また逢う日まで先読み November

 はるまとゆきはのバトルが終わった日の夜。

「…視線?」

 お風呂から上がった洗面所。ゴーってドライヤーの音の中から聞こえる大好きなヒトの声に、首をかしげた。
 後ろに立ってわたしの髪を乾かしてるリアス様は、いつもよりちょっと大きな声で「あぁ」ってうなずく。

「変な視線とか感じなかったか」
「へんな視線…」

 やさしく髪を引っ張られる中で今日のことを思い返してみた。

 今日は、はるまとゆきはがバトルしてて、はるまが勝って。リアス様が最近ずっとぎゅってしてくれてて幸せで。

 そんなところに、変な視線…?

「…とくに、気にならなかった…」
「……そうか」
「そんなのよりリアス様の視線感じてるのに忙しい…」
「そりゃどうも」

 あ、声がまた苦笑い。わたしなりに大好きを伝えてるのに、本人にはちょっと微妙な気持ちらしくて納得行かない。ぷくってほっぺ膨らましたら、カチッてドライヤーの電源切る音が聞こえてから、ほっぺに手が回ってきた。

「勘違いだったなら別にいいんだ」

 言いながら、いつもみたいに空気を抜かれて。後ろからあったかい体温に抱きしめられる。それに後ろに体重をかけて、うりうり頭をこすりつけた。
 そんなわたしの乾かしたての髪をいじりながら、声はちょっとだけ心配そうな声。

「外部の出入りも多いし、俺のいつもの気にしすぎかもしれない」
「ん…」

 頭にキスするみたいにほっぺをこすりつけられて、胸がきゅうってなる。心配そうなのに行動は甘くて、いつもみたいに「大丈夫」って抱きしめたいのに、今日はされるがまま。

「武闘会中、俺がいないときはレグナの傍にいろよ」

 おなかに手が回ってきて、後ろから抱きしめられて。首元にすりってこする感覚が来て、すぐに息を吸う音。普段してるはずなのに、最近それが甘ったるく感じるのは行動療法のせいなのかな。
 抱きしめてる手がちょっと上に上がっただけで、肩が跳ねちゃう。耳元に上がってきたこする感覚が、

「っ、ね、くすぐ、ったい…」
「くすぐってるわけじゃないんだが?」
「んっ」

 耳のすぐ傍で聞こえた甘い声に、また体が跳ねて。

「……真剣な話の最中なんだが。感じ入られても困る」

 そんな低い声に、お風呂上がりってだけじゃない、ぶわって体温が上がる感覚。

「だ、ったら、もっとふつうにっ…!」
「話しているだろう? いつも通りだ」
「どこがっ…」

 って言ってみるけどよくよく考えたらいつも通りだっ。
 リアス様寝る前はこんな感じで話すし、なんなら朝でも話すし、お休みの日も──あ、二人きりのときだいたいいつもこんな話し方するんだった。

 わかればわかるほど、恥ずかしさで体温が上がってく。

 なんか、はしたない子みたい。

「続きを話しても?」

 甘く低い声に、背中の、ちょっと下あたりがゾクってする。イヤな感じじゃなくて、でもなんか、変な感じ。

「クリスティア」
「っ、ふ、ふつうにっ、つづきっ!」
「ふつうなんだが」
「あまいのっ…」

 やめて「ん?」ってやさしく聞かないでっ。

 耐えきれなくて、たぶんまっかなのはわかってるけど、そっとリアス様を振り返って。

「しゅ、集中、できない…」

 そう、言ったら。

 ほんのちょっと上のところに、大変楽しそうなお顔のリアス様が。

 あなた楽しんでますね???

「途中からわざとっ…!」
「最近恋人が良い反応をしてくれるから調子に乗ってしまうな」
「最低っ…!」
「知っている」

 そんな最低なリアス様か逃れようとおなかに回ってる手をべしべし叩いてみるけれど。意味なんかなくて、逆にぐいって引っ張られてもっと強く抱きしめられる。
 また首元にすりよるような甘い感覚。

 でも後ろから聞こえてくる声は、さっきまでと違って真剣な声。

「……過保護な不安も、少し減った」
「…」
「恋人らしいことがどうこうではないが、新鮮な顔が見れて楽しいんだろうな」

 なんて、言われてしまったら。

「…そう…」

 安心の方が勝って、さっきまでのいたずらなんて許すしかなくて。叩いてた手で、今度はそのあったかい腕を撫でてあげる。

「…がんばれてる?」
「……怖いくらいに」
「…うん」

 わたしもあなたとのスキンシップができてきていて、少し怖い。
 でも、まだちゃんとできてるわけじゃないから。

「…まだ、がんばるの…いい?」
「無理しなければいい」
「ん…」

 後ろから強く抱きしめられて、あったかい温度に目がとろってなってくる。

 後ろからすりよってくるリアス様も、どことなくゆったりしてた。

「…ねむい」
「……あぁ」

 声も珍しくねむたそう。

 もうちょっと、このままでいたいけど。

「…ね」
「うん?」

 そっと、腕をなでながら。

「つづき、ベッドで…」

 そう言ってしまったら。

「わっ!?」

 ばっと、リアス様が体を離した。なにごと??

「な、に…」
「お前ほんとにそういう……」

 頭抱えちゃったよ。あ、でもちらっと見えるほっぺが紅い。え、何故紅い??

「なんで照れてるの…」
「お前のせいだろう……この小悪魔め……」
「失礼な、わたしは天使…」
「種族のことを言っているのではなく」

 ついにはしゃがみこんでしまったリアス様に合わせてしゃがんでみる。顔は上げてくれないけれど、耳がまっか。

 これはちょっとさっきの仕返しできるのでは? なんていたずら心が芽生えてしまうのは恋人様のこういうところがかわいすぎるからだと思う。

 そっと、肩に手を置いて。

 耳元で、できるかわかんないけれど意識して、なるべく甘い声で。

「りーあーす」
「っ!!」

 名前をつぶやいたら、体がびっくりするくらい跳ねて距離をとられた。驚いてこっちを向いた顔は。

「まっか…♪」
「おっまえなっ……!」

 楽しくなってしまって、距離をとったリアス様に四つんばいで近づいていく。リアス様も下がっていくけれど、すぐに壁。逃げ場がないとわかったリアス様にほっぺをゆるませて、そっと首に手を回した。

「ねないの…?」
「目が覚めたわ……」
「ふつうに言っただけなのに…」

 前から肩にもたれて、ちょっとゆっくりすりすりしてみる。こくって喉が鳴る音は、最近よく聞いてる気がする。
 でもさっき、ふつうに言ったのは本当だもん。

「ぎゅってしてたいけど、ここじゃどのみち移動しなきゃだから…ベッドに移動してぎゅーってするの続きしよ、って…」
「最初からそう言え」
「あの流れならそうなる…」

 そう言うと、

「むぐっ?」

 がしっていきなりほっぺをつかまれた。え、つかまれた??

 いつもの空気抜くようなやさしい感じじゃなくて、あ、待ってだんだんぐぐぐって力入ってる気がする。

 そっと、リアス様を見たら。

 口が笑ってるのに目が笑ってない。

「……クリスティア」
「ふぁい…」
「お前が言葉足らずなのも知っている。なんなら俺はそこも含めてお前を大層愛している」

 突然の告白ありがとうございます。でもなんでだろう、体温が下がっていってる気がするのは。こくって喉が鳴る音は今度は自分から聞こえた。

「が、長年お預けを食らい続けた俺は最近進み始めたことで歯止めが利きにくい」
「…」
「そろそろ思わせぶりな行動は控えろよ?」

 何かあっても責任はとらない、と。

 大好きな顔なのにちょっと怖く見える顔に。

「…き、をつけ、ます…」

 そもそもあなたが最初いたずらをしなければ今日はこうならなかったのではという言葉は、頑張って飲み込んだ。

『いつだってわたしたちはお互い様』/クリスティア
志貴零