「♪、♪」
「冷えるぞ」
「んっ」
そう声をかけても、水色の恋人は窓から離れない。
普段から冷たい手は、こちらに戻ってきたらより一層冷えているのだろうと微笑み、読んでいた本はソファに置いた。
恋人が釘付けになっている窓の外を見やれば、少し季節から外れた雪が舞っている。
うきうきと見やる少女のような恋人に、正直何が楽しいのかわからない気持ちもありつつ。
この長年を振り返って、そう言えばと思いいたり口を開いた。
「空から降るものが好きだよな」
「?」
俺の問いに、ようやっと恋人はこちらへと向く。それに反射的に微笑んで、クリスティアのもとへ行くべく立ち上がった。
「雨だとか雪だとか。そういったものは嬉々として外を見ている」
ときおり嫉妬してしまうくらい、なんて言うのは今回は無しにして。
窓際にいたからか、やはり普段よりも冷たくなっている恋人を後ろから抱きしめて空を見上げた。
「好きなんだろうと思って」
「…」
視線を感じるから、俺の言葉を理解すべくこちらを見ているんだろう。
理解を促すわけではないが、自然とクリスティアを見て。ぱちぱちと瞬きをしながら理解にいそしんでいる恋人からの返答を待つ。
「…」
「……」
「…むかしは、きらい」
「!」
返ってきたのは、思わぬ言葉だった。けれどすぐに納得する。
「水女さまは敬われなければならなかったからな」
「みんなとあそべなくなるもん…」
それは一大事だなと頭を撫でてやり。
「今は好きだと?」
文脈から行けばそうだろうと、問えば。
”好き”という言葉が言えない彼女は、”好き”に近い言葉で返答をくれる。
「みんなとあそべるから」
雨が降れば、雪が降れば。
心置きなく、あそべるね。
なんて。
いつからか過保護で室内に縛るようにした恋人が、ふんわりと笑って言うから。
「……毎日雪でもいいな」
そう、こぼしてしまう。きっと普通なら、「外でもあそびたい」だの「それは困る」だの言うんだろうけれども。
この恋人は、変わらず笑って。
「そしたら毎日いっぱいあそべるよ」
またそういう風に言う。
そんな恋人が愛おしくて。
「わぁー」
「……愛している」
強く強く、抱きしめて。
”愛してる”も言えない彼女が、自分もだと言うようにすり寄ってくるのを心地よく感じながら。
「あそぶ?」
「……あぁ、とことん、な」
恋人曰く、「いっぱいあそぶ」ために、まずは彼女をくすぐるため、脇腹へと手を伸ばした。
『いつかは、晴れた日にめいっぱい外で駆け回ろう』/リアス