また逢う日まで 先読み本編second July

 結婚式の前日。フランスでは、新郎新婦はそれぞれ自分の家族と過ごすのが一般的である。どちらかというと家族大好きなエイリィも、その一般的に倣ってこの前日はクロウ家で過ごすことになるんだが。

「逢いたかったよクリス~!!」
「んぅー…」

 血の繋がった家族でないクリスティアも同伴することに俺が大変困惑している。

 いいんだ、いいんだクリスティアがいるのは。むしろ大変ありがたいものだと思う。クリスティアは癒しだし、義父も気に入ってはいるのか彼女には優しいし。話も比較的しやすくなる。何しろ眠れてるだろうかだとか何か起きたりしないかの不安もなくなるから大変ありがたい。ありがたいんだが。

「……いいのか本当に……」

 思わずそう聞いてしまう。いや今聞いたからと言ってこの就寝前にどうしろとという話だが。

 家族水入らず。別に永遠の別れというわけではないが最後の日になるのに。

 気に入ってるとは言え、本来であるならば部外者として追い出されてもいいはずの恋人を招いてもよかったのかと。
 すべてを口には出さないけれど、聞いた。

 けれどベッドの上でうりうりとクリスティアに抱き着いているエイリィは笑顔で頷く。

「もちろんだよっ! リアスだって嬉しいでしょ?」
「まぁ大変ありがたいはありがたいんだが……」
「それに未来の家族を一人のけものになんてできないもん。ねークリス?」
「ねー…?」

 眠いせいであいまいな回答になってるぞ。

 けれど本人達はまぁ嬉しそうなので。

「……いいなら、いいんだが」

 結局諦めて、ベッドヘッドに寄り掛かるしかなかった。とりあえずこの問題は解決したとしてだ。どうしようもできまいし。

「ところでエイリィ」
「はーいなぁに?」

 自分達が今いる場所を見て。

「……本当にこのベッドで三人で寝るつもりなのか?」
「本当だよっ!」

 いつもより狭く感じる自室のベッドに関して聞いたら笑顔で頷かれてしまった。いや本気だったのかこれ。

 クリスティアも入った家族水入らずの食事が終わって、明日も主に俺が早いだろうし眠るかと寝る支度を整えて。眠る前に話そうとエイリィが来たまではよかったんだ。枕を持っていたことには若干疑問はあったが。
 そして彼女はそのまま当然のように、世話になっていたとき無理言って買ってもらったダブルベッドに座るだろう。クリスティアとかわいらしく戯れて。

 何故かそのまま布団に入るじゃないか。

 こいつこのままここで寝る気ではあるまいか? と思って聞いてみたのだが。

「やっぱり未来の妹と大好きな弟に挟まれて寝たいじゃない!」

 本人も言っている通り本気でここで寝る気らしい。さりげなく真ん中狙ってやがる。

「……言っておくがあんたが入る時点で俺はこのベッドから降りるからな?」
「えぇっ!? なんで!?」

 いやこちらが何故と聞きたい。

「嫁入りを前日に控えた女が男と同じベッドに入るなよ……」
「姉弟ならいいじゃんっ!」
「姉弟と言えど血は繋がってないからな。別にあんたにこれっぽっちも気を起こす気はないが」
「エイリィ、こんなに魅力的なのに…?」
「恐らくお前だけはその発言してはいけないな?」

 変な既成事実作らせようとすんな。

 眠くて俺に抱き着いてきたクリスティアに溜息を吐きながら。

「……クリスティアと布団に入るのは譲ってやるから。俺は床で寝る」
「体休まらないじゃないっ! 明日は大事な式だよ!」
「そう思うなら自室に帰ってくれないか??」

 俺の安眠を願うならばぜひ自室に帰ってほしい。いや寝ないけども。
 だんだんとまぶたを閉じていってるクリスティアの頬をくすぐり、身をよじる恋人に笑みをこぼす。そんな俺を見てクリスティアも笑い、ぎゅっと抱き着いて来てまたまぶたを閉じていった。そろそろ本気で寝るなこれは。

「寝そうだが」
「えぇっ、クリス、お姉ちゃんのお胸においで!」
「んぅ…」

 手を伸ばすエイリィの声は聞こえているのか、俺に抱き着いたまま恋人はふるふると首を横に振った。

「……残念だったな、振られたぞ」
「うわぁんセフィルーっ!」
「明日慰めてもらえ」

 なかなか騒がしい声を聞きながらも睡眠に入ったクリスティアの頭を撫で、布団をかけてやり。

「あんたももう寝ろ。早いだろう」
「もう少しお話しようよーっ、最後の日なのに!」
「だったらもう少し早めに来るんだったな」

 九時なんで一般的には早いんだろうが。うちの小さな恋人にはこれを越えると夜更かしである。むくれているエイリィを横目に、一度クリスティアを離してベッドから立ち上がった。

「んぅ…?」
「電気。消して来る」
「クリス! ほらお姉ちゃんこっちだよ!」
「…」
「うわぁんクリスが甘えてくれないっ!」

 ぼふっと枕に埋もれてしまったエイリィに思わず笑って、足は部屋の出入り口へ。今日は鍵を閉めるのはやめておいて、扉付近にある電気のスイッチを押して部屋を暗くした。

「そこのライトつけてくれ」
「はぁい……」

 すねながらもエイリィがつけた小さな明かりを頼りに、ベッドへと戻っていく。頑張って起きていたのか、ベッドに再び座ればクリスティアが抱き着いてきた。可愛らしい恋人の頭をゆっくりと撫でてやり、睡眠を促してやる。

「かわいいねぇ……」
「ずっと見ていたくなるだろう」
「ほんとに……。カリナから送られてくる写真が最高でね?」

 あいつ個人情報流しすぎじゃないか??

「……そろそろカリナを咎めないとな」
「えぇっ!? 私の至福の時間なのにっ!」
「せめて恋人の許可を取ってくれ。それとセフィルにもう少し愛情注いでやれ」
「十分注いでるよーっ!」

 これは「どこがだ」というツッコみ待ちだろうか。むくれてしまったのでそうではないと判断して。

「君たちがもう少し写真とか送ってくれればいいんだよ!」
「まぁな……。現像とかしてくれるのがカリナだから直接そっちに送るのもわかるっちゃわかるんだが」
「おかげでブンカサイとかタイイク? のお祭りとかすっごい楽しそうな二人見れてるよ♪ 思わずにやにやしちゃった!」

 あの女どういうもの送ったんだろうか。
 しかし今から探すとなると朝になるな。精査は後日に回すとして。

「……!」

 エイリィがいきなり起き上がったので、思わずそちらに目を向けた。立っていると地面に着くんじゃないかというくらい長い茶色の髪を、耳に掛けながら。

「はー……嬉しいね」
「……」
「クロウ家最後の日に、大好きな弟と未来の妹と喋ってるの」
「……そこは基本的には両親だと思うんだがな」

 血の繋がった、とまでは今回言わずに。クリスティアの髪を撫でた。

「私は君たちがよかったんだよ」
「……」
「初めて弟が家に来た時、ほんとに嬉しかったなぁ……」

 膝を抱いて思い出し、エイリィは笑う。その笑みを見て、今からもう六年ほど前になる出逢いを思い出した。

 無機質な目で俺を引き取りに来たハイゼル。クリスティアを守るように立てば、ハイゼルは旧友だったらしい、今のクリスティアの義父であるアシリアも紹介した。旧友ならば、と多少行き来もしやすいだろうと了承した、クロウ家に入った日。

 家に行けば、まだ幼いエイリィが玄関で待っていた。

「……来た瞬間、ものすごい笑顔でこっちに来たもんな」
「弟だっ!! ってね!」

 今でもその光景は覚えている。
 本当に嬉しそうに、自分は今この世に誕生したんじゃないかと思うくらい、きらきらと輝いた目を向けられた。自己紹介をされれば返す間もないまま手を引かれ。家の中をぐいぐいと引っ張りまわされて。

「行くところがあるからと言えば一緒に行くと言ってな」
「すぐクリスティアに逢ってねぇ。まだ二人が十……十一? くらいだったからいきなり恋人だなんて聞いてびっくりしちゃったけど」
「その次の言葉が”未来の妹だ!” だからな」

 思い出して、二人して笑ってしまう。

「天使だから長生きだとはわかったんだろうが。子供の”恋人”発言でそう言われるとは思わなかった」
「そのあとはもうずっとリアスにクリスのこと言ってたよねぇ」
「あぁ」

 かわいかっただとか、天使がいたとか。本当に天使だがと返せばそういうんじゃない! と言われ。もっと仲良くなりたい、どうやったら仲良くなれる? 明日も遊べる? なんて。

 警戒心を抱く間もなく、ずかずかとテリトリーに入って来た義姉。そうして、その義姉は。

「……あんたの”姉に任せて”にはよく救われてたな」

 年頃で姉さんぶりたかったのか。小さなころはそれが口癖で。

 俺達二人を、いろんなことから守ってくれた。

「パパに怒られてるとき、クリスと一緒にパパの前に飛び出したよねぇ」
「女に弱いのか娘に弱いのかわからないが、それでその件がなかったことになったな。義父のところに行くときはクリスティアを見ていてくれたし」
「見てるんじゃないよ! 一緒に遊んでるの!」
「あぁ」

 精神的に削られて部屋に帰ってきたとき、一緒に本を読んでいた二人が揃って顔を上げて。「おかえり」と笑ってくれたのには何度救われたか。

「……なにかあればすぐ”姉に任せて”、だったな」

 身長が届かなくて取れそうにない菓子も。天使なのだから羽を出せるのに、エイリィは”お姉ちゃんに任せて”と意気込んではテーブルやら椅子やらに上がって取ってくれて。
 外に行くとき、俺が不安だったならカリナたちと同じようにいろいろと調べてくれて人のいないところによく連れて行ってくれた。クリスティアを何より喜ばせてくれて、理解してくれて、守ってくれて。

「……感謝している」

 素直に、言葉が出た。

 明日から、クロウではなくなる彼女に。

「……こんな風に話してると、なんか涙出ちゃうねぇ」
「俺はそうでもないが?」
「ふふ、いじわる」

 笑う義姉の声はほんの少し涙交じりで。そうでもないと言いながら、喉は少しだけ熱かった。

 見なかったふりをするように、視線を小さな恋人へと移す。俺の服に顔をうずめている恋人は、どことなく。肩が震えているように見えた。

 それにこっそりとほほ笑んで。

 鼻をすする音を聞きながら、明日は笑顔で見送れるよう頑張れと。

 小さな恋人の髪を、優しく撫でた。

『新規 志貴零』/リアス

おまけ
結局三人で寝て朝になってた
リアス「すまないセフィル……」
セフィル「別に姉弟なのだからいいじゃないか。それにリアスにはそんな度胸ないだろう?」
リアス「すまないエイリィ、結婚式はセフィルの命日になりそうだ」

度胸がないんじゃないくて相手を思いやりすぎるだけ

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