また逢う日まで先読み December

 朝起きて、腕の中で丸くなっている愛しい恋人を起こす。いつもなら可愛くうなりながら抵抗をしてくるけれど、今日はすんなりと飛び起きて。
 おはようと交わしてから、すぐさま彼女はカレンダーを見にリビングへ走っていく。
 今日の日付を確認して、何千年も見慣れたその水色の頭は、やはり今年も。

「♪」

 いつも以上に周りに花を咲かせるような雰囲気を出すので、思わず口元綻ばせた。

「……ふわふわしてないかしら?」

 冬も本番となってきた十二月一日。笑守人の一年は合同演習の日。

 待ち時間の中で珍しく小さな声で話しかけてきたのは道化だった。
 そしてその言葉に、近くに座っていた閃吏やウリオス達も頷く。

「えっと、ふわふわ、してるね」
『ユーアの坊ちゃんと一緒っつーのもあるが、それにしちゃぁいつもよりふわふわしてんな』

 口々にふわふわふわふわと言う、彼らの視線の先。

「…♪」

 話題である恋人は、言葉の通りふわふわと花を舞わせているような雰囲気で足をパタパタさせながら目の前のいすに座っている。

「……そうだな」
「そして炎上」
「……」

 頷いた直後、ぐっと左肩に重みがかかった。どこぞのメッシュ男がやりそうな仕草に反射的にめんどくさそうな顔になり、違うとわかっていつつもその顔のまま声の方に顔を向ける。

 もちろん正体はメッシュ頭ではなく藍色の男。祈童はにっこりと笑って。

「君は妙にそわそわしているな?」
「……」

 普段わかりづらいと言われるのにまんまと言い当てられ、目をそらした。

「あらあら、そういうのがわかるようになったんですね」
「なんとなくだけれどね」

 そのなんとなくで当てられるのだから自分はまだまだ未熟な気がする。溜息を吐いたところで、周りに座る同級生達は「で?」と詰め寄ってきた。

『旦那、今日はなんか楽しいことでもあるんですかい?』
「実はやっと大人の階段上るとかかしら!」
「えっと、今日が記念日だったとか?」
「いやここは変化球でもしかしたら今二人は喧嘩しているかもしれないぞ!」
「その場合お前どうやって刹那のあの機嫌の良さを説明するつもりだ……」

 おいカリナ、わからないようにしているが肩震えているのわかっているからな。そんなに楽しいか俺が詰め寄られているのが。

 なんてもし聞いたなら絶対にイエスが返ってくることはわかっている。
 そんな思考に飛んでいる間にも祈童達はこれかあれかなどと言い合っていた。収集のつかなくなってきた状態に、助けを求めるように斜め前のレグナを見る。

 が。

「ぁ、あの部分どうでした!?」
「あーー、うん、やっぱ感動はしたよ」
「そうですよね! とくに主人公がヒロインを助けるところ、ぉ、王道だとはわかっているんですけど今までの部分も含めるとじんわりきて……! あ、ラストまで行ったんですよね、難易度とかはどうだった?」
「ノーマルでやったから結構楽だったかも」
「じゃ、じゃあ次はハードとかどうでしょう? 確か隠しダンジョンの方もクリアしてましたよね。じ、実はハードモードでしか出ないクエストがあって、ぃ、意外と知られてないので、攻略情報もぜんぜんなくて……た、倒し甲斐もやりがいもあると思います!」

 親友は雫来の弾丸トークに付き合っていてこちらにはやって来れない様子。反射で見てしまっただけであっていつも華麗に裏切られる手前期待もしてはいなかったが。あんだかんだ話に付き合うところは昔から変わらないと、左右で余計なお世話ばかり言ってきている同級生達から逃げるような思考に陥りかけたところで。

「……!」

 くいっと、服が引っ張られた。その方向を見やれば、大変機嫌のいいクリスティア。

「どうした」
「出番…」

 言われて上を見ると、俺達のグループが連続で入る頃だった。教えてくれたことに礼を言うようにクリスティアの頭を撫でて、喧嘩なら機嫌取りはどうするだとか、準備はしているのだとか、未だ的外れな回答ばかりする祈童へ。

「行くぞ祈童」
「む? 僕らか」

 今回は俺と祈童ペアから始まるということで、声を掛けて立ち上がる。

「波風くん行きましょ!」
「はいはーい」
『行こうぜティノの旦那』
『お互いがんばろーねー!』

 俺達を合図に、順番が続くレグナや道化、ティノやウリオス達も立ち上がってともにスタジアムへと続く通路へ入って行った。

「お手柔らかに頼むぞ炎上」
「悪いが今日は手加減できそうにないな」

 暗い通路の中、きょとんとした顔の祈童に笑う。

「今日はそわそわしているんでな」

 なんて言ってやれば、その顔は引き気味の笑みに変わった。
 ご愁傷様というようなレグナ達の雰囲気にならうように祈童の肩を叩き。

「精々生きろ」

 珍しく自分でしっかり笑みを作って、わめく祈童を引っ張ってスタジアムへと向かった。

「…♪」

 あの後も外野がとことんおちょくってきた合同演習を終え、夜。多少祈童に本気でぶつかったおかげですっきりはしたものの、好奇な視線はやはり堪える。風呂に入った後もその気疲れは取れることなく、ソファに深く背中を預けた。
 しかしいつものごとく俺の隣にちょこんと座りテレビを眺める恋人は、俺と違って変わらず機嫌が良い。足をぱたぱたと揺らしながら流れているテレビ番組を見たり、俺を見たり。視線が合えば首に腕を回してきてうりうりとすり寄ってきた。それに今日の疲れも吹き飛ぶくらい癒される。

 ただ別に、彼女がこうもご機嫌なのは道化の言うように今日どうこうするだだとか、閃吏のように記念日だとか、ウリオスのように今日楽しみがあるだとか、そういうものが理由ではない。
 一応記念日のようなものは今月にあるけども。

 ”今日”という特定の一日ではなく、”十二月”という月は、愛しい恋人の機嫌がとてもいい。
 過ごしやすい冬。大好きな雪も場所によっては見られるし、クリスマスもあって、記念日だってある。

 そして、彼女の誕生日も。

 クリスティアにとっては心躍るイベントがそれはもうたくさんある月。

 ただまぁ、大昔はこれほどまで機嫌が良くなるというのはなかった。せいぜい日付が近づくにつれてそわそわとするもの。

 彼女がこうしてうきうきとし出すようになったのは。

《クリスーマスーがーやってーくるー》

 ”奴”が一番の要因である。

「!」

 件の曲が流れた瞬間。

 俺にすり寄っていた彼女はぱっと反応しテレビを見た。そしてそれを捉えるとクリスティアはぱぁっと嬉しそうにし、ソファから駆け出す。普段テレビCMになど欠片も興味を示さない恋人がだ。
 そうして画面に映る”奴”に、視線は釘付け。

 真っ白な髭を生やし、真っ赤な服を着て陽気に踊るじいさん。

 そう、サンタである。

「♪、♪」

 べったりという言葉が似合うくらい、恋人はテレビに張り付き、そのじいさんの陽気なダンスを眺めている。
 それを見て思うことは一つ。

 大層可愛い。

 一般的な考えならば、恋人が自分以外の男に釘付けになるというのは不快だったり複雑だったりするだろう。正直クリスティアが陽真に懐いていることが複雑に感じていた。

 けれどこれに限ってはそんなことはない。

 クリスティアがサンタを好きな理由は、俺にあるのだから。

 俺の紅い目が好きなクリスティア。

 いつからか、目だけでなく紅が好きになった愛しい恋人。アクセサリーなんかはこちらが「これが似合う」などと言わない限り必ず紅を選ぶし、食べ物だって食えないものでも紅いものの方向に行ったりするほど。

 そして彼女を虜にしたサンタ。
 奴はもう全身紅である。紅が大好きなクリスティアが目を引かれないなんてことはないわけで。そしてそんな興味を引いていたじいさんに町中で、しかもちょうど誕生日にプレゼントをもらったなんてことがあればそりゃあもう大好きになってしまうわけで。

 こうしてサンタが現れるとテレビだろうが町中だろうが、出逢えば釘付けなのである。
 大層可愛い。

 しかし。

《それでは次のニュースに入ります》

「…」

 テレビCMが終わると、クリスティアは嘘のようにテレビに興味をなくし、こちらへとやってきた。

「♪」
「ん」

 今度は俺の紅を見つけ、吸い寄せられるようにとことこ手を広げながら歩いてくる。

 そんな恋人に、愛しさを覚えながらも。

 これから発するであろう言葉に、内心でどこか落ち着かない。

「リアスさま」

 そんな俺の内心など知らない彼女は甘ったるい声で俺を呼び、ソファに膝立ちになりすり寄ってきた。

「……どうした」

 言葉などわかっているくせにそう聞いてやると。
 俺の首に腕を絡めながら身を離した恋人は、どことなくきらきらした瞳で俺を見る。

 そうして、コテンと可愛らしく首を傾げ。

「今年も、サンタさん…来る?」

 俺の、今日の同級生の言葉を借りるならば”ソワソワ”する原因である言葉を、こぼした。

「……」

 いつもならば即座に頷くけれど。

 今回は、無意識にぐっと詰まってしまった。

 愛しい恋人は、テレビに食いつくくらいサンタが好きだ。
 そして一度町中で、実際にサンタにプレゼントをもらったことがある彼女は。

 可愛いことにサンタを信じている。

 俺達が奴を知ったのは起源となる四世紀頃から少し経ってからだったか。ただまぁ少なくとも千年くらいの付き合いはあるだろう。
 そんなときから延々とサンタを信じているクリスティア。大層可愛い。初めてサンタにプレゼントをもらったときの喜びようがあまりに可愛く忘れられなかったので、レグナとカリナと三人であの手この手を使い現代まで「サンタはいる」と信じ込ませたものだ。
 今後もこの可愛いクリスティアが見れるのであればサンタにでもなんでもなってやろうという気持ちはある。

 あるのだが。

 今世、この高校時代。

 大きな問題がある。

 今までならば、クリスティアの家族にも協力してもらいながらこっそりとプレゼントを用意し、俺と一緒に寝ている間に家族に部屋に置いてもらう、というのがセオリーだった。もっと昔ならばたまには別行動を、ということで単独行動をして用意し寝ている間に置いておくこともあった。

 しかし今回。

 それがすべてできないのである。

 何故なら無駄に過保護が加速した結果、家には結界を掛け行動は常に一緒になったから。

 まだ、そう、まだ、同棲しているだけで、なおかつ行動が一緒だけならばよかったんだ。
 レグナやカリナにプレゼントを用意してもらって、当日までベッドの下にでもなんでも隠して、当日寝ている間にそっと置くことができたんだ。

 一番の問題は家に結界をかけていることだ。

 不審者対策にと今回から始めたものである。戦争などがなくなったとは言えど、日常にだって危険はたくさんある。たとえば宅配便に扮して犯罪を犯すだとか。高校生のみの同棲だとわかった場合なお狙うことだってあるんだろう。クリスティアの安全も踏まえてさせてもらっている同棲。何かあっては困る。
 なのでインターホンが鳴ってもモニターで顔を確認しない限り開けないということはもちろん、向こうが無闇に入って来れないように結界まで施した。そのことは当然家に住むクリスティアだって知っている。毎日俺が開けては閉じてというのをやっているのだから。
 俺のそんな過保護さを嫌と言うほど知っている彼女ならば、仮にサンタが来たとなればどうやって入ったのという疑問が当然出るだろう。
 恐らく今はサンタのことで頭がいっぱいになっているのでその疑問は消されているがそこは幸いということで置いておいて。

 今回。

 サンタをどう登場させるかというのが未だ解決していないのである。
 しかしそろそろ猶予がない。どうするか。

「……サンタは、だな」

 そもそもこのほぼほぼ詰んでいる状態をどうにかできるものなのか。仮にできるとしてもそういう方面であまり頭が回らない俺は現時点で打開策が見つからない。
 思わず口ごもってしまった俺を見て、クリスティアは段々と不安げな顔になっていく。

 やめろそんな顔をするな。

「リアスさまー…?」
「……」

 小さな口が、悲しげな声で紡ぐ。

「サンタさん、来ない…?」

 その声にぐさりと心臓を刺された俺は。

「……来るに決まっているだろう」

 反射的にそう返してしまう。

 やってしまった。

 いやいいんだ、サンタは来させねばなるまい。どうにかしてでも。今回はもう後がなくなっただけだ。

 それに。

「来るっ?」
「あぁ」
「…♪」

 「来る」というその一言だけでこの嬉しそうな顔が見れるのならば。

 サンタの理由などいくらでも作ってやろうと、そう思ってしまう俺は恋人に心底甘いのだろうけれど。

「……楽しみだなクリスティア」
「うんっ…♪」

 年に一度の楽しみくらい、心おきなく楽しんでほしいから。

 今年も頑張るかと心の中で気合いを入れて。
 嬉しそうに抱きついてくるクリスティアを、強く抱きしめた。

『さぁまずはあいつに相談だ』/リアス