また逢う日まで先読み February

 刀を横へ薙げばひらりと翼を羽ばたかせてかわされる。前回ならばそのままくるくる相手の周囲を回り最終的に背後へと言うのが彼女の戦法でしたけれど。

 オレンジ色のきれいな毛並みはそのまま私の頭上へと舞い上がり、魔術の火球を小出しに撃ってきました。

「一ヶ月でここまで変わるとはさすがですわ」
『お褒めに与り光栄です』

 それを飛び退いてかわしながら魔術を練り、今度は私が花びらを飛ばす。それを縦横無尽に飛んで回避し、踏み込んで刃を振り下ろせばキンッと音を立てて見えない何かに弾かれた。シールド系ですか。前回まで使わなかったのに。本当に成長が恐ろしいこと。苦笑いをこぼしながら、その小さな体を振り払った。

 二月ともなれば慣れた合同演習。本日はエルアノさんとの勝負。戦う前に彼女からは「ぜひ戦術や心理戦の指南を」と言われ、リアスめ自分の担当でしょうにと思いながらスタジアムに入り開始すること数分。

 正直もう結構十分じゃありませんかと思ってしまうのは過大評価しすぎでしょうか。

 彼女の戦術がらりと変わりすぎてるんですね。

 一個の戦術しかできなかったのが相手の隙をつくことができるようになりなおかつ立ち回りがうまくなり、さらには火球をおとりに使うなど幅の広がりがものすごい。

 たった一ヶ月ですよ? 確かに一ヶ月頑張れば生物は変われるでしょうけれども。

 こんな増えます?? うちのチートみたいなリアスでもここまで大きく変わってものを増やすのは無理でしょうよ。しかも拙いとかそんなレベルじゃない。

「っ」

 気を引き締めていても火球がときどき肌をかすめそうになるくらいうまい。

 さすがは金糸雀の家系というべきでしょうか。成長速度がすさまじい。これ私何かご指南することあります?? むしろ指南して欲しいくらいなんですけれども。

 大きな火球に隠れるように撃たれていた小さな火球をかわし、大きく踏み込んで彼女の羽の上にほどこされているシールド魔術に刃を合わせる。あ、力もお強い。

「戦術ご指南と言ってもなくないです?」
『そんなことありませんわ。まだまだ学ぶべきことがたくさんあります』

 ご自身の数倍以上のヒト型を押し返す方に何を??
 ちょっと最近周りの方がクリスティア化してきてません? そろそろ挨拶で肩叩かれたときに骨陥没とか出てきません? 大丈夫です?

 なんてバカなことを思いながら彼女には「そうですか」と返している間にも体が押され──待っておかしいこれ絶対何かで押してるでしょう。

 ぐっと足は踏ん張るけれど、顔は笑みを絶やさない。

 ひとまずテレポートで下がるかこのままにするかを考えましょう。下がれば立て直しができる。けれどそうなると彼女にも新たな一手を与えることにもなる。今の段階では私にもやることの制限はありますがそれは向こうも同じ。彼女に引くようなそぶりがない以上まだ動かなくてもいいかもしれない。

 となればこのまま。

 押されている感覚的に力ではちょっと敵いませんねこれは。シールド魔術の方かもしれませんが魔力の感覚があるのでもしかしたら本当に何かの魔術で押している可能性もある。つまりこのまま押し返してもそれ以上の力で押し返される。刃と交わったときより押されているのでほぼ確定と言ってもいいでしょう。彼女の地の力とはちょっと信じたくない。

 ではこのままの状態から勝ちに持って行くということで決まり。短い脳内会議はさっさと終えてばっと頭の中に広がった選択肢をうまく選んでいく。

「学ぶと言えば」
『はい』
「今日から武闘会本戦がありますね」

 あくまで余裕は持ったまま彼女に笑いかけた。今回は比較的彼女も余裕があるのか、にこりと上品に笑って応じてくれます。

『そうですね。予選同様当日発表とのことですけれど、炎上さんや紫電先輩方の回はぜひ見たいですわ。愛原さん達もごらんになるのでしょう?』
「えぇもちろん」

 ぐっと刃を押し返してみるけれどやはりすぐさまそれ以上の力で返される。地の力じゃないですよね本当に。ないですよね??

「お世話になっている方々が出る限りは見に行こうと思っていますわ」
『となりますと……紫電先輩方も上がるでしょうし今月末の決勝戦まで見ることになるのでは?』
「そうですねー。二月はとても忙しそうですわ」

 困ったように笑って、ほんの少しずつ話の方に気が逸れてきたのを見計らって魔力を練っていく。

「今月いっぱいの武闘会に加えて毎年恒例のバレンタインもありますし」
『愛原さんはとても素敵なものを作りそうですね』
「エルアノさんも上品なものを渡しそうですわ。誰か渡す方はいらっしゃるのかしら」
『いいえ』

 高位種族ともなれば魔力を練っている感覚に敏感。彼女に気づかれないように、話しながら徐々に徐々に魔力結晶に力を注ぐ。警戒を見せないように笑いつつ彼女を観察して見るも、とりあえず気づいた様子は見えませんね。

『お世話になっている方々にはもちろんお渡ししますが……特に気になる殿方というのはおりませんので』

 リアルで「殿方」なんて言う方初めて見ましたわ。ちょっと動揺して魔力乱れてしまった。

『愛原さんは気になる方でも?』
「まさか。お兄さまと幼なじみと愛する親友にお渡しするくらいですわ」
『でしたら殿方と言うのは変でしたわね』
「そう──」

 ん?

 ”殿方と言うのは変でしたわね?”?

 なんでしょう何か引っかかる。ただ魔力の準備も怠らず考えてみるも、引っかかるだけで明確な答えは落ちてこない。未だ押し合いを続ける中で、エルアノさんににっこり。

「えぇと……殿方と言うのは変とは……どういう……?」
『あらそのままですけれども』

 そのままがわからなかったんですけれども。

 首を傾げれば、彼女は「失礼」と言ってから。

『気になる殿方ではなく”気になる奥方”と言うべきでした』

 それ絶対クリスティアが私の恋愛対象になってません??

 え? 夏のときといい私そんなにクリスティアに恋愛感情持ってるように見えます?? 大好きですよ愛しておりますよ。ただ友情ででして。思わず押す力強くなっちゃったじゃないですかすぐさま押し返されましたけれども。

 いえまずは落ち着きましょう私。相手はエルアノさんです。とても勤勉で物わかりがよいエルアノさんです。きちんと説明すればすぐ誤解も解ける方ですわ。

 さぁ息を吸って笑顔でさんはいっ。

「……誤解をなさっているようなんですけれども」
『はい?』
「私は刹那を友情で愛しておりましてですね。恋愛感情というのはないんです」
『まぁ……』

 よしっ、よし行け──

『視線の合っていないお写真を撮ったりというのは恋愛感情からだと思っていましたわ』

 あっだめです恋愛感情どころかストーカー疑惑まで突きつけられているっ。どうしましょう動揺させたり気を逸らせたりしようと思っていたのに私が盛大に動揺している。

「違うんですよ」
『あとはお着替えも楽しそうにしていらっしゃいますね』
「実際楽しいんですけれども」

 違うそうじゃないんです。やめてエルアノさん「まさか……?」みたいなお顔なさらないで。

「刹那のお着替えを楽しむのは蓮でしてね?」

 しまったこれも違った間違えました思わず兄の性癖暴露してしまった。

「もちろん龍も楽しんでおりましてっ」
『恋人ですものね』
「そうなんですよ」
『それで視線の合わないお写真は恋愛感情から?』

 だめです話が逸らせない。なんだかまるで尋問を受けているようですわ。この状態でもきちんと魔力練っている私すごくないです?? ちょっと自分を褒めたいです。えぇとそうでなくて。
 合わせている刃と魔術シールドがギリギリ言い出した中、なんとなくその尋問のような視線から逃れたさもあって目をそらす。

「別にほら、お写真を撮るというのは恋愛感情だけではありませんわ。たまたまほら、ね? 視線が合わなかっただけかもしれませんし」
『勉強会でアルバムを見せてもらったとき結構多かったと思うのですが』
「刹那単体のお写真があると龍も喜ぶんですよ」
『視線が合う方がお喜びになりそうですけれど』

 すごい今法廷に立っている気分になってきましたわ。彼女確か法律系を今専攻していましたよね。え、私今罰せられる前的な感じです??

「えぇと……私は今ギルティか否かの審問中でしょうか」
『まさか。審問でしたらこんな可愛いことはいたしませんわ』

 今現段階で怖いんですけれども。

 視線を逸らし続けながら、彼女の声を聞く。

『まぁお写真は冗談として』
「本当に冗談です?」
『本気で審問しても構いませんよ』
「全力でお断りしますわ」

 私の生きる糧がなくなってしまう。

 魔力の準備ができたことは悟られないよう、肩を揺らして笑う。

『あまりにもまっすぐ、氷河さんに”大好きー!”と伝えているので、だいぶ前に出たお噂の通り、みなさまが氷河さんをお好きなのかと思いまして』

 あれですよね、リアスがたぶらかしているというのの噂が解けたと同時に確率したものですよね。まさか少しクラスが離れているエルアノさんまで届いていたとは。噂って怖いですね。

 というかそろそろ来てくれないかしら。そらし続ける視線の中、力は弱めずほんの少しずつ警戒が緩んできている声音のエルアノさんに応じます。

『いかがでしょう?』
「そうですわねー……」

 悩むフリをしながら、一瞬。

 顔を下に伏せ、完全にエルアノさんから意識をそらしたように見せた。

 瞬間。

 ぐっと押し合いに力が入る。

 ──来た。

 心の中でそっと口角を上げて。

『、っ!?』

 押してきた力は今度は返さず、ぱっと体を横へ移動させました。押さえるものが突然なくなって、彼女は押した勢いのまま直進。

 さぁ参りましょう?

 合図のように刃の切っ先でカツンと地面を鳴らして。

【ウツボカズラ】

 壺のようにも見える植物を彼女を飲み込める形で出現させ。

「戦場でお話の方に気が逸れていくのは”危険”ですよ」

 こうして飲み込まれてしまうから。

 今回は中に何も入れてませんけれど。

 笑って、勢いのままウツボカズラに飛び込んでいくエルアノさんを見届けた。

「大丈夫です?」
『えぇ、まだまだと痛感いたしました』

 彼女自身が降参し審判からも勝利の合図をもらったので魔術を解いてエルアノさんを救出。何も入れていないとは言えどちょっと参ったようなお顔ですね。
 入れ替わりがあるので生存確認もほどほどに、立ち上がって二人歩き出す。

『まさかあのお話の最中魔力を準備していたとは……』
「気づかれなくて何よりです」
『動揺なさっていたのも演技でしたの?』

 それは普通に動揺したやつですね。

「そこまで演技はうまくありませんわ」
『まぁ……その状態でも魔力を練られるとは……尊敬です』

 逆に尊敬されてしまった。曖昧に笑って、入れ替わりの兄に手を上げながら。

「そうですわ刹那の件ですが」
『はい』
「私は刹那にたくさん救われてきたのでヒトとしてとてもとても大好きなんです。ちょっと愛情が過ぎているかもしれませんが」
『恋愛というのはないと?』
「えぇ。とても大切にしたい女の子で、彼女が大好きな龍と幸せになってほしいんです。龍が笑うと刹那も笑うので」
『炎上さんが喜ぶこともしたいと』
「そうなりますわ」

 隣のエルアノさんは少し悩んだ後。

『それと視線の合わないお写真が関係あるかは不問として』
「ありがとうございます」
『素敵なお考えですわね』

 言われた言葉に、ちょっと照れくさくなってしまいました。それにもお礼は言って。

『わたくしもそんな素敵なお考えになるよう精進しますわ』
「まぁ……照れてしまいますね」

 笑いながらレグナと閃吏くんのところまで歩いていけば。

 ぽんっとレグナから肩を叩かれました。

 いつものごとく「おつかれ」と言うのかと思い、微笑みながらレグナを見れば。

 笑っているのに笑ってないじゃないですか。

「華凜」
「……はいな」

 冷や汗が流れていくのを感じながらなんとか笑みだけは保つ。

「さっき言ったこと、後で覚えときなよ」

 あっ保ちたいけどちょっと怖くて涙出てきた。ごめんなさい私も口走ると思わなかったんです。

 あなた自分で祈童くんに暴露したようなものじゃないですかと言いたいけど圧が強くて言えない。そうですよね友人と公衆の面前じゃ違いますもんね。今だけ全力で過去に戻りたい。

 とりあえず、もう癖で普段からその言葉を言うことがなくなった私が言うことは。

「ぉ、お手柔らかに、お願いします……」

 お仕置きをきっちり受けますというお言葉だけでした。

『新規』/カリナ