また逢う日まで 先読み本編second September

第2話

 昼休みが終わりに近づいてる水曜日のHR前。
 前回送ったメッセージに未だ既読が付かないのを確認して。

「炎上くんの顔が日々死にそうなのだけど」

 まだざわざわする教室内で聞こえた道化の声に、アシリアさんとのメサージュを閉じて顔を上げた。
 口は笑ってるけどどことなく苦さを含んだ道化に、俺たちも苦笑い。

「そろそろ向こうは見回り入るもんなぁ」
「ぁ、明日から、ですよね。三組」
「生徒がやるのは一年に一度ですから、なんだか懐かしくも感じますね」
「去年は波風と氷河がペアだったか」
「そ。ついでに華凜と龍が付いてきた」

 わぁ、もうここのメンバーよくわかってるね。みんな「あぁ……」ってすごい悟った顔してるわ。
 そうです、うちのは過保護がひどすぎてついてきました。

 遠い目をしながら、あれはあれで大変だったなぁと一瞬だけ振り返る。

 日常であふれてる、異種族同士のちょっとした争い。
 もちろん内容は様々だけど、言葉の不理解による騒動が基本。その次が規制線越えただなんだっていうもの。そういう争いを少しでも早く解決するために、俺たちエシュトの生徒が日々見回りをしているのだけども。
 去年は一年ながら騒動多かったなぁとも思いつつ。

「……もう龍の参加の時点でその後のすべての予想外のできごとを受け入れられたよね」
「氷河が飛び出したと話してなかったか?」
「あれはもう想定内」

 いやまぁ走り出すタイミングは予想外だけども。

「基本が二人一組で少人数編成、穏便にっつってんのについてきたというあの予想外な行動を上回るものはないと思った」
「禁術まで持ち出しましたからね、話題だけで止まりましたが」
「そろそろセイレン様からお呼びがかかるんじゃないのか……?」

 毎回禁術どっかしらで使ってたからすでに主には呆れられてる状態だよ祈童。ちょっと言えないけども。
 さりげなくカリナと一緒に視線をそらしたのを、祈童が何か言おうとしたところで。

「で、でも、今年は一緒のクラスでよかったですね、ぇ、炎上くんと刹那ちゃん」

 そう言って笑った雫来に心の中で感謝して、カリナと共に全力で話に乗った。

「ハーフは同種族で組めるしね」
「クラス内で一定のルールを守れば自由に組めますし、今年はあの男は恵まれてると思いますわ」

 祈童、じとっと俺たちのこと見ないで。別にやましいこと隠してるわけじゃないから。お前のその目なんか怖い。絶妙に主思い出すから。
 なんとかカリナと笑顔を保って、にこにこしていれば。

「……まぁ、僕らみたいに異種族同士で組まなければならないとかだったらまた炎上は大変だったろうな」

 言うタイミングを逃して諦めてくれたのか、祈童も話に乗ってくれたので心の中でほっと一息。うん、いやまぁ別にほんとにやましいことはないんだけども。ちょっと呆れられてることをセイレンのほぼ直下にいる家系に知られたくなかった。
 ひとまず回避できたってことで、机に肘をついて体重を預ける。

「あたしたちもそろそろペアと日程決めなきゃよねー」
「僕と道化がお前たち三人の誰かと必ずペアになるとして……あぁでも一人余ってしまうのか」
「今年うちのクラスは人数が奇数ですし、江馬先生に言って三人グループ申請しても大丈夫じゃないです?」
「そ、そしたら祈童くんと波風くんがペアですね!」
「なんで迷わずそこかな」
「せめて女子三人で組もうねとか言ってくれたら僕らもじゃあと言えたのに」
「もちろん三人で組みたいとも思ってるわよ!」
「ただ俺らのペアの願望の方がでかいと」
「ハッ……! けれどお二人とも、我々三人で組んでしまっては兄と祈童くんのことが見れませんわ!」

 ちょっと何言ってんのかな妹。

 そんでなんでそこの女子二人は「そうだった!」みたいな顔してんの??
 うわツッコみたいけど雫来が口開けたからもうだめだわ。

 口を出すことは早々に諦めて。

「だ、誰が行きますか!」
「いっそ炎上くんのときみたいについていくのはどうかしら!」
「それなら三人で楽しくお話もできますわね!」
「波風、うわぁって顔もう少し隠せ」
「いや隠せないでしょ……なんだっけ、女子三人寄ればめんどくさい、だっけ?」
「女三人寄れば姦しい(かしましい)、だな。気持ちはわかるが」

 祈童と遠い目をしながら、近い場所できゃーきゃー騒いでる女子たちに溜息をついたところで。

「HR始めますよ~」

 間延びした声が聞こえて、クラスの人たちのおしゃべりが止まって。席に着く音が教室内に響く。その中で、未だ喋りだしそうな妹たちへ。

「ほらそこの女子、そっちのペア決める前にもう一個」
「ハッそうだったわ!」
「僕らの方ではなく前向け、前」
「では続きはのちほど」
「せんでいいわ」
「そ、そんな……!」

 いやそんな「なんで」って顔されましても。

 すげぇ悲しそうな顔してきた雫来にもう一回「しなくていいんで」と言って。
 前に座る女子達を視界に入れつつ、隣の祈童と一緒に溜息をついてからしっかり前を向いた。

 江馬先生は俺たちが話してる間に黒板にいくつか文字を書いてて。

 ふわふわな金髪を揺らしながら、チョークの音を教室に響かせる。
 すでに書いていったところを見れば、その文字たちに。

「……?」

 さっきまでの話題とかは全部頭の隅にいった。

 そうして、切り替わった思考で黒板の文字を追う。

 まず黒板の一番最初のところ。”フロイント”って文字と、その次に”お話喫茶”という単語たち。そのあとも見覚えがあるのも続いてるけど、目が留まるのは一番最初。

 あれって――。

「波風」

 同じく気づいた祈童に、頷く。

「あれって去年の俺らの店名じゃなかった?」
「私たちのもありますわ」
「わ、私のもです……」

 他にも気づいた子がいるのか、教室内が少しだけざわざわしだす。けれど江馬先生は気にすることもないまま、音を響かせながらチョークを黒板に走らせていった。

 そうして、九個分の店名とざっくりした概要を書き終わった江馬先生は、こっちを向いて。

「さぁ~、それでは文化祭の出し物決めに入っていきますよ~」

 にっこりと笑って言った。

 俺たちは頷きつつも。

 当然、少し止まってしまう。

 文化祭の出し物を決めるところにはもちろん頷ける。この月の第二週目の水曜日は文化祭のことを話し合うことは決まっているから。

 止まってしまうのは、その黒板の単語たち。

 カリナや雫来たちのもあったということは、恐らく。

 黒板のやつは、一年次の俺らの出し物でして。

 え、なんでここで一年次の出し物の名前とか出てくんのって思うじゃん? たぶん全員思ってるよねこれ。みんななんかこう、「え、え?」みたいな雰囲気出してるもんね。なんならちらほら声も聞こえるし。

 その雰囲気は当然江馬先生にも伝わってるんだろう。また少しずつざわざわし始めた教室内を見回して、意味深に頷いた。

 そうして、まっすぐ前を見て。

「驚きますよね~、いきなり去年の出し物が黒板に書かれているなんて~」

 いつものようにのほほんと笑った。それに一瞬、気を抜きかけるも。

 笑うために閉じてた目が開いたところで見えた、教師の目に全員無意識に背筋を伸ばした。それをわかってるのかいないのかはわかんないけど、江馬先生はまた笑って。

「では~、まずは説明に入っていきますね~」

 頷いたのを確認してから、口を開く。

「ひとまずは文化祭のおさらいからですね~。我が笑守人学園での文化祭は~、来てくださった方々を笑顔にすること、また異種族交流をより深めるために行われる大切な交流行事になります~。この行事によって~、今後の笑守人、果てには今後の世界においても重要なきっかけになっていくこともあるので~、先生たちもそろってとても力を入れるんですね~」

 のんびりとしながらも通った声で言ってから。

「さて、ざっくりとしたおさらいで特に質問はないですね~?」

 見回して、誰も反応がないことを肯定と取ってまた口を開いて。

「ここまでは~、この笑守人に勤務している先生が必ずお伝えする共通の文化祭の認識になります~」

 言われた言葉に、全員一瞬呆けたり、首を傾げたり。目の前の女子三人が緩くそろって首を傾げたのに気を持ってかれそうになったのを制して。

 江馬先生を見れば。

 妖艶に笑って、俺たちの反応をしっかりと見てる。どことなく見透かされてる感じに居心地の悪さを感じながら、それは見せないようにして。
 一通り先生が生徒たちの反応を確認していくのを待った。

 ざっと見回して、確認した先生はその笑みのまま。

「ここからは私の個人的な認識になります~」

 しっかり聞いてくださいね、と。
 若干の圧を込めながらチョークを持った。

 このヒト実は杜縁先生よりも怖いヒトなんじゃないのなんて思いつつ、意識をしっかり江馬先生に向ける。

「先ほど~、笑守人の文化祭は理念である笑顔を届けるため、また交流のきっかけになるということをお話しました~」

 黒板の空いてるところに今言ったことを簡単に書いて、こっちを向いた。

「この認識ももちろんのことですが~、私的にはあなた方の~、笑顔にするパフォーマンス力の向上、そして柔軟な発想の強化に繋がるものだとも思うんですね~」

 その書いたところの下に、「江馬の見解」って言葉と一緒に今言ったことも書いてく。
 そうしてまた、

「と、いうわけで~」

 前を向いて。

「江馬クラスでは~その強化のために~、代々的に”去年の要素を使用しない”という方針で文化祭の出し物を決めております~」

 なんてことを笑顔で仰った。

 ちょっと待ってね?

 江馬先生が黙ったのでこれは恐らく俺たちの理解の時間だろうと、必死に頭を回した。

 え、なんて言ってた?
 とりあえず江馬先生的には柔軟な発想とかの強化、あとパフォーマンス力の向上が目的でもあると。うん、そこはオッケー。

 問題は次かな?

 ”去年の要素を使用しない”、って言ったよね?

 去年の要素を使用しないということは……?

 ほぼほぼ全員同じタイミングで思い至ったのか、クラスの大半と一緒にばっと顔を上げた。

 見るのは黒板の前にいる江馬先生、

 ――じゃなく。

 黒板に書かれた去年の”要素”たち。

 俺たちの話喫茶を始め、パフォーマンス喫茶、お化け屋敷、フリーマーケット……。

 全九個の要素を、江馬先生は。

 今使えないと仰った??

 えっ無理じゃね?

 俺たぶん今カリナの表情すげぇわかると思う。絶対「詰んでるのは??」って顔してるだろ。すげぇ今こっち向いてほしい。
 呼びたいのをちょっとこらえまして。

 黒板から、江馬先生を見れば。

「ご理解の方はいただけましたか~?」

 可愛らしくこてんと首を傾げていらっしゃる。いや見た目は可愛いんだけどやってることが可愛くない。

 えっ、これ全部使えないとか無理じゃね?

「……これは定番がすべて潰されていないか……?」
「俺もそう思う……」

 小さく聞こえた隣の祈童の言葉には俺も小さな声で返した。けれど聞こえていたのか、江馬先生は「ご安心を」とまた笑った。

「あくまで方針ですので~もちろん完全にアウトというものではありません~。取り入れられる要素は取り入れるというのも大事なこと。ただ私は~そのまま取り入れるのではなく~、きちんと昇華をすることが大事だと思います~。要は~、”去年と似たもの”、ではなく、去年の要素を取り入れていても、”似たように見えないもの”を作ることが課題なんですね~」

 ここまでは大丈夫ですかという間延びした声にはあいまいに頷いて、続きを喋る江馬先生にしっかり意識を向けた。

「学園の伝統として毎年出さなければいけないもの……一番わかりやすいのであれば本部ですね~。困ったときなどに来ていただく場所などは変えてはいけないですよね~。つまり~、当然のことながらすべてがすべて新しいものを作っていかなければいけないというわけではありません~。けれど~今後あなた方が社会に出ていくにあたって~柔軟な発想や対応力というのは常に必要になると思うんですね~。多くの場合~、決められたものの中で何かをしなければならない、という場面の方が多いと思いまして~。そこで~二年生以降でこの江馬に当たったクラスでは~、とくにその発想力、対応力を鍛えるために~このようにある種の制限を掛けた状態で企画をあげていただいています~。条件としては~」

 全体を見回しながら言って、まずひとつ。人差し指を立てた。

「基本は去年の要素を排除した状態で出し物を考えること」

 二つ。

「ただもちろん全面禁止ではないので~、去年の要素を取り入れることも可能です。その場合は必ず、その要素のバージョンアップを行うこと」

 三つ。
 条件は最後なのか、妖艶に笑って。

「確定するための時間もあるので、この企画の案を出すのは本日、今行っているHR終了十五分前まで」

 言われた言葉に、全員一瞬止まった。

 そうして揃って、教室にかかってる時計を見る。

 今午後の一時五十分。

 このHRが終わるのは――

 約三十分後の二時二十五分まで。

 つまり?

 思い立った瞬間に、うちのクラスの委員長二人が一気に立ち上がった。

「ぜ、全員規律っ!!」
『各人固まってすぐに企画の案出しをっ!!』
「案は多い方がいいので少数グループで固まるようにっ!!」

 どっかの部隊かなと思うような気迫のある声に、全員反射的に立ち上がって。

「それでは頑張ってくださいね~」

 間延びした声でのほほんという江馬先生に若干殺意も湧きながら、教室内でグループ作りが始まった。

 まぁ、

「去年のものが使えないのは痛いわよねー」

 俺たちはいつも通りの五人で集まっているので、大きな移動もなく。反射的に立ち上がった状態からすぐに座って、時間も惜しいということで向き合って話し合い中。
 他のところも着々とグループで集まっているのか、だんだんとどうするだとかこういうのは、という声が聞こえ始めた。集中するためになるべく耳を通常通りに近づけて、黒板を見る。

 白い文字で書かれた九つの要素は、大半が喫茶店とか飲食が多い。

「飲食系……カフェにすんならとくに去年からのバージョンアップが必須じゃない?」
「た、ただ、バージョンアップにしても、美織ちゃんたちがやったようなお話合いはアウトで……」
「我々のようなパフォーマンスもアウトですわね」
「この二つは被りやすいだろうしな。バージョンアップもしづらい」
「雫来たちがやったような劇は?」
「恐らく劇”だけ”になると却下でしょうね。脚本のオリジナリティ然り、演出然り。何かしら新しいと思わせるような取り組みがなければだめでしょう」

 開始数分で詰んでるのでは? って思いたくなるような思考は今は制して、苦笑いをしつつ黒板に書かれてる文字を追って考えてみる。
 カフェはもう飲食ってカテゴリで考えて……。まず飲食するなら何か付け足さないとアウトでしょ。そんでその付け加える要素で今排除されてんのが去年やった客とのコミュニケーションの話、カリナたちのパフォーマンス、あと書かれてんのは時間ごとでプレゼントを配ったりっていうのも今年はアウト。
 フリーマーケットは買い物ってカテゴリで取るのか、それとも去年の中身で取るのかがちょっと明確じゃないけど、恐らく買い物にするにも何か要素を付け加えるのが前提。お化け屋敷は――まぁあれは道化がアウトだからなしでいいか。

 うわこの時点でもうねぇわ。
 思わず頭を抱えてしまった。

「えぇ……? 基本的に全部無しの状態で考えろってことじゃねこれ……?」
「どの要素をどういったカテゴリにしていくかでも変わりますしね……」
「今恐らくお前たちの頭の中はチェスのような感じになってるんだろうね」

 もれなく全部の駒ほぼほぼ取られてる状態だよ。

 祈童に苦く笑って、頭を必死に回す。

 今んところ出てないものでできるのは音楽演奏とか? ただ演奏の仕方にもよるな。ステージ使うなら去年と似たようなもんだし。それに全員が全員演奏できるわけじゃないっていうのを考えると、空いてるメンバーをどう回すかも考えなきゃいけない。だいたいここでセオリーなのはやっぱカフェ。ってなると去年と変わんないんだよな。

「……て、展示とかですかね?」
「それだと特定の層だけが来る形にならないか?」
「去年杜縁先生には特定の層だけが喜ぶものは頷きかねるって言われたわ」

 事情が違うけどな。

 突っ込みたいのは我慢しまして。

「き、基本的に全年齢向けの出し物にしなきゃですよね」
「雫来ごめんその言い方はなんかすげぇツッコみたい」
「し、真剣なのに……!」
「ごめんって」

 でも言い方がもうゲーマーとか向け。若干いじけた顔の雫来に胸辺りになんか感じたのは今は封印して。

 ひとまず雫来が出した展示をもう少し掘り下げてみた。

「まぁ要は大人も子供も全員楽しめるものにしましょうねってことだから……展示なら内容を幅広くすればありっちゃありなんじゃない?」
「それこそ子供なら道化のところのおもちゃとかどうだ」
「たくさん貸し出せるわよ!」
「ただそれだと一つのところに集中しないかが懸念ですわね」
「そ、そうですね……人によってはずっとそればっかり眺めてることもあるでしょうし……」
「それは雫来の体験談?」
「ぉ、推しのものが展示されてると立ち止まっちゃいますよね」

 すげぇ雫来のマジな目って初めて見たかもしんない。気圧されながらも「そうね」と頷いて。

「雫来タイプとあとは……真逆でいろいろ見るタイプはうちでは氷河か?」
「うん、たぶん」
「じゃあ刹那ちゃんが教室内をいろいろ見て回ってるとして……」
「可愛いですわね刹那」
「あっ華凜さん妄想に声かけるのは一人のときにしてくんない」

 いって足蹴られた。
 妹を睨んでから前に向きなおって、道化の言葉を想像してく。

 刹那が見て回ってて、そこでじっと立ち止まってる雫来がいて……?

「……刹那なら雪巴あそぼーって行きそうじゃね?」
「僕もそう思った」
「もしくは、な、なに見てるのーって一緒に見ることになりそうですね」
「何見てるのーって背伸びする刹那ちゃんかわいいわ」
「展示物は少し上の方にしましょうか」

 だめだこれ話になんねぇな。

 切り替えるようにパンっと手を叩いて。

「展示は一旦保留にしよう。解決策ないわ」
「いい線までは行ったのにな」
「切り替えも大事ですわ。時間もありませんので案としては出してみるということで」

 メモしたカリナに頷いて、一度時間を確認。
 今二時過ぎ。

 残り時間は十分くらい。行けるかと引きつりながらも、五人また向き合って。

「……」
「……」

 全員、一度口を閉ざして思考を回す。

 回すんだけど。

「……」

 だめだクリスティアのこと話題に出したからか頭ん中ですげぇクリスティア遊んでる。これ絶対カリナお前も一緒だよね。かわいいながらも今は違うみたいな顔してるもんな。
 その間にも頭の中のクリスティアが「レグナあそぼー」って手を引っ張ってくる。だから違うんだってクリスティア。待った「そんでねー」って話始めないで。

「今日もかわいいです刹那……」

 カリナさん帰って来て。お前いないと今以上に詰むから。
 妄想の旅に出始めようとするカリナの足をつついて必死に現実に引き戻しながら、脳内クリスティアにまた今度ねと頭の中で声をかける。けれどクリスティアは言うことを聞いてくれずあそぼーと言うばかり。

「頭から刹那が離れない……」
「わ、私もです」
「刹那ちゃん今日も可愛いわ!」
「知ってる、今はそうじゃなくて」

 時間ないんだっての。

 けれど全員の脳内にはクリスティアがいる。
 ちょっと退けられそうもなくて――。

 あ、待って?

 これはむしろ。

「刹那基準で考えてみたら行けるんじゃね?」
「過保護というオプションでさらに制限掛けるおつもりですか?」

 やっべさらに詰みそうかもしれない。
 一瞬でくじかれたのでもう一回やり直しますと言うように、両手を上げて。

 また頭を回そうとしたときだった。

「いや」

 祈童が片手をあげたので、全員で祈童を見る。

「どしたの祈童」
「波風の、氷河基準で考えるのはありかと思ってね」
「でも刹那ちゃんを基準にしたら炎上くんの過保護の方も考えなきゃいけないわ」
「け、けがとか……もっと細かくなっちゃう気が……」

 雫来が言ったところで、今度は隣に見えるカリナがはっと何かに気づいたようになる。そっちに目を向ければ、カリナはどことなく明るい顔で俺たちを見てた。

「確かに普段ならば龍のことも考えて大幅に制限されてしまいますわ。けれど、言ってしまえばあの男の基準はエシュトでの出し物では大前提といっても過言ではないかもしれません」
「確かに……。出し物で怪我したらアウトだから危ないものは使えないよね」
「そういうことだ。まぁ炎上のは行きすぎだから少し緩和も図りつつ、その基準をエシュトにも変換して考えていけばどうだろう」

 あぁそれなら――。
 行けそうだねと、五人で顔が明るくなった気がした。それに伴って、考えもはっきりしてきて自然と口が開く。

「じゃあ今までうちのメンバーでやってきたものも踏まえて考えてみよっか」
「同級生でやったならスゴロクよね」
「けれどあれは魔力の感知が必要じゃないか?」
「そうですね……やるならばマスを踏んでお題が出る、というのは無しにしないと……」
「じ、時間決めたりもしないと次々参加したりもしますし……」
「ただ時間決めるなら大幅に時間確保しとかないと。押しちゃったら下手したら次の回できなくなるよね」
「参加者にマスの内容を書いてもらうのとかは面白いかもな」
「その時間を取るとなると……なかなか制限が多い出し物になってしまいますわ」
「あとやったのは……宝探しよね。メッセージカードとかにヒントを書いて――」

 そう、次々と案やら指摘が出てきた中で。

 道化が言った言葉に、全員止まった。

「た、宝さがし……」
「ヒントになるようなメッセージを用意したな」
「いろんなところを歩き回りましたね」
「エシュト学園内なら龍の守備範囲内で」
「大人も子供も楽しめて、エシュトのためにもなる……?」

 口々に言った言葉に、ぱっと顔を見合わせて。

 これだ、って声がクラス内に声が響き渡った気がした。

 そうして、短い制限時間の中で六、七個のグループがいろいろと案を出し合った結果。

 俺たちが出した「学園紹介を兼ねたスタンプラリー宝探し」は去年と被るものが一切なく。

「では愛原班が出したこの案を中心にしていきましょうね~。景品交換の場となる教室では~待合所という形で委員長班の珍しい飲み物を取り扱うカフェという案を中心に組み立てていきましょう~」

 江馬先生のお気に召したらしく、無事に土台が決定。

 とりあえず一番の難関は越えられたかと、ほっと息を吐けば。

 すぐに通った声が教室に響いた。

「今後のことを発表していきます~。メモのご準備を~」

 それにばっと姿勢を全員正して、メモの準備と言われてわたわたとバッグをあさりだす。

「よろしいですか~?」

 待ったよろしくないわ。やっべメモなくね??

 そうがさがさとバックを探してたら、カリナがいち早く用意してくれたメモ帳の紙を後ろに回してくれる。ちいさく礼を言って、数枚重なってるそれを隣の祈童にも渡した。
 代わりに俺の手元にやってきたシャーペンに、祈童にも小さく礼を言って。落ち着く間もないまま前を見る。全員用意できたのか、江馬先生は頷いて。持ってる紙の束にペンを走らせながら通る声を発した。

「まずおさらいですね~。うちでは学園紹介を兼ねたスタンプラリー宝探しをメインにした出し物になりました~。ポジションを決めて学園中に生徒が点在し~、ヒントを駆使しながらそのスタンプラリーの場所を探していくものになります~。スタンプラリーの参加資格は”笑顔にしたい人がいるか”というもので~、参加者は自らのためでなく大切な誰かのためにスタンプを集めます~。集めきったら景品がもらえる形ですね~。受け渡しは教室で~、主に子供連れの方向けに~待合所も兼ねたカフェを併設することにしましたね~。そこでは世界で売られている珍しい飲み物を中心に取り扱う方針で~」

 ここまではいいですかという声に、ざっとメモを取りながらうなずく。

「では次~」

 頷いたはいいけど容赦ねぇな先生っ。ぐっと歯を噛み締めて、次の空白にペンを置いた。

「江馬クラスでは~明日から文化祭前の最後の休日――今月で言ったら~祝日となる二十四日の月曜日ですね~。それまではこれから言う各班にわかれて企画を詰め、大まかな準備をしてもらう期間になります~。そして二十五日からは~クラス全員で内装及び外装、衣装等、出し物で使うすべてのものの準備期間とします~今年は四日間ですね~」

 メモに日付となんとなくの概要を書いて、次の空白へ。

「二十四日までにそれぞれの準備、企画の詰めを行ってもらう班を発表します~。まずスタンプラリーに関してはこの企画を出した愛原班~」
「「はいっ!?」」
「あなた方が中心に動いてください~。ルート、ヒントの内容、点在場所等、まずはこの企画を出したあなた方が責任を持って、大まかな内容を出してくださって構いません~。もちろん~、この件に関しては幅広い案も必要なので~、まずは来週の水曜日のHRに定例会議をします~。それまでに大まかなことを決めておいてください~」

 来週の水曜日に定例、と乱雑な字を書いてから、また江馬先生を見上げれば。

「その定例会議で他の人たちと案を出し合った後~、二十四日までに内容の確定をお願いしますね~」

 にっこり笑って次のカフェの班ーと言い出す江馬先生。

 えっ待ってメンバー俺らだけ??

「これってほぼほぼ決定権俺らってこと?」
「そう、なりますわね……? 一応定例会議はありますけども……」
「せ、責任重大ですね……!?」
「思えば去年、演者が決定したときもすべて自分で決めるよう言われましたわ……」
「鬼畜だな江馬クラス……」
「な、なんか人として成長しそうだわ……!」
「そーね……」

 まぁヒトとして成長してるのかはわかんないけども。
 とりあえず、頭の回転だけは成長するなと苦笑いをこぼして。

 未だ教室に響く江馬先生の声も耳に入れながら、メモを見た。

 乱雑な文字で書かれてるのはこれからやること。
 ルート決定にヒント出しとかいろいろ。
 文字で書くのは簡単だけど限られた時間で全部出してかなきゃいけなくて。
 それ以外にも衣装やらなんやらやることはいっぱい。たぶん細かく紙に書きだしたらキリがないくらい。

 そのきりがないくらいのものを、頭の中で緩く組み立てていって。

「……」

 今回とんでもないなと苦笑いをこぼしながら、これはちょっとと思っていたとき。

「!」

 同じく頭の中でやることを組み立てていたらしいカリナが、気まずそうにこっちを向いた。

 これたぶん考えてること同じだよね。

 そう、互いに頷いて。

 まずは今日、親友たちのところに行きますかねと、カリナと一緒に苦笑いをこぼした。

『新規 志貴零』/レグナ

おまけ①
ちなみに杜縁先生担当、上級生男子組のクラスはとてもファンシーな説明書が作られたそうな(陽真と武煉大爆笑)
おまけ②
鬼畜な江馬クラスとは真逆で英牙先生担当の三組はとてもほのぼのと決まってました
クリスティア「えいがくんの髪見てたらライオン思い出す……ふわふわたてがみ……」
ティノ『ライオンって言ったら百獣の王だねー!』
リアス「キングを目指してゲームとかいいんじゃないのか」
閃吏「あっそれか、それぞれ得意分野のもので勝負してくのありなんじゃない? 炎上君だったらチェス勝負とか」
エルアノ『それぞれのキングと勝負ですか、おもしろそうですわ』

 制限などなくとも柔軟な発想を持つ子らが多いのでぱぱっと案が出たそうな。