また逢う日まで 先読み本編 second grade November

第2話
どきどきしてる。

「わぁこのクリスティアかわいいねぇ!」
「やはり去年の文化祭も行きたかったねエイリィ」
「ねー!」

一番新しいアルバムを置いてる部屋の中。
たくさんの写真を広げて見てるエイリィとセフィルに頷きながら。

「…」

わたしの心は、どきどき。
それに気づいてるリアス様はさりげなく手を握ってくれて。あったかい手に、ほっと息を吐いて。

「この衣装さいっこうだよ! さすがレグナ!」
「どーも」
「このハロウィンのもうさぎもかわいいねぇ! リアスの狼もかっこいい!」
「カリナとレグナはおそろいの猫かな?」
「お兄様にはめられましたわ」
「クリスの要望でーす」

会話を聞いてる間に、また。

「…」

リアス様と寝室に使ってる部屋に置いてあるものを考えて。

どきどきしながら、リアス様の手を握った。

思ってたよりは、ちょっとだけいっしょにいる時間は短かったけれど。
それでも、いっしょにいれる時間はめいっぱいあそんだ、エイリィとセフィルとの時間。

それも、もうちょっとで終わり。

夜の列車に乗って、二人はもう帰っちゃう。
本当は列車のとこまで行ってお見送りしたかったけど、エイリィたちが「笑顔でお別れしたいから」って、リアス様のことを考えてくれて。お見送りは、一番笑顔でお別れできるおうちですることになった。

その、お別れまで。

ちらっと時計を見たら、あと一時間。

時計の針が進むたびに、寂しさも少し。でも心が、いっぱいどきどきしてる。

わくわくのどきどきよりは、ちょっとだけ、不安。

二人に用意した、この日までのアルバム、喜んでくれるかなって。

作ってるときから、わくわくしながら心配もたくさんあった。

文化祭でもらったノートに貼ったたくさんの写真。
ハロウィンとか、文化祭とか、準備期間のとか。コメント書くスペースのギリギリまでいっぱいしきつめて貼った思い出たち。

そうして最後に。

昨日の夜、エイリィが撮ってくれた行動療法の、おやすみのキスの写真。カリナがさっき急いで現像してきてくれて。
エイリィたちが家にあるアルバムに夢中になってる間に、最後のページに張り付けた。

最後のチェックでざーっと見たアルバムの中を、頭の中で何度も思い返す。

みんなでこっちを向いて笑ってる写真。おしゃべりしながらお菓子食べてる写真。
リアス様と二人っきりとか、カリナとレグナのツーショットとか、エイリィたちも入った写真とか、いっぱい。
その隣に、たくさんのコメントをリアス様といっしょに書いて。最後のページの手前には。

いっぱいあそんだ、はるまやみおりたちにもメッセージを書いてもらった。

何度も読み返したから、もう見なくても全員分言える。

楽しかったよ、また逢おうね。
今度はこんな場所行こうね。そんなたくさんのメッセージ。

もちろん、わたしたちからも。
いっしょにあそんでくれてありがとう。またあそぼうね。

そう、たくさん思いを込めて作った手作りのアルバム。

――喜んで、くれるかな。

笑顔になってくれるかな。

「ねぇクリス!」
「!」

今みたいに、ぱぁって明るい顔で、笑ってくれるかな?

自信もあるのに、やっぱりどこか心配で。

「なぁ、に」

呼ばれた声に、ほんの少しだけ。声がうわずった気がした。気がしただけって自分に言い聞かせて。ぎゅって握ってくれたリアス様の手に、一回息を吐いてからエイリィに首を傾げる。

「このクリスマスの衣装、かわいいねぇって! ほんとにさいっこうだよねレグナの衣装!」
「君のセンスは本当にすばらしいよレグナ!」
「もうほんと照れるわ……」

ほんの少しだけ、珍しく顔が紅くなってるレグナに笑ってから。

「クリスもほらっ、お姉ちゃんと一緒に写真見ようよ!」

手招きされて、隣の人からは背中を押されて。

「ん…」

一瞬見えた時計があと三十分っていうのを教えてくれてるのに、またどきどきしながら。エイリィとセフィルの方に近づいていった。
広がってるアルバムとか写真を踏まないようにエイリィの隣に行けば。

「クリス、こっちこっち!」
「わぁー…」

ぐいって手を引っ張られて、エイリィの膝の上にぽすんって座る。

「はぁああクリスかわいい……♡ お姉ちゃんといっぱい写真見ようね!」
「んぅ…」

ね、ってお腹にエイリィの手が回ってくる。隣にはセフィルの気配もあって。
なんとなく、小さい子が絵本の読み聞かせされてるみたいだなって思って。ほんの少し、不安のどきどきが安心に変わる。
またほっと、息を吐いて。

――あぁ、なんかほんとに、お姉ちゃんみたいだなって。

思いたいんだけどちょっと待ってね。

うん、少し待って欲しい。

「これは年末にみんなで遊んだっていうやつかな? すごいな、スゴロクか」
「あは、美織すごい驚いてるー!」

待って待ってお姉ちゃんたちちょっと待って。あ、でも絶対今声出しても気づいてもらえないな?

そんなときは。

「あの…」

お手をあげましょうってことで、エイリィ曰くお姉ちゃんのお膝の上で手を上げる。そしたらもちろん視線はわたしにくぎ付けでして。

「どうしましたクリス」
「なに、クッキーでも持ってこよっか?」
「そこまで食いしん坊じゃないんで大丈夫なんだけども…」

そうじゃなくって。

そっとエイリィとセフィルを見上げて。

「ここのポジションはリアスではないのでしょうか…」
「お前は俺にこの年で義姉の膝の上に座れと??」

いやそれ言ったらわたしもこの年で座ってるんですけども。

「一応わたしエイリィの妹じゃないので…お姉ちゃんのって言うならリアスがここ座るんじゃないのかなって…」
「どんな拷問だ」

義理とは言えどお姉さまの前で吐き捨てるように言わないであげて。

「クリスは未来の妹だからいいんだよっ!」

あ、お姉さま気にしてなかったや。待って待ってそんなむぎゅってしてこないで。

「エイリィ、お胸の差をつきつけてこないで…」

悲しくなるよ。
どうしてリアス様もレグナも噴くの。

「お姉ちゃん、お兄ちゃん、あそこの二人がいじめる…」
「小さい胸も素敵じゃないか!」
「セフィルさん奥様の前でそれ言って大丈夫です??」
「言っておくけど私標準だからね!?」

なんでお胸大きいヒトってみんな標準って主張したがるんだろ。

「絶対標準じゃないじゃん…標準以上じゃん…」
「下着の関係でそう見えてるだけだよっ」
「そうですわ、最近のはとくにいろいろ入っておりますから」

これはいろいろ入ってるのにぺったんこなわたしへのあてつけかな??
口には出さないけども。出さないけどもわかってるよねそこのさっき噴き出した男子たち。

「あとで制裁…」
「リアス頑張ってね」
「噴いたのはお前が一秒先だろ」
「僕からしたら同時だったよ二人とも。素敵なお胸に噴き出した制裁はきっちり受けておいで」
「セフィルだけがわたしの味方…」
「芸術だからね!!」

貧乳が芸術とはこれいかに。

たまによくわかんないけどとりあえずそうだねって頷いておきまして。

「あ」

一通り笑ったところで、エイリィが気づいた声を出した。
見上げたら、ほんの少し寂しそうな顔で。

時計を、見てる。

その時計の針は、二人が出る時間までもう少し。

みんながそれに気づいた瞬間に、笑い声もなにも、部屋には響かなくなった。

「……」
「…」

変な話のおかげでさっきまでのどきどきは全然なくなったけれど。

代わりに、寂しさが心の中にはいっぱい。

「……」
「……」

ほんのちょっとの時間のはずなのに、すごく長く感じた静かな時間。
それを、明るく変えたのはやっぱりエイリィだった。

「帰る時間だねぇ」
「…」
「お姉ちゃんもセフィルも、もう帰らなきゃ」
「…うん」

自分がどんな顔してるかはわからない。でもエイリィが、ほんのちょっとだけ寂しさが混ざった顔で笑ったから。わたしも寂しい顔をしてたんだと思う。
それを隠すように、エイリィにぎゅって抱き着いた。

「セフィル! クリスが抱き着いてくれたよ!」
「ぼくにもおいでクリスっ!」

言われるままに、セフィルにも強く強く、ぎゅってする。

リアス様とはまた違う、二人のあったかい体温にしっかり包まれてから。

「…」

そっと、体を離した。
また見上げたら、二人は笑ってくれていて。

「また来るからね」
「そのときまた一緒にたくさん絵を描こうじゃないか」

そう、明るく言ってくれるから。

「…うん」

しっかり、頷いて。
二人から離れて、帰る支度をするために先に部屋を出た二人を見送る。

隣にやってきた気配たちには、目を向けないまま。

「んじゃクリス、カリナたちと一緒に先玄関まで行ってるから」
「頑張りなさいな」

そっと握ってくれた、ヒトより高い手を握りしめて。

「行くか」
「…うん」

二人が願った、笑顔のお見送り作戦、スタートってことで。
頷いて、たくさんの思い出が広がる部屋をあとにした。

まずは、不自然にならないようにプレゼントがある部屋に入るところから。

「俺らも帰ろっかカリナ」
「はいな」

打合せ通り、一緒に帰る風を装ってくれる二人についていきながらさりげなくドアが開いてる部屋の方に近づいていく。

「忘れものない? セフィル」
「大丈夫さ」
「参りましょうか」
「駅まで送ってかなくてほんとに大丈夫なの? 車出すけど」
「大丈夫だよ! デート楽しみながら行くから!」

帰る準備が終わった四人が玄関の方に歩き出したのを確認してから。

「…」

リアス様と目を合わせて、頷く。

四人が廊下を曲がって姿が見えなくなってから、一旦二人で部屋へ。
カリナがわざとベッドの上に置いていってくれた髪留めをリアス様が手に取って。

わたしはその近くに置いてくれてる、ノートもしっかりと持つ。

紺色の、星空みたいな表紙のアルバム。

それを見たら、また心臓がどきどきしてきた。

「…」
「……」
「喜んで、くれるかな」

小さく、こぼす。

笑ってくれるかな。ちゃんと、笑顔でお別れできるかな。

分厚くなったノートを抱きしめてれば。

そのノートごと、あったかい体温がわたしを包んでくれる。

「大丈夫だろ」
「…」
「きっと思った以上に笑ってくれる」

な、って。
安心させてくれるように言うリアス様に、一回息を吐いて。

「行くぞ」
「…うん」

大丈夫って、自分に言い聞かせて。
ノートは背中に隠すように持って、リアス様の手に引かれるまま玄関の方に歩き出した。

「カリナ、忘れものだ」

最後の打ち合わせ通りの言葉を聞きながら、リアス様といっしょに玄関へと歩いてく。どきどき心臓はうるさいけど、もうここまで来たからって自分に言い聞かせて、一歩一歩進んで行く。

「あら、ありがとうございます」

カリナがそれを受け取ったのを確認して。

「じゃあ――」

セフィルが、またねって言おうしたときに。

ぱっと、顔を上げた。

必死な顔だったのかな。見上げた先にいるセフィルとエイリィはちょっと驚いた顔。でもそれはほんとに一瞬で。

エイリィが、わたしに視線を合わせるようにかがんでくれる。

「どうしたの? クリス」

そうして微笑んでくれるエイリィ。

その、お姉ちゃんが。大好きなヒトをいつも優しく見守ってくれたあなたが。

笑顔になりますように。

たくさんたくさん、心で願いながら。

「…これ」

背中に隠してあるそれを、ほんの少しだけ震える手で、差し出した。

びっくりして、顔を見合わせたその光景に、いつかの幼なじみたちが重なったように見えた気がした。
今回は、描いたわけじゃないけれど。

「文化祭でもらったノートなの」
「……!」
「いっぱい、写真貼った」

聞きながら、セフィルも屈んで。

「みんなからもね、たくさんメッセージももらった」

いっしょになって、二人はぱらぱらとアルバムをめくってく。

「たくさんね」

たくさん。

「思い出詰めたの」

何度でも、この日に戻って来れるように。

「いっしょにあそんだ時間に、何度でも戻れるように」

いつまでも忘れないように。

「いつでも、逢えるわけじゃないけれど」

でも、このアルバムを開いたら。たくさん逢えるから。

寂しくなったら開いてね。
みんなに逢いたくなったら開いて。

いつだって、みんなその中にちゃんといるから。

だから、

「また逢おうね」

寂しいけれど、精いっぱいの笑顔で、そう言って。

顔を、上げたら。

「…!」

嬉しそうで、ほんのちょっとだけ泣きそうだけど、でも幸せそうな。

二人の笑顔があった。

それはすぐに、引き寄せられて見えなくなっちゃったけれど。
頭の中にしっかり焼き付いたから、二人のあったかい体温を抱きしめ返す。

「……ありがとクリス」
「ありがとう、最高に嬉しいよ」
「…」
「列車の中でいっぱいいっぱい見るね」
「…うん」
「たくさん見て、帰ってからもまたたくさん見て。感想を送るよ」
「うん」

撫でられるのを心地よく感じながら、うなずいてく。
でも寂しくなっちゃうから、たくさんの言葉はお互いに言わなかった。

ありがとうって気持ちがたくさんつまったハグに、わたしももう一回だけぎゅってして。

ゆっくり、体を離す。そこにはまた、さっき焼き付けたばっかりの笑顔があって。

「またねクリス」
「…うん」
「リアス、カリナ、レグナも。ありがとう。他のみんなにも伝えてくれると嬉しいよ」
「あぁ」
「お任せくださいな」
「しっかり伝えるよ」

頷いて、二人は立ち上がる。
そうして荷物を持って。

「クリスティア、リアス、カリナ、レグナ」

いつもの可愛らしい笑顔のエイリィが、名前を呼んだ。それを微笑みながら見つめていれば、

「お姉ちゃんほんっとに楽しかった!」

エイリィは最高の笑顔でそう言って。

「「またね」」

手を振って、二人笑顔で背中を向ける。

「我々も参りますわ」
「頼んだぞ」
「任せて」

それに手を振りながら、一緒になって家を出ていくカリナとレグナも見送って。

「お姉ちゃんまた来るからねー!」
「良ければ一月末の作品展に来てくれー!」
「…学校」
「……四人で救済補填取るのもありか」

なんて笑いながら、ときおり振り返って、笑顔で手を振ってくれる二人に何度も手を振り返す。

ほんの少しだけ寒くなってきた外に構わず、四人の背中が見えなくなるまで手を振って。

「…!」

ぽふって、頭に乗ったあったかい手にすりよった。

「言ったろう、大丈夫だと」
「…うん」
「喜んでくれてよかったな」
「…ん」
「そろそろカリナ伝手じゃなくて、ああいう感じのアルバム作って定期的に送るか」
「うん」

閉まってくドアの隙間から見える、もう誰もいない庭先を見ながら。

「…セフィルに作品送っても楽しそう…」
「勝手に作品展に出されるぞ」

なんて、想像できる未来に笑って。

静かに閉まったドアに、もういないはずの二人と楽しかった日々を映して。

しばらく二人、そのまま。

ドアの前で、寄り添ってその光景を見つめ続けた。

『新規 志貴零』/クリスティア