旧9月編(改稿前)で見た目・編集の重さチェック

「今回はできれば指導という形を取っていただきたいな、愛原」
「構いませんよ。ただし見込みがなければ即座に終了させるので。そこはご理解を」
「あぁ、よろしく頼む!」

 そう言葉を交わして、兄とユーアくんが闘っている隣の結界内へと足を踏み入れた。

 たかが数ヶ月とは言えど伸びる人は伸びる。現にユーアくんも閃吏くんも手加減されているとは言えど多少は戦闘に適した立ち振る舞いをするようになってきました。美織さんは何かやらかしたようですが。
 さて私のお相手はそんな兄たちと同じクラスである祈童くん。ほとんど話したことはないですが、ペアを決める際、「剣の指導を願える者はいるか」と仰ったのでまぁ剣なら私ですかねと了承。どのくらい加減したらいいのかしら。剣の指導と言うくらいだから魔術はさすがに使わない方がいいですよね。

「双方、構えっ」

 担当の方に言われて、愛刀を出す。祈童くんは日本刀を構えた。日本刀良いですよね、格好良いですよね。なんて言うのはまた後にして。

「はじめっ!」

 合図で、走り出した。

「愛原はどのくらい剣の道を嗜んでいるんだ?」

 軽めに振り上げれば、刃が交わって金属音を奏でる。振り払って、また交えてを繰り返しながら、彼のお喋りに付き合った。

「そうですねぇ。だいぶ長いんじゃないかしら。我々は天使ですから多少長生きですし」
「だとしたら学ぶことがたくさんだな!」
「あなたに見込みがあれば、ですけどね」
「ぅ、おあっ!?」

 笑って、ちょっと強めに振り払う。まだ慣れていない彼は、簡単に吹き飛ばされた。

「女性に吹き飛ばされるのは初めてだな!」
「力の入れ具合がわかれば簡単ですわ」

 さすがにめちゃくちゃ筋肉質の方だと難しいですけど。
 祈童くんは立ち上がって、また向かってくる。

 斜めに振り上げ、下ろすかと思えばそれは途中までで突然逆に振り上げる。

 その剣術を、自分の刀を横にして受け止め続けた。

 その中で、思う。

 なんでしょうこの剣術は。

 思いっきり振り切ってそのまま下から攻撃するのならわかります。

 何故最後まで振り下ろさない。

 首ですか? 首狙っているからそんな感じにするんですか? いやでも首を狙うなら横からですよね。頭だけ狙う的な?

 なんでしょう。彼神職の方でしたっけ。

 祈祷をしているようにしか見えない。

「ちょ、ちょっと待ちましょうか祈童くん」
「どうした!」

 いやそんな止めたことにぱっと嬉しそうな顔をされても。

「あの、大変申し上げにくいのですが」
「見込みはなかったかな?」
「いえ、なんでしょうね。あの、剣の振る舞いが。祈祷をしているようにしか見えませんわ」
「それは波風にも言われたな!」

 だからどうしてそんなに嬉しそうなの。

 一度お互いに剣を降ろす。

「エシュトでは何かできた方がいいと思って、体育祭の後から剣道を習い始めたんだけどね」
「一番にそれ直されませんでした?」
「中々癖が直らなくて先生もこれで新しい流派でも作ったらどうだと言われたぞ!」

 先生諦めちゃったじゃないですか。
 一度咳払いをして。

「えぇとですね、とりあえず頑張って直すところから始めましょうか。何年かかってもいいので」

 恐らくある意味不意はつけるけれど致命傷を与えられず持久戦、しまいにはワンパターンすぎる振り方によって隙をつかれて死亡。あらまぁそこまで予想できましたわ。とりあえずまずはそこを直さなければならないですよね。

「受け止めますので振り下ろすことに集中して向かってきてくださいな」
「それは僕に見込みはあると思っていいのか?」
「いえ、論外ですけども」

 そもそもまともな剣術ができないのだから判断することすら出来ない。

「剣筋をきちんと見てからにします。それで最後ですわ」
「そうか! よし任せてくれ!」

 黒いワイシャツの袖をまくって、また構える。ある意味頑張って欲しい。
 こちらから攻撃を仕掛けてしまうと向こうが何もできなくなってしまうので、大人しく立つ。軽く構えれば、祈童くんはこちらに走り出した。

「はっ!」

 今度は思い切り剣を振り下ろす。
 横にした私の刀と交わって、さっきよりも大きな金属音を奏でた。

 あらまぁ。これは。

「どうだった愛原!」
「及第点ですわね」
「本当か!」

 嬉しそうな祈童くんに、微笑む。

 刃を受けた感じ、力は悪くない。元々の潜在能力なのか、エシュトに入ってから自主トレをしたかのかは全くわかりませんが、仮に私が武装していなかった場合。

 恐らく軽く傷が付くなんてものじゃない。深く傷が入るどころか下手をしたらまっぷたつ。

 体育祭後に剣道を始めたって言ってましたね。ということは合同演習では初。もしかしたらまともに振り下ろしたのも初。それにしては上出来ですか。
 ここからきちんと剣筋が直れば相当な戦力になるはず。
 審判さんに顔を向けて。

「審判さん、残りはどのくらいでしょうか」
「約二十分ほどです」
「わかりましたわ」

 お礼を言って、祈童くんに向き直る。

「では始めましょうか。これから私もあなたに攻撃をします。あなたは先ほどしたようにまずは剣を振り下ろしきること。そこに集中なさってくださいな」
「わかった!」
「初めはあなたがきちんと意識する余裕を持てる斬撃にしますが、ある程度見たら終わらせにいくので。頑張って耐えてくださいね」

 そう笑ったら、私の中の殺気が見えたのか、祈童くんは少し引き気味に笑った。

「はっ!」
「意識すれば割と出来るじゃないですか」
「ものすごく頭を使うから大変だ!」

 あれから数分。祈童くんは言ったとおり刀を振り下ろしきることに集中して、私に攻撃をしてくる。
 それを避け、時には刃で受けたり斬撃を返したりを繰り返した。

「っ!」
「押されると弱いですね」
「それはまぁ慣れていないからね!」

 刃が交われば押し合い、にはならず、簡単に振り払える。
 踏ん張りがない感じですか。そこはまぁ経験ですね。

「せいっ!」

 祈童くんは持ち直して、再び一撃。

 うーん、なんでしょう。振り下ろしきるのはできそうなんですが、そうさせるとどこか型のはまったような動き方。
 剣道ならでは。面をするようにまっすぐに振り上げる。これたぶん銅とか籠手とかもしそうですよね。

 教科書通りの動きに、さてどうしましょうかと刃を受け止めながら思う。

 もちろん、基礎はあって損はありませんわ。基礎があってこその応用ですもの。

 けれど実戦になった場合。

 物事は、基礎通りには動かない。

「そろそろ行きましょうか」
「え、もうか!?」
「振り下ろすことはできそうなので、新しいことを覚えてくださいな」

 言って、祈童くんの刃を一度受け、薙払う。言葉で説明するのが難しいのなら、見て覚えさせるまで。

「ぐっ」
「頑張ってくださいね」

 それだけ告げて、切り替え。

 間合いを詰めて、一応受け止められそうな力加減と早さの斬撃を繰り返す。
 縦横無尽の刃に、祈童くんは防戦一方。

 さぁ、足下ががら空きですよ。

「!」

 余裕がなくなった頃を見計らって、ぱっとしゃがむ。
 よくある戦術。誰だって、いきなりしゃがまれたらびっくりするけれど、やることは足払いと思うでしょう。

 片手を着いてそれを思わせるそぶりをしてしまえば、彼もそう思ったみたいで、一瞬できた隙で飛び退こうとする。

 そこがまだまだ甘い。

「それっ!」
「うわ!?」

 片手は着いたまま。けれど足は出さず、愛刀を上に突きだした。
 彼の切っ先めがけて振るったそれは見事に命中。ついでに思いがけない攻撃により手を離してしまい、彼の刀は飛んでいく。

 そこでやっと、足払い。

「ぉわっ!?」

 転んだ彼に構わず、素早く立ち上がって。

 祈童くんの顔の真横に、愛刀を突き刺した。

「以上、ご指導終了ですわ」

 こちらとしては全く刺す気はなくても、刃が迫ってくればよほどの者でない限り恐怖を抱くもの。
 それは彼とて同じ。その目は数ミリ隣にある刃に恐怖していた。相反するように、気が抜けたのか、それともどうにもできないからか、口からは乾いた笑い。

 それに、もう一度にっこりと微笑んであげた。

「大丈夫です?」
「全く持って大丈夫ではないね」

 彼を起こして上げて、肩に腕を回して担ぎリアスたちがいるベンチへと戻る。降ろしてあげてその表情を見れば、笑ってはいるけれど冷や汗がすごい。

「やりすぎちゃいましたかね?」
「十分なんじゃないか。むしろあの最初の剣技でよく決着をつけなかったものだ」

 リアスに聞いてみれば、珍しくお褒めの言葉をいただきました。あれカップルだったら秒で終了でしたよね。

「最後の方まともだったね祈童」
「まずは振り下ろしてみろと言われてね」

 私たちが演習中の間に終わったらしいレグナが祈童くんにタオルを渡す。その隣にはちょっと物悲しげなユーアくん。あぁ、彼も死の淵を見ましたか。
 それに苦笑いをこぼして、本日挑んできた四人の勇者に向き直り。

「とまぁ、今日の演習でわかったと思いますけども。お相手するのは結構ですが毎度死の淵を見ることになりますが?」

 次回からどうします? と意味を込めて首を傾げた。

 一度四人は顔を見合わせて、すぐにこちらを向く。

『「「「次回にはもっと強くなるのでまたお願いします」」」』

 何となくわかりきっていたその言葉に、嫌悪感はなかった。

『二年生になったら、どのくらい戦えるのかしら』/カリナ

志貴零

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