また逢う日までFirst 本編先読み March

三月三日は私がこの世で一番好きな日だ。

「クリスが遊ぼうですって」
「そ」

大好きなあなたと生まれた日で、必ずお祝いをしてくれる日だから。

クリスティアとの電話も終わり、兄がいる私のベッドへと歩いていく。
ポスンと少し勢いをつけて座って、ベッドヘッドに寄りかかってゲームをしている兄へ近づいた。

三月三日は雛祭り。お雛様とお内裏様を飾り、少女の健やかな成長をお祈りする日。

そして私とレグナの生まれた日。

兄はいつからか私の幸せを思って、人生が始まると必ず行方をくらます癖がつき、昔ほど一緒にお祝いをするということは少なくなりました。けれどこの日が一番好きだと胸を張って言える理由がある。

どんなに離れていても、必ずお祝いの連絡をくれたから。

今のように携帯がなければ手紙で。配達なんてものがなければ自らの足で手紙を届けに来ていたのを知っている。

一緒にお祝いすることもなく、ただただ一言。「誕生日おめでとう」の文字が綴られた手紙が毎年届いた。

そして傍にいるときは。

「何」
「いいえ」

必ずと言っていいほど、兄は私の家に泊まりに来たりしてその日を迎える。

寄り添ってその肩に頭を預ければ素の兄は冷たく言うけれど。嫌がっていないのはわかるのでそのままもたれた。やっているゲームはストーリーものではなさそうなので、ちょっとした意地悪を。

「おうちには帰らなくていいんです?」

聞かなくてもわかっていることを聞けば。

「グレン家にいたときの知ってるだろ。うるさいからやだ」

すぐさま返ってくるのは半分の本音。それには笑いながら乗る。

「愛のこもったプレゼントのオンパレードですものね」
「愛のこもったように見せた機嫌取りの、ね」
「そろそろ何人かに本命に思われていることを認めなさいな」
「金持ちのなんてだいたいが結婚とか家柄のための機嫌取りじゃん」
「私に対しては本命だと突き通すくせに」
「俺はカリナほど鈍感じゃないんで」

どの口が。
いや私も人のこと言えないんでしょうけれども。

「鈍感じゃなかったらご自分が本命にされていると気づきそうですけれどね」
「あいにく興味ないことは気づかない」
「そう言うと男に興味あるように聞こえますわ」
「カリナ最近耳大丈夫?」

正直自信ないですが女性の視線には興味なくて男性の視線に興味あるみたいな感じになったらそりゃ疑うでしょうよ。

けれどどうせ「カリナがおかしい」というのは知っているので。

「どのみちおうちに帰らなくても四日のパーティーで来そうですけれどね」

話を逸らしつつ言えば、横目で見た兄の顔は大変めんどくさそうな顔。

「ばっくれたい」
「主役がばっくれないでください。頑張ってくださいねレグナ様?」
「俺お前狙いのやつ追い返すのに忙しいんだけど」
「本来パーティーのプログラムにないことをしないでいただきたい」

言っても絶対やりそうですけども。

「追い返してご両親に言われて仕事に支障が出たなんてなったらどうするんですか」
「その程度なら切った方がマシ」

お兄さま、その「切る」って物理的じゃないですよね。関係切るでいいんですよね。

「……物騒なパーティーにはしないでくださいね」
「お前に何もなければもちろん」

神よどうか今度こそ兄のフラグを回収しないでくださいませ。

心の中で願いつつ、時計を確認。

時刻は零時数分前。

「……!」

同じく確認したらしい兄の体重が私にかかる。それに微笑みながら、レグナがゲームの電源を切るのを見届けて。

先ほど違って静かになった部屋の中、ベッドの正面にある時計を見つめた。

針はどんどん進んでいき、残り一分。

秒針がチクタクと響くほどに、繋がれた手の力も強くなる。

二人でその秒針を見つめて。

十二へと到達したときと同時に。

「カリナ」

時計の鐘がなったかのようにぴったりと、名前が呼ばれました。

兄のことは見ずに、応じる。

「はいな」

その秒針がまた十二へと変わる前に。

「誕生日、おめでと」

大好きな兄からの”一番”をもらって。

「レグナも、お誕生日おめでとうございます」

私からもあなたに”一番”を送る。

傍にいるときの、暗黙の約束。

兄からの言葉を心に噛みしめて。

暗くなった部屋で、二人。長い針が一つ動いたのを確認してから、手を繋いで眠りについた。

そうして兄と眠ることから始まった誕生日。

朝起きれば目の前に兄がいて、笑みをこぼし。土曜は我々が授業があるので手を繋いだままの兄を揺すって起こす。起こされたことに若干不機嫌そうですが慣れているので手を引っ張り、ようやっと離れてそれぞれの支度へ。

愛原家の方々に祝われながら共に朝食を食べて、時間になったら共に学園へ向かい、授業を受けて。

いつもなら同じく土曜に授業がある美織さんやエルアノさんたちと昼食を取りますが、今日は予定があるからをお断りし。

メサージュで一言伝えてから、兄と揃ってテレポート。

向かう先は、もちろん。

「カリナー」
「クリスっ!」

カップル宅。

ぱっと変わった先に見えたベランダには愛する愛する親友が。走ってくる彼女に合わせるようにしゃがみ。

「おめでとー」
「ぅっ、ありがとうございます!」

少々かわいらしくない音を立てながらしてきた親友の愛のある突撃を受け止め、強く抱きしめました。

「あそぼ」
「もちろんですわ! なにして遊びましょうか」
「こっちー」

後ろで男性陣もお祝いやお礼をかわしあっているのを聞きながら、クリスティアに手を引かれて玄関へ。

お邪魔させてもらい、手を引かれるまま廊下を歩いていき、いつものリビングへとつきました。

そこに広がっていたのは、

「まぁ……」

この前まではなかった、お雛様。しかも。

「うわ超立派じゃん。何段だこれ」
「七段」
「買ったんです?」
「まさか。俺達がここに来るとき捩亜(れいあ)が持ってきたんだ」
「そろそろ恋人のお義母様を呼び捨てにするのはやめなさいな」

咎めつつ、やってきたレグナと共に部屋と部屋の間にそびえ立っているお雛様へと近づく。

「七段ってフルセットですよね」
「間近だと初めて見たかもね」
「見た中で最高って三段くらいでしたっけ」
「五だーん…」

それでもやはり七段は初ですか。すごい圧巻。高さだってリアスやレグナの身長とほぼ同等じゃないですか。

圧倒されながら上から見ていると。

「あら」

お雛様とお内裏様はヒトなんですが五人囃子たちがさりげなくビーストですわ。しかもクリスティアが好きそうなちょっともふもふとした。

「こんなお雛様あったんですね」
「異種族交流にというやつらしい」
「ビーストの方に行くと逆なんだって…おひなさまたちがもふもふなの…」

おそらくもふもふだけではないですよクリスティア。ひとまず彼女には「ぜひ見たいですね」と返しておきまして。

「雛祭り用のケーキとかもあるが」
「うそ、買ってくれてんの? 作るのに」
「主役はおとなしくしてろ」
「ごはーん」

後ろでカチャカチャと音が鳴ったので見れば、リアスとクリスティアが今日のためにと用意してくれていたらしい料理が並んでいます。

「炊き込みご飯に唐揚げに……ずいぶん豪勢ですわね」
「明日に比べればささやか過ぎるが?」
「いや十分すぎるでしょ。これにケーキもあんでしょ?」
「ピンクのケーキ…」
「まぁ……遊ぼうというお言葉だけで十分でしたのに」
「元々はその予定だったんだが」

リアスはクリスティアの頭を撫でながら。

「どうせパーティーではまともに食えない上にお前らの好きな物も出ないんじゃないかと至り、ならば食事くらいはと」

的確なご意見によるお気遣いをいただきました。

「誕生日は、たのしく…」

ね? と言われてしまえば、今までもそうして来たので無下にすることはできず。

レグナと目を合わせて笑い。

「じゃあお言葉に甘えて」
「頂きますわ」

主役はおとなしくという言葉にも甘えさせてもらい、二人、寄り添ってソファへと腰を落ち着けて。

「はっぴばーすでー…」

クリスティアのかわいらしい歌声と共に、四人のパーティーが始まりました。

そうしてパーティーをしながら、クリスティアと約束したとおりカップル宅に置いてあるゲームなどでたくさん遊び、夜も更け。

「お邪魔しましたわ」
「お邪魔しました」

夜八時頃。レグナと共にカップル宅の玄関に立つ。いつもなら「帰っちゃうの」と寂しそうにするクリスティアも、今日ばかりはそんなことは言わず。リアスの腰に抱きついて微笑んでいます。

「たのしかった…?」

そうして彼女の問いに、あっという間だった時間を思い返しました。

四人でレーシングゲームをして、置いておいた罰カードを使って。レグナに再び女王様カードやメイド服カードが来たのを笑い。さりげなく追加されていた男装カードは今回クリスティアが引き当て、写真に収めさせていただき。
協力ゲームをやったり、また物語チェスをやったり。

いつも通りの、当たり前のような日々。

答えはもちろん。

「楽しかったですわ」

微笑んで言えば、クリスティアはとてもとても嬉しそうな顔をしました。レグナも? と聞いている間にリアスにはお礼を込めて笑う。それに微笑み返されたのとレグナが同じように楽しかったと伝えたのを確認して。

私はしゃがみ、手を広げる。

「クリス」

クリスティアはぱっと嬉しそうな顔をして、また勢いをつけて抱きついてきました。冷たい体温をぎゅっと抱きしめる。

そうして、彼女には言葉で。

「ありがとね」

変わらず私とレグナに”一番”をくれたこと。
変わらない時間をくれたこと。

そしてこれから、変わらず今日の最後をレグナと共に過ごさせてくれること。

たくさんの思いを込めてお礼を言えば、クリスティアは「どういたしまして」と伝えるようにすり寄ってきました。

「幸せよ」
「うんっ」

嬉しそうな声に微笑みながら、背を緩く叩く。うりうりとほっぺをこすりつけてくる小さなヒーローがとても愛おしい。

ずっと抱きしめていたいけれど、今日この日は残り四時間弱。それをわかっているクリスティアは、そっと体を離しました。

少しだけ見上げる少女の瞳は、幸せそうにゆがむ。

「…またね」
「えぇ。また連絡しますわ」

そう言えばうんっとかわいらしく頷いてクリスティアはリアスの元へと戻っていく。その小さな背を見届けてから、立ち上がった。

「ではおいとましますわ」
「明日あれだったら匿って」
「わかった」

レグナの冗談に笑って。

二人には手を振って、歩き出しました。

門から出たところでドアが閉まる音を聞いてから、足は共に愛原邸へ。

「今日もお泊まりですか?」
「言ったじゃん、うるさいんだって」

いつもより気持ち寄り添って、薄暗い道を歩いていく。

「別に構いませんけれど、明日の準備は大丈夫なんです?」
「二日の時点で全部持ち込んどいた」
「用意周到ですねあなた……」
「誰かさんに似てね」
「あらどちら様でしょうか」

言葉のあとに、まるで私と言うようにこつんと指が手のひらに当たり、笑いあって。

ゆったりと歩く中で、当たった兄の指が私の手を握る。

笑っているのにどことなく弱々しいその指を握り返し。

「家に帰ったらまたプチパーティーですかね」
「俺もう腹いっぱいなんだけど」
「安心してください、こういうこともあろうかと控えめにと言っておきましたわ」
「お前こそ用意周到じゃんか」

三月三日、この世で一番大好きな日。

大好きな日だからこそ、この先のことはお互い口にせずに。

この日だけはと兄妹で外にも関わらず手を繋いで、他愛ない話をしながら薄暗い道を歩いて行った。

『二年後は手を繋いでは歩けないね(新規 志貴零)』/カリナ