また逢う日まで 先読み本編second June

梅雨のくせにこの日ばかりは晴れた体育祭当日。
少し薄暗い演習場の中。多くの種族が集まり、実行委員である杜縁の話を聞きながら、思う。

「今年の賞品ってなんなのかしら!」
『やっぱり毎年変わるのー?』
「そうねぇ。まぁコンセプトが似たり寄ったりのこともあるけどぉ。一応優勝賞品だしねぇ」

まさか自分達が「今年の優勝賞品はなんだ」という話をするとは。

というかお前らもう少し声小さくできないのか。

「……杜縁の声が全く聞こえないんだが」
「おや、律義だね龍。こういうのは別に聞かなくてもいいんですよ」

この見た目優等生の不良め。
隣のクリスティアも話は聞かないし。こいつは別にいつも通りだがいいが。

一番問題は反対側の隣だと思う。
そっとそちらへ目を向ければ。

「あ、やっべミスった」
「そこは、ぃ、痛手ですね……!」

薄暗い中で悠々とソシャゲをしているレグナと雫来。

「雫来も随分不良の仲間入りしたな……」
「ぇ、そ、そうですかね!?」
「説明の中ゲームしてりゃあそう思うだろう……」
「波風は不良の仲間入りじゃないのか炎上」
「こいつはもとから不良気質だろ。手癖が悪いし」
「見た目不良の龍に言われたくありませーん」

なんて、なんだかんだ喋って。
さりげなく俺の髪に今年の色である黄色のリボンをつけてこようとするのをなんとか阻止していれば。

「以上、各演目についての簡単な説明は以上だ。それぞれの演目時に説明されるものをきちんと聞くように」

去年はしっかり聞いていたはずの杜縁の説明を一切聞くことがなかった。

いや二年目だしある程度はわかっているからいいんだが。

そっと斜め後ろを振り返り。

「……ほとんど聞こえてなかったと思うが平気か」
「……」

今年初である後輩・ルクと誓真に問う。
まったく表情を動かさないルクから、蛇のイリスと誓真に目を移すと。

『せ、先輩と一緒のコトも多いからっ……! ソコで聞くねっ!!』

若干焦ったようなイリスとそう言う誓真。

「騒がしくてすまないな……」

ルクが首を横に振るがやはり申し訳なさは募る。確か初回の保護走はルクも同じだし説明しながら行くかと決めて。

「ㇽックンにはヤサシーじゃねぇの弟分?」

杜縁が去年同様優勝賞品について語っている中、真後ろから乗せられた体重に思わず舌打ちが出た。

「重い」
「気にすんなって」

気にするわ。ぐっと押しのけて、問いに答えるため半ば睨むように陽真を振り返る。

「別にルクにだけではないが。優しくもなるだろう」
『珍しいですっ』
『結構気にかけてんもんなぁ旦那』

そりゃあ、

「歩けば遠のかれ座れば周りが二つ三つ席を空けるくらいの不良グループに半ば巻き込んだようなものだしな」

どちらかというとそういうタイプではないのだから申し訳なくもなるわ。

「えっと……正直もっとまともな友達できたとは思うよね」

閃吏お前その一言で全員今敵に回したぞ。
全員目が据わったぞ。憐れな閃吏には心の中で同情して。

『けれどお話を聞いた限り、炎上さんたちとの出逢いが一番誓真さんたちにとってまともだったかもしれませんわ』
「そうですよ、もしかしたらあのまま孤立で学園生活を送っていたかもしれませんわ」

口がうまいお嬢様ペアに同意し。

《それでは諸君、今年もケガのないよう全力で励むように》

結局一切聞くことのなかった杜縁の締めの言葉で、話は切り上げスタジアムに目を向けた。
杜縁が移動したのと同時に、スタジアムのモニターには「9:30 100m保護走」の文字を見て、出場メンバーが先に立ち上がる。

「黄色の出番は俺とルクと閃吏で」
「赤は僕と愛原だな」
「青はあたしとウリオスねぇ」

去年と比べて本当に大所帯だな。そしてこちらが大所帯ということは。

「んじゃオレらはどっか校庭で待機、な」
『応援してるですっ』
『炎上クン、閃吏クン、ルククン、がんばってね~!』
『ご武運をお祈りしていますわ』
「おっきな声で応援してるからね!」
『ルクっ、ちゃんと先輩についていくんだよっ!? 迷子になんないでね!?』
「何かあったら呼んでくださいね後輩さん。もちろん先輩も」
「ケガあったら診るだけ診てあげるね」
「が、がんばってくださいね!」

待機組も大所帯だよな。立ち上がった俺達よりも先に歩き出すメンバーを見送って。

「……お前も待機だろう」

残って俺を見上げている小さな恋人を見る。

去年と同じくカチューシャのようにリボンを巻いている少女はだいぶなくなってきた目をうろうろさせる癖を数回やって。

―やっ、て。

「っ!?」

なんと俺に飛び込んできたじゃないか。あっぶねぇな思わず倒れるところだったわ。
なんとかすんでのところで足を踏ん張り、クリスティアを抱きとめる。

「どうした」

そうして声をかければ。

少女は大変嬉しそうな顔で、俺を見上げて。

「…がんばって」

語尾にハートマークでもつけていそうなくらい甘ったるい声でそう言って。

「刹那ぁ、置いてくぞー」
「はぁい」

陽真に呼ばれた彼女は何事もなかったかのように俺のもとから離れていった。
その背を見届けて。

ぽんっと、肩に手を置かれる。

「よかったじゃないか炎上」
「あの子、今年は”龍と一緒なんだ”とこっそり楽しみにしていたんですよ」
「一緒の組だから応援し放題よねぇ」
「あは、炎上君顔紅いね」
「先輩……よかったね……」

最終的にはルクにも言われ、体が熱くなるのを感じる。後ろにいる奴らの顔なんて見なくても全員にやついているのがわかって。

「お前ら当たったら覚えてろよっ……!」

嬉しさと恥ずかしさに歯をかみしめて、集合場所へと急いだ。

道中、平静を取り繕ってルクにはくじ引きで走る順番やメンバーが決まるということを話し、校庭のクラス棟側にある保護走の集合場所へ行き。夢ヶ﨑がいるからかは知らんが若干周りに距離を取られながらもくじを引いて、それぞれのレーンへと歩いていけば。

「よろしく頼むぞ炎上」
「こちらこそ」

今回同じ走者となったのは祈童。一番目とまさかの最初になり。

「初の演目ですしできればもう少し様子見できる後方がよかったですよね」

二番目になったカリナに、頷いた。

去年百メートル走は出たが今年は総距離だのなんだのわけが違う。全員初なのは同じだが後ろがよかったのは本音である。

「蛇璃亜と閃吏あたりが妥当か、八番目」
「フィノア先輩とウリオスくんの五番目あたりからならよさそうじゃないです? 意外と後ろだと見えませんもの」
「刹那ならどこでも見えなさそうだがな」
「言ってやるなよ炎上、飛んでくるぞ」

正直若干殺気を感じる。
気のせいだろうとぞっとする背をごまかすように腕をさすって。

順番もすぐだからと、出場確認のときに渡された測定器を両方の靴に取り付けた。

「靴の内側に付ければいいんだったね」
「あぁ」
「これで総距離の測定ができるというのがすごいですよねぇ」
「科学の進歩は止まらないね」

なんて関心をしながら、思い切り走るつもりもないが一応取れないようにとしっかりその測定器をつければ。

《これより、百メートル保護走の説明を開始します》

選手も無事全員集まったらしく、教師が壇上に上がって言ったので目を向ける。

《今年の保護走は例年の捕縛走とはまったく異なった形になります。まず走者には一人一つ、保護対象であるこのAIロボが与えられます》

そう言って指をさしたのは丸い箱型の機械。ローラーで走行するタイプで、高さはクリスティアより少し小さいくらいの――いやでかくないか??

「あれを僕らが追いかけるのか??」
「追いかけられるのではなく、です??」
「追いかける、らしいな……」

嘘だろうと思いながらも視線を一度教師へと戻す。

《彼らはこの百メートル走のトラック内を縦横無尽に駆け巡ります。AI搭載ということで覚えた担当の走者からは逃げようとし、さらに下手に搭載のカメラ内に映ると動きを学習しなお捕まえるのが難しくなります。そんな彼らを総距離百メートル以内で保護し、ゴールまで連れて行ってもらいます》

「なぁ、波風曰く無理ゲーじゃないか」
「もうこの体育祭企画した方、いつなんどきもとかじゃなくて生徒の限界確かめて楽しみたいだけですよね」

わかる。

《総距離の測定は先ほど各走者にお渡しした測定器にて行います。こちらはスタートと同時に強制的にスイッチが入り、地面に立っていると計測をします。歩き、または走ったときに両足に設置した測定器の距離を測定して、最終的に総距離を出すものになっています。一歩踏み出したときに一メートルならば百歩歩けばそこの時点で失格となります》

一呼吸おいて、教師は俺達を見回す。

《最後に、競うのはタイムです。どんなに走ろうが走らなかろうが、早かったものが勝ち。これをお忘れなきように》

どことなく引っかかる言い方に、三人ピクリと反応する。ほかの奴らでもいたんだろう。教師は意味ありげに笑った。

《以上、百メートル保護走の説明を終了します。自身の能力を生かし、頑張ってください。それでは始めます。第一走者、前へ》
「じっくりお勉強させていただきますわ」

二番目で見る機会があるカリナは睨んでやって、言われた通り祈童やほかの走者と共に前に出る。ただ今回はすぐさまスタート、というわけではなく。

各生物の前に、AI搭載のロボが置かれた。俺のは水色か。

じっと見つめあい、小さく聞こえる機械音、おそらく認識の音であろうを聞きながら。

「……本当に刹那を思い出すくらいのサイズ感だな」
「名前を呼べば来てくれるんじゃないか炎上」
「そうすると本人が来そうだ」

大歓迎ではあるが。

互いに笑い、前を見る。

「要はこれは頭を使えということだよね」
「そういうことだろうな」

測定器の認識は”地面に足をついたとき”のみ。
そして総距離は百メートル以内という規定があるくせに結果にはその距離は関係はなく、誰が速くゴールへたどり着けるか。

能力を持たないヒューマンにも考慮されているこの演目。
祈童の言う通り、要は頭を使えということ。

「これは閃吏あたりが輝きそうだな」
「木乃先輩がいても面白かったね」

それはわかるかもしれない。
なんとなくあいつはロボの上を次から次へと飛び乗っていきそうな気がする。

なんて想像して、また笑い。

《それでは走者、用意》

ロボの認識が終わったのか、そいつらが動き出したのと同時にアナウンスがかかる。
今回は走り出す気はないので、魔力を練って。

《スタート!》

銃声の合図とともに、

【天使の羽(エール)】

天使の翼を出して、飛べば。

「っ!?」

腰をガシッと捕まれ、普段飛ぶ時とはまったく違う感覚が。

原因なんて見なくてもわかるが。

「祈童……」
「頭を使う、だろ?」

腰に抱き着いて俺と共に空へと飛ぶ元凶、祈童は悪びれもなく笑った。

「ヒューマンの僕らならこう考えるのが自然じゃないか」
「他の奴でもいいだろう。あそこにチーターだとか鷲だとかいるじゃないか」
「不良グループの僕を乗せる勇者がいると??」

いないよな、知ってた。
から笑いをして、ひとまず目標である水色のロボへと飛んでいく。

「僕のは緑なんだ炎上」
「知るか、俺は行く気はないからな」
「そう言って律義に寄ってくれるというのを知っているぞ僕は」

そう祈童はわかったように俺を見上げて笑う。それに俺も笑ってやった。

「……そうだな」

それが、

「こういう戦いじゃなければ律義に運んだろうよ」

笑みを携えたまま短刀を左手へと出す。その瞬間に祈童の顔が一気に変わった。

「……炎上、まさか」
「さすがに斬りはしないが?」
「待ってくれ斬りはしないとか言いながらなんで短刀近づけてっ――待て待て待ってくれ落ちるだろ!!」
「落ちてくれると大変ありがたい。お前案外重いぞ」
「そりゃ一般的な男だしなっ!? 氷河ばかり抱えてるお前にはほかの全員誰でも重いだろっ!!」

騒ぎながらも手を離さないのはさすがだな。
もう少し低く飛んで振り落とすか。それならケガもあるまい。

「俺と同じチームなら運んでやったのにな。残念だ」
「ま、ったくもって、残念な声していないぞっ!? ばか待て揺れるなっ!!!」

地上から二、三メートルくらいのところまで降りて行って、加速して前に行ったり後ろに下がったりを繰り返す。しかし祈童はこれでも落ちない。

「お前案外タフだな……」
「よ、喜ばしい限りだよ……!」
「運が良ければお前のも確保できるんじゃないか、頑張れよ」
「この状況でかっ!!」

変わらず前後に大きく揺らしてやりながら、俺は目標の水色AIへと向かって行く。俺を捉えたそいつは即座に逃げようと方向転換し、ゴールの方へと走り出した。さすが追いかけられるのを想定してあるだけあって速いな。

「そろそろ本気で追いかけたいから落ちてくれると助かるんだが」
「友人になかなかひどい仕打ちだな……」
「戦いに家族だろうが友人だろうが恋人だろうが関係ないだろう」
「……」

アトーメントチェインで捕まえればいいか。うまくやれば保護になるだろう。

そう、魔力を練った時。

「……君は」

どことなく、覚えのある呼ばれ方が聞こえて、反射的にその方向に目が行った。

目の先には、祈童。
けれど。

「君たちは、そう言いながらも。きっと割り切れないんだろうね」

だから未練ばかりだ、と。

祈童のはずなのに、ここにいるはずもない主が映った気がした。

「……」

それに、思わず魔力を練るのも止まって。祈童を見つめていれば。

「!」

そいつはハッと我に返って。

「あ、えーーーと」

呆けている俺を見て何かをまずいと思ったのか、目をきょろきょろと動かす。

「そ、そんな!!」
「!?」
「炎上の言葉に、そんな話を、読んだ、気がしてな!? 思わず重なって、だな!!」

言ってしまった、なんて。明らかに嘘だとわかるような顔で笑いながらだんだん小さくなる声に。

言われた言葉に驚きはしたが、”その現象”には驚くことはなかったので、また魔力を練った。

「特に気にしていないが」
「え」
「別にわざわざ嘘をつかなくてもいい」

目標を補足して、動きを予測して。

「あの上級生筆頭の不良グループだとか言いながら、最近ふと思う」

話しながらも、そいつが行く場所に魔力を張って、範囲内に入った瞬間に魔術を展開した。

「なんだかんだ似たもの同士が集まってるんだろう、この集団」

道化がよく言う、「友達がいなかった」集団が。
生物それぞれ理由はあるだろうが、道化であれば道化師の呪い、ルクならば蛇の昔話、誓真ならば真実しか言えない呪い、俺達はもとから作ろうとはしていなかったが、別にできやすいタイプでもなかった。

この祈童であれば。

「お前が気にしているならば深くは聞かないが。別にそういう、自分の意思と違う言葉を発する現象は珍しいわけじゃない」

この笑守人ならばなおさら。

言いながら、捕獲されたAIロボを魔術で持ち上げ、共にゴールへと飛んでいく。

「他の奴らも。陽真たちだって案外各々の事情に関しては寛容で、深入りもしないしな」

なんだかんだ運んでいる祈童を見て。

「受け入れてくれる奴らばかりだ。慌てなくてもいい」

笑ってやれば、祈童は大きく目を見開いた。

そうして、

「……僕は炎上に惚れそうだ」

照れ隠しなのか本気なのかはわからないが、このタイミングでそう言うから。

「それは全力で断り願う」
「ぅ、わぁっ!?」

ちょうどいいからと、ゴール直前で気の緩んだ祈童を思い切り振り落とした。落ちる音を聞きながら、AIの隣に降り立って。

未だ追いかけっこが続いている他の走者も視野に入れつつ、祈童を見て。

「気が向いたら話したいと思う奴に話してみるといい。あいつはお前が今まで見てきた奴と違って、何かあるからと言って態度も変わらない」

それだけ言って。

「あとは自力で頑張れよ」

どちらのことにも取られるような言葉を残し。

クリスティア色のAIロボを連れて、ゴールへ一歩。踏み出した。

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