また逢う日まで 先読み本編second September

第3話
 真っ暗な視界に、ほんの少し明かりが差す。

「ん……」

 まぶしいそれに眉をしかめている中。外で鳥のビースト達が挨拶しあっているのが聞こえた。
 口々におはようだの、今日もきれいだの、静かな外に響くそれを聞いて、あぁ朝かとぼんやりした頭で思った。

 そうしてすぐに覚醒した。

 なんだって?

 あぁ朝か、と?

 気づいた瞬間、がばりと起き上がる。腕の中で眠っていた小さな少女が軽く吹っ飛んだのは反射ですかさず受け止め。

「……」

 まぶしさを感じた、窓を見た。
 未だカーテンの閉まっている部屋の窓。けれどカーテン越しでも少しまぶしく感じる日差し。

 ……これは?

 まさか、なんて思いつつ。苦笑いをしながら視線を時計にやる。

 時刻は、

「……八時……」

 今日は日曜、笑守人は休み。焦る時刻ではないのだが。
 正直。

「まじか……」

 久しぶりに爆睡をしていたことに、驚きを隠せず。
 まだぼんやりとする頭を、手で覆った。

 文化祭の出し物が決まり。
 来週からの本格的な準備に向けて、それぞれのクラスではすでに動き出していた。

 それは俺達三組も同じ。

 ゲーム大会をする俺達は、それぞれ担当する得意なゲームを出して、いろんな挑戦者に対応できるようにと、実力試しをしていたのだが。

 その実力試しが大変鬼畜であった。俺は今回チェスを担当するんだが。

 なんだ最高難易度五連勝って。しかもチャレンジは一回きり。負けたら得意分野とみなされず違うものに移るか裏方や物販に回るかという仕様。
 いや一応五連勝はできたけども。

「未だに頭にチェスが映る……」

 チェスや将棋は一回の勝負が長いからということで、HRが終わってから昨日の土曜まで。
 放課後に、獅粋が持ってきたタブレットに入っているチェスのアプリで延々と最高難易度に挑戦していたので頭の疲労がやばい。

 いくら睡眠を調整していようともそりゃあこの日曜に爆睡するだろうということも頷ける。

「……」

 神経衰弱を担当することになった隣の恋人も。勝てよと言ったので記憶力に全力を出したことでいつも以上に爆睡中。あまりのぐっすり具合にいつものように頬をくすぐるのもはばかられた。

 そして。

「……」

 そのあまりのぐっすり具合に、また眠気がやってくる。
 落ちてきそうな瞼。重くなってくる頭。しかしできればあまり寝たくはない。寝るのは苦手だ。

 恋人のようにぐっすり眠って、また彼女を助けられなかったなんてことは勘弁願いたい。

 けれど思いに反して瞼は重くなってくる。あくびも出てきた。

「目つぶったら確実に寝るなこれは……」

 そしてこうして布団に寝転がるからもう寝るの確定だよな。枕にぽふっと落ち、すやすやと寝息を立てている恋人を引き寄せる。んぅ、といつものように可愛らしくうめく恋人は、俺の体温を感じたのか。すぐに強く抱き着いてきた。
 その愛おしさに安どして。さらに眠気が加速する。

 リヒテルタを出して久々にこの眠気のままぐっすりと行くか。あぁでも、今のこの状態で魔力を練ったらサイズをコントロールできそうにもない。さすがにドアから出れないサイズだとあいつも困るだろう。ただ深く眠るならばなにか安心材料がほしい。レグナたちは呼べない。ならやはりリヒテルタ――。

「……」

 そう、珍しくうとうととしながら。
 どうにか頭を回し、とりあえず魔力を練ってみようかと思い至った時だった。

 家の、インターホンが鳴った。

「……」

 思考が止まり、一瞬その音を考える。
 その間にももう一回。

 家に、音が鳴り響く。

 その余韻が響いている中で、どんどんと眉間にしわがよっていっているのに気づいた。

 誰だこんな朝早くに家に来るのは。
 眠たい目をなんとかこじ開けて、ひとまずスマホを探す。起き上がることはしたくないので手を上に上げ、枕の中に隠れているであろうそいつを探った。
 昨日いじっていたあとから記憶がないのだから恐らくこのあたりに――いた。

 案の定枕の中にいたそいつを引っこ抜き、電源を付ける。

 が。

「……」

 あるだろうと踏んでいた通知はひとつもない。表示されているのはロック画面に設定してある四人の写真と、八時を過ぎたことを示す数字だけ。

 ならば宅配便か。

 そう寝ぼけながらも思い至った考えには、緩く首を振ってクリスティアを抱きしめた。

 何も注文したものなどない。故にうちに来るものは何もない。となればあれは勧誘か何かだろう。それならばお断りだ。

 無視を決め込み、クリスティアが起きないようにと彼女の耳をふさいでやり。布団を深くかぶって、強く目を閉じた。

 けれど、インターホンはまた鳴る。

「……」

 眉間にしわを寄せてもう一度無視をすれば、再び。

 負けじとクリスティアを抱きしめていると、もう一度。

 果てには。

「うるせー……」

 感覚短くして鳴らしてきやがる。しつこすぎるだろ勧誘がっ。

 あまりにも鳴るから耳に残っているかのようにも感じるその音に、今度はクリスティアを抱きしめながらがばりと起き上がる。
 その間にもインターホンは鳴り続けた。

 それにいらだちを隠しもせず大きく舌打ちをし。

「誰だ非常識な奴は……」

 それでも鳴り続けるインターホンに、俺の方が折れて。

「クリス」
「んぅ…」

 響くインターホンの中、クリスティアの背を緩く叩いた。起きろと言われていると思っているんだろう。いやいやと首を横に振って恋人は俺に抱き着く。それにきゅんとしながらも、もう一度背を叩いた。

「インターホン。出てくる」
「んぅ?」
「少しだけ。な」

 優しく言ってやれば、のろのろと蒼い目が開いて俺を見た。それに微笑んでやって。彼女の手が緩んだのを見計らって、ベッドに下ろしてやる。

「いい子で待ってろ」
「…」

 どうせついてきそうだが。予想できる可愛らしい行動に笑いをこぼしつつ、その頭を撫でてやり。

 今現在可愛らしくない行動をしている外の輩を対処するため、部屋を出た。

 ドアを閉めずに足早に歩いて行き、廊下の角を曲がる。後ろの方でちいさくとてとてと足音が聞こえ始めたのを聞きながら、モニターの方に向かった。

「まだ鳴らすか……」

 さすがにこんなに鳴らして誰も出なければ退散するだろ。だんだんと戻ってきた苛立ちを隠さず足音を立てて歩いていき。

 未だ鳴り響くインターホンの中、モニターを見れば。

「……あぁ……」

 その、犯人を見て。

 退散しないことに、思わず納得してしまった。

「逢いたかったよクリスー!!」
「んぅー…?」

 モニターに映っている人物達を招き入れれば、一人は一目散にちょうど廊下を曲がってきたクリスティアへ激突していった。寝ぼけているのと突然のフランス語に珍しく不服そうに眉を寄せたクリスティアに苦笑いをこぼしながら。

 俺の視線は玄関で靴を脱いでいる他のメンバーへ。

「……そろそろ常識というものを覚えてほしいんだが?」
「いやぁすまない、さっき終わったままで来てね!」

 そう言うクリスティアの義母、捩亜に溜息を吐き。客人用のスリッパを並べてやる。次いで入ってきたセフィル、アシリアからの礼に頷きながら。

 視線を今一度、扉のしまった玄関に向ける。

 そうして誰もいないことを確認して。

 いやいやとエイリィを嫌がっているクリスティアを視線にいれつつ、その手前にいる三人へ。

「義父らは」

 そう、聞けば。

「きみの未来の義父なら僕がいるじゃないカ」

 にこやかに冗談を言ってきたアシリアに思わず殺意が湧いてしまった。その殺意を隠さず、普段から表情はないがさらに表情をなくす。それに悪びれもせず、アシリアは肩をすくめ。代わりに応えたのは捩亜。

「彼は未だ研究だよ。借りたラボでシェイリスと一緒に素敵な時間を過ごしているだろうよ」

 あぁ、研究とその補助という名の。納得ができたので、頷き。招き入れた彼らを案内するため、先に廊下を歩いていく。

「もう、やっ!」
「えぇん、リアス、クリスがつれないよー!!」
「寝起きは勘弁してやれ……」

 抱きしめられたエイリィの腕から必死に逃れようとするクリスティアの元まで行き、一度しゃがむ。未だ愛の抱擁を諦めないエイリィを引き離してやり。

「クリスティア」
「!」

 腕を広げて名前を呼べば、恋人は俺の腕の中に飛び込んできた。うりうりとすり寄ってくる恋人を抱えて、エイリィもつれてリビングの方へ。

「飲み物は」
「紅茶はあるかいリアス」
「カリナが置いていっているものが」
「それをいただくよ。僕とエイリィは紅茶で」
「私とアシリアはコーヒーをもらおう」
「わかった」
「その間にクリスはわたしが預かるよ!!」
「今は諦めろ」

 また嫌がるから。
 エイリィの申し出は丁寧に断り、俺とクリスティアはキッチンの方へ。恋人を下ろしてやると、離れたくないのかぎゅうっと腰に抱き着いてきた。いとおしい体温に頬を緩ませつつ、電気ポットに水を入れていく。

「クリスここあ…」
「あぁ」

 引っ付いているクリスティアを連れながら自分達のものと客人用のマグカップを出していき、コーヒーやココアの粉、ティーパックをそれぞれのカップに入れていく。
 後ろでシャッター音が聞こえているのは無視をして。

「セフィル砂糖は」
「いらないよ、ありがとう」

 頷き、他は勝手を知っているのでミルクや砂糖を入れていく。クリスティアのも砂糖とミルクを入れてやり。
 お湯を沸かしてくれた電気ポットを持ってきて、一つずつ湯を注いでいった。

 甘い匂いが漂い始めた中で、ようやっと本題へ。

「それで? いろいろと経緯を聞こうか?」
「それはもちろん」

 後ろの捩亜の声を聞きながら、注ぎ終わったカップの中身をスプーンでかき混ぜていく。

「まず言ったね。調査だと」
「あぁ。イヤホンの調査で、主に義父とあんたがこっちに来ると聞いていたが」

 均等にかき混ぜ終わったカップをトレーに乗せ。引っ付いているクリスティアを連れてリビングへ向かった。
 礼を聞きつつそれぞれの場所に飲み物を置き、最後に自分の前に来るようにココアとコーヒーを置いて。

 クリスティアを抱えて床に座れば、ソファに座る親族達の中で。捩亜が頷いた。

「今回は人手が欲しくてね。文化祭もあるし、こちらも少々長期の調査になるし……エイリィたちには手伝いとして来てもらったんだ」

「そして思いのほか忙しかったと?」
「パパも捩亜ママも鬼畜だよっ!」
「長い間書類とにらめっこの毎日さ……」

 よくよく見ればエイリィとセフィルの目元には隈があるように見える。それに心の中で同情してやり、また視線は捩亜へ。その女はにっこりと笑った。

「二人ともなかなか見どころがあったよ。今後の助手に欲しいくらいだ」
「やめてやれ……」

 やりかねんし毎日悲鳴が聞こえそうだ。
 本気なのか冗談なのかわからない笑顔のまま、彼女は口では「冗談だ」と言って。

「こっちに来たのは、まぁ理由はいろいろあるんだけれどね」
「部外者が聞いても?」
「だめだったならそもそもぼくらにお願いはしないヨ」

 それもそうかとアシリアの言葉に頷いて。
 だんだんと俺の体温で寝そうになり始めているクリスティアを抱えながら、コーヒーをすすった。

「主な理由としては、イヤホンの不具合かな」
「不具合?」

 コーヒーを置いて聞けば、捩亜は頷く。

「夏休みはヒューマンとビーストのイヤホンをメンテナンスすると聞いていない?」
「あぁ――」

 そういえば八月にクリスティアが閃吏のイヤホンが紅だとくぎ付けになっていたな。この時期はメンテナンスに出すからサブ機で過ごしていると。

「なんとなくは聞いている」
「私たちは夏休みという長い期間を使って、試作機を使用してもらっている笑守人の生徒、ヒューマンとビースト全員のイヤホンをチェックしているんだけれどね。併せて使用感のアンケートとかも取っているんだけれど……例年に比べて少し雑音とかが多いという意見があって」
「試作機は数年に渡って使っているから、劣化によるものが主なんだケド……少し多かったらしいから」
「笑守人側で何かしらあるのかと調査に?」

 一瞬カリナが何かしらで妨害してしまうような電波でも出してるんじゃないのかと思ってしまった。あの女絶対盗聴器だとかつけているだろ。そういうのの関係でやらかしてないか。大丈夫か。
 なんて心配していたのもつかの間。

「まぁ、君らが授業中に歩き回っていろいろと調べた結果、異常はなく。ただの劣化ということが証明されたよ」

 同時に幼なじみの容疑も晴らされたということで、気づかれないようにほっと安どの息を吐いた。いつの間にかすやすやと寝息を立て始めたクリスティアを抱えなおして、それで、と顔を上げる。

「調査を終えてその足でうちに来たわけか」
「そういうことだね。まぁ調査が終わっただけで、まとめたりなんなり仕事自体は残っているのだけど」
「忙しいな相変わらず……」
「ここから先は簡単なものばかりだよ。それよりも連絡ができなくて本当に悪かったね」
「できれば家の来訪は連絡が欲しいんだが?」
「クリスに逢いたかったんだよっ!」
「いやうちに来るまでの移動時に連絡できるだろ……」
「その時間も惜しかったのっ!」

 その数秒を頑張ってくれればもう少しもてなしたものを。どうせ言ってもきかないことはわかっているので、溜息を吐くだけに済ませた。
 それを呆れられたと捉えたのか、エイリィがしょんぼりとして俺を見る。

「ご、ごめんねリアス……! でもどうしても、今日にはお仕事終わらせてっ、明日までに逢いに来たかったんだよっ」
「?」

 その言葉には当然疑問。

「……仕事が終わったなら別にいつでも逢えるだろ」

 ましてやエイリィ達は手伝い。これから多少仕事はあるとは言え、まとめるのは捩亜達の仕事で、エイリィ達はほぼほぼ自由と見てもいい。
 なのに何故今日や明日までなのか。顔に出ていたんだろう。ついでに首を傾げたので、その疑問を悟ったセフィルが笑った。

「これからあるんだろう? ブンカサイ」
「そうだな」
「日本語を調べるついでって言ったらあれだけれど……エイリィと一緒にいろいろブンカサイのことも調べていてね。どうやら前々から準備するそうじゃないか」
「日本でそのブンカサイを体験した捩亜ママに聞いたら、二週間前くらいから始まるって!」
「確かにうちも火曜から準備が始まるが」

 けれどそれとエイリィ達が明日までに俺達に逢いたいという言葉が繋がらない。未だ理解のできない俺に、今度はアシリアから声がかかった。

「楽しみなんだヨ、文化祭」
「……向こうでも楽しみにしていたな」

 アシリアは頷いて。

「その二週間で学園で手伝いをしていたり、この家に来たら何やるかとかわかっちゃうデショ? 見せ物だったら家で練習とかもするしネ」
「彼女らは当日全力で楽しみたいがために、今日までに終わらせたいと言ってね。本当なら準備期間中も調査でお邪魔する予定だったのだけど、予定を大幅に前倒しして終わらせたんだ」

 そう、楽しそうに言われ。
 目は主にエイリィを見る。

 その顔は昔と変わらない、子供のようにきらきらとした顔。

 そんなに楽しみか、と苦笑いが出つつ。

 心には、むずがゆさもあった。

 決して居心地の悪いものではなく、ほんの少し心地よく感じるむずがゆさ。この人生で、クロウ家に世話になって感じるようになったもの。
 正直なところ、そんなに楽しみなら手伝いなどせずギリギリまで向こうにいてもよかったんじゃないのかとか、捩亜達は忙しいのもわかるがお前はフランスにいる間連絡できるだろうとか、いろいろ思うところはある。恐らく言い出したならきりがないだろう。

 けれど言うのは憚られた。

 それは妹のような幼なじみもあって女に弱くなったからか、それとも。

 この義姉を喜ばせたいからか。

 言ってしまったらテンションが上がってうるさいので決して言わないけれど。

「…♪」

 きっといつの間にか起きてしまっている腕の中の恋人はよく知っているのだろう。
 彼女にばれていることと、そして未だきらきらとした顔で文化祭について語りだした義姉の期待に。
 今回の突然の来訪咎めることはまた次回にすることにして。

 照れくささで、義姉の声が響く中。

 隠すように、紅くなったであろう顔を覆ってうつむいた。

 その紅くなっている顔は、語ることに夢中になっていたエイリィには無事気づかれることはなく。

「うわぁぁあんクリスあそぼうよぉぉぉおお!」

 先ほどまできらきらとした笑顔で喋っていた義姉は今現在大泣きしている。
 忙しいなこのヒトは毎度毎度。そんな俺の目など気にせず、義姉は覚醒したクリスティアに抱き着いて声を上げ続けた。

「一緒に遊ぼうよクリスーー!」
「ごめんね…」
「うわぁぁああんっ」

 先ほどクリスティアがしていた以上にいやいやと首を横に振って駄々をこねるエイリィ。すげぇなどちらが大人かわからん。そしてクリスティアの顔がいつも以上に無すぎてだんだんと笑いがこみあげてきている。おい大人組わかっているからな笑ってるの。

「アシリア、捩亜、コーヒーこぼすなよ」
「ふ、ふふっ、自信ないヨっ……」
「持ったはいいけれど置くタイミングがっ……ふはっ、あつっ」
「捩亜……」

 自分の指にコーヒーをこぼした捩亜にはティッシュを渡してやり、礼を聞きながらまたクリスティア達へと目を戻す。
 未だに駄々をこねているエイリィとそれをなだめるクリスティア。かれこれ三十分か。

「我が娘も少しくらい遊んでやればいいとは思うけれどね」
「いやまぁ普段ならわかるが……せっかく来てくれているし」

 言いながら、手伝いの片割れのセフィルを、というか主にセフィルの目を見て。

「三徹の生物とまともに遊べるとは思えないんでな」
「僕はもう眠いよリアス……」

 お前それ天界に行くようなセリフだぞ。帰って来い。

「今日寝て明日来るじゃだめなのか」
「エイリィ曰く、今寝たら三日位起きないらしいヨ」
「限界じゃないか……」

 おいセフィル寝るな。

「ここで三日間眠られたら困る」
「うん……」
「セフィル」
「リアスが兄さんと呼んでくれたら僕は起きるとしようかな……」

 今日も絶好調じゃないか。
 優しく起こすことはやめて、今では義理の兄となったその男の頭をはたいてたたき起こし。うめき声を聞きながら足はクリスティア達のもとへ。

「グリズ~っ」
「とりあえず寝よ…?」
「寝たらもう逢えなくなっちゃうよぉおお」

 クリスわかった、今助けてやるからそんな「もう無理」みたいな顔で俺を見るな。笑う。
 痛む腹筋をこらえつつ、クリスティア達のもとへ歩いていき。

 未だ恋人に抱き着いている義姉の前に来るように、しゃがんだ。

「エイリィ」
「うぅ……リアスも遊ぼうよ……」
「いやお前が正常ならもちろん遊ぶけども……」
「わたしはいつだって正常だよっ!」
「今現在明らかに異常だろ」

 自分の顔を見てこい、よくよく見たら顔ひっどいぞ。

 けれどどうせ、エイリィが、なんて言っても本人は大丈夫で通すんだろう。そのくらいよく知っている。

 なので。

「エイリィ」
「?」

 恐らく効果抜群であろう、

「クリスティアが心配で気が気じゃないし、一緒に楽しめないそうだ」

 祈童曰く「刹那教」の信者に効く言葉を言えば。

「……」
「……」

 今まで騒いでいたのが嘘のように、エイリィはぴたっと泣きやみ俺を見る。現在ぎりぎりで回っている頭で理解している彼女はじっと俺を見て。

「……一緒に?」
「一緒に」
「楽しめない?」
「あぁ」

 ひとつずつ飲み込むように反復する言葉にうなずいていき。

「……クリスが?」

 最後のキーであるその言葉にも、頷けば。

「っ!!」

 ばっと義姉は立ち上がった。衝撃で吹っ飛んだクリスティアはすかさずキャッチして、腕の中に収める。
 そうして、後ろでさりげなく聞こえる笑い声を聞きつつ、立ち上がったエイリィを二人で見上げれば。

 若干眠たそうながらもはっきりと意思を持った目が俺達を見る。

「ご、ごめんクリス!」

 ――そう。

「わたし寝てくるねっ!!」

 きちんと「寝る」という意思をしっかり持った目で。
 なんの宣言だなんて俺たちも笑いそうになりながら、なんとかそれには頷いた。

 それを見たエイリィも頷いて、確固たる意志で歩き出す。

「セフィルっ! また明日来るために帰ろっ!」
「お迎えかい天使様……」
「逝くな逝くなラボへ帰れ」
「今からいっぱい寝て明日クリスと遊ぼっ!!」
「うぅん……」
「クリスが一緒に絵描いてくれるって!!」

 クリスティア、「言ってない」と言いたいのはわかるが今だけは我慢してくれ。セフィルがその言葉のおかげで覚醒し始めたので、口を開きかけた恋人の口はパンっと若干いい音を立ててふさがせてもらって。

「それじゃあ我々は一旦帰ろうか」
「夜に起きれたら食事に来てもいいカナ?」
「それはもちろん」

 帰るために玄関の方へと歩き出したエイリィ達を追うように、アシリア達も立ち上がり。見送りのために俺達も玄関へと歩き出した。

「今度は連絡をくれるとありがたい」
「善処するよ」

 これはしないやつか。「善処」という言葉の信頼性は一番自分が知っているのでもうあきらめるとして。

「ほら」
「んっ」

 玄関で靴を履いているエイリィ達に向けて、クリスティアの背を押した。恋人はとてとてと歩いていき、靴を履き終えたエイリィ達の前で止まる。
 なぁに、と言うように微笑んでるエイリィ達へ向けて。

 きっとしているんだろう、いつものようにかわいらしいあどけない顔を。

 そしてその表情のまま、俺に背を向けている恋人はこてんと首を傾げて。

「エイリィ、セフィル」

 二人の名を、少々甘ったるく呼んだ。それにきゅんとしたような顔をしている二人へ向けて。

「クリスもいっぱい寝る」
「うん」
「だから」

 起きたら、いっしょにあそぼ、なんて。

 なんともかわいらしく言われてしまえば。

「当然だよクリスっ!!」
「今から僕らは快眠の旅に出てくるからね!」

 落ちないなんてあるわけがないわけで。まぁ予想通りすぎる反応に空笑いがでてしまった。そんな俺のことなど二人は知らないまま、こちらへ目を向けた。その目は当然俺ではなく、隣の二人へ向いている。

「捩亜ママッ、アシリアパパッ! 早く帰ろうっ!」
「たくさん眠らなければいけないよっ!」
「彼らは本当に面白い夫婦だね」
「見ていて飽きないヨ」
「日本の旅行中退屈しないようでなによりだ」

 安心もできたということで行ってやれと目で合図。二人は頷いて、口々にまた来ると言葉を残して玄関へと向かって行った。

 靴を履いている間に、すでに扉を開けたエイリィはクリスティアへ別れの言葉をかけている。

「明日来るからねっ!」
「うん…」
「もし来れなくても連絡するからっ! ビデオ通話とか!」
「うん…」
「クリスもいっぱい寝るんだよっ!」
「はぁい…」
「おやすみクリス!」
「おやすみ…良い夢を…」

 相槌が雑にも聞こえる恋人の返しに笑いそうになりながら、俺も見送るため玄関へと近づいていった。門へ行くまでの道のりでも振り向いて手を振ってきているエイリィ達に緩く手を振りつつ。

「じゃあまた」

 靴を履き終わった捩亜達にも頷いた。

「もし君たちの友人の中でイヤホンがまだ不具合とかあったら教えてほしい」
「あぁ。それとアシリア、レグナが」
「メサージュは見てるよ、ダイジョウブ」
「そうか」

 ならば伝言などはないと、腕を組み、壁にもたれて。

「それじゃあまた来るねクリスティア」
「うん…」
「なにかあったら連絡するんだヨ」
「はぁい…」

 ほんの少しの家族の時間を、見守ってから。

 手を振って出ていく親族たちを見送った。
 門を抜けていくのを見終わる前に、ドアがぱたりと閉まってその姿が見えなくなる。

「……」
「…」

 家の中に走るのは先ほどと違って静寂。

「……」
「…」

 どのくらい経っただろうか。

 ようやっとその静けさになれてきた中で。

 クリスティアが、口を開いた。

「…ねぇ」
「うん?」

 恐らく恋人もドアを見つめたままだろう。俺も、彼らが消えていったドアを見つめたまま応じた。

 そうして、過ぎ去った嵐を堪能しつつ。

 恐らく互いに遠い目で。

「…明日エイリィ達が来ないに一票賭けたい」
「その一票が被った場合賭けは成立するか?」
「お互いの好物を送りあうってことで…」
「乗った」

 明日この家に来訪者は来ないだろうと確信して、俺達はその場を去っていった。

 ちなみに賭けはお互いの勝利で終わった。

『新規 志貴零』/リアス