季節話シリーズ(お正月・七夕)

 お正月。日本のお正月と言えば。

「振り袖、お餅つき、書き初め……です?」
「じゃないかな。あんまり縁がなかったから詳しくはわかんないけど」

 新年。日本で過ごすお正月。今年はリアスとクリスティアのご両親がお仕事やお出かけがあるからと家を開けているそうで。レグナと二人、リアス宅に向かいながら指折り数えてみましたが。
 外国で過ごすことが多いからか、いまいちピンとは来ない。

「着物はきれいだと思うんですけれどもね」
「クリス着てたりしないかな」
「どうでしょう。あの男にそういうのを着せるという考えがあるかもわかりませんわ」
「あは、それは確かに」

 笑いあいながら、まだ少しだけ薄暗い道をレグナと歩いていく。せっかく四人で過ごせるので早くに出てきたんですが、ちょっと早すぎたかしら。まだ七時。リアスは起きていると思うのでお部屋には入れるでしょう。

 白い息を吐いて、たどり着いた目の前の家を見上げる。電気はさすがについていない。

「クリスまだ寝ていますかね」
「お正月なら起きてんじゃない? お年玉って」
「今年はリアスがあげる役ですか」

 あの男そろそろ父親に昇格してもいいんじゃないかしら。それを言うと「兄でいたい」という謎のプライドで断られるんですけれども。

 あの男はいまいちよくわからないなと思いつつ。インターホンを押すため、門を通りすぎて玄関先へ。

「ん」
「はい?」

 少し長いその道中。レグナが何かに気づきました。兄を見れば、あたりをきょろきょろと見回しています。

「どうしました?」
「なんか聞こえない?」

 聞かれ、耳を澄ましてみるも。
 私の耳には何も聞こえない。

「とくに聞こえませんが……」
「なんかリアスっぽい声」
「あぁ、でしたら聞こえませんね」
「なんでお前の耳はリアスの声拾わないかな」
「私も不思議ですわ」

 ひとまずそれはおいておきまして。

「この家の敷地内で聞こえるならば起きて外にいるかもしれませんね」
「んじゃあっちかな」

 方向を変え、レグナが聞こえるという声の方へ。
 そうして広い庭を歩いていくことしばらく。

「おいクリスティア」

 ようやっと私にも声が聞こえてきました。耳を澄ませながらさらに歩いていく。

「いい子だからそれをこっちに寄越せ」
「クリスやる…」
「クリスがやったら壊れるだろう」
「わたしはか弱い女の子…今年の目標はちょっとだけパワフル」

 あっこれはいけない予感。

 レグナと少々早足で駆けていき、彼らの声が近い場所をのぞいてみれば。

 写真で見たことがある餅つきの杵を振り上げているクリスティアが。

 お正月早々破壊神が降臨してしまった。

 その臼を餅ごと壊す気ですか??

「クリス、お待ちなさいな」
「わーカリナとレグナー…」
「ばっかお前待て持ったままそっちを向くな落とす落とす」

 こちらを向いたクリスティアには微笑んで、即座にクリスティアの背後に回って杵を取り上げたリアスには内心で親指を立てておく。

「あけましておめでとうリアス、クリスティア」
「おめでとー…」
「おめでとうございます、新年早々大変そうですわねリアス」
「大変にしたのはお前じゃないのか」
「あら、杵の回収を手伝って差し上げたんでしょうに」

 なんて言ってしまえばリアスは黙り、よろしいと笑って二人の元へ。それにしてもまぁ立派な餅つきセットだこと。

「日本らしくお餅つきですか」
「クリス餅あんま好きじゃないんじゃなかった?」
「せっかくならお正月っぽくおもちつきしたかった…」
「よく許したねリアス」
「いつものごとく餅をついている俺が見たいという考えかと思ったら油断した」
「やってみたかった…」

 気持ちは大変すばらしいのだけれどご自身の瞬間打撃力を考えていただきたい。

 そんな我々の考えなど知らず、ねーと手を伸ばしリアスから杵をなお奪おうとしているクリスティア。これはいけない、土入りか木の破片入りのお餅ができてしまう。レグナと二人、目を合わせてうなずきました。

「ねぇクリス、力仕事は男性にお任せして、女性らしいお正月のことをしましょうよ」
「女の子らしい…?」
「そうですそうです、か弱い女の子にお餅つきは少々似合いませんわ」

 ね? と笑えば。か弱い女の子に反応したクリスティアは目を輝かせてうなずいてくれました。心の中でガッツポーズし、ではと男性陣に向き直る。

「というわけでお願いしますね」
「任せて」
「レグナ俺の手つくなよ」
「大丈夫だよ、変なこと言ったら手じゃなくて頭つくから」
「なお悪いわ」

 冗談なのかはさておきまして。お餅つきは彼らに任せ私はクリスティアの手を取る。
 お餅をつく姿を横目に見ながら、我々は本題へ。

「女の子らしいお正月ってなーにー…」
「そうですねぇ。お着物でも着てみます?」
「確か義母のが押入にあったはずだが」
「でしたら一旦お借りして、魔力でまといましょうか。雰囲気だけでも楽しみましょう」
「お前なら用意してくると思ったが?」
「ちょっと勝手がわからなかったんですよ」

 そう肩をすくめれば、リアスは「あぁ」と納得した声を出しました。

「カメラの隠し場所がわからなかったと?」
「いいえ、着付けや歩き方の勝手がわからなかったんです」

 あ、リアス「嘘吐け」って顔してますね?? 本当ですよ着付けとか歩き方の勝手がわからないのは。

「疑っておられますが本心ですからね。それに私はカメラを隠しているわけではありません」
「どこにつけているんだ今日は」
「コートのボタンに」

 って何言わせるんですか。やめてくださいよクリスティアが「えぇ…」って顔しているんですから。

「堂々とつけているんですから隠しカメラではありません」
「一見わからないようになってたら隠しカメラでしょ」
「振り袖の場合はどこにつける気だったんだ」
「髪飾りが妥当じゃないですか?」

 だから言わせないでくださいよ。
 クリスの目線あたりなら着物の重なってるところですかねというのはなんとか飲み込みまして。あ、飲み込んだのにクリスティアが疑ってる顔をしていらっしゃる。

「クリス」
「また今年もわたしの視線の合わない写真が増えていく…」
「大丈夫です、合わせようと思えばできます」

 あっしまったそうじゃない。お顔が。かわいい眉間にしわが寄ってしまっている。

「クリス、せっかくのお正月ですわ。笑顔で行きましょう。ほら、さんはい」

 違うんですそんな眉間にしわ寄ったまま口角あげて欲しいんじゃないんです。
 これはいけない。

 何か楽しくなるようなお正月。お正月のもの。クリスティアが好きそうなもの。

 必死で調べてきた内容を頭の中で探し。

 ぱっと出てきてたそれを、話を切り替えるように手を叩いてから。

「クリス、”星繋ぎ”なるものをやってみましょう!」
「日本の伝統遊び…?」
「そうですそうです、ひもで繋いだ物を空にあげるあれです!」
「割り箸とかで骨組み作ればいいんだっけ」
「そうだな、張り付ける和紙も家にあると思うが」
「では女の子らしい物を空にあげましょう!」

 勢いで言えば、未だ眉間にしわが寄っておりますが着物よりかはよかったようで。
 うなずき、私の手を引いてくださいました。ほっと息を吐き、彼女に引かれるまま共におうちの中へ。

「あれって風がないと飛ばないんじゃないの…?」
「足りなければレグナに少し力を貸してもらいましょう」

 本人がいないところで勝手に決めていますが大丈夫です、愛する兄なら「いいよー」と言ってくださるはず。
 話しながらリアスたちが見えるリビングに行って荷物を置き、勝手知ったるリアス宅を捜索開始。携帯で調べつつ、必要な物をクリスティアとそろえるためまずはキッチンへ。
 食器棚の下にある棚を開けさせてもらって、核となる割り箸を。あ、隣に竹串もありますね。一応あった方がいいかしら。

 袋ごと拝借させていただき、続いてはと画面を下へ持って行く。

「あとは和紙…?」
「えーと、見た感じふつうの紙でも良いそうですわね。ビニールでもいいそうですが、確か星に抱負を書いて飛ばすとそれが実現しやすいとかで紙を使うタイプが多いそうです」
「お願い事でもいいの…?」
「実現となるならばいいんじゃないかしら」

 そこは自分のやりたい感じでも大丈夫ですよね。自分で納得して、割り箸と竹串を持って一旦リビングのローテーブルへ。

「じゃあペンと紙…」
「ですね。あとは紐ってあります?」
「んー…あんまり長いのはないかも…」
「では魔力結晶にして伸ばしましょうか」
「うん…」

 こういうときハーフって便利ですねぇと笑いあいながら、一度割り箸などは置き、近くにあるリアスの部屋へ入って他の必要な物をそろえていく。

 カラーペン、色画用紙……さすがクリスティアが結構来るだけあって彼女用のものの品ぞろえが恐ろしい。

「こんなものでしょうか」
「ん」

 最後にお裁縫箱から紐を出して、再びローテーブルへ。
 そこでちょうど、レグナとリアスがボールを持って入ってきていました。

「お餅つきは終わりました?」
「無事リアスの頭つかずに」
「無事レグナにつかれずに」
「お正月早々大乱闘にならなくて何よりです。お餅はすぐに?」
「星繋ぎの準備終わったら雑煮にしようかなって思って。餅小さくしたらクリスも食べるでしょ」
「食べる…!」
「リアスは磯部焼きね」
「あぁ」

 うなずいたリアスがボールを台所に置きに行き、戻って来てから四人、テーブルを囲んで座りました。お餅はひとまず置いておいてまずは星繋ぎの準備へ。

「星繋ぎってことですからやっぱりモチーフは星がいいんですかね」
「一応星に願いをってコンセプトから始まったらしいけど、今じゃなんでもありなんじゃない?」

 ほら、と見せられた画像にはビーストやアイドルの写真、ハートなど様々。

「アイドルの写真というのはなかなかですわね」
「この人に今年は逢えますようにっていうお願いじゃない?」
「結婚できますようにかもしれないな」
「あ、このアイドル結婚したらしいね」
「まさか星繋ぎの効力が……? すごすぎません?」
「いやお願いしたその人かはわかんないけど」

 とりあえず効力を信じて星にしましょうかと、数が多い竹串を採用して目の前のリアスと合わせていく。
 レグナが紐を魔力結晶にしてくれている間に、セロハンテープで竹串を合わせ──ってちょっと。

「リアス」
「何だ」
「私の手にセロハンテープがくっついているんですが」
「少し手貸せ」
「いやあなたのそのやり方じゃ私の手巻き込まれているんですけれども。私も飛べと?」
「飛んで一回その盗撮癖直してもらってこい」

 失礼な。

「堂々と撮っていると言っているじゃないですか」
「どこがだ。洋服のわかりづらいところにつけやがって。そのうちお前目にカメラとか搭載するなよ」
「その手がありましたか」

 あ、でも手入れが大変かもしれない。毎回グロテスクなお姿を見せることになってしまう。

「……良い考えかと思ったんですが、お見せできない姿になりそうなのでやめておきますわ」
「一般的な考えがあって何よりだ」
「あなたよりはありますよ」
「どこがだ」
「お互い様なんじゃないの?」

 レグナにもちょっと言われたくないかもしれない。リアスと思ったのが同時だったのかレグナを睨むように見るけれど。

「クリス俺たちの色にすんの?」
「ん」

 当の本人は何食わぬ顔でクリスティアにペンを渡している。うらやましいその位置。

「私も男性だったならああやってお兄さんのように振る舞えるのかしら……」
「何故そこで唯一の特権である姉のような振る舞いが出ないのかは謎だが、お前が男になったらクリスティア落としに来るだろ」
「安心なさい、親友として愛し続けます」
「そもそも異性だったらそれこそ親友で言い逃れができなくなるぞ」
「はい?」

 目の前を見たら、紅い瞳はわからないのかと物語っている。わからないから見たんでしょうよ。それを悟ったリアスは、その口を動かしました。

「盗撮はやばいからな」

 だから盗撮ではないと何度言えばわかるのかしらこの男。

「あなた物覚え悪くなったんです?」
「お前は物わかりが悪くなったんじゃないのか」

 なんて失礼な。
 手に持ったセロハンテープをさりげなくリアスにもくっつけるようにして貼った。

「おいセロハン」
「あなたも一緒に飛びましょう。連れて行ってあげます。そして星に物覚えがよくなるように願いなさいな」
「あぁ、お前の物わかりがよくなるならいくらでもついて行ってやるよ。そして置いていってやる」
「大事な幼なじみになんてことを」

 ちょっと目で「大事か?」って聞き返さないでください。クリスティアがいる手前首を横に振れないんですよ。
 これは助け船を──ってお隣の方々大丈夫です?

「めちゃくちゃ肩震えてますけれども」
「年開けても変わんないなぁって思って」
「今年も仲良し…」
「「どこが」」

 ハモった瞬間、リアスと目があってしまった。

「ハモったら仲良しに見えるじゃないですか」
「こっちのセリフだ、いつもいつも似た考えにしやがって」
「まー! あなたが似てきているんでしょう?」
「お前だろうが。小さい頃からなんだかんだ俺に着いてきて」
「ついていったわけじゃありませんー、クリスティアがいるところにあなたがいるから──」
「泣くときはいつも俺のところだったくせに──ってばかやろう待て待て待てセロハンを口に張ろうとするな」
「ちょっとクリスティアのところに逃げないでください手を出せません」
「だからこっちに行くんだろうが」

 あぁもう、クリスティアのかわいい顔見たら殺る気を納めなくてはいけなくなってしまう。
 仕方なく前に乗り出した体を下げ、再び正座をして。

「ところでカリナ、そろそろクリスの方できそうだけど」

 怒りのやり場がなくなったのでぷくりと頬を膨らませたら。レグナが話を変えようとそう声を掛けてきました。クリスティアの名前が出てしまっては乗るしかありません。頬の空気は抜いて、クリスティアの手元を見る。

 あら。

「素敵な星じゃないですか」
「でしょー…」

 ご機嫌なクリスティアの目の前に広がっているのは、星の形の紙。その星のかけらの内の四つそれぞれに、ピンク、水色、紅、緑と私たちの色が。

「残っている白のところはどうするんだ」
「お願いごと…」
「なんて書くんです?」

 聞けば、珍しくわかるくらい口角をあげて。

「ないしょー…」

 とてもとても嬉しそうに、そう言ってくれました。それにこちらも嬉しくなるのは、内緒と言うけれどその言葉の意味がわかっているから。
 だから「そうですか」と返して、自分の手元を見る。

「では、しっかり星へお届けしなければなりませんね」

 顔は見ないけれど目の前の人にそう言えば、軽く息を吐いたので肯定と取り。残りの枠組みを丁寧に張り付けていく。

 一本一本。愛する彼女が願うことが叶いますようにと、想いを込めて。

 今度はお互いセロハンをくっつけることなどせずに、手早く枠組みを作っている中で、ふとこぼす。

「……来年からは、もう少し下準備をしてしっかりお願いしたいものですわね」

 誰に言うでもなく言えば、言葉は返ってこないけれど。

 雰囲気で、きっと全員うなずいたであろうとわかりました。だから、私も周りは見ずに微笑んで。

 高く高く、星に届くよう飛ぶように、しっかりと枠を繋げていった。

『一年の始まりは、星に願いを込めることから』/カリナ


 星繋ぎは現実で言う凧揚げ。 空を見上げて、瞬く光たちに少しだけ目を細める。
 きらきら光る、天の川。
 さて今年は彦星と織姫は逢えたんだろうか。

「……年に一度くらいなら、逢うのもいいね」
「だ、誰にですか?」

 小さくこぼした言葉は、隣にいた友人に聞こえていたようで。ゲームショップからの帰り道。雫来の声で、天の川から正面へと目を戻す。

「ナイショ」
「ず、ずるいです……!」
「なんでさ……」

 冗談で言った言葉への、突然のずるい発言には一瞬苦笑い。それでも「なんでもです」と言ってくる雫来に肩を竦めて、もう一度上を見上げた。
 隣で、同じように上を見上げる雫来が横目に入る。
 正面を見ていないと危ないというのはわかっていつつも、きらきらと光る天の川に魅入って、二人でゆっくりとした足取りで天の川を見ながら歩く。

「あ、逢いたい人でも、いるんですか?」
「……んー」

 雫来から聞こえた声に、どうだろ、と。自然と本音がこぼれていた。

 答えながら、天の川の中に浮かぶのは、逢いたいようで、逢いたくない、

 ――もう、逢えない人。

 きっとこんな空が似合うであろう、月のような人。

「……逢っても、たぶん」
「はい」
「まともに言葉もかけないとは思う」

 あの日のように。
 俺はきっと、顔だけ確認して。すれ違って、薄情にも「はじめまして」と言うんだろう。

 けれど。

「なんとなくね」

 一年に一度だけだったなら。

 そのくらいの頻度だったのなら。

 たとえ終わりが来るとわかっていても。

「もう少し、素直になれたのかなぁなんて」

 一年に一度だけ。
 たった一度だけしか逢えないのなら。

 その日を大切にして、君への態度も柔らかくなったんじゃないか。

「そんなこと思うんだよ。たまにね」

 笑えば、雫来も笑った声を出して。

「……そのくらいの、頻度だったら、すごそう、ですよね」
「ん?」

 唐突な言葉に、思わず雫来を向く。
 雪のようなはずなのに、どこか月を思うその人は、俺を見て美しく笑って。

「一年間の、ぉ、お話が……止まらなくなりそうです」

 なんて、言うから。

 どこか、いつの日かを思い出してしまう。

 毎日のように逢っても話が尽きなかったあの人。一日逢えないものなら話の量は倍になって。
 そういう日は、来る時間も早くて、帰る時間は遅くなる。「送ってくよ」なんて言っても、「もう少しで終わるから」なんて、終わらない話をまた始めて。

 それを、楽しんでいた自分もいて。

 ――そうだね。

「一日じゃ足りないわ」

 きっと二十四時間なんて時間じゃ足りないくらい、”君”は話すんだろう。

「だったら、こ、こまめに逢っておく方が、いいと思います」
「同感」

 再び一緒に空を見上げて、想う。

 もう逢うことはない、”あの日の君”へ。

 あの時素直になればよかったと、今も後悔してる。
 名前すら呼ばなかった大切な君は、あの後、少しでも幸せになれたんだろうか。

 ――ねぇ、今度はさ。

「雫来」
「はい」

 たくさん、”君”の名前を呼ぶから。

「今日のゲームの話、今日中で話足りそう?」
「ううん、――全然、足りないよ」

 あの頃のように、どうかたくさん笑ってくれますように。

 願いを込めて、星が降りそうな夜の中。

 雫来と共に、足を進めた。

『姿かたちを変えても出逢ってしまう君へ。今度は、笑顔を増やせますように』/レグナ


 流れ星が落ちそうなくらい夜空がきれいな七夕の夜。

「♪、♪」

 愛する恋人の誕生日もあって、私の愛する親友はとてもご機嫌に短冊を書いていました。
 寝ころびながら足をぱたぱたと揺らして、短冊へと文字をつづる小さな親友へと近づいていく。

「クーリース」
「なーぁーにー」

 呼べばご機嫌な顔で私を見上げる小さな少女。そのかわいらしい親友へ、笑って。

「今年のお願いは何を書くんですか」

 なんて、わかりきったことを聞いてみる。
 兄やこの子の恋人、そして私。人は違えど毎年聞かれるはずなのに、彼女はまた嬉しそうに笑いました。

 それにつられるように笑って、「あのねー」と顔と同じくらい嬉しそうに手招きしてくれるクリスティアに耳を寄せていく。

「――」

 そうして耳元でささやかれた言葉は、毎年同じ。
 変わらない願い事に、私も変わらず笑って。

「そうね」

 そっと離れていく小さな頭を撫でて。

「今年もたくさん、みんなであそびましょうね」

 短冊へとつづる彼女の願いがより一層叶いやすくなるように。

 大好きな親友へと、しっかり呟いた。

『小さなヒーローの、小さくて、大切な願い事』/カリナ

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