また逢う日まで 先読み本編second September

第4話
 本の邪魔にならないように気を付けて、腰の下くらいまでの台を、風魔術で少しずつずらしてく。

「ここらへん?」
「もう少し右の方がいいんじゃないか」
「おっけ」

 遠目から見てもらってる祈童からアドバイスをもらいながら、その台はほんの少し右へ。

「どー?」
「すまん、若干左だ」
「ここらへん」

 言われた通りにミリ単位で左へずらして、すとんと台を地面に下ろす。

 そうして祈童を見れば。

 頷いて。

「いいと思う」

 ようやっと、了承をもらったってことで、祈童に笑った。

 週も開けた水曜日。うちのクラスでは昨日から全員で文化祭の内装やら衣装やらの準備に入ってくって段階に切り替わりまして。
 ばたばたながらもスタンプラリーの企画を無事に決定まで持って行けた俺たちも当然その準備に取り掛かっていて。

 俺はとくにテレポート要員として、祈童と一緒に指定場所にスタンプ台を置きに回っている。

 同じテレポート要員であるカリナは女子組として雫来、道化と別方向で行っていまして。

 図書館やら屋上の付近やら、若干めんどくさい場所を任された俺は、最終地点であるこの図書館で一度溜息。

「……服作りてー」
「溜息と一緒に本音が出てるぞ波風」
「そりゃ出るわ……」

 今年の文化祭でまだ一切布触ってないもん。
 そろそろ禁断症状出そう。それをごまかすように、置いたスタンプ台にかかってる布を触った。

「これが終わったら衣装班だろ?」
「まぁそうだけども……」
「明日か明後日には触れるじゃないか」

 それもう最終チェック段階じゃん。

「俺は一から作って華凜に着せたかった……」
「人が少ないからってどんどん危ない性癖を暴露しないでくれ波風」

 困る、なんて困ってもないくせに言った祈童は、確認のために離れてた距離を詰めて俺の隣へ。そうして何食わぬ顔でスタンプ台の確認。
 さっとチェックを終えた後は、祈童が持ってたスタンプ用紙を数えてく。

「若干他のところより枚数が少ないかもしれない」
「まじで。持ってこよっか」
「んー、いや……?」

 首を傾げながら二の四のと数えていって、十枚束をスタンプ台に置いて。
 また数えて置いてを繰り返す。それを待ちながら、俺はスタンプの方を確認。

 この地点でもらえるのは華のスタンプ。若干カリナを思わせるような桜の柄がちゃんと入っているのを確認して、置いといたインクを乗せた。
 あ、インク付けたはいいけど紙なんかないかな。

「祈童、紙」
「何かついてるか?」
「髪の毛じゃなくてスタンプ押す紙が欲しい」
「ポケット」

 数えながらでも応じてくれる祈童のポケットに手を失礼させてもらう。そこには言った通り無地の紙。さすが祈童用意いいわ。
 真剣に数えているのでお礼はあとにさせてもらって、ぽんっと確認のためにスタンプを押した。
 薄暗いからほんの少し暗い色に見えるけど、ちゃんとピンク色が出てる。

 それを確認して、スタンプは所定の位置へ。紙は俺の手で持たせてもらうとして。

 二の四の、と予備の分を数えている祈童の声を聞きながら、薄暗い図書館の中をぼんやりと見回した。

 去年同様、長い間借りられない本とかを譲りに出すからか、本棚には少しだけ空白みたいなのができてる。
 去年雫来からもらったラノベ結構面白かったんだよな。またなんかあんのかな。雫来今年も図書委員だし、図書の方行くよね。いる時間帯聞いてなんかもらいに行こうかな。

 そう、空白のできてる本棚をぼんやり見ていたら。

「波風」
「んー」

 何食わぬ声で、祈童が俺を呼ぶ。終わったかなと、祈童の方を向けば。

「ここに来たのは木乃の子への牽制かい?」

 なんて。
 声と同じく何食わぬ顔をしているのに。

 まるで神様みたいな雰囲気をまとって、言った。

 それにきょとんとしたのは一瞬。

「……別に、そういうわけじゃないけど」
「進んでこっちに来たじゃないか」

 そう笑う雰囲気も、どことなく主を思い出すような感じ。

 たったの数回だけかもしれないけれど、それには慣れているので。
 なんの違和感もなく応じていく。

「前に華凜が帰ってこなかったじゃん。普段ならいいけど、ばたばたしてるときにまた帰ってこないとかあったら困るんだよ」
「普段の”君”ならわけも聞かずに問答無用で連れて帰ってくるのに」
「……」

 黙ったのは、図星だったから。

 けれどその黙った一瞬が、なにかのきっかけだったのか。

「……!」

 ハッと、祈童の顔が我に返ったように変わる。
 そうして俺を見て。

「……えぇと」

 ”やってしまった”というような苦笑い。それも慣れているので、肩をすくめておいた。
 そうしてさっきの会話を続けるように、口を開く。

「若干向こうもわけありっぽいし?」
「……」
「ガチで寝てたみたいだから。今回も不問ってことで」
「……優しいね」

 笑って言うその言葉は”どっち”のものか。
 たぶん今回は両方かな、なんて思って、また肩をすくめて笑っておく。

 それを見た祈童は、また一瞬だけ我に返ったような顔をして、気まずそうに目をそらして。

 数え終えたらしいスタンプ用紙を、スタンプ台に置いた。

「……」
「……」

 なんか話したげな祈童は目を少しだけうろうろとさせる。口も何度か開きかけては閉じて。
 また開いては、閉じる。

「……どしたの」

 それを緩く、緩く促してやるように聞いた。
 その促しに、祈童は俺を一回見て、また目をそらす。

 開いた口は、今度は閉じなかった。

「……その」
「……」
「前に、したいと言った……告白をしても?」
「この図書室はそういうハプニングばっかり起きんね」
「茶化さないでくれ」

 真剣だ、なんていう雰囲気は。そんなんじゃないってわかってても正直”そういう”雰囲気を思わせる気がする。それは最近のあの女子組の影響か。
 そう頭の中でそわそわしだす女子組は隅に追いやってから。

 なんとも言えない顔をしている祈童にしっかり目を向けた。

 若干予想はできてるけれど。
 そして、答えも俺の中では決まっているけれど。

 本人の口から言うまでは口を閉ざすと決めて、ただただ祈童を見つめる。

「……」
「……」

 少しだけ奥まった図書館。薄暗い室内。
 ほんの少し長く感じる、沈黙。

 その、沈黙をじっくりと待っていれば。

 祈童は、意を決したのか。
 俺を見て、口を開いた。

「……き」
「……」
「気味、悪く、ないか」

 と。

 あ、ごめんねちょっとだけ予想外だったかもしれない。

「ごめん祈童もう一回」

 なんて? と聞けば、祈童は吹っ切れたのかしっかり喋ってくれる。

「気味っ、悪くないのかと」

 聞こえた言葉は間違いではなかったっぽい。

 でも待ってね。

 間違いじゃなかったのはいいんだけども。

 予想外なのは変わらず。そして理解も若干できずに。

「……?」

 首を、傾げてしまった。

「……何故首を傾げるんだ」
「いや、まぁその、若干予想外な言葉だったもんで……」
「まさか僕が本当にお前にそういう告白をするとでも??」
「それはなかったけども」

 そこは信じてたけどもっ。
 そうではなくて。

「……まさか一発目で”気味悪くないか”なんて聞かれると思わないんだけど」
「……聞きたくなるだろ」

 気まずそうに目を逸らす祈童。

 普段は、そこに踏み込むことはないけれど。

 明々後日から文化祭。今、ここで俺が身を引けば。

 もやもやした気持ちで、ほんとは楽しいはずの文化祭を過ごすことになるんじゃないかと思って。

「……なんで」

 珍しく、踏み込んで。聞いてみた。
 それに、祈童はまた目をうろうろとさせながら。

「……気味、悪くもなる」

 ぽつり、ぽつり。この数か月、なんだかんだ後回しにさせてしまっていた”告白”を、こぼしていった。

 祈童家というのは、大昔。
 神に毎日毎日祈りを捧げていたことを神様に称えられて、俺たちの主でもあるセイレンから直々に「祈る童」という意味で「祈童」という名字を賜った家である。
 その、祈童家に生まれた者は。

「……特異体質と言うんだろうな」

 毎朝と毎晩、必ず祈りを捧げる習慣が生まれながらに身についていること。

 そして。

「セイレン様が、僕らの体を借りるようにして言葉を発するような現象を起こすらしい」
「……」

 まるでさっきのように。
 そして今まで何回かあったように。

 ときおり、主がこっちに来たかのように話すことがあるらしいと。

 祈童は誇らしさなんてなく、むしろ自嘲するように言った。

「ものは違うが、まぁなんだ。二重人格みたいな、そんな風な感覚でね」
「うん」
「言った言葉の記憶とかはある」
「……」
「……時々、頭でも声がすることがある」

 口から言葉が勝手に出たり、頭でも会話するように言葉が聞こえたり。

「……気味悪いだろう?」

 そう言う祈童は。
 きっと前に言われてきたんだろう。

 どことなく、寂しげだった。

 その予想を肯定するかのように。祈童はスタンプ台に寄り掛かって、下を向いて。こぼしてく。

「……おかげで友達なんていなくてな」
「……」
「高校で初めて、道化が友達になってくれた」
「そう」
「他の奴らは近づきもしなかったのに」

 そうして、

「次は波風と氷河だった」
「……うん」
「そこから驚くくらい自分に友達ができて」

 嬉しくて。

「……ときおり、怖くもあった」
「……」

 自分を知られたら。

 今までみたいに、また気味悪がられるんじゃないかと。

 そうこぼす祈童から、床へと目を移す。

「……一気にこう、絶望する前に」
「聞いとこうって?」

 あわよくばそこで離れていこうと。
 視界の端で、頷いたのが見えた。

「……」
「……」

 祈童がこぼしていった言葉を、しっかりと頭で理解していって。

 まず自分の答えを出す前に、ひとつだけ聞いてみた。

「祈童さ」
「……」
「なんで俺に言ってくれたの」

 一番最初の友達なら、道化がいたはずで。
 もっと理解のあるやつなら、リアスだっているし。

 こういう話なら、きっと。クリスティアの方が優しく包んでくれたんだと思う。カリナだってそう。

 それなのに、どうしてと。

 床を見たまま聞けば、小さな声が返ってきた。

「……一番最初の、女子の友達の、道化には聞いたことがある」
「どうだった」

 なんて聞かなくても答えはわかるけれど。
 聞いてやれば、少しだけ笑いを含んだ声で。

「”自分の目で見たものが真実だ”と」

 俺にも言ったような答えを言うから、思わず笑った。
 きっと今思うと、それは道化自身がそうであってほしいという願いなのかなとも思うけれど。

 それは今出す答えではないので、頭の片隅に置いておいて。

 今答えを出すべき友人へ向けて、口を開く。

「一番最初の男子の友達にも聞きに来てくれたんだ」
「……」

 その答えを聞くのは、きっと怖かっただろうに。
 祈童の顔は見ないまま、目をまっすぐ前に向けた。

 そうして、自分の答えを。自分の言葉で言おうと、口を開く。

 俺は、道化のようにかっこいい言葉なんて言えないし、クリスティアのように、優しく抱きしめてあげられるわけでもなくて。
 俺に行くように促したであろうリアスみたいに、頭使って気の利いた言葉は言えないから。

「気にしないけど」

 ただ、それだけ。

 たったそんな、あっさりとした答えだけを、祈童にこぼした。

「……」
「……」

 走るのは、当然沈黙。
 なんとなく祈童の視線も感じる気がする。ただそれには目を向けることなく、言いたいことはそれだけというように前を見続ける。

 どのくらい沈黙が走ったかはわからないけれど。
 俺が口を閉ざしているので思ったんだろう。祈童から声が聞こえた。

「……それだけか波風」
「それだけです祈童」
「なんかこう、言っといてなんだが僕はもう少し言葉があると思っていた」
「そんなお前も素敵だねみたいな?」
「そういうあの女子組たちが喜びそうな言葉でなくだな」

 言いたいことはわかるけども。
 でもこのくらいしか言うことなくない?

「そもそも気にしてたら俺はお前と一緒にいないけど」
「いやまぁそうかもしれないが……なんかこう、あるんじゃないか、こう」
「言ってないことまでも知っててどういうことよ!みたいな?」
「なんでそこだけ女子口調になったのかはわからないがまぁそういうことだな?」

 あっただろ、って言われて思い返せば、まぁ確かにあるよ言ってないことで祈童がまるで知ってるように言ったやつ。
 背中の傷とか。

 背中の傷に対して「どうしたの」じゃなくて「消さないの」ってなったらそりゃまぁ、おぉ言ったことあったっけにはなるけども。

 やっぱり答えはひとつ。

「……気にしないかな?」
「なかなか強靭な精神だよな波風……」

 いや、だってねぇ?

 親友のように、爪をいじって。

「どっちもお前であることは変わらないじゃんか」

 時折セイレンが入ってようが、頭の中でおしゃべりしてようが、それが口に出てしまおうが。

「そういう現象も含めて祈童結なんでしょ」

 それを俺は、気味悪いとなんて思わない。
 むしろ。

「俺としてはそれで、その生物の人生救えたりしてんならいい力だと思うけど」

 どんなに願っても抗っても救えない俺からしたら、うらやましいと思うほど。
 いい力だと思う。

 最後に心によぎった言葉たちは言わなかったけれど。
 ぽつりぽつりと言いきって。

「っていう感じなんだけど――」

 祈童を見れば。

「……」

 え、祈童泣いてるじゃないですか。

 え、待って待って、え?

「待ったなんで泣いてんの祈童」
「そりゃ泣くだろ……」
「いや泣く要素が俺には見当たらなかったんだけども!?」

 やばいあまりにもあっさりしてたから逆に傷つけてしまったか。え、待って待って祈童顔覆ってかないでだんだんしゃがんで行かないで祈童困る焦る。

「待った待った俺困る泣かれると困る」
「僕も困る波風……お前本当に罪な奴だな……」

 いや罪は背負ってますけれども。たぶん祈童が言いたい罪ってそういう奴じゃないよねたぶん。

 ぐすぐす鼻すすりながらしゃがんでいった祈童を追うように俺もしゃがんで。
 何千年と経った今でも、泣いてるやつの対処法なんてわからない俺は。

「……」

 ただただ、その背をさするだけ。

「優しくされると好かれるぞ波風……」
「いやまぁ友人の好きなら大歓迎だけども……」
「女子には無暗にやってやるなよ……」
「お前泣いてんのにそこはしっかり呆れた声出さないでくんない?」

 しかもやらないし。
 こいつはもう大丈夫かと、心配して損したのでバシッと背中を叩いてやった。

「波風痛い」
「泣いてるとあとで向こうの女子組に勘違いされるんで泣き止んでくださーい」
「お前は本当に付き合ってくほどにあっさりだな……」
「そこがいいところなんで」

 立ち上がって笑ってやれば、顔を上げた祈童は少しだけ目が紅いけれど笑った。

「やっぱり僕は波風のそういうところが好きだぞ」
「どーも。で? スタンプ用紙結局何枚だったの」
「九十八くらいだな」
「んじゃ十分だね」

 祈童から定評をもらったあっさり具合で話をぱっと変えて。
 手を立ち上がらせるように手を伸ばした。それに一瞬目をぱちぱちとさせたけれど、意図がわかった祈童は笑って俺の手を取る。
 それを引っ張ってやって。

「そっちに倒れてやろうか?」
「あ、お断りします」

 なんて冗談を交わしながら、祈童を立ち上がらせる。
 無事にスタンプ台の方とかも大丈夫ということで、スタンプ用紙をそろえて、最後に。

「祈童」
「うん?」

 互いに見合うことはないまま、口を開いた。

「文化祭、楽しめそう?」

 心置きなく。

 そう、聞けば。

 また、隣で少しだけ泣きそうな音が聞こえて。目元を拭うようなしぐさも見えて。

「……あぁ」

 声も、涙交じりだった。

 けれどそれは気づかなかったふりをして。

「ならいいんじゃない」

 そう言って、トンッと。

 ひとつ何かを区切りをつけるように、スタンプ用紙を台にたたきつけて。

 肩にかかる重みに、笑いをこぼしながら。

 スタンプ用紙を、台の上へときれいにそろえて置いた。

『新規 志貴零』/レグナ

おまけ
目元が紅い祈童くん
レグナ「どうすんの、戻れる?」
結「頑張りたい……ただもう少し肩を貸してほしい……」
レグナ「それはいいけども……」

 しかし運命は残酷というもので戻ってこない男子組の図書室へ女子組入場。

美織「祈童くんたち帰ってこないわねー」
華凜「他の地点ではいなかったので残るはここだけですけれど……」
雪巴「ぃ、入れ違いですかね」

レグナ&結((うわぁどうしよう))
目元も紅い、祈童が泣いてるという腐女子が喜びそうな要素を満たしている二人、大ピンチ。