また逢う日まで 先読み本編second July

 水色の少女はこくり、こくり、頭を揺らす。

 今にも大きな蒼い瞳は閉じていかれそうで、けれど寸前にハッとしてまた目がのぞく。

 ふるふると頭を振って覚醒し。

「…」

 またこくりと船を漕ぐ。

 大変可愛らしいそのしぐさに、あやすように目元をくすぐってやった。小さな恋人はそれを「寝ろ」と取ったのか、いやいやと首を横に振って俺の服の裾を掴む。抱き着いてこないのは俺の体温で寝ないためだと知っているので、抱きしめることはせず。

「…」

 七月六日の夜十一時半。ベッドの上に座って睡魔と必死に戦っているクリスティアに、思わず顔をほころばせた。

 恋人はイベントごとが案外好きである。楽しい思い出が作れるようなイベント然り、今回のような四人のうち誰かの誕生日然り。
 そして誕生日のような、祝い事をするイベントでは。

「んぅ…」

 こうして必死に睡魔に抵抗し、なんとか零時まで起きていようとするのである。こちらとしては寝ても構わないのだが、以前零時前に夢の中に言った際、気遣って寝かせたら次の朝に泣かれたことがあったので以降は見守ることに。

 見守ることにしたんだがこれがもう大層可愛くて割と困っている。

「…」

 寝起きのようにぽけっとした顔。眠くて眠くて目元をこすり、ぱちぱちとまばたきをして。
 眠気が襲ってきたのかゆっくりとまぶたが閉じていき。

「…!」

 ハッと覚醒して起きるように頭を振る。そして自分は寝ていないと主張するように俺を見つめてくる。

 頬が緩みまくってしまい口元を思わず覆ってしまう。大変可愛い。笑ってしまうのは失礼なので体は震えてしまうがなんとか耐えつつ、クリスティアの頭を撫でてやる。

「…」

 それにすり寄って来て、うりうりと頭をこすりつけて。心地よいのか瞼が閉じていき。

「…」

 秒で寝息が聞こえ始める。おい寝てるぞ。

「クリスティア」

 声をかければぱちっと目が開いた。そうしてまた俺を見つめて「寝てない」と主張。思いっきり寝息が聞こえていたが彼女の主張を尊重しそこには触れず。

 時計の方へと、目を向けた。

「……もうすぐだ」

 時刻は十一時五十五分。時計からクリスティアへと目を戻せば、その顔は眠たそうだがとても明るい。

 本人より浮かれているな、なんて。緩みっぱなしの顔がさらに緩んだ気がした。

「♪」

 恋人はもう少しということで覚醒もし始めたのか、時計を手に取り。一秒でも見逃すまいとじっと時計と見つめあう。そんな姿も愛おしくて。

「……」

 本人は納得いかないんだろうが、これだけでも十分なプレゼントであると思っている。

 一時期眠りづらい時期があったが、クリスティアは元々よく眠る。一度眠りにつけばよほど変な夢を見ただとか、俺が緊急用の声で呼びかけない限りはどんな騒音でも一切起きないほど。夜更かしも苦手で基本は夜の九時から十時に就寝。行って十一時が限界。つまり、もとのその睡眠時間に戻ってきている今、彼女にとってこの十一時過ぎというのは戦いの時間である。

 一瞬でも目を閉じてしまえば秒で夢の中。体温が高い俺とくっついていると眠ってしまうので抱きしめあうこともできず、布団に寝転がることもせず。ただただ座って睡魔と戦うこの時間。抗うのはさぞ大変だろうに。

 それでも、と一生懸命起きてくれている時点で、恋人としては最高のプレゼントではあるまいか。

「……」
「あといっぷーん…」

 嬉しそうに体を揺らしだす恋人の小さな口からカウントダウンが始まる。その心地よい音を聞きながら、自分がひとつ、歳を重ねる瞬間を待つ。

「よんじゅー」

 愛しい恋人を見つつ。

 この一年いろんなことがあっただとか。

「さんじゅー」

 また。

 あと一年になるのか、だとか。正確にはまだ歳月はあるけれど。

「にじゅー」

 また変わらないその日もやってくるんだろうと、ほんの少しの悲しみが襲う。

 けれど。

「♪」

 カウントダウンを止めて、クリスティアがぱっと顔を上げた。その顔には悲しさも何もなく、嬉しそうに、そして彼女が言葉では伝えられない愛があふれていて。

 ようやっと、恋人は俺に腕を伸ばしてきた。それを受け止めるために、俺も手を伸ばす。

「リアス」

 今では時折でしかしなくなった、呼び捨ての名前を小さな口から呟いて。

 俺の首に冷たい手を回して、こつり。額を合わせた。

 幸せそうな恋人は愛しそうに顔を歪めて、紡ぐ。

「お誕生日、おめでとー…」

 その最高なプレゼントに、頷いた。

「……あぁ」

 衝動で抱きしめたいけれど、彼女のプレゼントはまだ続くようで。口が開いたのが見えて、衝動は抑え込んだ。

「リアス」
「……うん?」

 すり寄ってくる愛しい恋人は、小さくまたこぼす。

「これからも、ずっと。傍にいるよ」

 俺がすることのなくなった小さな約束を。

 失い続けたことでできなくなった、ほんの些細な約束。

 ――お前を守ることができないのに、なんて。

 弱い自分の声が聞こえた気がした。

 そんな自分の傍に、まだいてくれるのかと。これからも、ずっと。

 毎年のように聞いているはずなのに、聞くたびに。泣きたくなるほど不安にもなる。けれどその不安と同じくらい、嬉しさがあるのも確かで。

 いつもの子供のようなのとは違って、大人みたいに微笑んでいる恋人を今度こそ強く抱きしめた。

「……あぁ」

 強く強く、抱きしめながら。

「……俺にとっては、それが」

 毎年積みあがり続けるひとつの誓いで、

「……最高の贈り物だ」

 こぼせば、クリスティアも嬉しそうに俺を抱きしめ返した。心地よい冷たさを堪能しながら、想う。

 来年また、変わらない悲しみが襲ってくるんだろう。それに抗うことはできなくとも。

「……」

 強くなることは、怠らずに。

 どうか。

「♪」

 この小さな恋人が幸せに笑う日々を、このまま守り続けられるように。

 柄じゃないが、どうせこの日に生まれたのならと。
 星に願いを込めて、恋人を抱きかかえたままベッドに倒れ込んでいった。

『新規 志貴零』/リアス

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