また逢う日まで 先読み本編second September

第1話

 風呂上りにも関わらず冷えている体温を背中で楽しみながら、手元のスマホを見た。

「♪、♪」

 真っ黒な画面に映るのはご機嫌な恋人と、その恋人に髪をいじられている自分の顔。
 画面に明かりが灯ることはなく、ただただご機嫌な恋人が俺にみつあみしていく姿が映し出されるだけ。

 ……別に構わないんだが。

 そう思いながらも、置いてはまた画面に目を落として息を吐き、再びソファに置いてを繰り返す。

 けれど何度繰り返しても。

「……あいつ連絡してくるとか言わなかったか?」

 夏休み、「また言う」とメサージュをよこしたっきり一切連絡のない捩亜から、追伸はなかった。

 バタバタとしていた夏休み。
 フランスに行ったり、同級生と遊んだり。そのばたばたに伴ってスマホも騒がしかった。

 毎日のようにポンポンとメサージュが鳴り、本人的には緊急の内容らしく道化やら雫来やらから時折電話もあり。スマホがおとなしくできていたのはその用事の最中だけだったのではと思うほどである。

 その騒がしい日々の中で、一度だけ。
 今では身内とも呼べるようなメンバー以外からの連絡があった。

 夏休みの終わり頃、クリスティアの義母から。

 とある調査のために、ハイゼルと共に日本に来ると。

 忙しかったのか、連絡は俺にとって一番重要であろう義父が来るということと、夏休み中最後のやり取りとなった「また言う」の文字だけで。
 そのときは、クリスティアとの行動療法の軌道修正で頭がいっぱいだったので、本人が言う通りまた連絡が来るんだろうと置いておかせてもらったが。

 待てども待てども、連絡が来ることはなく。

 学園にも、それらしき人物達は見当たらない。

 まぁあの広い学園内で偶然エンカウントというのも正直難しいっちゃ難しいのだが。

「……」

 連絡すると言われた手前、一切連絡もなく、そしてそれらしき人物達が見当たらないとなると。

「どーしたのー…」
「……少々心配にはなるわな」
「?」
「捩亜達」

 髪いじりは満足したらしく膝にぽすんと座ってきたクリスティアにそれだけこぼす。恋人は思い至る節があったのか、少々心配そうに眉を下げた。

「ずっと、連絡ない…」
「……あの人らなら忙しいんだろうが」
「…」

 約一週間ほど音沙汰がないと多少心配も募ってくる。それほどまでに忙しいのかというのももちろん。

 何かあったのではというのはという懸念も出てくるわけで。

「……」

 これはそろそろこちらから連絡をした方がいいかとも思ってくる。しかし返事がなかった場合それはそれでなお心配になることは自分がよくわかっていた。

「……すでに日本に来ていて、その調査で連絡する暇がないほど忙しい、ならいいんだが」
「ねー…」

 変わらず心配そうな顔をしているクリスティアの目元をくすぐってやり、重くしてしまった空気をほんの少し軽くしてもらう。身をよじる恋人に微笑んで。

「まぁ、昔も連絡なく何日も帰らないことがあったし、今回もそんなところだろう」
「うん…」
「それまでにもう少しこっちに慣れておくか」

 こんな中で無粋であることはわかっていつつ。正直なところ、ここまで長くはなかったが似たような現象は言った通り今までに何回かあったので。過保護から来た心配性は今はしまっておき、クリスティアの額にキスをするようにすり寄った。
 察した恋人は顔を紅くして恥ずかしそうににらみ上げてくる。
 その顔が男を煽るだけだということを知らない彼女に、意地悪に微笑んで。

「疲れを吹き飛ばすような安心を与えるためだろう」
「そうだけども…」
「ほら」

 若干身を引きつつある恋人の腰を引き寄せて。

 おやすみ、と。

 風呂上がり、自分と同じ匂いのする恋人の額へ、キスを落とした。

 そうして、少しの不安もまだ抱えつつ迎えた次の日。

「……」

 ここ数日の心配が嘘のように、俺は今気が気でない。

 金曜日の五、六限目。
 ティノとユーアという、クリスティアが大変喜びそうなメンバーで取っている工芸実習の時間。

 普段なら。そう普段なら。

 刃物は控えさせているが、工芸ともなれば他にも危険と言える道具はあるわけで。使っている道具で怪我をしないかクリスティアの手元を見ていることが大半の二時間である。

 けれど、この日だけは。

「……」

 俺の視線は、窓の外へとくぎ付けになりそうになっている。

 何故か。

 いるんだ、見知った顔が。
 見知ってはいつつもこの学園の生徒ではない者がいるんだ。この一階の技術室の窓から遠くにちらちら見えているんだ。

 恐らく、というか十中八九、メサージュで言っていた調査をしているんだろう。あっちこっち歩きまわっては止まって、何かを話してはまた歩き出してを繰り返している見知った集団。

 ほぼほぼ後姿ではあるが、水色の髪に白衣の女は捩亜。隣にいる灰色の髪でこちらも白衣を着ている男はハイゼル。そしてハイゼルの隣にいる紫の髪はアシリア。
 ここまでは予想していたメンバーである。仮に彼らだけだったのなら、あぁいつも通り忙しかっただけで無事に来れていたのかという安堵で済んだと思う。

 問題はその三人の横にいる奴らだ。

 アシリアの横にいるピンクの髪。かんざしを刺したハーフアップの団子頭の女性。夏に見た義母にそっくりである。そして芸術家らしい奇抜な服装の男に、かがめば地面についてしまうくらい長い髪の毛を揺らしている女性。

 後ろの二人は七月に結婚式で見送った夫婦ではあるまいか??

 見間違いかと何度かちらちらと窓の外を見るも、正直なところ見間違えるはずがないと思っている。割と特徴的なんだよ、とくに義兄と義姉が。義兄は奇抜な服装が特徴的だし、義姉はその長い髪が特徴的過ぎて見間違えるはずもない。

 ここで思うことは当然一つ。

 何故後半の三人がいるんだろうな??

 いやまぁ、文化祭に来るとは言っていたから遠からず日本に来るということはわかっていた。けれど文化祭はまだ先だぞエイリィ、セフィル。よくあるデートの「ちょっと早く着いちゃった」どころではないくらい早いんだが。どういうことなんだこれは。
 あまりにも予想外すぎるメンバーにクリスティアが「見てー」と言って突きつけてきているものがあまりよく見えない。こいつが押し付けすぎて視界にいっぱいになっているのも原因ではあるが。
 というかお前なに作ってんだこれ。白い球体に紅い宝石みたいのがついて目玉のようにしか見えないんだが?? なんてホラーなもの作ってやがる。
 ツッコみどころ満載だが窓の外が気になる。けれど気にしていれば知り合いだと思われる可能性も高い。
そして恋人にも答えてやらねばだんだんと「どーしたのー」と悲しそうな顔になってしまっている。

 秒で頭を回して、とりあえず、と。

 膝に乗ってきたクリスティアに向きなおり。
 若干視界から遠くなってしっかりと見えたその作品を見て。

「いいと――」

 ”思う”まで出せなかった。
 いや目玉だろうこれ。なんでお前白い球体に紅い宝石くっつけたんだよ。せめて中に入れてくれホラーすぎる。
 恋人の狂い具合が少々心配にもなるが、この悲しい顔の状態でいろいろツッコんでしまうとさらに恋人のテンションが下がってしまう。けれど褒めてしまえば恐らく二個目ができあがるな?
 どうするんだ目玉取り換えようねとか言われたら。大変困る。

「……ちなみに作品名は」
「きれいな目…」

 龍の目をイメージしたと恍惚とした顔で言われてしまったら。

「それは大変嬉しいが」
『そこで嬉しくなっちゃうの炎上クン』
「恋人が自分を思って何かを作るのは大変好ましいだろう」

 さりげなくユーアがこぼした『狂ってるですっ』という言葉はスルーさせてもらって。
 器用だからか無駄にリアリティの高い目玉を取り上げて、クリスティアの額に自分の額をすり合わせる。

「これはもらっておくからお前は本物の俺の目で満足していてくれ」
「だって龍取り出させてくれない…」
「再起不能になるからな目が」

 いや恐らく再構成できるけども。そんなグロい贈り物があってたまるか。

 少々不服そうなクリスティアの頭を撫でてやり。

『氷河、いっしょに炎上への贈り物作るですっ』
「刹那の目?」
『目玉はお断りですっ』

 相変わらずこいつはっきり言うなと尊敬しながら、目玉から気を逸らしてくれたユーアに心の中で礼を言いつつ、クリスティアはクリアとして。

「……」

 そっと、また視線を窓の外にやった。

 そこには、遠くに血の繋がらない身内が――って待て待て思いのほか近くなってないかお前ら。さりげなくこちらに近づいてきていないか?

 いや気のせいか。そりゃあ調査ならばいろんなところを回るだろうしおのずとこちらにも近くなる。当然のことだろう。心音が少し大きくなったのは気づかなかったふりをして。

 来てしまった以上気にしてもしょうがないだろうと、息を吐く。
 どうせ向こうは軽い知り合い程度で通してくれる。何度もそう思っただろう。

 不必要に緊張することなどないと、自分にまた何度も言い聞かせて。クリスティアがくれた目玉のアクセサリーをいじる。
 未だ気にはなるが、向こうが気遣ってくれるのに自分がこれではいけないと叱咤して、ユーアと楽しそうにまた新たな作品を作っているクリスティアへ、ようやっと目線をしっかり向けた。

 作品を削ったり切ったりする音が大きく聞こえるようになった教室で、再び息を吐き。

『炎上クンなんかそわそわしてるねー今日』
「……少しな」

 やすりで怪我をしないように見張りながら、目の前に座るティノへ頷いた。

『クリスマスみたいななんかドキドキなコトがあるの?』

 正直違う意味でどきどきな奴らが窓の外にいるが。
 ティノには、首を横に振る。

「……昨日少し眠れなかっただけだ。気を少し張っている」
『えー、夜しっかり寝なきゃだめだよー?』
「あぁ」
『ユーアのもふもふに埋もれるですかっ』
「ずるいっ、わたしが埋もれたいっ…!」
「お前は俺に埋もれてくれ」

 他の男に埋もれようとすんな。
 こいつの中ではもふもふイコール可愛いもので男として認識してもいないだろうから関係ないんだろうが。
 苦笑いをこぼして、再び膝によじ登ってきたクリスティアを受け入れる。見上げてくる蒼い瞳は、しっかりティノとの会話を聞いていたのか心配がにじんでいた。

「……平気だ」
「うん…」

 頷いたもののやはり心配は抜けないのか、クリスティアはそのまま抱き着いてきた。いや別にまったくもって眠くもないし睡眠に関しては問題ないんだが。他に言える理由もなかったし、結果的に恋人が俺に埋もれてくれているのでよしとし、冷えた体温を楽しむ。
 どことなく落ち着いた心で、クリスティアがくれたアクセサリーへと目を落とした。
 やはりリアリティがあるな、なんて。冷静になって思考でアクセサリーを手で遊んでいれば。

「…!」

 腕の中の恋人が、何かに反応したように体を動かした。何だと、俺は当然クリスティアを見る。

 彼女の視線は俺ではなく横を見ている。

 横を見ている?

 横と言えば――。

 身内がいる窓ではあるまいか??

 そう確信して、彼女の視線を追った。そこには未だ調査のため歩きまわっているらしい身内らがいる。

 なんとなく、腕の中の恋人が息を吸ったような感覚が胸辺りに伝わった。

 待てお前それは絶対名前呼ぶ気だろ。主にエイリィの名前呼ぶつもりだろ?

 その無意識はいけないなクリスティア。

 そう思った瞬間に、恋人よろしく体が動いた。

「エ――むぐ」

 予想通りエイリィの名前を口にしそうになった恋人の口を、少々パンっといい音を立てながら塞ぐ。それに恋人はしまったと気づいてくれたんだろう。すぐさま俺を見て、目が「ごめんなさい」と物語っていた。それはいい。仕方あるまい、お前の反射はよくわかっているし、ここが日本じゃなかったなら俺も同じように呼んだ。お互い様だと目で言い聞かせ、いい子だと頭を撫でてやる。

 けれど俺の反射の方はよくなかったらしい。

『どうしたですかっ』
『すっごいパァンって音鳴ったケド……』

 耳のいい同級生が俺の反射の行動に気づいてこちらを向いてしまっている。その目は本当に「どうした
」という顔。そりゃなるよな。いきなり恋人の口を勢いよく塞いだのを客観的に見ていたら俺もそうなる。

 しかし今は俺がそれをしている側で。

 クリスティアと二人、さぁどうすると目配せをする。

 ここで当然浮かぶのは「何かでごまかす」。けれどごまかすものが見つからない。
 何がどうあって口をふさぐ事案が出る。だいたいが言ってはいけないことを言わせないようにするためだろう。あとはなんだ、あれか、クリスティアに菓子を――いやだめだな、口に突っ込むには勢いがよすぎるだろ。飴なら喉から胃に一直線レベルの勢いだったぞ。

 互いに目を泳がせながら、言い訳を探す。しかしこういったことが得意な双子がいないので思い浮かぶこともなく。だんだんと、クリスティアの口をふさぐ手の力が緩んでいった。

『なんかあった?』
「いや……」

 ティノ達がだんだんと心配そうな顔になる中、さぁどうすると、再び思考を回したとき。

 クリスティアが、息を吸った。

 そうして、

「そ、外、に…」
『外ですかっ』
「外に、その、知ってるヒト、がいて…!」

 これはもう言い逃れはできまいといち早く判断したクリスティアが、そう紡ぐ。けれどティノ達は一瞬「えっ」という顔をした。そうだよな、クリスティアが言うと一瞬幻覚再発だと思うよな。

 となればここの選択肢は俺も頷くというものだけ。
 俺も見えたとなれば当然幻覚でないとわかる。

 信じるようにこちらを見上げてきたクリスティアに、頷いて。

「そう、知り合いが――」

 窓の外を、見れば。

 誰もいないじゃないか。

 倣って外を見たユーア達が外と俺達を交互に繰り返し見るじゃないか。

『エート、知り合い……?』
『このお時間にですかっ』
「いや、その……」

 なんでいないんだあんたら。さっきまでは結構近くにいただろう。できれば遠くにとも思っていたけども。何故ここでそれが叶う。
 何故こうもいてほしいときにいないのか。答えは当然、向こうは俺と意思疎通できるわけではないし、今彼らは調査のために来ている。そんないてほしいときにいるわけではない。

 けれど今だけは本当にいてほしかった。

 心の中で戻って来いと叫びながら、苦笑いを浮かべたまま恐る恐る、目を戻せば。

 大層心配そうな二人が目に入る。

 あぁ、これは。

『……なんかあの、ボクらにも見えないレベルのなんか、見えてる感じ……?』
『取り憑かれたですか炎上、氷河……』

 クリスティアの幻覚再発は回避できたが、授業終わり祈童のもとへ一直線で連れていかれるのだろうと。

「……そうではなくてだな……」

 ややこしいことは一回では終わらないことに、ただただ深く溜息を吐いた。

『新規 志貴零』/リアス

おまけ
祈童君のところに連れてかれました
祈童「なんか取り憑いているかもしれない? いや特に変な悪霊みたいなものは感じられないけれど」
ユーア『そしたら炎上まで幻覚が見えてしまったです!!』
ティノ『お医者さんはっ波風くんはいらっしゃいますかー!!』
続いてレグナのとこに引っ張られて行った。
(ちなみに話し声でレグナは捩亜たちの訪問気づいてました)