また逢う日まで 先読み本編second June

水曜日のHR前。

「今日は蛇璃亜たちは来なかったね」

カバンからメモ帳を出しながら、斜め後ろに座っている祈童くんに頷きました。

「言われてみれば……そうですわね」
「いつもならお昼休みに来るものね」
「た、体調不良でしょうか……」
「忙しかったんじゃないの」

何も用意しない私と雫来さん以外のメンバーを少々不思議に思いつつ、また「そうですわねー」と頷いて。チャイムが鳴ったのを聞きながら。

「もしいつものお届けがあれば帰りにいらっしゃいますかね」
「そしたら紫電先輩たちとご対面ね!」
「なんだかんだ上級生とは逢ったことないんだろ? 波風」
「ルクたち来るの昼とか多いしね。昼時ってあんま陽真先輩たちいないし」
「そして今日のように、陽真先輩たちが来た時に限って珠唯さんたちがいない、と」
「み、見事なすれ違いですね……!」

陽真先輩のちょっと悔しそうな顔を思い出し顔が笑ってしまう。あの人毎回すれ違っては「やりてぇことあんのに」ってほっぺ膨らませてるんですよね。そのやりたいことはまだ教えてくれませんが。

「まぁ体育祭か……それかそろそろ逢うんじゃないですか? 去年と同じ感じならば」
「あー……そうかもね」

意味ありげに笑った私にレグナは笑い、美織さんと祈童くん、雫来さんは首を傾げる。それには「あとできっとわかりますよ」言って。

「体育祭説明会を始めますよ~」

入ってきた江馬先生に頭を切り替え、体を向けました。
江馬先生は荷物を教壇に置き、黒板に「体育祭説明」と書いてからまたこちらを向く。教室が静かになったのを確認してから、彼女はいつもの笑みで口を開きました。

「え~、まず始めにですね~。去年私のクラスだった子は慣れていると思うのですが~。私は基本口頭と黒板の説明のみになりますので~必要な方は各自メモを取ってください~」

その言葉に驚いたのは去年杜縁先生のクラスだった三人。

「え、ファンシー説明書はないのかしら!?」
「説明の仕方は各クラス違いますので~ファンシーな説明書は恐らく杜縁先生のところだけですね~」
「龍も言っていたでしょうに」
「あれはイラスト付きが俺たちだけだと思ってた……」
「というか口頭とは……雫来はどうだったんだ」
「わ、私のクラスも基本は口頭でしたよ」
「これが国家学園か……僕らは甘く見ていたようだ」
「バカなことを仰っていないでメモをご用意しなさいな。なんなら紙は差し上げますわ」
「わぁ女神様だわ!」

紙一枚で随分たいそうな称号いただきましたわ。
笑いながらレグナたちにも紙を渡し。

「メモの用意は大丈夫ですか~?」

江馬先生の声に頷きました。それを確認した彼女は微笑みながらも教師らしい真剣な目で、手に一枚の紙を持ち、口を開いていく。

「では体育祭説明会を始めます~。質問はのちほど時間を設けるのでそこで。聞き逃しなどもそこで対応するのでまずはバ~っとお聞きくださいね~」

空いている片手でチョークを持ち、江馬先生は喋りながら黒板に文字を書く。
演目、と書いた下に体育祭の各演目が。

「え~、まずは演目ですね~。去年の演目は”百メートル捕縛走”、”騒動鎮静マラソン”、”討伐合戦”、”妨害守護合戦”、”ミッション遂行走”、”バトルリレー”の六演目でした~。今年も数は変わらずなとんですが~二つほどちょっとリニューアルします~。この二つですね~」

そう言って〇で囲んだのは”百メートル捕縛走”と”騒動鎮静マラソン”。メモにその二つを書いて、それぞれ横に→を書きました。

「百メートル捕縛走から行きますね~。これは百メートル捕縛走から”百メートル保護走”に変わります~。去年は百メートル走り切った後に対象の捕縛をしてゴールという演目でしたが~」

今年は、と笑って。

「総距離百メートル以内で対象の保護とゴールを行っていただきます~」

去年よりめちゃくちゃハードル上がっていませんか江馬先生。

けれどそんな視線にも彼女は笑って黒板にレーンと思われるものと、その前後にスタート、ゴールと書いていきます。

「当日にも説明が入るので私からはざっくりとさせてもらいますね~。まず各レース、一人に一つずつ動く保護対象が与えられます~。縦横無尽に駆け巡るその保護対象を保護して~ゴールまで行ってください~。注意事項は~」

スタートからゴールまで少し曲がった線を書き、その下にイコールを引いて。

「ゴールまでに走った総距離が百メートル以内であることですね~。例えば~保護対象まで五十メートルで走り~、ゴールまで四十メートルで走れば~総距離が九十メートルなのでクリアです~。逆に~、保護対象まで五十メートル、ゴールまで六十メートルだと~総距離百十となるので~ゴールしたとしても失格になりますね~」

言ったことを黒板に書いて〇や×を加えていき。
こちらを向いた彼女は妖しく微笑みました。

「ただこの演目には~ちょっと秘密があるんです~」

首を傾げれば、口角をさらに上げて。

「距離の計測は”自走”のみ。自身の足が動いた場合にのみ計測が行われます~」

と、いうことは。

自分の足が動かなければいくら走ろうが百メートルを超えようが問題ないということ、ですよね。
いささかこれは能力者組が有利では? と思うけれど。

「あとはこの演目に当たった方、当日までにしっかりと私が言った意味を考えてくださいね~」

江馬先生が意味ありげに微笑むのでそれはないでしょうと心で納得し。メモにざっと説明を書いて。

「では次の変更演目に行きますよ~」

隣で必死に書いている美織さんに笑いをこらえながら頷きました。一瞬焦ったような目になったのであとでお見せしましょうか。

「もう一つは”騒動鎮静マラソン”ですね~。こちらも百メートル走とベースは変わらず~マラソンという点などは同じです~。タイトルは~」

”笑守人マラソン”。

書いて、彼女はこちらを向きます。

「去年出た方はとくにわかると思うのですが~、騒動鎮静マラソンでは三つの地点でそれぞれ様々な騒動が起きていまして~それを鎮静する、という演目でした~」

思い出したときに若干負けた悔しさも込みあがってきましたがそこは一回蓋をしまして。

「今年も三つの地点は変わらず~けれどより笑守人の生徒らしさを磨くということで~。各地点では騒動ではなく~、”笑顔にすること”や”守ること”をしていただきます~」

たとえば、と、人差し指を立てる江馬先生。

「ざっくりとで行きますね~。たどり着いた地点で”笑顔にしましょう”とお題が出たら~、そうですね~、道化さん」
「はいっ!?」
「彼女のようにマジックをしてみるのもありですね~」
「び、びっくりしたわ……!」
「よくありますよ、名指しで例をあげるのは」
「また”守りましょう”とお題があれば~だいたい周りにバーチャルの敵が現れると思うので~。対象を守りながら敵を倒してください~。総距離や各地点までの距離は変わらず~こちらは内容が変わるという解釈ですね~」

ざっとそちらもメモに書き。

「またこの変更に伴って~、ミッション遂行走のミッションに”騒動鎮静”が追加されます~。ただ去年のマラソンのようにじくりと解決するのではなく~、瞬時にイエスかノーかを判断するような、比較的簡単なものになっていて~瞬間判断能力の上昇を目的としました~」

言われたことをメモに追加して、江馬先生に目を戻す。

「という形で今回は主に二つ、バージョンアップした演目になります~。主な変更理由としては~基本的に”対問題”を想定して構成していた演目を一部、より笑守人の生徒らしさに磨きをかけるためですね~」

質問はありますか、と見回されて。私は首を横に振りました。ほかの方も特にないのか、江馬先生は頷き。

「他演目は去年と同様なので、当日の説明を聞いてください~。それでは質問はないようなので~出場者の発表をしていきますね~。各自メモを忘れずに~」
「こ、ここもメモなのか愛原」
「そうですけども」
「江馬先生んとこほんと優秀……」
「手が追い付かないわ……!」

行きますよーという掛け声に焦る三人に笑いをこぼして。

どの演目に出場するか知るため、江馬先生の声に集中しました。

「それでは出場者は以上になります~。例年通り~、今日から演習場等も規制していくので~みなさんケガのないようにこの二週間過ごしてくださいね~」

真剣に自身の出場演目を聞くことしばらく。
そう江馬先生が言って、颯爽と教室を出ていく頃には。

「戦術心理取った時から思ったけど、きついわね江馬先生クラス……!」
「意外と割愛部分が多いな……!」
「すげぇ国家学園っぽい……聞き逃せねー……」

元杜縁先生クラスの三人はとくに集中力切れを起こしていらっしゃいました。

「まぁ慣れるまで結構きついですよね」
「そ、そうかもしれませんね……慣れると、ら、楽なんですけど……」
「ていうかそもそもよく情報の入れ違いとかないよねこれで……」
「僕も思った。下手したら伝達ミスもありそうだな」
「そこは自己責任ですから」
「シビアだわ……!」
「鍛えられてちょうどいいですよ」

にっこり笑えば三人は苦笑い。まぁ数か月すれば慣れるでしょうということで。

「蓮、ぐったりしているのは結構ですが今日はお迎えが来るのではなくて?」
「あーそうだ……つか俺の方来んの?」
「去年はあなたのもとだったでしょうよ」

帰る準備をしながら言えば。

「はぁい後輩くんたちぃ。お姉さんたちと遊ばなぁい?」

ちょっと予想とは違う声が聞こえ、教室の前側に目を向けました。
そこには飴を加えて笑う、

「フィノア先輩」
「俺もいますよ」

ひょっこりと顔を出したのは武煉先輩。陽真先輩は向こうですかね。それよりも。

「珍しいんですのねフィノア先輩。あなたもいらっしゃるなんて」
「体動かしたい気分なのよぉ。そんで陽真たちのとこ行ったら去年から楽しく遊んでるって言うじゃなぁい?」

だから来ちゃったという彼女に、荷物を持って全員で歩いていく。

「そういえば去年は紫電先輩たちと演習三昧だったか波風」
「そー、男子組だけだったけどね」
「結たちも来るぅ? 体育祭前だから今だったら加減できるわよぉ」
「ゆ、夢ヶ﨑先輩と戦いたいです!」
「僕はティノに武器の手入れをしてもらったからちょっと試したい」
「あたし木乃先輩に柔道リベンジしたいわ!」
「そうなると骨折必至じゃないかな美織」
「またの機会にしてもらいなさいな美織さん、背骨折れますよ」
「て、手加減はないのかしら……!」
「リベンジと聞いたらしっかり相手をしなきゃいけないでしょう? 手加減はできないよ美織」

なんて笑いながら教室を出て。

「後輩クーン、あーそびーましょー」

クリスティアたちの方に声をかけている陽真先輩の方へ歩いていきます。今年は大人数ですねぇ。
こうなると去年お休みしていた私とクリスティアも参加かしら。

あ、それなら。

「……リベンジなら私もしましょうかね」
「受けて立とうか華凜? 君なら喜んで」
「えぇっずるいわ先輩!」
「残念ながら美織、こればかりは構造上の問題ですよ。ヒューマンでは回復に時間がかかるし、体育祭に無事参加できるかわからないからね」
「柔道のときより本気じゃないっ!」
「美織の出方次第だけれどね」
「ていうか去年は後半本気になりすぎて全員で怒られたじゃん……ほどほどにしなよ武煉先輩」
「稽古というならほどほどにしますよ」
「そう言ってだんだん本気になるからこいつぅ。気をつけなさいよ美織ぃ」
「まさか、そんなことありませんよ」

その言葉に双子揃って首を全力で横に振り。それに笑う祈童くんを横目に見ながら、教室から三組のみなさんが出てきたので手を振りました。

「全員ご一緒です?」
「そ。アトはユーアクンたちも拾って、な」

まさかの全員集合ですか。ほんとに大賑わいですね。これは本を読む暇もなさそうですねと、心なしか楽しみしている自分にも笑いながら、演習場へと一歩、踏み出せば。

「あ……」
『先輩っ!』

ちょうど階段を上がってきたらしい、後輩のお二人が目の前に現れました。お二人は我々を捉えてぱっと嬉しそうな顔になり。

「『……!』」

我々の隣、おそらく陽真先輩とフィノア先輩を見て若干珠唯さんとルクくんが連れている蛇のイリスくんの顔がこわばりましたわ。

『ふ、不良……?』

そしてこの一言。誰ですか今噴いたの。
しかしそんなお言葉など気にもしないフィノア先輩たちはいつも通り笑います。

「もしかして噂の後輩くんたちぃ?」
「陽真が一生懸命探していた子たちだね」
「別に一生懸命は探してねぇケド」

ちょっと、”探してた”とか言うからなお珠唯さんとイリスくんの顔こわばったじゃないですか。
陽真先輩見た目ふつうに不良だからそうやって近づくとお二人が身を寄せ合うじゃないですか。

「お二人ともかわいそうに……」
『そう言って止めねぇよな姐さん』
『薄情ですっ』
「あらお二人とも。授業お疲れさまでしたわ」

面白い光景を見ながら足元にやってきた別クラスの二人にそう言って。

「龍クンたちの後輩クン?」

すっかり怖がってしまった後輩さんたちをちょっとだけ哀れに思いながらも見守る。
陽真先輩に聞かれた二人は若干涙目で頷きました。

『完全にカツアゲだねー紫電先輩』
「あは、怖いわけじゃないんだけどね。威圧感みたいなのはすごいかも」
「オマエらオレに失礼すぎねぇ? みおりんなんてスゲェでけえ声で不良だっつってたよな」
「木乃先輩は真面目に見えるのだけど!」
「そこで”見える”という美織が俺は好きですよ」

だめです腹筋がすでに痛い。
なんとかこらえている中で、陽真先輩は珠唯さんたちからこちらをいったん向きました。

「ま、不良でもなんでもいーケド。刹那ぁ、ちょい付き合って」
「なーにー」

そうしてクリスティアを呼び、そばにやってきた親友のもとに陽真先輩はしゃがみます。

あ、もしややりたかったことですかね。そっと耳打ちした陽真先輩にクリスティアは笑って。

「頭触っていーい?」
「うぇるかーむ…」

クリスティアの了承を得てから、陽真先輩はぽんっと彼女の頭に手を置いて、引き寄せる。

そうして、恐らく笑っているんでしょう。楽しそうな声で。

「妹がお世話になってます、ってな」

なんてことを仰いました。

それに我々は”ここで来たか”と思い。

「……」
『え……』

未だにリアスが兄だと思っている二人はとても驚いた顔に。もうだめです面白い予感しかしない。

「妹……」
『え、ま、まってまって!?』

”妹”と聞けば当然出てくるであろう疑問。それは彼女たちも同じで、珠唯さんはクリスティアを見てからリアスを見ました。

『あ、あの!』
「おうよ」
『せ、刹那先輩のオニイサンって……龍先輩じゃ……?』

それに今度は上級生たちがきょとんとしました。そうして先に理解した武煉先輩とフィノア先輩が震え始めます。

「ふ、ふふっそういう遊びをしていたのかい?」
「いじわるぅ、ふふっ」
「違うんですよ、たまたまですわ」

たまたま言うタイミングがちょっとなくなってしまっただけです。決して故意ではありませんよ。半分くらいは。

こちらで笑いをこらえながら言っていれば。

陽真先輩も理解したのか、笑って。
リアスを親指で差し。

「アッチは恋人」

そう、言うと。

「こい、びと……」
『こいびと……』

しばらく呆けた後。

「『っ!!』」

一気にお二人は青ざめた顔へ。

『ふ、不良の妹さんで……? あ、アタシたちはその不良の妹さんを勘違い……?』
「……」
『小指……間違いは小指を詰められてしまうわよねルク……!』
「そりゃやくざだわな」

だめですもうおなか痛い。

「最高なタイミングでばれましたね、ふっ、ふふ」
「あいつらにとっては最悪なタイミングなんだろうけどな」

言いながら肩震えてますよリアス。

陽真先輩の言葉からきれいに予想通りの反応を示したお二人に、にじんだ涙をぬぐう。

「はー……カメラ仕込んでおけばよかったです、良いもの撮れそうでしたのに」
『持っておく、ではなく仕込んでおくですのね愛原さん』

しまったこっちは最悪なタイミング。

肩にそっと乗ってきたエルアノさんに今度は私が一気に血の気が引いてしまった。

「……違うんですよエルアノさん」
『弁解なら法廷でわたくしの目を見て仰ってくださいませ』

あ、もう法廷確定なんですか。弁明の余地ないじゃないですか。

ちょっと周りのお方なんで私を見て笑っているの。

「弁護人をお願いしたいのですが」
「弁護する余地なんてないだろう」
「エルアノさん、個人的にこの男から裁いてよいでしょうか」
『それは物理的にでしょうか、法廷で、でしょうか』
「えっと、物理的にの方が早そうだよね」
「閃吏、華凜のフォローをしたんだろうがこいつの刃で裁かれるほど俺は弱くない」

あったま来ましたこの男絶対裁く。

「今日こそ真っ二つを覚悟してくださいな龍。エルアノさん、お話はまた今度に」
『お忘れなきよう』

できれば忘れていただきたいんですけども。

「行きましょう龍、あなたを裁きに」
「ルク、誓真。お前達は」

ちょっとこの男随分余裕ですね裁かれるというのに。いらっとしたのを隠さないままそちらを見やれば。

我々の圧に気圧されてか、陽真先輩とクリスティアの後ろに隠れる後輩さんが。
陽真先輩はその二人を見て。

「どうする華凜ちゃん、今ココで別れてこえー先輩で二人に残るか、演習場連れてってこえー先輩で残るか」
「どっちも怖い先輩であること変わらないじゃないですか」

誰ですか噴き出したの。兄ですか? めちゃくちゃ肩震えてますよ。

それはあとで咎めるとして。

にっこり、後輩さんに向けて笑いました。

「大丈夫ですわ後輩さん、演習場に行けば私は恐ろしいものでないとすぐわかりますから」

周りのこのお方たちの方が怖いですよ、と。

いらついてはいますが精いっぱいの笑みで言うけれど。

『き、期待しないで見に行くね……』
「……」

その笑みの方がこわかったのか、後輩さんたちにはさらに怯えたような目を向けられまして。

解せないと思いながら、再び笑いだす兄と武煉先輩の背を叩いて。

後輩さんもつれて大人数で演習場へと向かいました。

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