また逢う日まで 先読み本編second June

マイクの付いたヘッドホンをして、画面の中のキャラクターを動かす。
頭の中で相手の動きを予測しながらボタンを入力していって。

「……あのさぁ」

耳に聞こえる、ゲームのBGMだけじゃない声に、口を開く。

《な、なんでしょう? あ、その宝箱取ってください》
「これ?」
《です!》

言われた通り道中に置いてある宝箱を開いてから、再度。

「それでさ」
《はいっ》

声をかけたはいいものの本当にいいのかと口が止まる。それを不思議に思った通話相手、雫来は声をかけてきた。

《ど、どうしました?》
「えーーーと」

言い淀みながらもしっかりキャラクターは動かしていって、二人で目的地へ。ボスを倒すためのコマンドを入力しながら、頭の中ではなんて言えばいいのかのシミュレーション。いやシミュレーションせずそのまま言えばいいんだろうけども。

そう、やましい気持ちは一切ないんだから。
ただただ約束を果たすだけ。

そう、前にも一回言ってるし大丈夫、行ける。

心に言い聞かせて。

《波風君?》
「前に」

あ、若干声裏返ったかもしんない。気のせいだと思うけど咳ばらいをして仕切り直して。

「前にさ」
《か、華凜ちゃんもそうですけど咳払いでなかったことには……》
「気持ちの切り替えもあるから気にしないで」

そうじゃなくって。

「前にゲームの試作、一緒にどうって話したじゃん」

ボスの残りHPを見ながらこぼせば。

《は、はいっ!!》

一気にテンションの上がった雫来。いいんだけどちょっと耳が痛いわこれ。ただ手は今離せないので、魔術で耳のコントロールをして。

「そのあとにうちでどうですかとも話したじゃん」
《そ、そうですね!》
「それさ」

ちょっと自分で苦い声になりながら。

「急なんだけど、明日とか来週、お願いできたり、する?」

ボスを倒して言えば。

勝利のBGMのタイミングに合わせたように、「喜んで!」とめちゃくちゃでかい音が聞こえて耳が痛くなった。

その耳の痛さを治して迎えた、雫来とゲームをする日は。

「まさかとは思ったけど次の日とは……」

大興奮で「では明日!」と言われたので、六月第三回目の日曜日となる今日に決まりまして。いや俺が今日か来週かって話にしたんだけども。
急に決まったにも関わらず、その後の通話もうきうきとしていた雫来を迎えに、雨の中ヘッドホンで音楽を聴きながら待ち合わせ場所へと向かう。
待ち合わせは午後一時。現在十五分前。ちょっと早いけど急なお願いに応えてくれたヒトを待たせるのもあれなので、少し急ぎ足で行けば。

「え」
「あ!」

前にゲームショップで逢った日に別れた場所に、すでに雫来が。

いや早くね十五分前ですけど。

帽子を被って傘を差してるちょっと不思議な雫来に、ヘッドホンを外しながら小走りで駆け寄る。

「ごめん待たせた?」
「ぃ、いえ! 今来たところですっ!」

あーーなんか恋人みたいなやり取りに心がむずがゆい。
若干照れそうになったのは見なかったふりをして。

「とりあえず行こっか」
「はい!」

雨の中立ち止まっているのもあれなので、雫来を促してうちへと歩き出す。

「……早かったね雫来」
「ちょ、ちょっと楽しみすぎてしまって……! ご、五分前くらいに着く時間で来たんですけど……、ぁ、足取り軽く気づいたらあの時間に……」
「足取り軽すぎだろ……」
「で、でも波風くんも早かったです!」
「俺はいいの。急なお願いもしたわけなんで」
「気にすることないのに……」

いやさすがに、ねぇ?

「日曜は基本幼なじみの行動療法の手助けで予定埋まってて約束先延ばしにしてたくせに、スケジュールしっかり見たら今月中くらいしか時間ないって気づいてばたばたしてもう申し訳なさがやばい」
「わ、私がほら、なるべく日曜とかお休みの日が、いいな、って言ってたので……!」

雫来今はフォローがつらい。

いやまぁゲーム自体は来年発売だし、ほんとならもう少しゆっくりめでも全然いいんだけど。
来月アシリアさんと逢うから、多少進めとかないとそっちも申し訳ないと気づいてこの急さ。やばい申し訳なさしか出てこない。

苦笑いを浮かべてたら、雫来が声を出す。

「ぁ、でもそしたら梅雨に入って、よ、よかったですよね」
「ん?」
「今のところ、ぇ、炎上くんたちは雨の日、ぉ、お休みにしてるじゃないですか」
「ちょっとまだ雨はハードル高いってね」
「そ、そのおかげでこうして、ゲームのお時間、いただけましたから……!」

雨にも感謝ですねって笑う雫来がすげぇまぶしい。

「いい子だよね雫来……」
「えぇっ、どうしたんですかいきなり……!」
「そのいい子なところをうちの幼なじみにも見習ってほしい」

一瞬殺気を感じたのは気のせいか。気のせいだよねこんなとこにいるわけないもんね。どことなくテレパシーみたいなのは感じてんのかな。できないけど。
なんてばかなことを思いながら、わたわた照れている雫来に笑って。

少し強くなってる雨の中、波風邸へと急いだ。

そうして歩いてしばらく。うちの家にたどり着いて。

「ぉ、お邪魔します……!」
「どうぞ」
「おかえりなさいませ蓮様」
「うん」

出迎えてくれたメイドたちに頷きつつ、傘を渡して中に入ってく。

「お召し物は」
「平気。あ、雫来にタオルだけあげてくんない」
「かしこまりました」
「雫来、こっち」
「は、はい!」

一人タオルを取りに行ったのを見届けて、雫来を促して廊下を歩いていく。俺を見るたびに会釈をする家の人たちの中を抜けていって、奥の部屋の方へ。

「す、すごいですね波風くん……お金持ち……」
「華凜の家でも見てたじゃんこういうの」
「な、なんかちょっと向こうとは雰囲気違いますよね……! もうワンランク上みたいな」

そんなになんか違ってたかな。思い出してみるも俺にもカリナにも対応は一緒だったのしか記憶にない。
雫来には首を傾げておいて、奥にある自分の部屋へとたどり着き。ドアノブに手をかける。

「ここ俺の部屋」
「は、はい!」
「適当に座っていいから」
「ありがとうございます……!」

ドアを開けて、雫来を中に促す。「わぁ」っと声を上げて中を見回す雫来の横を抜けていって、ヘッドホンをベッドに放った。
重ね着してる上のシャツだけ脱いでそっちもベッドに放って、ゲーム機のあるテレビの方に歩いてく。

「これ結構昔のゲームですよね」
「んー? そうね」

本棚に置いてあるゲームを見てる雫来にあいづちを打ちながらゲームのセット。テレビをつけて、ゲーム機にはカセットを入れた。

「雫来用意できるけど」
「は、はい!」
「冷えるとあれだからソファ座っときな」
「わかりました!」

ソファにちょこんと座った雫来にコントローラーを渡す。お礼を言う雫来に笑えば。

コン、とドアがノックする音が聞こえた。

「はい」

タオルとお茶とかかな。応答しながら歩いて行って。

いつもなら「レグナ様」とか言うのがないのを不思議に思いつつ、ドアを開ければ。

「お茶をお持ちしましてよ」

お茶とタオルを持ってすっげぇ嬉々としている義母さんが。

「……お茶とタオルを置いてお帰りください」
「母になんて失礼な。お邪魔しますね」
「問答無用ですか……」

さすがに世話になってる人を追い出すのは憚られたので招き入れる。その人はちょっと楽しそうにお茶とタオルを雫来のところまで運んで行った。

「ぁ、こ、こんにちわ!」
「こんにちは、えぇと、雫来さん」
「はいっ! な、波風くんにはいつもお世話になってます……!」

ぱっと立ち上がって帽子を外し。長い髪を舞わせながら礼をする雫来。それに「まぁまぁ」と嬉しそうな声を出す義母さん。うわぁなんかいたたまれない。

「蓮……!」

そして来ると思ったよそういう目。口で「ガールフレンド?」なんて聞かないでくれますか。ちげぇわ。

「……妹がよく世話になってる学友です」
「まぁ華凜ちゃんが!」
「ゲームが好きとのことなので、アシリアさんの試作を一緒にと」
「お二人で?」

あ、これ最初から二人ですって言うとめんどくさいやつだ絶対。

「……予定が合わなかったのが、何名か。アシリアさんと逢うまでに日がないので、今日は雫来と」
「まぁそうなの」
「夏休みになったら、ほかの友人も連れてくるんで」

若干”ほかの友人”を強調して、義母さんの方へ歩いていき。

「俺はこれから仕事なので。ご退場願えますか義母上」
「もう少しお話したいわ。あなたが華凜ちゃんたち幼なじみ以外の友人を連れてくるなんて初めてだもの」
「仕事だって言っているでしょう。それに友人なら祈童も来ましたよ」

あれは仕事だったけど。
まだいたそうな義母さんを立ち上がらせ、その背を押して部屋の外に出るよう促す。拗ねたようにしてるけど気にしない。

「夜にお話し聞かせてね」
「お断りします。仕事の話なんで」
「あとでクッキー持ってくるわね」
「一回で持ってきてくださいよ」

なんで分けたの。
自分でめんどくさい顔になってるのがわかりつつ、そのまま義母さんの背を押して。

「雫来さん、ごゆっくりね」
「は、はい!」

義母さんが出ていったのを確認してから、しっかり扉を閉めた。

瞬間にため息。

「……いろいろごめん雫来、うるさくて」
「ぃ、いえ! ああいうのって新鮮です!」

これを新鮮と取る雫来もまたすごいよな。変に照れられるよりはいいけども。
苦笑いをこぼし、今度こそ雫来の方に歩いて行って。

なかなか髪を下ろすことのない彼女の横に座った。

「始めよっか」
「はい!」

マルチプレイができるゲームなので、もう一個接続してあるコントローラーを手に取る。やっとゆっくりできそう。ほっと息をつきながら、淹れてくれた紅茶を取って飲み込んだ。

「……!」

その間に、雫来が横で動く。ちらっと見れば、外した帽子をまた被ろうとしてた。それに、紅茶を置いて。

「外しとけば」
「え」
「帽子」

室内だし、と言うけれど。雫来はあいまいに笑う。

「か、髪、ほら、邪魔だと思うので。帽子に入れておきます」
「別に邪魔じゃないけども……」

雫来がいいならいいんだけど。
あぁでも。

「きれいなのにもったいないよね」
「へ」

妹にやる癖で、そっと手が勝手に伸びてた。

帽子を取ると膝丈くらいまである、毛先にグラデがかかった白い髪。
つやもあって、やわらかくて。

「結んだりしてももっとかわいいのに」

もったいないな、なんて。

髪を指に巻き付けて、雫来を見れば。

「……」
「……」

なんと雫来、顔紅くしてるじゃないですか。

それに、ふと我に返る。

俺今なにしてる?

女の子の髪の毛触って、あまつさえ「結んだりしてももっとかわいいのに」って?

思いっきり口説き文句じゃね。

理解した瞬間、ばっと身を離した。

「ご、めん! 変な意味じゃなく!」
「は、はいっ! わ、わかってます、華凜ちゃんに、やる、癖で、ですよね!」
「なんでそれ知ってんのかわかんないけどそうだね!?」

あれパーティーとかでしかやらないはずなんだけど。って今はそうじゃなくて。

「えぇと……」
「……っ」

照れたように帽子をぎゅっと握る雫来に、自分の体も熱く感じて目をそらす。

相変わらずこの子のペースにはよく乱される。それが自分がこうして招き入れてるから、というのは今だけは気づかなかったふりをして。

このままでは互いに緊張したままで雫来が楽しめないんじゃないかと思い至り。

「ちょっとヒト、呼ぼうか……」
「そ、それもいいかも、ですね!」

雫来も似たようなことを思い至ったのか、頷いたので。

とりあえずヘルプを、と。
なるべく茶化さない生物を呼ぶため、互いにスマホを手に取った。

『新規 志貴零』/レグナ

おまけ
結局来たのはめっちゃ茶化してきそうな祈童と道化でした
道化「来たわ!」
祈童「呼んだか二人とも!」
レグナ「なんでよりによってこの二人なの雫来っ!!」
雫来「ぃ、いろいろ吹き飛ばしてくれそうだなって! あ、なんなら四組ってことで華凜ちゃん呼びますか!?」
レグナ「もっとややこしくなるわっ!」

とかいいながらカリナちゃんも呼んでゲーム大会になりました。

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