また逢う日まで 先読み本編second July

 やさしい声が聞こえる。

「――」

 それといっしょに、とんとんってやさしく体を叩かれて。

「――ア」

 たまにゆさぶられて。

「クリスティア」

 その声がはっきり聞こえてきて、自然と目が開いた。

「んぅ…?」

 ちょっとだけぼんやりする視界の中、うろうろ見渡したら大好きな手が目に入る。あぁあの人だって、顔をほころばせながら顔を上げていけば。

 大好きな紅い目が、四つ。

 …四つ?

 あれわたしの恋人さまって目四つあったっけ。

「リアスさま、目、増えた…?」
「寝ぼけて二重にでも見えたか?」
「そんなことない…わたしは見間違えない…」

 言いながら一回目をこすって、また大好きな紅の方向を見る。

 あれでも四つだな??

「リアスさまの目が増えた…」

 どうしよう。

「今日からどこ見ればいいかわかんなくなっちゃう…」
「お前の思考は今日も絶好調だな。よく見ろ」
「見てる…」
「俺の後ろだ」
「うしろ…」

 リアス様に言われて、しっかり後ろ見れば。

「わぁ…」
「うわぁぁあぁんクリスーーーー」

 今にも泣きそうだったらしいエイリィが、わたしが覚醒した瞬間大号泣しちゃったよ。

 え、どゆこと?? わぁエイリィいきなり飛び込んでこないで。後ろベッドだからぼふってなったけど床だったらリアス様が死んでた。

「なぁにこれ…どゆこと…」
「どうしてもう帰っちゃうのーーーお姉ちゃん寂しいよぉぉぉぉお」
「だそうだ」
「理解した…」

 結婚式の次の日だもんね帰るの。でも正直な話もうちょっと寝かせてほしかった。今まだ七時だよエイリィ。大泣きしてて聞こえないだろうから今は言わないけども。

「一日くらい伸ばそうよぉ……結婚式の余韻に浸ろうよぉ……」
「お前が浸ってやれよ……セフィルがそろそろかわいそうだろう……」
「セフィルはこれから毎日一緒だからいいのっ! 私のかわいい弟と妹はこれからまたしばらく逢えないんだよ!?」
「手紙送るから…」
「うぅうぅぅ……二か月も逢えないなんて……」

 辛いよってまた泣き出しちゃうエイリィの背中をなでてあげながら。

「…?」

 エイリィの言葉を思い出して、リアス様と目が合う。

 エイリィなんて言った?
 寂しいって。帰っちゃうのが。そうねわたしも寂しい。でもそこじゃなくて。

「…エイリィ、二か月って…」
「う”ん、にがげづもあえ”ない(二か月も逢えない)」
「何故二か月。俺達は休みじゃないが?」
「? だってあるでしょう?」
「なにがー」

 って聞いたら、答えは部屋のドアの方から返ってきた。

「ブンカサイっていうのがあるんだろ?」
「セフィルー…」

 目を向けたら、トレー持ってるセフィル。昨日のちょっと緊張したのとは違って優しくほほえんでくれながら、セフィルはこっちに来てベッドの上にトレーを置いてくれた。

 あ、クロワッサン。

「朝ごはん。シェイリスさんから頂いたんだ」
「わぁ…。リアス様あーん」
「ん」
「この光景も二か月見れないなんてーっ!」

 悔しそうにベッドぼふぼふ叩いてるエイリィ。待ってねたぶん一緒に置いてる紅茶こぼれちゃうから。落ち着いて。
 とりあえずそれはセフィルが止めてくれて、わたしはリアス様のひざの上に移動して。検閲終わったクロワッサンを一口。わぁさくさく。

「おいし…」
「そうか」
「でしょでしょっ! クリスが好きそうなパンだからって前からリサーチしてたの!」
「セフィル、そろそろこのクリスティアガチ勢があんたの妻で申し訳なくなってきたんだが」
「僕はこんなエイリィが好きなんだ……」

 すごい、セフィルの顔すっごいうっとりしてる。わたしもちょっといいのかなって思ってるよこれ。もうちょっとエイリィ、セフィルに愛情向けてあげてほしい。

 って話それちゃった。

「お話…」
「うんっ、夕方の列車だよね! それまでいっぱいお話しよっ!」
「あ、そっちじゃなくて…」
「二か月後に逢うみたいに言っていたろう」

 リアス様が言えば、エイリィはやっと思い出してくれたみたい。「そう!」って、さっき子供みたいに泣いてたのがうそみたいに笑ってくれた。

「去年行くーって言ってたのに結局行けなかったでしょ? 今年はセフィル、絵画展の予定もなくてねっ」
「ちょっとした新婚旅行も兼ねた感じで行こうかなと思ったんだ」
「それは構わないが……いいのか新婚旅行が文化祭で……」
「もちろんさっ!」

 わぁびっくりした。思いのほかセフィルの方がくいついた。

「ブンカサイ、僕なりに調べてみたんだよ……。そしたら様々なアートがあるじゃないかっ……! 看板や部屋の中の内装、様々な人が手掛けるアート! 去年行けなかったのが本当に悔しかったくらいさ!」
「カリナからもらった文化祭の写真見せたらね、セフィルがすごい悔しそうに地団太踏んでた」
「恐らくどちらかと言えばアートというような祭りじゃないとは思うんだが……」
「たしかに看板とかは張り切るけど…」
「そう、クリス!」
「はぁい」
「君が手掛けたという看板も素晴らしかった!」
「わぁいありがとー…」
「で、セフィルの熱望もあって今年は絶対行こうね! って」

 エイリィにそっかーって返しながら。
 視線をちょっと上に持ってって、リアス様を見る。用意されてたコーヒーに口をつけてた恋人様は。

 ”この熱量で来るのか……”って顔してるよねリアス様。セフィルすごいはしゃぎそうだもんね。

「あっ、ちゃんと日本語も少し覚えてるんだよ!」
「こういった場合の典型的なネタである武士の言葉を覚えたとかじゃないよな?」
「おもてをあげーい…」
「もうっ! そんなんじゃないよ! とりあえずこの芸術系が大好きなセフィルが行くから、そういったの中心に」
「そういったの、中心に…?」

 首を傾げたら、エイリィは笑って。

「”とても好きです”、”素敵です!”って言うのだけはしっかり日本語で覚えたよ!」

 それたぶん「この作品が」ってつけないと絶対勘違いされるやつ。

「エイリィ、それはもうちょっと主語とかつけないと危ない…」
「せめて”作品が”までしっかり覚えてこいよ……セフィルがとんだナンパ男になる」
「えぇっ!? どうしようセフィル、覚えなきゃいけない日本語が増えたよ!」
「任せてくれエイリィ、素敵なアートに逢えるならあと一言や二言くらい造作もない!」
「ちょっと待っててねリアス、クリス! 本があるの! 覚えた方がいいやつ教えてね! 取ってくる!」
「いや俺達は今日帰るんだが」
「その前に聞いときたいのー!」

 って言って、エイリィはバタバタリアス様の部屋から出ていった。そっともっかいリアス様の方見れば。

 わ、”めんどくせー”って顔してる。隠してリアス様。
 でも思いっきり顔に出てたのか、それを見たらしいセフィルが笑った。

「ごめんねセフィル…最近リアス、顔によく出るの…なんだかんだうれしく思ってるから…」
「最後の補足はいらないだろ」

 最後の補足しないと勘違いとかされるから言ってるんでしょ。

 一瞬で睨み合ったら、またセフィルが笑う。

「大丈夫だよ、それに、別にリアスの顔で笑ったんじゃないよ」
「そう…?」
「もちろん。嬉しいなと思ってね」

 首を傾げたら、セフィルはほんとにうれしそうにほほえんで。

「また、エイリィとの思い出が増えるなって」
「思い出…」
「……理由が基本的に俺とクリスティア関連だが」
「それがいいのさ。僕とエイリィは元々趣味が合わないし、僕は仕事と性格柄、アートに没頭してしまうことも多い。あまり出かけたりというのがなくてね」

 けれど、と。

「君たちが、そのきっかけになってくれる。リアスやクリスティアに土産話をしたい、おみやげを買いたい。次逢った時にこれは直接話そう、これは手紙にたくさん書こう。そんなきっかけがあって、結果的に僕らもたくさんの思い出が増えていく」

 セフィルも本当にうれしそうに、笑って。

「君たちが日本に行くときはたしかに寂しかったけれど……でもおかげで、この一年と半年弱。たくさんの思い出が増えたよ」
「…ほんとう…?」
「うん。大人になって、初めてアルバムを買ったな。今でもどんどん増えていっている」
「…」
「昨日の結婚式のも増えて、次はブンカサイ――いや、その前にももしかしたら、そのブンカサイで話すときのためにまた何か思い出を作りに行くだろうね」

 セフィルは紅茶を一回飲んでから、わたしたちを見て。

「――ありがとう。ここに来てくれて。そうして、これは主にリアスかな。エイリィの弟になってくれてありがとう」

 おかげで僕は幸せだ、なんて。

 そんなこと言うから。

「…」

 ほんの少し、喉が熱くなってきちゃう。それを知ったリアス様が重ねてきた手を、わたしも握り返した。

「…結婚シーズンってこんなに涙が出そうになるものなの…」

 昨日と言い、その前日も、そして今も。

 切なさも、うれしさも、全部が涙に変わりそう。

「泣かせるつもりはないんだけれどね。でも、そうだな……。それくらい君たちが、エイリィのことを大切に思ってる証拠だよ」
「…セフィルも、たいせつ」
「知っているさ」

 やさしく笑ってくれるセフィルにわたしも笑い返して。
 ばたばた聞こえた足音にぐっと涙をのみ込んだ。

「持ってきた! ってなに!? このなんかしんみりした空気! セフィルなんかした!?」
「大切な話さ」
「えぇっ!? 私には話せない!?」
「みんなエイリィが大好きだという大切な話だよ」
「えぇえ……照れちゃうよ! でも直接言ってほしい!」

 なんてかわいいこと言うエイリィに思わずリアス様と噴き出しちゃって。

 本当に、大好きだなぁって思いながら。

 まだちょっとだけ時間あるからってことで、エイリィが持ってきた日本語の辞典を四人で囲った。

 そうしてあっという間に、フランスで過ごす時間は終わってしまって。

「うわぁぁぁあんクリスーーもう帰っちゃうのーーーっ」

 日本に帰る列車に乗る夕方。エイリィが朝みたいに戻ってわたしを引き留めてきております。

「夏休み…他にも予定があるから…」
「うぅう知ってるよ……友達ができたんでしょう?」
「えぇ…もう知ってるの…」

 絶対知ってるのはこの人たちが原因でしょってそっちを見る。もちろんカリナじゃなくて。

 今回はほとんどいっしょにはいなかったぱぱとまま。

「口が軽いと思う…」
「世話になっている大事な人には言うべきだヨ、クリスティア」
「そうだけども…」

 直接言うより先にもうみんなが情報知ってる。いや慣れてるんですけどね? 親友で。

「次は自分で言いたい…」
「お手紙たくさん送ってね! ちゃんと返信書いてね!?」
「うん…」
「あとは、えーとっ、あっ体には気を付けるんだよ!? いろんな意味で!」
「?」
「ほらっ、お年頃だから――」
「待ってくれ義姉さんそれ以上はこの場では好ましくないっ!」
「わぁっ、聞いた!? セフィル! リアスが私の前でも姉さんって呼んでくれたよ!」
「録音しておくべきだったかな」

 カリナ、さりげなく携帯取り出すのやめて。でも撮ってたんだよね。あとで聞かせてね。
 心の中で親友にお願いしたとき。

《十六時発、日本行きの列車にご乗車の方々は列車にお乗りください。繰り返します――》

 アナウンスが鳴っちゃって。

「わぁぁクリスー!」

 あぁまたエイリィが泣いてしまった。

「ごめんね、帰るね…」
「九月にいらっしゃるんでしょう? セフィルさんと」
「そうだけどー!」
「そろそろ娘を離してやってくれエイリィ。万が一クリスティアが列車に乗れなかったらどうするんだ」
「うぅう……リアスが死んじゃうね……」
「リアスの家ってリアスの過保護しっかり理解してるからすごいよね」
「俺としてはありがたい」

 だから過保護の話題はもう少し申し訳なく思って。

 どうせ無理なのは知ってるけども。

《ご乗車の方は――》

 エイリィにぎゅーってされてる間に、またアナウンス。もう行かなきゃ。

「エイリィ…」
「あと一分!」
「リアスと同じこと言ってるね…」
「さすが姉弟じゃんリアス」
「実は血縁者だったんじゃないですか?」
「生き別れの姉弟だったか……」

 なんてバカなことを言ってたら。

「ほらほらエイリィ、クリスティアが困ってしまいますよ」
「あ、ママ!? パパも!」

 今日はほんとは来れないって言ってた、リアス様のお義父さんたち。全員でびっくりしてる間に、二人はわたしたちの前に来た。若干リアス様びしって姿勢よくなったな。

「ごめんなさいね、ぎりぎりで」
「……いえ。見送りも、忙しかったはずでは」
「せっかく来てくれたんですもの。お見送りくらいはしませんと。ねぇハイゼルさん?」

 お義父さんの方はちょっと無反応だけど。お義母さんは慣れてるのか、笑って。

「はいクリスティア」
「?」
「あなたの好きなクッキー。たくさん入れておきましたからね」
「! ありがとー…」
「みなさんへのお礼も入っていますから。列車の中でお食べになってくださいな」
「まぁ……私たちまでよかったんです?」
「もちろんですとも。長旅までしてくれてありがとうね」
「いえ……でもありがたくいただきます」

 レグナの声に笑ったお義母さん。一瞬また話しそうだったけど、そろそろほんとに行かなきゃで。みんなでまたお礼を言ってから一歩、歩き出す。

 その、ときに。

「…!」

 リアス様のお義父さんが、わたしの前に立った。リアス様待って警戒しないで、大丈夫だよたぶん。いやわたしもちょっとびっくりしてるけども。

「…どー、したのー…」

 思ったより途切れちゃったけど、お義父さんに聞けば。

 ハイゼルさんはわたしの前にしゃがんで、目を合わせてくれる。ほんの少しクマが見える目。疲れてそうな感じだけど、でも。

 やさしく笑ってくれた。

「……また来なさい」
「…」
「リアスと一緒に」
「…うん」
「お前がいると、よく話せる」
「!」

 それだけ言って、ハイゼルさんは立ち上がってわたしから離れてく。
 びっくりしてぼーっとしちゃったけど、とりあえず時間だからってリアス様に引っ張られて、列車に乗って。

「またねクリスー!」

 一生懸命おっきな声でいっぱい手を振ってくれるエイリィに、わたしも手を振った。

 姿が見えなくなるまで手を振って、レグナが用意してくれてたVIPルームに戻っていく。

「……」
「…」
「……」
「……」

 その間、みんな無言。とりあえずおっきい荷物は一か所にまとめて置いて、ブーケの入った袋だけはつぶれないように棚の上に移動させて。

 みんな揃って、向かい合わせになるいすに座った。

 きっとこのときに思い返すのは、結婚式のことなんだと思う。
 エイリィきれいだったね。フランスの人たちとまた話せて嬉しかった。エイリィやセフィルといっぱいお話しできたのも、やっぱり楽しかった。

 ちょっと切ないこともあった。
 きっと叶えることはできない約束。でも、諦めたいわけじゃない、昔からの約束。

 エイリィからの手渡しでされたブーケトスのとき。いろんな思いが巡って何も言えなかったけど、でも。

 必ず。エイリィにも、そして大好きなカリナにも、必ずあの頃やりたかった契りを見せるんだって心に誓ってた。それがたとえ、どんな形であっても。

 きっとこの時間では、そういう、ちょっとしんみりしたり楽しかったことを話したりするんだと思う。

 でもね。

 これ全員思ってることいっしょだよね。

 みんなを見上げればどことなく、なんとも言えないような、切りだすべきかみたいな表情。

 これはもうわたしが言うしかないでしょなんて謎の正義感で、とりあえず手を挙げた。

「…よい?」
「どうぞ」

 若干もう顔を覆い始めてるリアス様からオッケーいただいたので、息を吸って。

「ハイゼルお義父さんは、実はリアス様といっぱいお話したかった…?」

 最後にこの思い出すべてをかっさらってしまうくらいの衝撃を口にすれば。

「わかりづらいわっ!!」

 リアス様が行き場のない思いを出した瞬間に全員で噴き出してしまった。

「明らかにそんな感じじゃなかっただろ……今まで明らかに”お前など興味ない”みたいな顔だったじゃないか……」
「愛情の裏返しってやつじゃないの」
「明らかにもう研究目的だったろ引き取り理由……」
「愛が芽生えてしまったんですよきっと」
「複雑すぎる……」
「ここからもっと親子になっていきたいんだよ…」
「幼少期あたりでもう俺にとってはトラウマなんだが」

 わかるけども。あのお義父さんたまにすごいおっきい声出すもんね。ちょっと怖いときあるもんね。

 ――でも。

 やっとフランスでの日々を、振り返る。
 結婚式はエイリィがとってもきれいだった。自分の中で、またがんばろうって思えたこともたくさんあった。

 でもそれよりも、すごい幸せだったこと。

 今までいっぱい”家族”っていうのになじめなかったリアス様。
 嫌われて、嫌な思いもいっぱいしてきたこれまでの時間。

 でも今回は、エイリィがいたからかそんなことなくて。

 あんまりリアス様は得意じゃないかもだけど、向こうから「もっと話したい」って思ってもらえて。

 血の繋がりはないけれど、このヒトに。
 見守ってくれて、愛してくれる”家族”ができ始めてる。

 それが、すごくすごくうれしかった。
 きっとレグナもカリナもいっしょ。リアス様だけ複雑そうに顔覆っちゃってるけど、わたしたちはみんな、笑ってる。

 切ないこともあったけれど。このたったの五日間。やっぱり、来てよかったなぁって思って。

「…文化祭、おとーさんたちも来るといいね」

 そうリアス様の頭をなでたら。

 「やめてほしい」って声がほんとにマジすぎて。

 ゆったり揺れて日本へと向かって列車の中。

 思わず、またみんなで笑いあった。

『新規 志貴零』/クリスティア

志貴零

志貴零ご支援サービス

ご支援をいただけますとより充実した創作ができます。頂いたご支援は活動費を主に、志貴零の生活にあてさせていただきます。

pixiv FANBOX

志貴零のOFUSE箱