また逢う日までFirst 本編先読み March

三月三日は雛祭り。お雛様とお内裏様を飾って、女の子の成長を祈る日。
同時に愛する妹と共に生まれた大事な日で。

人生に「金持ちの養子」とオプションがついた場合。

俺が一年で一番疲れる日でもある。

「華凜様、蓮様、お誕生日おめでとうございます」
「おめでとうございます!」
「これからも健やかな健康をお祈りしています」

三月四日、今回は誕生日の次の日。
比較的広い会場を貸し切って行われる誕生日パーティー。グレンの養子になってから毎年行われるそれはいつの日からかカリナと一緒に祝われるようになった。フランスではカリナのシフォンが分家、日本の愛原はうちの傘下になるし、元々親同士が仲が悪かったので本来なら一緒になんていうのはなかったのだけど。

「ありがとうございます。嬉しいですわ」

俺たちが普段から一緒にいて仲が良いっていうのと、この人当たりのいい妹を義父たちが気に入ったのもあり。いつの間にか仲良くなった親たちがこうして一緒のパーティーにしてくれるようになった。

それはいいんだ。
傍にいるときはこうやって一緒にいれる時間が多いと嬉しいし。自分の遠ざけたい思いと嬉しい思いが矛盾してるのには今はとりあえず置いとかせてもらって。

問題は、そのパーティー。

「今日もお美しいですね華凜さん」
「誕生日は一段と輝いて見える」
「まぁ」

うちの妹に近寄ろうとしている下心満載の男が多すぎる。

何が「まぁ」だよカリナ、人当たりが良いのはいいことなんだけどそうやってかわいく笑うから勘違いされるんだって。

「蓮様、お誕生日おめでとうございますっ!」
「あの、プレゼントをお持ちしたんですがっ」
「ありがと、あとで家に送っといてくれる?」
「はい!」

周りにやってくる機嫌取りの女の子たちは軽くあしらわせてもらいながら、意識はカリナの方へ。妹はいつも通りにこにこしながら褒め言葉や祝いの言葉に対応中。その対応されてる男たちを見れば。

「……」

なんとまぁ笑いかけられてデレデレしてらっしゃる。
あれを自分に気がないという妹はやっぱり鈍感すぎると思う。

金持ちの交友と言えば、結構機嫌取りや建前というのが多い。それこそ今俺の周りでいろんな話をしてくれてる子たちもほとんど俺の機嫌取り。カリナは本気の子いっぱいじゃないですかって言うけど、それはただの建前でその奥にあるのは波風とかグレンの恩恵を受けようという下心。何回か交流してその下心より慕ってくれる気持ちが大きい子もいるから本気に見えるだけ。だいたいの子が俺ではなく家柄にご執心なのは聞こえているのでよく知っている。

ただ機嫌取りとかが「多い」ってだけで、中にはもちろんその下心が家柄じゃなく本人に向けられていることだってある。

そしてそのターゲットはだいたいうちの妹である。

うちの妹は贔屓目なしに美人だと思う。本人の勉強の賜物で口調や仕草はきれいだし、リアスとクリスティアの前以外はおしとやかで品もある。いつだって笑顔を絶やさないし、話を聞くのもうまい。ヒトを立てられるから男だって悪い気はしない。スタイルだって良いし、正直クリスティアへのあの行きすぎた愛が見えなければ完璧だと思う。

だからこそ。

「よければ今夜二人で食事でも」

こうして悪い虫が付くのである。

即座に女の子たちの輪から抜けさせてもらって、足は妹のところに飛んでいった。

「困りますわ」

ほんとに困るわ。

「たまには君とゆっくり話したいんだけどな」

待て待て待て待て手を伸ばすな。カリナも引けよ体をっ。

歯をギリッと噛みしめて。

「すみませんが」

大きく踏み出し、妹の肩を抱いて。

「夜は家の方で食事があるんで」

きっと笑っていないであろう顔で、言えば。

目の前の男はひっと喉をひきつらせる。それと同時に妹からはため息。俺がため息つきたいんですけど??
とりあえず文句言うのは後にして、カリナに手を伸ばそうとしてる男を始めとした下心満載の男たちを睨む。今取り囲んでる奴らはそこまで度胸がないのか。

「っ」
「す、すみません蓮さまっ」

睨む俺の目を見ようとはせず、そそくさと去って行った。

それを見届けて、ようやくため息。

「誕生日のパーティーくらいおとなしくできないんです?」
「お前の身を守ってる兄にその言い草ひどくない?」

そのうち絶対食事とかに連行されそう。小さく呟けば、聞こえた妹はそんなことないですと頬を膨らませて歩き出す。

背中を追いながらウェイターから飲み物を一つ受け取って、妹が先に寄りかかった壁に背中を預けてグラスを渡した。カリナは不服そうに、グレープジュースが入ったグラスを傾けて。

「お義父様のお仕事が減ったらレグナの影響ですからね」
「昨日も言ったじゃん。その程度なら切った方がマシって」

自分で事業建ててある程度波に乗って妹さんを迎えにきましたくらいの度胸があるなら初めて考えるわ。

それを言ってしまうと誰かに聞かれてた場合ほんとにやってくるやつもいそうなので言わないけれども。

妹から飲みかけのグラスをさらって、ジュースで喉を潤す。合間に見た時計はパーティーが始まって一時間弱。残り半分くらい。多少話しがあって延びても夕方には終わるか。

後は誕生日特有のものを乗り越えるのみ。

ぐっとグラスの中を飲み干して、やってきたウェイターにグラスを返し。

腕を組んで、今年来るであろう輩たちを見回した。

そして予想通り、”それ”がやってきたのは約二十分後。

ある程度食事も終えて、それぞれ話も落ち着いてきた頃。

始めと同じように、俺たちの周りに人だかりができる。
さっきと違うのは集まってる人たちが手にプレゼントを持っていること。

年を重ねたご息子ご息女への好感度アップイベントであり。

金持ちというオプション付きの家に世話になった俺が一年で一度、一番疲れるイベントである。

特段俺たちが何かをするってわけじゃない。プレゼントを受け取ったり、手に持ちきれなかったら執事にでも渡してもらったり。お礼を言ったりとか至って普通なこと。

それでも俺が疲れる理由は、

「お誕生日おめでとうございます」

妹狙いの奴が送ってくるプレゼントの本気具合がそれはもうすごいからである。

たとえば今目の前に来たやつ。

手に持ってるのは真っ赤なバラの花束。もうこれだけで「プロポーズですか??」って聞きたくなるんだけれども。
花って本数で結構意味がありまして。そっと数えてみると。

二十四本。

意味は、「一日中想っています」。

怖いわ。

ぞっとしてしまった体をさりげなくさする。

「まぁありがとうございます。素敵なお花ですね」

妹は気づいてるのかいないのかはわかんないけど笑顔は変わらない。こういうところはさすがだなと感心しながら。

そのカリナにプレゼントを渡した男は、今度は俺の前へ。

「蓮様にはこちらを」

差し出されたのは、それはもう高そうな箱。ラッピングされてないところを見るとこれは開けろと言うことか。

「……ドーモ」

リアスがいたらもっとちゃんと礼をしろって叩かれそうだけど、とりあえずお礼は言ったのでよしとして高そうな箱を受け取る。わぁ重い。見なくても箱の形的になんか中身わかるんだけど。

ただ向こうの「ぜひ開けてください」という圧がすごいのでそっと開ければ。

「……わー……」

予想通り、そこにはおったかそうな金色の時計が。

「ぜひ学校生活のお供にしてください」

むしろ高すぎてできませんけど? 絶対うん十万はくだらないやつじゃん。いろいろと気持ちが重いよ。いいよ別にカリナにいいように見られたくて見栄張らなくたって。

苦いものになるけれどなんとか笑みを浮かべながら、心の声はぐっと押しとどめて。

「……ありがとうございます」

そう言えば、満足そうにその男は去っていった。

けれどため息をつく間もなく。

「蓮様、華凜様、お誕生日おめでとうございます」
「こちら外国から取り寄せたお菓子になります。少し早いのですがホワイトデーも込めて」

今度は執事付きの男性。
執事が見せたのはこれまた高級そうな箱。それを俺たちに見せるように開けた。

中にはキャンディーとマカロンの詰め合わせ。本人がホワイトデーってわざわざ言ったんだからこれも意味あり。

キャンディーってなんだっけ。確か「あなたが好きです」?

マカロンは、「あなたは特別」みたいな。

そして。

「蓮様にはこれも」

俺の前にもう一個出されたのは、マドレーヌ。ホワイトデー、カリナ狙いの男から俺んちによく送られてくるやつなので意味はしっかり覚えてる。

”もっと親密になりたい”。

親密になって最終的に「妹さんをください!」みたいなイベントだよね。

あってたまるか。

顔がひきつりそうになるのをなんとか耐えながらまたお礼を言って、相手を見送る。入れ替わるようにまた男性。

その手には白いバラと、高そうな箱。

あぁまた時計かなーと思いつつ、現実逃避するように並んでる列に目を向ける。
やっぱ男が多いな。俺のとこに来る子たちには元から「家に送っといて」って言ってるから毎年男多いんだよね。男にもカリナが言ってたはずなんだけどな。欲にはやっぱ勝てないんだろうか。

なんてバカなことを考えながら、カリナとその男の会話が終わってプレゼント渡しますみたいに聞こえたのでそっちを見れば。

白い二本のバラが、カリナに手渡された。

白いバラはたしか、「私はあなたにふさわしい」だったっけ。んで本数は──

”この世界には二人だけ”。

二人どころかこの空間にもヒトが何十人いらっしゃいますけれども。
これ絶対チョイスミスじゃん。もっとこう、二人っきりの空間で渡す物じゃんどう考えても。まだ一本の一目惚れとかの方がよくなかった?

「ありがとうございます、嬉しいですわ」

けれど妹にそう言われた男は舞い上がっているのが顔に出ている。喉から「建前だよ」って出かかるけどそこだけはぐっとこらえて。

「蓮様にはこちらを」

嬉しそうな顔のまま俺の前にやってきたヒトから、高級そうな箱を受け取る。毎回毎回「開けてください」という圧がすごいので、そっと箱を開ければ。

そこには高そうな金色の──おっとさっきも見たぞこの時計。

買った店が違うのか入れる箱がプレゼント仕様なのか箱は違うけれど。驚いた顔で止まってしまい、目の前のヒトが少し焦ったように声を出す。

「も、もしやお持ちで……!?」

先ほど所持済みに。

というのは抑えて。

「いえ」

ぱっと切り替えて、人当たりのいい笑みを浮かべた。

「この時計ずっと欲しかったものだったので、驚きました」

にっこりと妹よろしく言えば、その人はほっとした顔になって。

恐らく好感度が上がったんだろうと勘違いをして、俺の前から去っていった。

それからも意味のあるプレゼントを妹に贈られ続け、夕方。

当日は妹と過ごさせてもらったので今日はと波風邸に帰り、ネクタイを緩めながら開けられた扉をくぐる。

「お帰りなさいませ」
「うん」
「お疲れさまでした」
「……ほんとにね」

苦笑いをこぼせば、波風で俺の面倒をよく見てくれてるメイドも困ったように笑う。
労いにお礼を言って廊下を歩き出した。

歩きながらジャケットを脱いでる途中に、後ろをついてきてるメイドへ。

「”あれ”は?」
「届いております」

あちらにと手をかざされた場所は少し広めの、会議とかに使われてる部屋。

自室には向かわずそこに歩いていって、メイドに鍵を開けてもらって中に入る。

「……うわ」

中には、これでもかと積まれたプレゼントの山が二つ。

片方は俺宛の。主に「後で送っといて」ってお願いした女性陣から。

もう片方は。

「こちらがカリナ様とレグナ様に宛てられたものになります」

昼間行列をなしてカリナに渡してきた思いたっぷりのプレゼント、宅配バージョン。

俺の身長を超えるくらいのそれに引き笑いしか出なかった。

「これで全部?」
「我々が確認した物は」
「そ……」

今年も多いなと、これからやることに遠い目をしつつ箱にいくつか指を這わせて住所とかを確認。

さっき直接渡してきたやつも入ってるな。あとは遠方のヒトとか、今日予定が合わなかったヒトとか。

これを住所とヒト確認して、中身に変な物がないか確認して。変な物は申し訳ないけど退かしてもらって安全な物だけをカリナへ。積み上げられた果てしない作業にため息をつけば、ジャケットとネクタイを回収しに隣に来たメイドが俺の顔をのぞき込んだ。

「お手伝いは」
「いいよ、自分でやる」

それには「そうですか」とこぼして、足音が遠ざかっていく。たぶん飲み物とか持ってきてくれるんだろうと気遣い屋なメイドに感謝して。

「……やりますか」

若干あの過保護な親友に似てきてるなと思いつつ、中身チェックをするために一番上の箱から手にとった。

『新規 志貴零』/レグナ