわ」
《わたし的にはそれでもいいんだよ…?》
「ぜってーやだ」

 クリスティアの冗談には笑って。時計を見て「とりあえず」と。

「誤魔化せそうなら誤魔化しとくよ。ちょっともう手遅れっぽいけど」
《悪い》
「とりあえずカリナのお怒りだけは覚悟しとけよ」
《お前のお怒りの方が怖いから大丈夫だ》

 そんな俺のお怒りを出す直前まで行ったけどな今回。それは黙っておいて。

「んじゃお大事に。あとで行くから。必要なものあったらメサージュしといて」
《わかった》
《いってらっしゃーい…》

 体質をわかっているので「寝ろよ」なんてのは言わず。クリスティアに行ってきますとだけ返して電話を切り。

「……頑張りますか」

 ため息を吐いてから、荷物を持って部屋を後にした。

 ひとまず先にカリナと合流して、「あの男本当に最悪ですね」と笑顔で辛辣なお言葉を妹からいただきまして。

 陽真先輩と武煉先輩との待ち合わせまでで二人で考えた誤魔化しは。

「龍クンが一人暮らしで、体調悪くなったから泊まって看病ねぇ……」

 表札に「炎上」とのみ描かれているからこそできるネタ。

 エシュト学園に行く途中で当然ながら聞かれた昨日のことに、双子そろってにっこり笑って言えば、二人は納得したような雰囲気で言葉を繰り返す。

「ちなみに龍の体調は大丈夫なのかい?」
「えぇ、元気にお粥を作っているそうです」
「アイツが体調ワルいんじゃねぇのかよ」
「そこは龍らしいということにしといて」
「まぁわかるケド」

 ペンダントを揺らしながら歩く陽真先輩は「ふぅん」と何か考えるようにこぼす。大丈夫だよねこれ。いけるよね。内心不安になりながら学園前の交差点まで行くと。

 武煉先輩から、声が聞こえた。

「ひとつ聞いても?」

 瞬間、双子そろって緊張が走る。一瞬だけ目を合わせてすぐさま視線は武煉先輩へ。問いに応じたのはカリナ。

「なんでしょう」
「その体調不良、刹那ではなく、かい?」
「えぇ、龍が体調を崩しましたけれど」
「昨日刹那は龍に抱きかかえられてぐっすり眠っていたようだけど」

 しまった。なんて思ったのはカリナも一緒。誤魔化すことに必死で昨日の状況すっぽ抜けてた。確かに看病に行ってるのにその看病する本人が病人にだっこされてるのはおかしい。

「えーーーーーと」
「昨日の時点で体調がワルかった、っつーのはいらなかったな、双子ちゃん?」

 言葉に詰まってたら、交差点が青に変わったらしく。陽真先輩が「残念」なんて言うように肩を叩いて歩き出した。カリナと二人してやってしまったと頭を抱えて、その後をついて行く。

 頑張って誤魔化すはずが初っぱなでばれたよごめんリアス。いやもしかしたらまだ弁解の余地はあるかもしれない。歩きながら頭をひねっていると。

「その同居は秘密のことかい?」
「「はいっ!?」」

 武煉先輩に聞かれて、同じく考え中だったカリナと二人してすっとんきょうな声が出てしまった。今日は双子らしさが出てるかもしれないと的外れなことを考えつつ、言われた言葉を反復して。

 妹と同時に、首を傾げた。

「めちゃくちゃ秘密ってわけでは……」
「ない、ですわね……?」
「ちょっとこう、ねぇ?」
「えぇ、騒がれすぎてしまうのが困ると言った感じで……」
「ふふっ、今日は息があっているね二人とも」

 渡りきったところで、先輩たちは笑ってこっちを向く。二人の癖なのか、五月のときみたいに陽真先輩が武煉先輩の肩に体重を預けて。

「安心してください、広めたりということはもちろん、騒いだりというのはしませんよ」
「元々オマエらと遊んでるときに武煉が疑惑あったみてぇだし?」
「龍たちにも言いましたが、いろんな種族がいていろいろ事情があるでしょう。そこは俺たちは深く追求したりしません」
「ま、ただ心配っつーのもあるし。良けりゃあ見舞いでも行かせてくれや」

 双子以上にぴったりな息で交互にそう話す。いつも以上にすんなり引いてくれるなと思ったのもつかの間。

 すっと、武煉先輩が前に出た。

 そうしてあろうことか妹に近づいて。

「君に貸しもあるしね。前回のはこれでチャラということでどうでしょう」

 なんて、とんでもなく思わせぶりなことを言ってきた。目の前の妹は一瞬驚いた顔を見せた後笑う。

「かまいませんわ」

 構わなくなくない??

「華凜」
「お兄さま、大丈夫です。ちょっと武煉先輩が体調を崩したところを助けただけですわ」
「おや、秘密にしていたのにな」
「陽真先輩これ信じていいの??」

 このヒトいつも笑ってるからどこまで本気かわかんない。視線を片割れに移動させて、自分でもわかるくらい圧のこもった声で聞けば。

「ま、今回ばかりは大丈夫だろ」

 若干心に引っかかる言葉をいただきました。

「今回”ばかりは”ってなに!!」
「ダーイジョウブだって。シスコンなお兄ちゃんがいるんだから変なことはしねぇだろうよ」

 兄がいなければ手を出していたと???
 いろいろ聞き捨てならない。

「この同盟に異議を申し立てたい」
「その異議は武闘会で当たってオレらのどっちかに勝ってからなー」
「良い交渉だね陽真。そうしようか」

 待って正直二人と戦いたくないんだけれども。俺死ぬじゃん。

 けれど、と。

 歩き出す二人の片方に目を移す。

 正直本格的に聞きたいこともできたし。

 当たったなら当たったでそれでもいいかと。

 とりあえず、すぐに控えてる次の面倒事を解決する方が先ということで、カリナと二人、先輩達のあとを追った。

『志貴零』/レグナ