また逢う日まで 先読み本編second June

クリスティアとビースト組が中心となっててるてる坊主を作り。
祈童が「気休め程度だが」と言いつつも晴れるように祈りを込めてくれて。

来週から梅雨だからと、結局作ったてるてる坊主はすべて窓につるすことになり、ホラーな状態を見ながら過ごすこと数日。

「晴れたー…」
「日曜に晴れたのは本当に久しぶりだな……」
『降水確率もゼロにございます……』

クリスティアと行動療法を始めて約三週間。外も晴れ、ようやっと俺の方もスタートを切ることができそうである。

窓から外を見上げれば雲一つない快晴。本当に久しぶりだな日曜の晴れ間は。

「一応天気が変わることはないらしいが」
『あくまで予報ゆえ……お早めに出た方がよろしいかと……』

最近よく出てくるようになり、朝のニュース確認が習慣になったリヒテルタに頷いて。

出掛けられるということで顔がいつもより緩んでいるクリスティアに。

「行くか」
「うんっ」

多少の恐怖心はあるものの、俺も心なしか頬を緩ませて。

昼になる前に始めてみようと、準備に取り掛かった。

取り掛かったのはいいんだが。

「……もう少し行くと思っていたんだが?」

恋人から聞かされたルートに、靴を履きながら言えば。

「はじめてだもん…お外一周…」

すでに準備万端の彼女の意思は変わらず。顔を上げると、告げられたときと同様にふるふると首を横に振った。

行動療法というのは、本来医師の管理下で行うものだがそこは一旦置いておいて。
簡単に言ってしまえば苦手なことを実際にやっていきながら克服していく、というようなものである。

クリスティアならば恋人のスキンシップ。
俺ならば挙げればきりがないが外出だったり、クリスティアの食べるものの検閲だったり。

レグナの指導下では本人が「無理だ」と思うところまでやっていき、その先には進まない。先に進めるようになるまで毎回そこで止める、というもの。

つまり俺ならとりあえず外を歩いてみて、無理だと思うところで退却になるのだが。

「クリスティア」
「お外一周…」

恋人が「家の周りを一周」というのを一切譲ってくれない。

「もう少し行けると思うが? 実際学園まで行けているだろう」

結構な距離だぞ学園まで。

しかしクリスティアは首を横に振るばかり。

「学園は律義なリアス様がちゃんと学校に行こうって思うから行ける…。お出かけはそういうのがない…」
「お前とデートをしたいから行こうと思うんだが」
「その思いが強かったらこの一万年もっとデートしてた…」

ぐうの音も出ない。

苦笑いをこぼせば、クリスティアは俺に手を差し出す。

「もし行けそうだったら、もうちょっと行く…とりあえず目標はお外一周…」

ダメ? と首を傾げられてしまえば俺の喉はぐっと鳴った。相変わらず恋人のこれには弱いなと思いつつも、彼女も譲歩してくれてはいるで。

「……わかった」

頷いて、その手を取り。

「留守は頼んだ」
『承知……』

万が一に手助けができるようにと留守を頼んだリヒテルタに告げて。

「いってきます…」
『ごゆるりと……』

恐らく数千年ぶりの、ただの”散歩”をするべく。
扉を開けて、外へと歩き出した。

「……」

雲一つない空の下。
一歩一歩、門へと歩いて行きながらあたりを見回す。

「……新鮮だな」
「へーき…?」
「とりあえずは」

手を引かれ門へとたどり着き。
クリスティアの初登校と同じように一度止まる。そこでは自分自身の確認。

内側に目を向ければ、特に緊張していることもなく、心臓も別に早くなることもない。

「今のところ学園に行くのと同じ感覚だ」
「そう…」

それでも少々心配なのか、クリスティアは歩き出そうとはしない。手を繋いだままじっと俺を見上げてくる。

……これはどうすべきなのだろうか。

クリスティアが「行こう」と歩き出すまで待つべきなのか?
いやしかしこれは俺の行動療法であって。俺のタイミングで歩き出していいはずだよな。そうだよな?

「行くか」
「…」

そうやって無言で俺の手を引っ張るのではなくだなクリスティア。
びっくりしたわ腕抜けるかと思ったろ。相変わらずお前の力半端ないな?

せっかくのデートもどきでそれを言いはしないけども。苦笑いを浮かべながらクリスティアを見て。

「……俺のタイミングで歩き出していいはずだが」
「油断、だめ…」
「それはそうだが。とりあえず現時点で平気なんだから歩き出してもいいだろう」
「…」

そう言ってもクリスティアはやはり動かない。普段と逆になっているななんて笑いそうになるのをこらえて、結局彼女の「行こう」が出るまで待つかと立ち尽くしていれば。

「!」

クリスティアがいきなり俺に抱き着いてきたじゃないか。

いや何故。

「いきなりどうした」
「…」

繋いでいない方の手でぎゅっと俺に抱き着くクリスティア。心なしか耳を心臓部分に当てているように見える。俺に嘘がないと確かめているんだろうか。

気持ちはわかるが。

正直この状況でやってほしくなかった。

「……クリスティア」
「心臓…どきどきしてる…」

そりゃ恋人にいきなり抱き着かれれば心臓も跳ねるだろうよ。

「タイミングが悪いと思うんだ」
「やっぱりこわかった…」
「違う。そこは断じて違う。この心拍はお前が悪い」
「クリスなんもしてない…」

思いっきり主犯だろこれは。

「……お前やっぱり一言足りないと思うぞ」
「最近は増えたよ…」
「それは認めるが。一番大事なところで一言がないのは相変わらずだ」
「…? 意味わかんない…」

不服そうに見上げてきた恋人はぷくりと頬を膨らませる。そういうあざといところだあざといところ。

「外出よりお前の可愛さで死にそうだな……」
「わたしはリアス様のかっこよさで死にそう…よかったねお互いの良さで死ねて」

普通ならば「よかった」ではないんだろうがこちらとしては本望なので頷いて。

「そろそろ歩き出したいんだが?」
「ん…」

確かめていた心音も落ち着いてきたのか、クリスティアは身を離し。

「行こ…」

彼女からお許しももらったので今度こそ二人、家の周りを歩くため足を踏み出す。

一歩一歩歩きながら、周りを見渡して。
日曜とは言えど住宅街だからかあまり人がいない通路をゆっくりと歩いていく。

「二年になって土曜も授業を取ったからわかったが。こっちは休みでもヒトがやはり少ないな」
「みんな西地区行っちゃうのかな…」
「まぁ遊びと言えばだいたい西だろうからな」

フランスでは俺が北にいたからわからなかったが。
だいたいどの街も共通で東は居住区、西はスーパーや遊び場の施設が集まる地区。北と南は半々の役割を備えた地区となっていることが多く。
北にいたときは人もいたのでどこもこんなもんなんだろうと思っていたが、実際に東に住むとこんなにも人がいないものか。

「……案外出てみないとわからないものだな」
「でも今日たまたまかもしれない…」
「それは否定しない」

来週になっていきなり人が多くなったというのも十分ありあえる。土曜日を見ている限り可能性は低いけども。

角を曲がってようやっと一人か二人出逢う程度の少ない人通りの中。話しながら足を進めていき、合間に自分の確認も忘れない。

人の少なさのおかげかそこまで緊張というものはなし。多少角を曲がるときだけ警戒心が強くなる程度。
曲がって人の少なさを確認してしまえば呼吸も心拍も乱れることはなし。

これも毎日それなりの人数で学園に通ってもいるおかげか。

それとも。

「♪、♪」

家の周りを一周するという、デートにもならないであろう距離なのに。それでもご機嫌そうに歩いている恋人が見れて嬉しいからか。
どちらかと言えば後者の方が強いんだろう。隣を歩く恋人に目を向けると自然と頬が緩む。

「……短い距離なのに随分嬉しそうだな」
「もちのろーん…」

今にもスキップしそうな軽快な足取りで歩きながら、恋人は俺を見上げた。

そうして綻んで。

「リアスといっしょ…どこでも、どんな場所でも…うれし」

なんて言われてしまえば心臓を撃ち抜かれてしまうわけで。

なんとかにやけそうになる顔を抑えるのに必死である。

「半分過ぎたけど心臓だいじょうぶー…?」
「違う意味で大丈夫ではないな……」
「?」

口元を抑えつつ呟くと、その小さな声を拾ったらしいクリスティアは止まる。

「確認…」
「せんでいい」

しかしクリスティアは言うことを聞かず、俺に再び抱き着いて小さな耳を俺の左胸に当てた。

「どきどきしてるー」

言われなくても知ってるわ。

「……これもお前のせいだ」
「クリスがかわいいせい?」
「あぁ」
「♪」

”かわいい”に気をよくしたクリスティアは嬉しそうにさらに強く抱き着いてくる。人通りが少なくてよかったな。別に好奇の目にもう抵抗はないが、こうして身を寄せ合っていると隙が多い。
思考が過保護だななんて、客観的に見れるようになった過保護さに苦笑いをこぼし。

クリスティアを一旦強く抱きしめてから、身を離した。

「この距離であまり外に長居しているとリヒテルタが心配する」
「はぁい」

恋人からのスキンシップを離すのは少々もったいないがあとで堪能するとして、再び手を繋ぎながら歩き出した。

「今日の療法、成功…?」

彼女の歩幅に合わせて歩いている自分に、まるで恋人みたいだなと、恋人なのに心でかみしめて。クリスティアの問いには頷く。

「まだ行けそうな感じはする」
「じゃあ次…」
「行けそうならもう少し行くと言っていなかったか」
「クリスのかわいさに心臓負けないならいい…」

なんて言う恋人に笑って。
見えてきた門に向かって行きながら。

「それだけは無理そうだな」

言えば、恋人も楽しそうに笑ったので。

第一歩はうまく踏み出せたと、ほんの少し、心の中で自信が湧いた気がした。

『君と始める第一歩』/リアス
新規 志貴零

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