また逢う日まで 先読み本編second July

 リアスの誕生日を一度四人でお祝いし、週が明けた月曜日。
 今週からテストですね、なんて話しながら歩く学園内。自習期間となったので生徒もいろんなところで見かける穏やかな日。
 ゆったり、今日テストでないメンバーがいるであろう食堂へ四人で歩きながら。

「全員で集まれそうなのは木曜日ですね」

 頭の中でスケジュールを確認して、暑い外を見ながらこぼす。

 我々のテストは今回自由音楽。四月に出た救済補填を使わせていただき、主にリアスたちのクラス担任・獅粋先生からご助力をいただいて校内で済むテストにしていただきました。
 そんなテストの日は今週の水曜日。月・火は他のメンバーが入っているので、先週お話を聞いたリアスのバースデーパーティーは今週の木曜日ということに。
 それが決まって。

「♪」

 一番嬉しそうなのは愛する小さな親友。足取り軽く「ねー」と言うのが大変可愛らしい。

 そして本人は。

「別に祝いはいいんだが」

 いつものごとく涼しい顔。けれど生物みなお祝いをしてもらうのは嬉しいわけで。見れば、どことなくその瞳は嬉しさもにじんでいます。

「嬉しいくせに」
「……」

 それを見抜いている兄は楽しそうにリアスをのぞき込む。ほんの少し居心地悪そうにしながらも、やはりまんざらではないようで。ぷいっと顔をそらしたリアスに全員で微笑みました。

 そんなとき。

 ――”それ”は、起こった。

「あ、華凜ちゃんたち!」
「お、やっほぉ後輩ちゃんたちぃ」
「わ~、体育祭ぶりー」

 食堂へと行く途中の廊下。美織さんとフィノア先輩、そして体育祭でご縁があった淋架先輩にトリスト先輩がいました。向こうも気づいたようで、美織さんが大きく手を振ってくださる。

 フィノア先輩は今年から大学ということで淋架先輩たちと行動するのはわかるのですが、そこに美織さんだけいるのがなかなか珍しいですね、なんて。手を振り返しながらクリスティアたちに言っていれば。

「華凜ちゃん!」

 嬉しそうに、美織さんに名前を呼ばれました。それに当然「はい」と返す。

「どうしました?」
「あのね!」

 きらきらと目を輝かせる彼女は私のところへ歩いて来て、手を取る。それに首を傾げていれば。

「結婚式でつける髪飾り、できたの!!」

 とんでもないことをとんでもないところで仰る。

 待ってくださいなお待ちになって? その言い方大変語弊があるのではないのでしょうか。

「は? 華凜結婚すんのぉ?」
「えっ嘘ほんとに?」
『……』

 ほら何も知らない上級生方がびっくりする。しかも美織さんお声が大きいので周りもざわざわし始めちゃってるじゃないですか。
 違いますからね??

「今回ね、波風くんのお手伝いってことであたしが髪飾り作らせてもらってるの! とってもかわいくできたのよ! それでね――」

 しかしテンションが上がっているのか雪巴さん並みのマシンガントークで口をはさむ暇がない。

「美織さん」
「純白ってまでは行かないんだけど白っぽい感じになってるの!」

 ちょっと私の花嫁説が濃厚になるじゃないですか。

「あっ、ちゃんと波風くんデザインだから浮いたりとかはないからね!」
「ありがとうございます、あの美織さん」
「他にはどんなアクセサリーつける? せっかくならたくさんおしゃれしたいわよね!」

 肝心な部分の否定をさせていただきたい。ほらフィノア先輩たちが「誰と?」なんて話合っちゃってるじゃないですか。違いますよ。
 っていうか。

「っ、…ふふっ」
「……ふっ、……」
「きっつ……ふはっ」
「どうしてあなた方はこういうときの限って何もおっしゃってくれないのかしら」

 誤解を解いてくださいよ。けれどツボに入ってしまった幼なじみ三人は使い物にならなさそう。ため息をつき、未だ楽しそうに話している美織さんへ目を向ける。

「美織さん」
「でね、」
「美織さーん」
「あ、現物はまたあとで持ってくるわね!」

 だめですねこれは話が通じない。いいですよ別に話が通じないのは慣れてますから。人生って諦めが肝心な時もありますよね。とりあえず彼女の興奮が冷めるまで放っておいても――

 いやだめでしょう。
 こればかりは諦めてはいけないでしょう私。絶対噂になるじゃないですか笑守人の二年生が結婚したなんて。卒業の飛び級ができるのは知っていますがそんな飛び級したくないですよ。

 さぁカリナ、大きく息を吸って。

 未だ話し続ける美織さん、ではなく大衆へ向けて。

 とりあえず、と。

「結婚は私ではなく幼なじみのお姉さまのお話ですっ!!」

 美織さん並みの大きな声を出したところで、幼なじみたちの腹筋が限界を超えたそうでした。

 
 それで。

「……鵜呑みにしたんですか?」

 全員で騒がしく食事をしたあと、少々調べ物を思い出して図書室へやってきまして。図書委員の仕事があるからとご一緒した武煉先輩に、そう聞けば。

「一瞬ね」

 なんて本当か嘘かわからないように笑う。
 でも今はそう見えるだけで私は知っていますよ。

 食堂でも主語をつけず美織さんが言った「華凜ちゃんの結婚式の衣装を」という言葉に大層驚いていたのを。

「美織の言い方的に君の結婚式のようじゃないか」
「そこは否定はしませんが。高校に通っていて結婚なんてしませんわ」

 仮にするのであれば初めから高校なんて通わずに就職してますよ。いやする気はまったくありませんけどもね??

 まぁでも、お手伝いしてくれたという美織さんが本当に嬉しそうで楽しそうだったからいいでしょう、なんて。そう思うのは甘くなった証拠かしら。
 微笑みながら、目の前の音楽に関する本に手をかければ。

「……けれど好きな人はいたと」

 突然そんなこと言われて本の背をちょっとがりっとしてしまったじゃないですか。本ごめんなさい、カバーかけてあるのが幸いでしたわ。
 とりあえず心の中で本にはたくさん謝っておきまして。

 視線は、隣の武煉先輩へ。

 彼のお顔はまぁなんとも言えないお顔。

 今日は知人から予想外な言葉ばかりが飛び出ますねと少々的外れなことを思いながらも。

 否定をすることはないので、首を縦に振りました。

「はいな」
「……年上で、優しい笑みが印象的で、知的だと」

 よく覚えていらっしゃいますねこの方。というかこの条件だとまさか。

「ご自身に当てはまると?」
「さすがにそんなに自意識過剰ではないよ」

 割と自意識過剰だと思うのは黙っておきましょうか。

「それに俺は知的ではないしね」
「あら、この学園にいらっしゃるのであればそれなりに頭は良いはずでしょう? 高校卒業レベルが要求されるんですから」
「元々は入学なんてできないレベルでしたよ。陽真と競うということで二人で全力出した結果です」

 それでも入学できたのならば知的に入るのでは。要領がいいとかそういう意味で。

 そう言おうとした言葉は、武煉先輩が本棚にもたれ掛かって私をじっと見てきたことで出すのをやめました。珍しく何とも言えないということを目で語る武煉先輩を見つめ返して。

「……どうしたんです今日は」
「……いや」

 聞けば、多少言いづらそうに目を右往左往させ。気まずそうな顔になり、また私を見る。

「珍しいですねそういう風に悩んでいるようなお顔は。陽真先輩にも言えないことです?」
「そろそろ本人に言えよと言われてしまってね」

 あ、しっかり相談済みでしたのね。さすがですわ。

 そして陽真先輩曰く「本人に」ということは。

「……蓮に言う前に私にご相談に来た感じですか?」
「君はどうにもこういうことに関しては鈍いね……」

 ちょっと呆れた顔しないでくださいよ。心外ですわ。

「では私になんのご用でしょうか」
「……」

 再度聞けば黙ってしまう武煉先輩。これお話してくださるのかしら。

「面と向かって言いづらいのであればお手紙でもよろしいですよ」
「それも新鮮で楽しそうだけれどお断りするよ」

 ではなんですか、と。
 じっと目を見る。

 彼はまた何度か目をうろうろとさせたけれど。

 今度は、私をしっかりと見つめました。

「……その、好きな人は」
「好きだった人、です」
「厳しいね。――その好きだった人は、……」

 聞きたいけれどあまり聞くのも、という雰囲気が伝わってくる。
 ただこちらから言葉は言わず、武煉先輩が再度口を開くのを待つ。

 どのくらい経ったのでしょうか。そう長くもない時間。
 静かな図書館がさらに静かになること、少し。

 武煉先輩の口が開く。

「……まだ君の、心に残っているの」

 まっすぐ、珍しくと言ったら失礼ですが真剣な目で。
 私を見て、訪ねてきました。

 この真剣な雰囲気はちょっとはぐらかしてはいけませんね。最近よく思い出しますね、なんて心の中のあなたに言って。

 微笑む。

「……結婚を、考えてた人でしたわ」

 瞬間、武煉先輩の目が見開かれた。それに構わず、”あなた”が好きだと言った笑みを携えながら続ける。

「ちょっといろいろあってお別れはしたのですけれど。それでも、……そうですね」

 今もずっと。

「いろんな形で、心に残っている方でしょうね」

 尊敬も、愛情も。出逢ったとしても恋はしないのだけれど。
 きっと私はまだ、あなたを愛しているんでしょう。

「……忘れられない人ですわ」

 いつまでも。
 あなたがくれた知識、教えてくれた、人から愛されるということ。何もかも。

 クリスティアの言葉を借りるのであれば、大事な大事な。かけがえのない思い出。

「……そう」

 私はどんな顔をしていたんでしょう。どうか笑っていたならいい。そう、思いながら武煉先輩の声を聞きつつ本棚へと目を戻して、先ほど取り損ねた本を取りました。

 それと同時に、髪が緩く引っ張られる感覚。

「何故あなたは私の髪を触るのでしょうか」
「気に入ってるからだよ」
「あらまぁ光栄ですわ」

 なんて思ってもないくせに笑ってそう言って、手元にやってきた本をぱらぱらとめくる。ざっと目を通しつつ、武煉先輩の声もしっかり聞いていく。

「……もしかして、その人が残っているから俺の誘いも断るのかな」

 お誘い。お誘い? ――あぁ、デートの。

 ……まぁ、そうなる、のでしょうかね。

 昔。

 オトハからデートに誘われたとき。そういう風に言われたから。

「……教わったんですよ」
「その彼に?」

 元、とつけないのは何かのご配慮かしら。少しばかり嬉しく思ってしまったのは見ないフリをして、頷いた。

「”僕は君が好きだから出掛けに誘うけれど、君がそういう気持ちを持っていないのなら。OKされてしまうたとえ気持ちがなくとも期待をしてしまうから”」

 だから少しでも気持ちが傾いたのならば、応じてほしい。

 すごいですね、まだ一字一句正確に覚えていますわ。
 そのときの、顔も。

 にこやかに笑うけれどほんの少し期待したいという目。当時は、お誘いの前から交流もあったし私もそれなりに気がいっていたのですぐOKになりましたが。

「前にも言った通り残念ながら今私はあなたにそういったお気持ちを抱いておりませんので。期待をさせぬようお断りしています」
「そう……」

 特に残念がるわけでもなくこぼし、武煉先輩は黙りました。
 私はぱらぱらと頭に入ってこない文字を追うだけ。

 ざっと一冊めくり終えて、次の本へと手をかけたときでした。

「裏を返せば、君が気持ちを抱いてくれれば応じてくれるということだよね」

 あらまぁなんてポジティブな。

「そういうあなたのポジティブさは嫌いではありませんわ」
「光栄だよ。それで華凜、返答は」

 くいっと髪を緩く引っ張られ、強制的に視線は武煉先輩へ。

 先ほどの言葉を思い出し、頷く。

「まぁ一般論、そうなりますわね。私は別にそういう恋愛をお断りしたいわけではなく、気持ちがないのに行くというのが反対なだけなので」
「そう」

 なら、と。

「真剣に少し頑張ってみようかな」

 なんて、いつものように笑っているのにどことなく真剣な声で言われました。

 なんと?

「えぇと……?」
「君を振り向かせることを少し頑張ってみようかなと思ってね」
「何故でしょう……?」
「君は本当にこういうことに関しては鈍感だな……」

 本日二度目の呆れをいただきました。おまけにため息まで。なんて失礼な。けれど少しむくれてしまった私など気にせず、武煉先輩は真剣な目で私を見る。

「言わないとわからないかい?」
「あいにくテレパシーなどは持っておりませんから」
「刹那のならばすぐわかるのにね」
「あの子のは自然と伝わってくるんですよ」
「そんなわけないでしょう」

 そんなことあるんですよ。どうせ言っても無駄でしょうし、とにかく、と武煉先輩が言ったので黙りますけども。

「最初は君を泣かせたくて近づいたんだけれどね。この学園生活共に過ごしている間にほかにも興味が湧いて」
「はぁ……」
「本気で振り向かせる努力をしてみたいなと」
「まぁ」

 ちょっと待ってくださいね私。”まぁ”なんて言いましたけれどちょっと聞き捨てならないこと聞こえませんでした?

 私の脳内数秒前に戻ってください。武煉先輩なんて言いました?

 私を? 泣かせたくて??

 どうしましょう今日本当にとんでもないことばかり私の耳に入る。今ここにレグナいなくてよかったかもしれない。いませんよね? いませんよね。隠密で隠れてるとかそんなことありませんよね。

「……とりあえず今ここに蓮がいなくてよかったと思います」
「俺もぽろっと言葉が出た瞬間にそう思ったよ」
「ひとまず努力云々は置いときまして、そんな理由だったんですねあなたの方の同盟は」
「俺は気丈な女性を泣かせるのが好きでね」

 あーー、武闘会でなんか片りんを見た覚えがあるやつ。女性もですがあの時はとくに陽真先輩に。

 このヒト本当に残念な気がしますわ。

「顔だけは本当に素敵なのに……」
「初っ端で心が折れるようなことを言わないでほしいな」
「あなた心折れることなんてあるんです?」
「生物並みにはもちろん」

 その微笑み絶対ウソ。

 まぁその真意は置いておきまして、とりあえず。

 取るだけになっていた本を棚に戻して、武煉先輩へ。

「私はそういった恋愛毎は現在する気がございませんので」

 にっこり、笑って。

「お相手してくださる女性方との仲をもっと深めてあげてくださいな」

 
 びしりと固まった彼に思わず吹き出してから、私は先にその場をあとにしました。

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