また逢う日まで 先読み本編second June

妨害守護合戦の途中、「14:30 ミッション遂行走」と校庭に出たので、出場メンバーで校舎棟側の集合場所へと来ました。今回のメンバーは黄組からはクリスティアにティノくん、珠唯さん、赤は私と、今現在まだ妨害守護合戦の方にいる武煉先輩。青組からはフィノア先輩とウリオスくんで。

「……今年もまた場所が離れましたわ」

去年と同じく一緒の演目のはずなのに、またもや場所が離れてしまった愛する親友に、がっくりと肩を落としました。

『愛ゆえに離れるっつーやつだな姐さん』
『代わりにならないと思うけどホラ、一応愛嬌があるボクらでガマンして!』
「ティノくん肉球だけ……」

そっと手を伸ばせば快く触らせてくださった肉球を――あっやばいすごいもちもち。えっなんですかこれ。

「この肉球は刹那は……」
『なんだかんだまだないかも?』
「これはぜひ刹那に堪能させてあげてくださいな。大喜びしますわ」
『どっちかってーと坊ちゃんの毛に一直線だよな嬢ちゃん』
『そーそー。あと”おっきなドワーフ!”って盛り上がる』
「かわいいですよね」

去年でしたよねティノくんの種族ですごい大はしゃぎしていたのは。

「物語で読んだ憧れの大きなドワーフ、ましてやこんなもふもふなドワーフとなれば大はしゃぎですわ」
『アレでボク初めて氷河さんのおっきな声聞いた』
『オイラもだな』
「私もあのくらいの声量はまれにしか聞きませんわ」

だからこそそれを聞けたときの嬉しさは計り知れない。そして。

「……あのテンションをいつか動画に撮りたいと思っていますのに」
『愛原さんそういうトコロ残念だと思う……』
「あらまぁ最高な点だと思いますわ」

どこが、と言いたげな上下からの視線は置いておきまして。

《これよりミッション遂行走の説明を始めます》

アナウンスが鳴ったので、気持ちだけそちら側に向ける。去年と同様な説明の中で、目線は少し左右へ。

『どうかしたかい姐さん』
「あぁ、いえ……武煉先輩こっちに来たのかしらと思いまして」
「呼んだかい?」
「気になっただけでお呼びではありませんわ、ご心配なくご自分のポジションにお戻りくださいな」

突然横からかかった声には驚くこともなくそう返して、愛想笑いを浮かべながら武煉先輩の方へ向く。

「今来たんですか?」
「向こうで話が盛り上がってしまってね」

なんて笑いながら、武煉先輩は私がいる三番目のレーンで立ち止まる。

三番目のレーンで?

待ってくださいよ。

「まさか同じレーンだなんて言いませんよね?」
「そんなまさか」

そのまさかを常に実行してきたお方が何を。

いや現時点で三番目のレーンはいっぱいみたいですからないでしょうけれども。一瞬疑ってしまう。

けれど、今回は本当に違うようで。笑いながら私にくじを見せてきました。えぇと番号は……

―1。

ちょっと本当に待ってください。

声はなんとか抑えて。

「ちょっと!! すぐじゃないですか!!」
「そうですよ」
『何してるのセンパイ!! 前行かなきゃ!!』
『前空いてると思ったら坊ちゃんかい!! さっさと並ばねぇと!!』

三人でぐいぐい引っ張ったり押したりするも、武煉先輩はさわやかにただ笑っているだけ。いや笑ってる暇ないでしょうよ。

《今回のミッション遂行走では簡単な騒動鎮静のミッションもあります。鎮静と言っても〇×問題のようなものなので説明は割愛を》

そんな風にしている間にもアナウンスの方は話しながら銃のトリガーへと指をかけていく。
待ってください待ってください。

「始まりますよ先輩っ!!」
「そのようだね」
『もっと急げや坊ちゃん!!』
「あはは、鳴った瞬間に走れば大丈夫ですよ」
『いいハンデにはなりそうだけどっ!!』

そういう問題じゃないと三人で必死に押せば、ようやっと武煉先輩は前へ行き。

《それではミッション遂行走を始めます。用意》

ちょうどなタイミングだったようで、先生が演目用の銃を構えました。普段ならば耳を抑えたりもしますが、もう気力がないのでそのままで。

《スタート!》

焦っていた我々とは正反対に悠々と走り出す武煉先輩を見送りました。

「あの人ときたらっ……!」
『ボクら前の方でよかったね……』
『姐さんが後半にいてもああやって来てたんじゃねぇのかあの坊ちゃん……』

あぁ、ありえそう。
そしてああやってさわやかに去っていくんですよねわかります。

ミッションをクリアしていっている武煉先輩を若干殺意も込めた目で見ながら。

気持ち的にも少し落ち着いたところで、そういえばと。
一歩前で並んでいるウリオスくんへ目を落としました。

「聞きたいことがあるんですけども」
『なんだい姐さん』
「武煉先輩ですが。どうしてあのお方はその、」

あ、ちょっと笑いそう。

なんとかこらえて。

「ぼ、坊ちゃん、なのかなと……」

可愛さに口を引き結びながら、聞けば。

『そりゃあ――』

と。ウリオスくんが口を開いたとき。

「ウリオス」

何故か先ほど見送ったはずの方の声が。
突然の声に今度は驚いてしまい、ぱっと三人でそちらを見やる。そこには息を切らした様子もなく、変わらずさわやかに笑う武煉先輩が。

「えっ武煉先輩何故?」
「借り物でね。ウリオスを借りたくて」

ぴらっと見せた紙には「ふかふかな毛」となんともドンピシャなお題が。そんなことあります?? なんて思うけれどお題となれば時間制限付き。聞いている暇はありません。

「少し付き合ってもらっても?」
『もちろんだぜ坊ちゃん!』
「そろそろその坊ちゃんはやめてほしいんだけれどな」

なんて本気なのか冗談なのかわからない笑みで言いながら、木乃先輩はウリオスくんを抱えてまた走っていく。

それを見届けて。

これは、と邪推した結果を、一歩後ろに並ぶティノくんへ。

「……このタイミングは聞かれたくない感じのことです?」
『うーん……かもねぇ。愛原サンは木乃センパイの家のコト知らないのー?』

家のこと。家のこと?

問われた言葉を頭の中で反復するも、答えはNOだけ。素直に首を横に振りました。

「存じませんわ」
『そっかぁ。まぁ結構複雑な家みたいだし、気になるんだったらセンパイに直接聞くといいかもねー』
「そのようですわね」

まぁ立ち入られたくないことを深く聞く気はありませんが。なにか無粋なことを聞いてしまうと今度はティノくんまで連れていかれてしまう気がしますわ。

ところで。

「……あの足の速さならばすでにクリアしたとは思うんですが」
『帰ってこないねウリオスクン』
「これぎりぎりまで帰ってこないとかありませんよね?」
『……ないんじゃ、ないかなぁ……』

そう、走っている選手を見ながら。

若干本当に帰ってこない気がするウリオスくんの無事を、二人で祈りました。

その後しばらくしてからウリオスくんは無事に帰って来まして。大丈夫でしたかと聞けばまぁ漢らしく「問題ねぇぜ!」とかっこよく言っていただき。すぐさま出番となったウリオスくんをまたティノくんと二人で見送りまして。

《第三走者、準備してください》
「では行ってきますわ」
『頑張ってねぇ』

ティノくんとアクセサリーやお化粧の話をしていたらあっという間に時は過ぎ。私の出番がやってきました。アナウンスがかかったのを聞いて、ティノくんに笑ってから一歩前へ。

跳び箱やハードルなど、障害物は去年と同じものがちらほら。問題はミッション関連ですよね。できれば容易なもので当たりたいのも正直なところ。騒動鎮静は若干トラウマがあるので特にそこは、とさりげなく願いを込めて。

《ようい》

その合図に頭を切り替え、一歩足を引き。

《スタート!》

パァンっという銃声の音とともに、走り出しました。

ちらっと周りを見ればヒト型数人、ビーストは犬や蜂といった少々小型な方々。機動力が厄介でしょうか。ミッション遂行走は幸いなことに妨害あり。

先に少し距離をあけましょうか。

走りながら魔力を練っていき、私の横の方々へ向けて。

【リュミエール!】

あまり強くないけれど、しばらく目が痛くなってしまう程度の光魔術を展開。

「うわっ!!」
『!? なんだっ!?』
「お先失礼しますわ」

詠唱も破棄しているので早い人は数十秒ほどで復活するでしょう。言葉をかけるのもほどほどに、自分のコースをかけていく。

「それっ」

一番手前にあった高い跳び箱は跳んで抜けていき、平均台も持ち前のバランス力で早めにクリア。突っかからなければ結構行けそうですかね。

そういっていつもいけないんですよね知ってますよ。

けれど兄みたいにフラグ立てるわけじゃありませんよ。大丈夫ですよ。さっきから誰に言ってるんですか私。自分ですよね。

なんて脳内で一人会話を楽しみつつ、早いペースで三地点、四地点と抜けていく。私は今回当たりかしら。比較的障害物が多いですね。

一口パン食いも超えて、早々に第六地点へ。

「ミッションですか」

後ろを見つつ紙を拾う。結構距離離れましたね。この地点までミッションがなかったのはやはり当たりでしょうか。去年の感覚からいくと、ラストでどのみち時間がとられるのでこの時点でガーっと突き放したいんですよね。
さてそんな私のミッションは。

”討伐”。

確認したと同時に張られる結界。そしてその中にはおどろおどろしい敵数十体。

「お任せくださいな」

笑って、魔力を練っていく。少々テンションが上がってきましたわ。自然と上がる口角のままに、紡ぐ。

【ルス・ジュビア】

詠唱に伴って、結界内にはまばゆい光の雨が降り注ぎました。あ、後ろの方で少しうめき声聞こえましたね。これも少し牽制になったかもしれませんわ。

けれど油断は禁物。そこはきっちり肝に銘じて。

少しずつ収まっていく光の中で「〇」と出たのを確認し、解かれつつある結界の中を走りだしました。
そのままペースは緩めず走って行けば、目の先には再び紙が。後ろから少々魔術の気配もあるのでタイミングを合わせてよけるようにしゃがみ。

「あら」

流れで紙を見ると、今度は借り物らしきお題が。

えぇと?

”ピンクのもの”

ピンクですか。これは簡単ですわ。つくづく今年は当たりかもしれませんねと、そっと笑って。

即座に思い浮かんだ場所へと、テレポートしました。

「華凜ちゃん!」
「じゅ、順調ですね……! 借り物ですか……?」
「はいな」

ミッション遂行走に駆り出される際、”いる”と前もって言ってくださった校庭の日陰に行くと、遂行走以外のメンバーがそろっていました。労いの言葉にお礼を言いながら、私の足は。

「お兄様♪」

愛する兄のもとへ。ゲームをしている兄の目の前にしゃがみ、かわいらしく微笑む。

「なに? 目玉でも貸せって?」
「そんなぐろい借り物競争があってたまるものですか」
「見事に去年の龍クンと同じこと言ってんな華凜ちゃん」
「つくづくあの男とは意見が合いますわね……」

若干テンションが下がったのは気づかない振りをして、兄に両手を差し出しました。

「ピンクのものが欲しいんです。なにかお借りしても?」

瞬間周りがザワッとしましたわ。

「何故ザワッとなさるのかしら」
『なかなか男性にピンクのものを言うのは聞きませんから』
「ティノくんならば持っていそうでしょう?」
「えっと、まぁティノ君ならわかるけど」

兄ではなかなかご想像できない様子。うちでは普通だったんですけどね。
ねぇ? と問うように見れば、兄は私同様、意外そうな目など気にもなさっていない様子で頷き。

「ん」
「はいな」

私の手に、”それ”を落とす。

兄の手から出てきたのは、耳の部分が桜型になっているヘッドホン。

兄のお気に入りのもの。

「バトルリレーのときにでも返して」
「わかりましたわ」

お気に入りを渡してくれることに顔を緩ませるのもほどほどに。時間もあるのでお礼を言って立ち上がり、ヘッドホンは首へと掛けました。

「ではまた後程」
「頑張ってね華凜ちゃん!」
『一位ですっ』
「お任せくださいな」

応援するように体を振ってくれているルクくんの蛇にも微笑んで。

そっけない態度をしながらも微笑んで見守ってくれる兄に手を振って、その場を後にしました。

そうして兄のおかげで無事に借り物を越え、ハードルや簡単な騒動鎮静も超えて、ゴール前へとトップで向かって行きました。
騒動鎮静、一瞬構えましたけれど本当に簡単になっていましたわ。どちらかというとテストの文章問題をやっているような気分。先に紙に文面が、読んでいる間に場面を想像しやすいようにかバーチャルにて再現映像が。応えるときは下に出てきた〇か×のボックス内に踏み入れるだけ。文章が主体なので下手したらひっかけ問題とかもありそうですけれど、私が当たったのは単に「この場合、このヒトと別れるべきか否か」というような問題でした。ご自身で考えなさいなと思ってしまったのは心の中だけでとどめておきましょう。せっかくいいペースなんですもの。

そう再び脳内で会話をしながら走っていき。

毎年一番の鬼門であるゴール前へ。

毎回借り物なんですよねこれ。内容は各レーンごとに違うようですけど。
できれば借りやすいものがいいなぁと、去年ミッションが発動した箇所へと記憶をたどりつつ歩いていきます。

そうして数歩、歩いていけば。

「!」

発動場所に踏み入れたのか、軽い煙が立ちました。危険ではないともうわかっているのでその場でとどまり、お相手が出てくるのを待ちます。

出ていらっしゃったのは。

〔よくぞここまでたどりついた……ぬしに最後のみっしょんをあたえよう……〕

去年同様の老犬のバーチャルでしたわ。毎年これも一緒なんですかね。

と。

老犬は私を見て「おお」と声を上げる。

〔今年もぬしが来たか……〕

あ、存じてらっしゃるんですね? 最近のバーチャルって本当にすごいですね。データはそのまま保持ですか。なんて感動をしながら、老犬には笑って頷きました。

「お手柔らかにお願いしますわ」
〔うむ……それでは主にみっしょんを与えよう……〕
「はいな」

歩み寄り、視線を合わせるようにしゃがみ。

〔今年のみっしょんは……〕

微笑んで、待っていれば。

〔ぬしの好みの顔を連れてくるのじゃ……〕

その微笑みが固まってしまいましたわ。

ちょっとお待ちになってくださいね??

「シンキングタイムを要請してもよろしいでしょうか」
〔三十秒じゃ……〕
「ありがとうございます」

この方なんて言いましたっけ。

好みの顔?

好みの顔を連れて来いと? そう言いましたよね?

連れてくるのは果たして借り物というのかと的外れな考えに行きそうですがなんとか制しまして。

――よし。

〔しんきんぐたいむは終了か……?〕
「はいな。ご質問は」
〔答えられうるものならばもちろんじゃ……〕

では。

「これは……果たして笑守人の理念に必要でしょうか……」

聞きたくなりますよねこれ。だって絶対関係ない。断言できるくらい関係ないでしょう好みの顔。絶対この方が知りたいだけじゃないですか。

〔言っておくが、わしが見たいわけではないからな……〕
「違うんですか?」
〔何が楽しくて小童たちの恋バナを聞かねばなるまい……こちとて任務じゃ〕

なんでしょう、バーチャルのはずなのに本当にそう思っているように感じますわ。

〔そしてぬしの質問にも答えよう……答えはいえすじゃ……〕
「理念に……必要ですか……」
〔まぁ、今回のは理念というよりは任務として必要なことが多い、じゃろうなぁ。おなごには多いものよ、恋バナをしたいという依頼がのぉ〕

見るか、と言われ頷く間もないまま老犬は空中を指さします。そこには統計グラフのようなものが。

そしてそこの、多くの割合を占める場所に「恋バナ」が。

絶対作りものじゃないですかこれ。

〔意外と多くてのぉ……とくに異種族との恋愛ともなれば、な〕
「あぁ……」

たしかにその点では少々納得せざるを得ないかもしれない。

たまたま自分たちが恋愛には寛容ではありますが、世間では認められない恋愛というものももちろんあるというもの。それこそ性別を始め、こちらの老犬がおっしゃったように種族の違いで、というのもありますわ。

「……そのグラフの真偽は置いておきまして」
〔正当なグラフじゃ……シラバスを読むとよい〕
「後ほどに。ひとまずお話はわかりました」

わかりたくないですけどもそろそろわからないと追手が来てしまう。

「ひとまず、好みの顔を連れてくればよいのですよね」
〔んむ……それとじゃ〕

これを、と差し出されたのはブレスレット。受け取って一通り見てみるも、特別何かが描いているわけではありません。

〔それは開始したら時間が現れる機能と、心拍数で嘘を見抜く機能がある〕

ここでなんて無駄な機能をっ。

歯を噛み締めたのに気づいたのかはわかりませんが、老犬はそのまま続けます。

〔嘘は、ときに必要なものである〕
「……?」
〔ときには優しい嘘というものは必要であろう。それを否定する気はないが、嘘で守ることばかりを覚えてしまうのはならん〕

ときには。

〔ときには真実こそが心打たれるということがあるものよ。これはヒントでもある。肝に銘じておくように〕
「……わかりましたわ」

意味ありげに笑う老犬に笑い返し。

〔考える時間も含め制限時間は300秒。すたーとしてもよいかのう〕

正直自信はないですけども。

「えぇ、お願いします」

それは見せずに、頷いて。

〔すたーとじゃ〕

合図に。

「……」

私はその場で、立ち止まったまま。

立ち止まるでしょう。

そんな好みの顔なんてそうそういませんよ。いやいるにはいますよ。武煉先輩の顔とか好みっちゃ好みですよ??

ただあのお方連れてくるのだけは勘弁願いたい。絶対あとが面倒じゃないですか。本人も兄も。本人は絶対ことあるごとに「好みの顔」という点を振りかざして来るじゃないですか。嫌ですよ。

それに。

気持ちがないのにミッションだからと連れてくるのはどうしても自分が許せない。いいんですよ気持ちが少しでもあれば。これを機にあなたにちょっと気づいてほしくて、みたいな乙女心が出せますから。もうそんな乙女心も数千年ほど縁がないのでどんな感じかすっかり忘れていますけれども。

武煉先輩は置いておいて次。

こういうときにぱっと助けてくれそうなのは、やはり兄。
でも今回ばかりは兄も大問題でしょうよ。兄ですよ? 二卵性ならばともかく我々一卵性ですよ?? 一卵性ってそっくりじゃないですか。もはや自分の顔大好きとしか思えない。なので却下。

あとは――。
ぱっと助けてくれそうなお方はもうひとり。金髪の兄みたいな方。
でも好みじゃないんですよ正直、ほんとにクリスティアに申し訳ないんですがいいお顔だとは思うんです、けどほんとに好みとは違うんですよね。それにここで私がリアスを連れてきてしまったらようやっとなくなった噂が再発してしまう。それはやはりだめ。

では異性でとこだわらず行ってみましょう。それならば当然クリスティア。かわいいですもんね天使ですよね。
女の子ならば好みドストライクですわ。

あ、これなら行けるのでは?

統計的にはたしかに恋バナがどうとか言われましたが、今回のお題は「好みの顔」。言ってしまえば「恋愛的に好みの顔」とは指定されていない。苦し紛れですがでも事実。仮に「お題と違う」と言われても始めに指定がなかったといくらでも言えますわ。

よし、よしっ。クリスティアにお願いしましょうそうしましょう。

決まったと同時に顔はぱっと明るくなり。

さて愛しい親友のもとへ、と一歩踏み出した瞬間。

待って、と心の中で声がしました。

クリスティアにお願いするという案、もちろんいいと思うんです。たぶん結構最高な案だと思うんですよ。ただちょっと待ってくださいね。

ここでクリスティアを連れてきた場合。

身内に「こいつ本気だったのでは……」と確信されてしまうのでは??

とくにレグナとリアス。だいぶ前から疑いかけられてますもんね。いや大好きですよクリスティア、愛してますよ??
けれど友情的にでして。友情の方のloveなんですよ。

ただこのタイミングは絶対にやばい。しかもこの公衆の面前でというのがなおよろしくない。しかも私、誤解が解けたあとの方でも「愛原さんも炎上君たちもみんな氷河さん好き!」みたいな感じでしたよね。本気でクリスティアそっちの意味で好きなの認めるようなものじゃないですか。
それはようやっと進んできたカップルにも迷惑をかけてしまう。それもいただけない。

だめですわ。

手がなさすぎて思わずもうしゃがみこんでしまった。
その間にも隣ではぱたぱたと足音が聞こえ始めています。後続の方がいらっしゃってますね。

どうしましょう。好みの顔はいるにはいますができれば連れてきたくない。
いつも手助けをいただいている方々も諸々の理由で連れてこれない。
ほかに、と思うけれどそもそもの話ここに連れてきた時点で嘘でも本当でも後の迷惑は免れられない。あの方々ならば気にしないとも言いそうですけども。私が気にしますわ。

かくなる上は、「いない」と言うこと。けれどそれは認められるものでしょうか。一応名目は借り物で、嘘はよくなくて――。

そこまで考えて、先ほどの老犬の言葉を思い出す。

ヒントにもなると言っていた言葉。

嘘はいけない。そもそも嘘はこの発見器で見破られてしまうので嘘は意味をなさない。その先。

「ときには……真実こそが心打たれることがある……」

嘘で身を守るばかりでなくて。

真実をさらけ出すことで、守ることもできるのであれば。

そっと、お守りのように首にかかっているヘッドホンに手をかけました。ぎゅっと握ったまま、うつむき。

「……」

息を、吸って。

「連れてこれません」

どこまでのヒトに届いているかはわからないけれど。なるべく小さな声で、紡いでいく。

私の、大好きだった人を思い浮かべながら。

「好きな人が、いました。少し年上の、優しい笑みが印象的な……知的な人」

いろんなことを教えてくれて、見守ってくれて。

きっと今でもずっと。

兄や親友たちに近いところにいる人。

「そのヒトの雰囲気に似た、好みの顔の方はいくらでもいます」

けれど、

「私は自分に嘘をついて、ここにその似た雰囲気の人を連れてくることは、できません」

妙に響いて聞こえる声を聴きながら、想う。

もしも――。

もしもここにあなたがいたのなら。

私は真っ先に行って、その手を引いていたでしょう。

お題を言ったらきっとあなたは少し照れた顔をしながら、それでも「いいよ」と笑ってくれたんでしょう。

けれどここに、大好きだったあなたはいない。

いないから。

「代わりに、愛した人が好きだと言ったこの笑みで手を打っていただけないでしょうか」

いつか出逢ったそのとき、その笑顔を見せてと言ってくれた、私の自慢の笑みで。

〔……その笑みを、見せてみよ〕

心打たれてくれたのでしょうか。
そう言ってくれた老犬に向かって、顔をゆっくりと上げていく。

きっと顔を上げた先にはたくさんの人がいるのでしょう。

その、中に。

大好きだったあなたがいると、想って。

私は愛してくれた笑顔で、顔を上げた。

「かりーん…」
「はいな」

一位という旗の元、ウリオスくんや武煉先輩と話していれば、愛しい小さな声が私を呼びながら結構な勢いで走ってくる。いとおしさに顔をほころばせながら腕を広げれば。

「ぅっ」

見た目の勢いと同様に、ドンっと音を立てて。出番が終わって早々の親友が飛び込んできました。身もだえたいけれど親友は許してくれず、うりうりと頭をこすりつけてきます。

クリスティアなりの私の慰め方、といったようなものでしょうか。かわいい親友に笑って。

「別に私は傷ついてませんよ」

なんて言えば。
クリスティアは「ほんと?」と聞くように顔を向けて首を傾げてきます。

「もちろんですとも。結果も一位でしたし」

顔を上げた先の老犬が号泣しているのにはびっくりしましたけれども。何が楽しくてと言ってた割にはしっかり感動してるじゃないですかと思いましたわ。

けれどクリスティアはまだ心配そうなご様子。それにはもう一度「大丈夫です」と笑いました。

「…」
「あらあら」

それに納得したのか否かは少々わかりませんが、クリスティアはぎゅっと私に抱き着いてきます。その背を叩いてあげながら、彼女に体重を少し預けて。

兄が周りにはいないことを、確認してから。

「……たまには、思い出したいと思いますから」

心に浮かんだ、大好きだったあなたを。

小さく呟けば。

冷たい温度は、同意してくれるようにまた強く抱きしめてくれる。

その冷たさに、過去のそのヒトから現在へとだんだんと意識を引き戻されて行って。

あぁまた少しの間、お別れですね、なんて。

心の中で笑う愛した人に。
またしばしの別れを告げた。

『新規 志貴零』/カリナ

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